ベルセリア・ゼスティリア転生(仮題)   作:飯妃旅立

10 / 60
茶番・スキット回。 ほとんどセリフです。


dai jur wa tako to maguro to otumami to

「ここ! ここが地脈点だよ!」

 

 外洋。

 ミッドガンド王国を中心とした地図には載っていない、もしくは載っていても端の方に記載される海のど真ん中。

 地脈円からは外れているが、確かに地脈が露出している。 そのせいで業魔と……あぁ、黒水晶化した魚類もいるじゃないか。 もったいない。

 

「ふむ……見渡す限りの大海原じゃな。 地脈点は海の底かえ?」

「あう……」

「世界の大半は海だ。 海底にある地脈点も多い」

 

 より正確に言うのならば、海底の方が地脈点が露出しやすい、だろう。

 

「いくら聖寮でも、海底に喰魔を捕まえておくのは難しいですね」

 

 どうだろうか。 ザ・カリスを管理する事と、海底に結界を敷いておく事……まぁメルキオルは別に喰魔を捕まえていたわけじゃないか。

 

「ここは外れみたいね」

「……ごめん」

「いや、蟲の喰魔がいたんだ。 魚の喰魔ってこともあるんじゃないか?」

「一理あるな。 奥の手を使って調べてみるか」

「……奥の手?」

「――これだ」

 

 そう言って我らが副長が取り出しましたるは一本の竿。

 

「えぇ!?」

「なんだその反応は。 これは、フジバヤシの船竿だぞ。 長さ九尺三寸の一本竿。 材は五年物の伊賀栗竹。 生き物の如く粘る四分六の胴調子に、腕と一体化するような握りの巻き具合、そして蝋色漆の品格ある仕上げ……文句のつけようのない名竿だ」

 

 約2.818mの一本竿。 材質は一級品。 生きているように手元から動かせる胴調子で以て大物を狙える。 握りの巻き具合、漆を重ね磨き上げてまるで鏡面の如くまで仕上げる漆の最高技法。 蝋色師に依って為される蝋色漆の滑らかな輝き。

 最高の一品だ……と申しております。

 

「そ、そういう事ではなく……何故喰魔相手に釣りなのかと……」

「――喰魔だからこそだ。 忘れるなよ……」

「……はい?」

「ちょっと、釣りなんてしてる場合じゃ――」

「まぁやってみようぜ。 丁度腹も減ったし、魚が釣れたらメシにしよう」

「わしは鯉かヒメマスが食べたいのー!」

 

 鯉:比較的流れの緩やかな川や池などに生息する淡水魚。

 ヒメマス:低温の、これまた池や湖などに生息する淡水魚。

 

「……つっこまないわよ」

 

 突っ込んでしまった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 トリエットドジョウ……。 トリエットワカサギも食べてみたいのだが、ドジョウも美味しいかもしれない。

 

「サムサラ姐さんは釣りやらないんでフかー?」

 ――ノルミンで釣りやってるのって……諸島の子か、キョーフーの島の若い子だけでしょ?

「あぁ~、確かにあの島では短い竿でやってたでフねぇ~」

 ――ビエンフーまだ150でしょ? 混ざってこないの?

「いやぁ~、今行ったらマギルゥ姐さんに餌として括り付けられそうで……」

 ――ん。 泳げない?

「泳げるかどうかの問題じゃないでフよ~。 多分、両腕を後ろ手に縛られて、溺れるか溺れないかの瀬戸際を楽しむように上げ下げされるんでフ。 そしたらアイゼンの呪いとかでサメが来て、僕のこのぷりちーな身体をガブッと……。 いやぁ~! ソーバーッド!」

 ――サメは美味しいよ? 刺身、切り身、クサヤにムニエル。 ちょっと臭みが強いから慣れる必要があるけどね。

「食べる前に美味しく頂かれるでフ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ここは地脈点の影響と海流もあって、様々な……まぁ言ってしまえばゴミ。 ガラクタが集う。

 アタッチメントが揃うのは視覚的に面白いのだが、まぁ苛立ちは募るだろう。

 

「大物だぞ!」

 

 あ、出た。

 

 ベルベットが釣り上げたのは、壺。 それも、大量の穢れを含んだ。

 蛸業魔とアンデッド。 まぁ地脈点だし。

 

 壺の名は『ミヅガメ』。 グリューネ……グリュウネの造った品だ。 モフモフ族……モフモフ釉が壺の表面に塗られ、その躍動感を示している。 きゅきゅ?

