【完結】とある科学の超電磁砲 ANOTHER   作:いすとわーる

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第二巻 後編 【美しき話だとは思わなくて?】

 

―――とある科学の超電磁砲(レールガン) ANOTHER――

 

第二巻 後編 【美しき話だとは思わなくて?】

 

 

 

 学園都市第七学区。中学と高校が集中しているこの学区は学園都市で最大の人口を抱えていることもありもっとも賑わいをみせている学区の一つでもある。

 さて、そんな学区の賑わいをよそに、今とあるワゴン車に四人の少女が乗っている。

 

「っで、結局私達はこの《ゴスロリ》の女を殺せ(やれ)ば良いって訳?」

 

『まあ簡単にいえばそういうことらしいわ。あっ、てか生け捕りね出来るなら』

 

 とその中の一人、金髪で高校一年生のわりに可愛らしい見た目の服を着込んだ少女:フレンダ=セイヴェルンが手元にある写真を見つつした発言に、車に備え付けられたモニターからの声がそう答える。

 対し「生け捕りって超メンドクサいんですが。私の能力的には――」と発言を加えるのは、ショートボブの中学一年生の少女:絹旗最愛。

 それに「ダメだよきぬはた。依頼は可能な限り忠実にこなさないと」と返すのは、オカッパ頭で全体的に薄い印象のあまり表情がない高校一年の少女:滝壺理后。

 

「っで、そいつは今どこにいんの?」

 

『あ~、それが~~』

 

 と四人目の少女、いや女性:麦野沈利――茶髪で女子大生風のみためで実際女子大生[といっても大学院二年生なのでギリギリ]である――の質問につまるモニターの声。

 

『上からの報告だと一応第七学区の《地下》にいるっぽいんだけどなんかさー』

 

 とそこでつまる。「なんな訳よ?」とたまらずフレンダ。対して『ちょっとまってろつーの!!』と怒声が返ってくる。呆れ顔の四人。しばらくして、返答が返ってくる。

 

『あーえっと、なんかこの報告書によると、《ハウンドドッグ?》とかいうのがそいつの居場所突き止めたらしいんだけど、なんかボコボコにされちゃったみたいでさーー何かどうも《能力者じゃないっぽい》みたいなことが書いてあるわね。あーでも何かそこのリーダー《死んじゃった》らしいわ』

 

 『木原数多だってさ』と付け加える声。「木原数多って、まさかあのクソオヤジ?」とそれに返すのは麦野。「超知り合いですか?」との絹旗の発言に「あー、前にマジキモいこと言われて覚えてんだけど――」と雑談を始めようとした麦野に『ちょっとまだ話は終わってないっつーの、最後まで私の話を聞けーー!』とモニター。

 

『なんか岩の巨人? みたいなの使ってくるみたいだから気をつけろってさー』

 

 「えっ? さっき能力者じゃないとかいってなかった?」と疑問をぶつけるフレンダに『ごちゃごちゃいってんじゃなーい!! 私も知らないわよ! んじゃそういうことで!!』と投げやりな態度でブチッという音がしてモニターの音声ラインが途切れる。

 

「結局なんだった訳よ?」

 

 とフレンダ。「さあね」と麦野。「まあでも超行ってみるしかないですね」そんな絹旗に「きぬはた、割りきりいいね。私そんなきぬはたのこと応援してる」滝壺が相変わらずの眠そうな無表情の顔で返す。しばらくして、「じゃ出して」と運転席に向けて麦野が言うとワゴンが走り出す。モニターの女が話した現場に着いたのはそれから一時間後のことである。

 「それじゃさっき話した通り四人ばらばらの行動で行くから。いつも通り早い者勝ちね」と話すのは麦野。彼女たちが今いるのは地下街。学園都市第七学区の地下繁華街のさらに一階層下の作業用の資材などが置かれているスペースである。

 モニターの女――彼女たち四人組の司令塔の役目を果たしている。ちなみにフレンダ達が実際に会ったことはない――から携帯に送信された資料によると、例の非能力者のゴスロリ女はここのどこかに潜伏しているとのことだった。

 

「ふふふ。今日の《撃破ボーナス》は私のものな訳よ!!」

 

 と上機嫌な様子のフレンダに「ふれんだ油断は大敵だよ」と滝壺「ですね」と絹旗。「あっ、あとゴスロリ見つけたら絶対連絡ね。万が一そのまま突っ込んで取り逃がしたら《お仕置き確定だから》」追い討ちをかける麦野。「うぅ。わ、わかった訳よ」とフレンダ。

 

「んじゃ。行動開始するわよ」

 

「はーい!」

 

「では超行きますか」

 

「私みんなのこと応援してる。特にふれんだ。応援してる」

 

 と滝壺。さらに「だからちゃんと連絡しなきゃだめだよ」と念押し。「わ、わかってるって」とフレンダが返し。東にフレンダ、西に麦野という風に各々十字路から出て目標であるゴスロリ女を探す。

