ベルセリア・ゼスティリア転生(仮題)   作:飯妃旅立

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茶番+みじ回

一応連続投稿です。 


dai jur ni wa amber no kagayaki

「トータス、トータス。 常連さんが通ったッス! 丁度良かったッス。 アイゼン様にお手紙っすー!」

「手紙? 俺に?」

「もしかして、この前手紙を出した人じゃない? なんて書いてあるの?」

「……」

 

「『天知る人知る我が知る! 貴様の鬼畜な所業を悔い改めよ!!』」

「お前、何やったんだ?」

「知らん。 差出人も書いていない」

 

 ……出たよ。

 

「誰がこんな手紙……」

「恨まれるのを気にしていたら、海賊なんてやってられん」

「そうだよな」

「それより、例のブツはどうなった」

 

 ……文面だけで誰かわかる。

 

「パルミエの方は発送済みッスけど、ノル様人形は難航してるっす。 ……すみませんッス」

「……ノル様人形って?」

「大昔に、四聖主の聖殿で配られてた人形で、四つ集めると幸せになれると言われていたそうッス。 現存するのは赤青緑黒の四個だけらしいッス。 情報もほとんどないし、大変なんっすよ」

「聖主の人形というと、イズルトで売られていたアメノチ人形のようなものなのでしょうか」

「似てるッスけど、あんなアンニュイじゃなくて、げんなり? うんざり? なんかそんな感じっす」

 

 にゅろきー?

 

「はんなり、じゃろ」

「そうっす! それっすー!」

「はんなり……ですか」

「海賊が神頼みの人形集めとはのう……。 そんなのが死神の呪いに効くのかえ?」

「別に本気で信じているわけじゃないが……万が一にも本当なら、あいつは安心して暮らせる」

 

 健気で、不器用なお兄ちゃんだこと。 

 私はあいつに会わなければいけない可能性が潰せていなかった事にうんざりかなぁ……。

 

 

 

 

「サムサラはネコ派? イヌ派?」

 ――即答でネコ派。 イヌ系は苦手。

「イヌ系……」

 

「ベルベットとエレノアがイヌ派、アイゼンとマギルゥとサムサラがネコ派……」

「ロクロウはどっちでも無い派じゃから……ベルベットとエレノアは劣勢じゃのぅ」

「う、うん……」

「聖寮の狗を卒業した坊は、今度はベルベットのペットになるつもりかえ?」

「そういう話じゃないでしょ? 好きな動物がどっちかってだけなんだから」

「そんなに本気で怒っては、坊はもはやイヌ派と答えるしかなくなるではないか~」

 ――イヌもネコも、元は同じ。 あんまり考えたくないけど。

「え? そうなの?」

「む、何かサムサラが入れ知恵しておるのかぇ? いいぞー、坊をネコ派に引き摺りこめぃ!」

 ――諸島に居た頃は違いなんて無かった。 だからあの石版には1つしか載っていないんだし。

「石版……?」

「……なんか別の話してるわね」

「マイペース過ぎるじゃろぉ~?」

 ――あ、でもあの頃から暑苦しかったかも。 

「暑苦しかった……?」

「ちょっとサムサラ、ライフィセットに何を教え込んでるのよ」

「おぉ! ベルベットが武力介入に!」

 ――ライフィセット。 ワンって言ってみて。

「へ? わ、わん!」

「イヌ派に寝返ったじゃとおおおおおお!?」

 ――うん。 それじゃ、おやすみ。

「えぇ!? なんだったの!?」

「……マイペースね……」

 

 

 

 

「おい、サムサラ! ちょっとこっち来い……!」

 

 こっそりとダイルが耳打ちしてくる。 おぉ、仕事が早いな。

 

「釣れたぜ……それも、結構大物だ」

 ――……いい仕事をする。 コーダチーズ取ってくる。

「おう。 待ってるぜ!」

 ――加護を受けし衣よ名を示せ。 ホーリィヴェイル(弱)。

「ん……? なんだ、このキラキラ」

 ――本来なら業魔を弾く結界だけど、これは業魔に見つからないようする結界に応用している。 ベンウィック達はともかくロクロウはダイルだけじゃ撒けないでしょ?

「なるほどなぁ。 じゃ、できるだけこそこそしてるぜ」

 ――うん。

 

 

 

 

 

 

「お、来たな。 ほらよ。 十二年モノの琥珀心水だ。 ベンウィック達から情報代として一本かっぱらって来たんだ。 一緒に飲もうぜ」

 ――いいの?

「酒ってのは誰かと飲むほうが美味ぇだろ? タコの刺身とコーダチーズ、琥珀心水で一杯やろうや」

 ――海の男かっこいい。

「おうよ。 おぉー、やっぱ良い色してんなぁ」

 ――透き通るようなアンバー。 宝石に引けを取らない。

「んじゃ、乾杯と行こうや」

 ――乾杯。

 

 ぐび。

 

「ッ――――っはー! うめぇ……」

 ――火酒とも違う。 何杯でもいける……。

「んじゃ、コーダチーズ貰うぜ」

 ――うん。 私もタコ食べる。

「ん? 酢味噌か……用意がいいじゃねぇか」

 ――はい、マスタード。 つけると美味しいよ。

「ほう? ……おぉ、こりゃ美味ェ!」

 ――タコもいい味。 というかこの噛み応え……もしかして、オクトパジェントルメン?