 

 そして、その壺こそが――。

 

「この壺は業魔だぞ!」

「いいか、決して割るなよ!」

「斬る、ならいいか?」

「より悪い!」

 

 ……アイゼンが楽しそうで何よりだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「この輝きは……金剛鉄(オリハルコン)! そうか、この場所はクロガネが言っていた、輸送船が沈んだ場所だったのか!」

 

 ――ベンウィック。 オツマミ釣れた?

「いや、坊主でした……。 って、サムサラ姐さんまた泳いで取ろうなんて考えてませんよね……?」

 ――さっきの蛸……残ってないかな。

「アレを喰う気ですか……? ていうかさっきの業魔でしたよねぇ!」

 ――端っこだけ。 端っこだけなら……。

「さっきロクロウがどっかに持って行ってましたけど……」

 ――ペンギョンも欲しい。

「あー、なんかペンギョン密猟者増えてるらしいですねー。 裏のが周ってくるかも?」

 ――戦う医学生に密猟者が勝てるとは思えない。

「それ、前も言ってましたけど……何の話ですか……」

 ――むぅ……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 タイタニア。

 漁? 釣り? から帰って来て、皆思い思いに過ごしている。

 

「サムサラ、あんたは何をしているの?」

 ――特に何も。 ごろごろしてる。

「……前から思ってたんだけど、あんたちょっと自堕落すぎよ。 少しくらい運動した方がいいわ」

 ――この体型、数千年は維持できてるから問題ない。

「そういう問題じゃなくて……っていうか、あんたそんなに歳喰ってたのね。 もしかしてグリモワールやビエンフーも?」

 ――グリモワールは五千と少しだったはず。 ビエンフーは百五十。

「……聖隷って……」

 ――密度は人間の方が遥かに上。 ほとんどの聖隷は穢れない様に、人里離れた場所でのんびり過ごしているから。 アイゼンみたいなのが稀。

「あんたも人間と一緒にいるじゃない」

 ――私は特別。 ビエンフーは例外。 グリモワールは変わり者。

「普通な奴がいない、って事ね……」

 ――ダイルですら普通じゃないんだから、普通な存在なんていないんだよ。

「……そうね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「サムサラ、ちょっといいですか?」

 ――何?

「少し聞きたいことが有りまして……」

 ――地脈点の話?

「あ、いえそれもそうなんですけど……」

 ――?

「非常に失礼なのですけど……」

 ――怒らないから言ってみて。

「で、では。 サムサラって……女性、ですよね?」

 ――……。

「あ、すみません! 決して女性らしくないとか、そういうわけではなく……」

 ――ノルミン族は見分けがつかないから、仕方がない。 私は女だよ。

「ですよね。 ずっと気になっていて……」

 ――……何か、他に聞きたいことがありそうな顔してるね。

「えぇ!? 何故分かるんですか!?」

 ――カマ掛けただけだけど……ホントにあったんだね。

「ぐっ……! い、いえ……その、サムサラっていつもマストの上にいるじゃないですか」

 ――うん? うん。 あそこが私の定位置。

「その……お風呂とか、入っているのかなーと」

 ――……入ってないけど。

「やっぱりですか! それはダメです! 同じ女として……サムサラ、あなたをお風呂に入れます!」

 ――無垢な魂よ。 癒しの庭に集え。 煌け、イノセント・ガーデン。 ミニ。

「はい? ……って、えぇ!?」

 ――これで綺麗になった。 エレノアもさっぱりしたでしょ?

「……そういう問題じゃありません! ほら、行きますよ!」

 ――えー。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――アイゼンアイゼン。

 

 ――なんだ、サムサラ。 いま少し忙しい。

 

 ――大事な妹への手紙、読まれかけて……

 

「うぉ!? アイゼン!?」

「……読んだのか?」

「いやぁ、読んでないぞ! ……ちょっとしか」

「本当だな? ……こいつも一緒に送ってくれ」

「毎度! 『かめにん急便』が責任と愛情をもってお預かりするっす!」

 

 ――助かった。 礼は言っておく。

 

 ――別に。 会いたくない奴に会わないようにするためだし。

 

 ――? 何の話だ?

