ベルセリア・ゼスティリア転生(仮題)   作:飯妃旅立

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前半はスキット多目。
後半は独自解釈と独自設定多目です。


予約投稿して楽しようかと一瞬過ぎったけど根源的に’溜める’って事が出来ないタイプなので、普通に投稿。 これ以上我慢したら業魔化しちゃう。

5000字未満だけど赦して!


dai jur ichi wa kami no present

 ゼクソン港。

 相変わらず賑やかなこの港に、一風変わった……否、奇抜な集団。 勿論ベルベット達だ。 現在彼女たちは、血翅蝶の連絡員から情報を得ている。

 

 アルディナ草原。

 ひどく、懐かしい場所だ。 私との縁も浅くはない。

 そして、あの風の男にとって……大切な場所だ。

 

 ――アイゼン。

 

 ――なんだ?

 

 ――私も付いて行っていい?

 

 ――……珍しいな。 何か感知したのか?

 

 ――そんなところ。

 

「なら降りて来い。 ベンウィック! 留守は任せたぞ!」

「へい。 でもなんでわざわざ? って、サムサラ姐さん!?」

 

 ひょーいとマストから落ちて、船の(へり)で一回バウンド。 ゆるりゆるり、ふわりとライフィセットの頭の上に落ちる。

 

「へ?」

 ――乗せて。

「え、いいけど……」

「連れて行ってほしいのはわかったけど……自堕落過ぎよ」

 ――ベルベットでもいいよ?

「嫌よ。 暑苦しいし……邪魔」

 ――ライフィセットー、ベルベットがいじめるー。

「い、いじめてるわけじゃないと思うけど……」

「というか、サムサラはビエンフーのように飛んだりは出来ないんですか?」

 ――翼、ないよ。

「ボクは例外でフから~。 普通のノルミンは飛べないでフよ~」

「そういうものなのですか……」

 

 ビエンフーにはコウモリのような羽が生えている。

 そして、特異な形の尻尾も。

 羽はさもアタッチメントのように見せかけているが……。

 そも、彼は他のノルミンよりも何倍も濃い穢れの傍にいたはずなのだ。

 まだ150程度の聖隷が、そんな場所に居続ければ――。

 

 いや、本人が語らないのだから、私が語る事もないだろう。

 

「ついてくるのはいいけど……アンタ戦えないんでしょ?」

 ――聖隷術くらいは使える。 補助術は得意だよ。

「ふぅん……。 なら、フィーが回復、サムサラは補助ね。 隙があればフィーも攻撃して」

「うん。 じゃ、よろしくねサムサラ」

 ――よろしく。 

 

 私の交信術の不便性に皆慣れてきたのか、私と話したことを改めて自分の言葉にして周りに伝えてくれる。 意思の疎通が大分楽になっている。 ありがたいことだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「真名は、気軽に明かすモノじゃない。 聖隷にとって、特別な意味をもっているんだ。 契約者以外に自分の真名を告げる事は、同性になら命懸けの信頼の証。 異性になら――」

「愛の告白に近いんじゃよなー♪」

 

 私にも真名がある(・・・・・)が、誰にも(・・・)告げた(・・・)事がない(・・・・)

 

「そ……それを早く言いなさいよ!」

「ライフィセットは難しい年頃だ。 以後は気を付けろ」

 

 ライフィセットは……10歳か。 10歳かぁ……。 若いなぁ……。 私の何分の1かなぁ……。

 

「ま、あれも一種の愛情表現じゃがな~」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……繋がらない、か。

 既に意思は無く……ただ、暴虐を振りまくだけの存在。

 

「あれは……」

「ドラゴン……っ」

 

 神の贈り物という名を持つ彼女。 風の青年が心から愛した……聖隷。

 

「アレじゃなー。 アルディナ草原の業魔という奴は」

「自由に飛んでたが……喰魔なのか?」

「地脈点……感じた! あの岩山の上辺りだよ!」

 

 ……確かにそこは地脈点だ。 だが……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おぉ、絶景かな、絶景かな! 気持ちのいい景色だなぁ!」

「絶景には同意しますけど……はしゃぐと落ちますよ」

 

 本当に、絶景だ。 

 

「ここ……何本も地脈が走ってる」

「やはり感じたか。 このアルディナ草原は、何本もの地脈が複雑に錯綜する場所だ。 本来なら、大地の変化は数万年単位で起こるが……この辺りの岩山は、ここ千年で隆起したものだ」

 

 千年前は更地。 その二千年前は同じく隆起した岩場。 遥か未来は――。

 

「地脈の流れが、地形に影響を与えたんだね」

「そうだ。 大昔には、逆に大地に刺激を与えて地形を操作する術もあったときく」

 今でも使える子はいるけれど。 使わないだけで。 グランドダッシャーやクリスタルタワーだって、その一部だし。

 