 彼女たちは《アイテム》。学園都市の暗部。治安組織の不足する学園都市で、良くいえば秘密警察、悪くいえばはみ出し者達のドブ掃除を行う、レベル3以上の超能力者によって結成された学園都市の《エリート》集団:《アイテム》のメンバーである。その仕事は多岐に渡り今回はその中でも簡単な仕事《殺し》の仕事なのであった。

 さて、捜索から一時間。何の成果も出ないフレンダはもはやぷらぷらと歩いていた。

 

「(ぶっちゃけ《ボーナス》でないとマジやるき出ない訳よ!)」

 

 と気持ち通りやるき無さげに、一応周囲に警戒しつつも気も漫ろに歩いていた。

 

「あ~あ、はやくこんな仕事やめたいな~~」

 

 フレンダはぼやく。恐らく《アイテム》の四人。いやもっといえば、学園都市の暗部に属するものすべてが望んでいることだろうとフレンダは思う。

 彼女がこのアイテムに所属したのは遡ること今年の四月だ。ちょっとした騒ぎを起こしてしまい、風紀委員をやめたり、膨大な額の借金――一〇数億とかなんとか。フレンダもよく覚えていない――を背負わされ、なし崩し的にこんな状況になってしまっていた。

 

「とはいえ、普通に学校にも通えてるし。まぁ《幸運》だったわよね……」

 

 と思い返す。基本的に活動は夕方以降――といっても今日はまだ昼すぎだが――なので学校も普通に通えている。嘘か本当かは分からないが『まあ借金さえ返せば辞めていいよ』と上の女――モニターの声の主だ。ちなみにヒステリー女なのであんまり信用できないとフレンダは思っているが――も言っている。同僚もまあわりと言い感じ――とはいえたまに情緒不安定になったりする怖いリーダー:《麦野沈利》もいるが。まあ普段は優しい――だし、まあ自分はきっと幸運である。

 

「よし! やるき出していくか!!」

 

 そう気合いを入れ直し進んでいると十字路にぶち当たる。さーてどっちにいこうかな~。よし! 左にいくわけよ! っと道を左に回る。っと――

 

「う、うわっと。で、電話な訳よ」

 

 といきなり鳴った着信音にビビりつつ手に取る。

 

「あ、はいフレン――」

 

『あー絹旗です。敵の使うっていう《岩の巨人》超見つけたんですけど――』

 

 「えーーーー。絹旗見つけちゃったのー」とフレンダ。《発見ボーナス》ももらえないんじゃマジやるき出ない、と心のなかで付け加える。対し残りの二人はというと……

 

『はぁぁぁぁぁぁぁ!!!! おい何でだよ何で消えねぇんだコイツ。おいどうなってんだよ! あぁん!!!』

 

『ごめんきぬはた、今ちょっとむぎののとこ向かってて……』

 

 となんだかよく分からない。「?」という感じのフレンダ。携帯は同時通話の状態なのだが、聞こえるのは『おぃぃ!!! どなってんだよ! あぁーーー!!――』という感じの麦野の叫び声ばかり……

 状況がまったく読めないのでとりあえず麦野との通信を遮断し絹旗と滝壺との会話モードに切り替える。

 

「あー、結局皆どういう状況な訳よ」

 

 と問いかける。二人も会話モードを切り替えたようで

 

『たぶん、むぎのは戦闘中なんだと思うよ』

 

『ああ、ゴスロリの方ですか。じゃあこっちは私一人で――』

 

 とかの返答が返ってくる。「(あ~、てことは全部見つかっちゃったのか~)」悲しくため息のフレンダ。《暗部卒業》はまだまだだな~っと思いつつ、麦野達の位置を探すため通話を切断し、携帯内蔵のシステムを起動し三人の位置を検索する。う~ん、皆遠いな。だれが近いっ――って麦野か~~。怖いしこれはやめて絹旗……って絹旗遠すぎ!! でも滝壺は麦野のとこ向かってるだけだし……という感じで迷いだすフレンダ。まあ、もう急ぐ意味もないしっと本当にトボトボ、ゆっくりでもそれでも他のメンバーにそれを気づかれないように彼女が考える絶妙な速度の動きで歩きだす。

 

「(結局麦野のとこ行くしか選択肢ない訳よ……)」

 

 後でどうせ《反省会》で今回の戦闘を見返すことになるのだ。おかしな行動をとれば後でどんな《お仕置き》が待っているかしれたものではない――

 

「ホント、麦野は怖いときは怖すぎな訳よ」

 

 とボヤきつつ歩いているとふと何か赤く発行する粉? いや粉で引いたらしい円陣が目にはいる。「?」と近づいていくフレンダ。とっ――

 

「あー何。見つかっちゃったかーー」

 

「――っっ!!」

 

 声に反応し臨戦体制に突入するフレンダ。手を後ろに回すと能力を発動する。

 《瞬間取捨(ダブルポート)》。周囲三〇メートルの範囲内にある三〇キログラム以下の物体を手に触れる距離まで瞬間移動させ、また手に触れた三〇キログラム以下のものを三〇メートル以内に瞬間移動させることが出来る。それがレベル3、長天上機学園一年生である彼女の能力だ。