 

 ――なんでもなーい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――ダイル。 蛸分けて。

「あん? そりゃ構わねえが……こいつは業魔だったんだろう? 俺とかクロガネやモアナならともかく、聖隷が食べていいモンなのか?」

「普通なら、よしたほうがいいだろうな。 少なくとも人間の喰えるものではなかろう」

「タコ美味しそうー!」

 ――……むぅ。

「普通のタコ食べればいいんじゃねぇか? 俺はこう見えても元船乗りだぜ? 航海中に、タコに一匹や二匹捕まえてやらぁ」

 ――ほんとに?

「あ、あぁ。 だからそんな寄ってくるなよ……」

 ――もし本当に持ってきてくれたら、コーダチーズをあげる。

「なんだって!? あ、いやなんでもねぇ」

 ――そりゃ本当か? コーダチーズって言ったらルカレラチーズに並ぶとも劣らない、謂わばオトナの味嗜好のチーズじゃねぇか!

 ――ロクロウじゃまだ若い。 妥当でしょ?

 ――飛び跳ねる猿のような食感。 たまらないしつこさの味わい……くぅ~いいねェ! 絶対にタコをとってやらぁ、待ってろよ!

 ――うん。

「ダイルー、速く蛸料理つくろー?」

「ぬ、あ、あぁ。 わりぃわりぃ。 んじゃ行こうぜクロガネ」

「おう。 鍛え上げた包丁さばき、見せてくれるわ」

「モアナお腹すいたよー!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「取集品だけじゃないからのーこだわりは」

「そうなのですか?」

「毎週の休息日の夕食は決まってカレーじゃし、船着き場のボラードも必ず「三番」と決まっておる」

「そういえば、調理場で海賊たちが嘆いてたわ。 パスタの茹で時間と塩加減に煩いって」

「服も靴もいつも同じ仕立て屋に同じものを造らせて納めさせているそうじゃ。 ミリ単位のサイズ指定に素材の色味にもうるさい。 ダメ出しも多いとかめにんが嘆いておったわ」

 ――さらに、毎朝早く起きてあの髪型、髪の長さに切りそろえてる。 聖隷だから伸びる速さなんて亀の歩みより遅いのに、1ミリ2ミリが気になるんだって。

「うひぃ~」

「もはや、拘り屋ではなく、面倒な男って感じね」

「でも、少し見直しました」

「え?」

「海賊って……もっと雑で不衛生な人たちだと思ってましたけど、案外繊細なのですね」

「……どんな再評価よ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ! ツマミが……空に!

 

 グリフォンと……エレファントマグロか!

 

「いかん! ベンウィック! 王子を止めろ!」

「アイアイサー!! 落とすな、落とすなよー!」

 

 ――誘惑の罠張り巡らし、我が懐中へ! トラクタービーム!

 

「な……浮いてる……?」

「これは……サムサラか! バンエルティア号を避けて落とせ!」

 ――わかっている。

 

 ドシン、という音がして、タイタニアの港へとエレファントマグロが落ちる。

 大きく開いた耳のような(えら)。 その体躯は優に12mを越え、先の感覚から重さは13tくらいだろう。 よくやったぞホグホグ。

 

「おぉ……でかいな……」

「業魔じゃなかったのー。 ただの生物が、ここまで大きくなれるとは……」

「それより、さっきの聖隷術はなんなのですか? こんな巨大なモノを浮かせるなんて……」

 ――本来は浮かせてから叩きつける術。 浮かせる効果のみを抽出した。

「初めて見る聖隷術でした……。 まだまだ勉強不足ですね」

「無属性には知られていない術も多い、という事か……」

「でも、お手柄ね。 これで海賊たちの食糧は当分いらないでしょ」

「え? 食べるのか? 売ればいいじゃないか。 2500万ガルドだろ?」

「どうやって運ぶのよ。 バンエルティア号に乗せる?」

「あ……そうだった……」

「とりあえず、解体はクロガネとロクロウに任せるか……」

「斬り甲斐がありそうだな!」

 

 

 

 

 

 

 マグロは美味しかった。

 




マグロ最近高いよねぇ。 元から高かったけど、最近特に。

サカナ食べたいなぁ。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。