「そんな術が……」

「人間の身体で言うツボのようなものでしょうか。 ツボを押すと血流が整う、みたいな」

「ハッ、強引な例えだが……通じる物もあるかもしれん。 もっとも、もう失われてしまった技術だがな」

 

 失われた……正確に言えば、失わせた、だろうか。 みんな、そんな術は戦争に使われてしまうと恐れて……本来の用途を見失って、禁術にしてしまった。

 

「にしても、アイゼンはなんでもよく知ってるなぁ」

「いや、知らないことだらけだ。 現に俺は、ここに咲いている花の名前も知らない。 だから、こうして旅をしているんだ」

「……アルディナ白草よ」

「この、白い花の名か?」

「えぇ。 昔、弟が図鑑を見せて教えてくれたのよ。 一株だけだとすぐに枯れてしまう、ひ弱な花。 だけど何株も寄り添う事で互いを庇い、厳しい自然の中でも沢山の白い花を咲かせる。 だから、花言葉は――『人の絆』」

 

 フェニックスの奴は確か……ジンチョウゲにシンパシーを感じていたっけ。

 花言葉はそのまんまなのだが……アレが花を愛でるのは、色々と違和感があるだろう。 未来でやっていた事だって、ストーカーみたいなモノだし。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 未来のラストンベル……。 今は若きラストンの名がまさか町名になろうとは、誰も思うまい。 美味しい心水ができますよーに。 あとライバルの『いばら姫』も飲んでみたい。 重いんだろうなぁ。 訛ってるかもしれない。

 

 

「ザビーダ!」

 

 ストーンベリィの宿屋。 

 テーブル席には、ザビーダ。 テーブルにあるのは『いばら姫』。 グラスは2つ。

 

「よ、副長……」

「……」

「……誰かを……待ってるの?」

「いいや……あいつとの願掛けさ」

「あいつ……」

 

「いくぞ。 ここに血翅蝶はいないようだ」

「いいのかよ。 俺を放置して」

「誰にも、邪魔されたくない時間がある」

 

 もういう事はないというように出ていくアイゼン。 追従する仲間達。

 

「フィー」

 

 何かを言いたそうにザビーダを見るライフィセットだったが、ザビーダの表情に彼も出て行った。

 

 

 

「で? お前さんは出ていかねぇのか? サムサラサンよ」

 ――テオドラの真似をする必要は無い。 呼び捨てで構わない。

「あいよ。 何か言いたいことでもあんのか?」

 ――別に。 『いばら姫』が欲しかっただけ。

「……はぁ……。 願掛けの意味も、理由も知っててそれかよ……。 ほら、少しだけやるよ」

 ――ザビーダ。 

「あん?」

 ――あなたがメルキオルの支配下に居た時……あなたは生きていた?

「ッ……。 ンな昔の事、覚えちゃいねーよ。 つか、どこまで知ってんだ。 ‘あの時’、お前の姿を見た記憶はねぇんだが?」

 ――私が何年生きていると思っているの?

「……関係あんのかよ、ソレが。 それよりいいのか? お前は……アイフリードがやばいの、知ってんだろ? それともアイゼンの奴みたいに流儀の果てに死ぬんならそれでいいってか?」

 ――死は、終わる事じゃない。 戻る事だから。

「なんだ、そりゃ」

 ――終わるのは、自分が自分でなくなる事だよ。 

「……そうかい」

 ――じゃ。 『いばら姫』……美味しかった。

「貸し1つな。 俺より年上なんだし、いいだろ?」

 ――必ず返す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――頑張れビエンフー。

「あ、サムサラ! どこ行ってたの?」

「ライフィセット? 女性にそういう事を聞くモノではありませんよ」

「へ? あ、ご、ごめんサムサラ……」

 ――構わない。 

 

 レアボード。

 大昔にノルミン族が創った地脈を滑って移動する乗り物。 ちなみに描かれているのは太古も太古、ノルミン諸島に世界の中心と呼ばれる国が在った際、その時に使われていた地図に描かれた地脈の位置である事は、彼らが知っても何の役に立たないだろう。

 遥か未来で導師が地脈間移動を行っていたけれど……、力の流れその物と言っていいほどの奔流の中を、地の主の助けがあるとはいえ移動するなんて狂気の沙汰にしか思えない。

 いつかやってみたい。

 

「サムサラは本当はなんて名前なの? ビエンフーはノルミン・ブレイブっていうかっこいい名前だったけど」

 ――教えない。 

「えぇ~」

「ビエンフーがブレイブって名前を隠したがってたんだし、実はサムサラも全然似合わない名前なんじゃないか? 例えば……ノルミン・アクティブみたいな!」

「ロクロウ、それは失礼すぎますよ……! んー、そうですね、ノルミン・スローとか!」

「むしろノルミン・スロウスじゃないかえ? 自堕落じゃしの~」

「それだとノルミン・ディプラヴァティになるんじゃないか?」

「……どうでもいいわよ、そんな事。 ビエンフーのスペアでしょ。 ビエンフーが疲れてレアボードが動かなくなったら、やってもらえばいい」

 ――嫌です。

「……じゃあビエンフーに頑張り続けてもらうしかないわね」

「びぇぇぇええええ!? ソー! バァァッド!」

 ――頑張れビエンフー。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 彼女がいた。

 