「おうよ。 海流に巻き込まれたみたいでな。 これでも一応業魔の端くれ、戦ってもぎとってやったぜ」

 ――なら、私もとっておきをあげる。

「あん? なんだその葉っぱ……」

 ――エルマニアっていう葉っぱ。 さっぱりしてて、タコに合うよ。

「聞いた事ねぇが……どこ産だ?」

 ――鬼海アスラ。 そのジャングルにしか生えてない植物。

「そりゃおめぇ……大分貴重なんじゃねぇのか? 十二年モノとはいえ、琥珀心水じゃなくもっといい酒のツマミにするべきじゃ……」

 ――使うべき時に使わないツマミなんて、ただのゴミ同然。 食べよ。

「ん、だってんならありがたく頂くぜ」

 ――こうやってタコに巻き込んで……あむ。

「ほうほう。 ……おぉ!? 葉自体が塩辛くも……さっぱりとしてて……こりゃ美味ぇ!」

 ――さらにコーダチーズを巻き込むと……。

「……こりゃやべぇな。 だが、琥珀心水が残りわずかだ……」

 ――仕方ない。 保存しておくから、残りはロクロウと一緒に食べよう。 ルカレラチーズとスパーディッシュサラミ、イリアーニュの赤葡萄心水と一緒にね。

「おうよ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 モアナが母親の夢を見たと泣いている。

 残念だが、私には母親がいないのであやせない。 子供がいた経験もないし。 誰かを育てた事も無い。

 

 ベルベットが泣き疲れさせることで一時的に事なきを得たが……。

 それだけのためにあの喰魔を求めるのもおかしな話だが……。 王妃の名を持つ彼女が、早くに見つかる事を祈ろうか。

 しかし、その娘が月の女神とは……神はどこまで皮肉を強いるのか。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねぇ……ロクロウ達は、お母さん……いる?」

 

 メディサを連れ帰ったライフィセットは思う所があるのか、そんなことを聞いてきた。

 

「お? なんだ急に」

「うん……モアナやエレノアもだけど……ベルベットにも両親がいないってわかって、気になって」

「俺の母親もめちゃくちゃ厳しくて怖い人だったが、やっぱり随分前に死んじまったよ」

「そう……」

「儂に親はおらん。 儂を拾った悪~い魔法使いによれば、川を流れていた桃の中から生まれたそうじゃよ」

 

 一座の者を……親とは呼びたくないだろうなぁ。

 

「お前なら本当にそうかもな」

「ア、アイゼンは?」

「俺達聖隷は、清浄な霊力が集まって生まれる存在だ。 稀に人間から転生する者もいるが、生前の記憶を保持する事は、まずない。 つまり、人間と同じような血縁関係はないということだ」

 ――ノルミン族も同じ。 生まれ方はちょっと違うけど、血縁関係は無い。

「そっか……。 僕も気が付いた時には二号って呼ばれて使役されてた。 その前の事が思い出せないのは、お母さん自体がいないからだね」

 

 ライフィセットには……まぁ、覚えていないならそれでいいだろう。

 

「僕はメディサに『お母さんが死ぬのはすごく悲しい事』なんて言ったけど……、本当のつらさは、わからないのかもしれない」

「子供にも容赦ないの~」

「単なる事実だ。 だがな、ライフィセット。 血縁関係が無いからと言って、特別な絆が感じられないわけじゃない。 聖隷であっても、掛け替えのない存在を――家族や友との繋がりを、持っているんだ」

「だよな。 お前の言葉が本気じゃなかったら、メディサは止まらなかったはずだ」

「そうなのかな……」

「きっとそうさ」

「桃から生まれた魔女よりはずっとな」

「こぉら! 桃生まれを舐めるでないぞ! 儂にだって――」

 

 母親か。

 ノルミン(わたし)にはいなかったけれど、誰か(わたし)にはいたのだろう。

 そういった知識は全て無いけれど……彼女も人間だったはずだ。 多分。

 

 年齢的に言えば私の方がみんなのお母さんなのだろうけれど……。

 

 うん、こんな律しきれない子供は、放任に限る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「来たわね」

 

 グリモワールが数え歌の2番をライフィセットに促す。

 

 

 八つの穢れ溢るる時に 嘆きの果てに彼之主は

 

 無間の民のいきどまり いつぞの姿に還らしめん

 

 四つの聖主の怒れる剣が 御食しの業を切り裂いて

 

 二つにわかれ眠れる大地 緋色の月夜は魔を照らす

 

 忌み名の聖主心はひとつ 忌み名の聖主体はひとつ

 

 

 この数え歌の恐ろしい所は、最後の二文なのだ。

 心と体は1つずつあると、古代アヴァロストの時点で語っている。

 

 まるで、以前にも不完全な状態での復活が行われたかのように。

 

 まるで、歴史が繰り返しているかのように。

 


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