「なんて殺気……」

「それに、とてつもない穢れを発しておるわい」

「つまり、喰魔じゃないって事か?」

「このまま引くわよ。 あんなのと遣りあう意味はない」

 

「俺にはある」

 

 私にも、義理はある。 けれど、流儀ではない。

 

「おぅ? やる気か?」

「はぁ? 何言ってるの!」

「そうです! 戦ったらただじゃ済みませんよ!」

 ――立ち上がったら見つかるよ?

「え? あ……すみません」

 

 咆哮。 既に彼女の瞳に、理性の色は無い。

 神の龍の名は、果たして誰が付けたのか……。 皮肉にも程がある。

 

「ふん、もうやるしかないぞ」

 

 交戦、開始だ。

 

 

 

 

 

 

 

「ったく、余計な事を!」

「こんな修行相手はそういないぜ!」

「気を抜くな! しくじれば一撃だぞ!」

「それがいいんだよ!」

 

 現時点において、彼女を殺しきる方法は少ない。 そも、そんな事は彼が赦さないだろう。

 ほら、来た。

 

 

 

「やはり、並みの業魔とは……手応えが違うな」

「倒せるのですか……こんな奴を!」

「なんとしても()る。 それが俺の……!」

 

「うぉぉぉおぉおおお!」

 

 アイゼンの拳をザビーダが腹で受け止める。 吹き飛ばされ、転がされるザビーダ。

 

「痛ェ……相変わらず、殺す気満々、だな……」

「……」

「全部知ってるんだよな、お前は……!」

「……そこを退け」

 

 会話は不要と断じ、ザビーダが彼女を背に構える。

 

「守りたいの……? そのドラゴンを……」

「ドラゴンじゃねえ!」

「え?」

「退かねえならこっちもマジになるぜ……」

 

 ザビーダがジークフリートを蟀谷(こめかみ)に向ける。

 だが、まるで騎士(ナイト)のように立つザビーダを、彼女の尾が吹き飛ばした。

 

「ぐぁああああ!?」

 

 そのまま彼女は空高くへと飛び立つ。

 

「くそ……逃がしちまった」

「ひでぇなぁ……久しぶりに会えたってのによぉ……」

 

 ――大地、魂に無上なる祝福を与えたまえ。 ソウルオブアース。

 

 見た目が変わらないように調節して彼の内部を治す。 

 あ、睨まれた。

 そのまま去ろうとするザビーダ。

 

「待て! あのドラゴンは、お前の――」

「あいつを、ドラゴンなんて呼ぶんじゃねぇよ……」

「……」

 

 一つ、私に会釈をしたように見えたが……。 今のは貸しを返されたわけじゃない、ってことか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ドラゴン化した聖隷を元に戻すことは、不可ではない。 浄化の炎という、信仰の力を使えば可能だ。

 

 ドラゴン化はそもそも、呪いの影響ではない。 天台のズイフウはそう思い込んでいたが、ドラゴン化そのものは呪いの影響ではないのだ。 業魔となる事は、呪いだが。

 

 人間が業魔化する事。 聖隷が業魔化する事。 これは同じ呪いによるモノ。 勿論私達のようなノルミン族ですら業魔化する。 

 

 ドラゴン化が呪いの影響であるならば、天界に住まう天族たちが穢れを恐れる理由が無いのだ。 つまり、呪いに関係なく外部の膨大な穢れに晒されれば、聖隷及び天族はドラゴン化する。

 その上で理性を失い、暴虐を振りまく様な存在に定着させたのだろう。 ルールとして。

 

 しかし、あくまでルールだ。 隙もあれば、穴もある。

 穢れとは、不信を指す。 他者への不信。 自己への不信。 

 それを払えるのは、信仰だけだ。 他者を信じつづけた未来の導師。 自己を信じつづけた未来の暗殺者。 

 彼ら彼女らは、その在り方故に導師足り得る。

 ソレに現在最も近いのは、アルトリウス・コールブランドとシグレ・ランゲツか。

 前者は不完全。 後者は完全間近。 だが、どちらも未完成。

 

 

 聖隷は人間からの信仰を貰う事で、浄化の炎を宿す。

 四聖主が信仰されていた頃に業魔の活動が大人しかったのはそれが原因だ。

 『()にして聖なる穢れ』でさえも、信仰を受けていたが故にその力を使っていた。

 

 

 私達の中でいえば、勿論――。

 




業魔化する。
誤魔化す。

己に不信を抱いて誤魔化し続ければ……。



穢がアイって読めるとか、漢字って皮肉ですよねぇ。






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