 

「これで終わりな訳よっ!!!」

 

 と叫ぶと自分の手に事前に用意していた手荷物に入れていた小型のロケットミサイルを呼び出すと起動させ視界にとらえたゴスロリ女へと発射する。数瞬後女の前で大爆発が発生する。

 

「ヒャッフォーイ! やったやった!! 麦野! 私、私やったよ!!!」

 

 同時に携帯を起動させ他の三人に報告する。しかし――

 

「あはははーーー! そんな《オモチャ》みたいなもん効くわけねぇだろ! 防御結界なめてんじゃねーよ!!」

 

 煙が開けると前方一〇数メートル程の距離に狂ったように笑い狂うゴスロリ女。「げ、嘘!?」とフレンダ。女が手に持ったチョークを掲げると――

 

「うわっと!!」

 

「あははは! やるじゃないの!!」

 

 天井がいきなり爆発し天井が崩れ岩なだれが起きる。当然上は地下街である。巻き込まれたらしい生徒の悲鳴も聞こえてくる。しかし――

 

「(あと五メートル。これぐらいの距離なら!)」

 

 安全圏に飛び込んで天井の崩落を避けきったフレンダが勢いそのまま一気にゴスロリ女との間の距離をつめる。ヤレる!!

 

「終わりよ!!!」

 

 とジャンプし飛び膝蹴りを女の顔の横っ面に叩きつける。しかし――

 

「イ、イタァァァーーーーーー! ど、どうなってんのあんた!!」

 

「だから防御結界あるつってんだろーがーよーーーンァァァーーーーー!!!」

 

 まるでコンクリート製の壁に足を叩きつけたかの如く、女の顔を蹴りつけたはずのフレンダの方が激痛でその場に倒れこむ。ヤバッっと体勢を建て直すも激痛で足が上手く動かない。

 

「終わりだよ! さっさと消えな化け物ッ!!!!」

 

 女が手を宙にあげる。

 

「(やばい、これ終わった……)」

 

 とフレンダ。恐らく何なのかよく分からないがまた何か起きるのだろう。

 もうよく訳が分からない。ミサイルは駄目。体術も効かない。話は通じそうにない、おまけに体も言うことを利かない――

 これは終わった、と思った瞬間、今までの思い出が高速で蘇ってくる。ああ、もうホントにここで終わりだな……ここでお仕舞いかぁ~。でもまあ幸運なのかな? だって生き埋めならまだいいほうじゃない? 水死とか圧死とか上下半身分断とか、四肢バラバラとかだったら洒落にならないし。じゃあねお姉ちゃんこれまでかも。じゃあねフレメ――

 

「あっ! おいどうなってんだおいおいおいおいおいおい!!!! アァァァァァァァァァ!!!!」

 

 突然女が叫び声をあげた次の瞬間、凄まじい光量が視界を周囲を覆いつくし――数瞬後女の姿がその場から消え去った……

 

「(ん? どうなった訳? あれ?)」

 

 とポカンとした様子のフレンダ。場には女が着ていたゴスロリの服が落ちているだけである。あ、あと天井から落ちてきた生徒十人ぐらいが呻いている。ん~、どういうこと?

 っと突然携帯の着信音が鳴り響く。「ん、はいフレンダ」と電話に出ると――

 

『例の岩の超巨人がいきなり崩れたんですが何かしましたか?』

 

『おい、赤髪逃げんじゃねぇぇ! 戻ってこいゴルァ!!! この糞ロンゲ野ろ――』

 

『むぎの。深追いしちゃ駄目』

 

 との返答の数々。ん? なにがどうなってるわけよ? と更に当惑するフレンダ。と――

 

『あー、あんた達お仕事ご苦労! もう帰ってよしっ!! はいおつかれーーー』

 

 上位回線から例のモニター女が介入し、次の瞬間ブチッっと通話が切れる。いつものことだ。仕事を終えるとこの電話が来る。

 ん? てことは? このタイミングを考えても――

 

「こっ、これって私の手柄っ!! ヒャッフォーイ!! 《撃破ボーナス》は私のものだっ、何買おっかなっー!!」

 

 と躍り狂うようにジャンプするフレンダ。まああれよ、《返済》も大事だけど息抜きも必要だからね。うんうん。

 

「――ってイッッッターーーーーーーイ!!!」

 

 とまあ当然の話、足を痛めたフレンダが場に倒れこむ。さてどうしたものか。まあ仮にアンチスキルに回収されてもなんとかなるよね? たぶん裏で手を回してね、うん。っとそのまま寝転がるフレンダ。

 数時間後無事、アンチスキルによって彼女は助け出されることになるわけだが、勿論の事《暗部》の構成員であるフレンダが面倒な事に巻き込まれるのは必然で、結果彼女が楽しみにしていたボーナスも目減りしてしまうことになるわけだが、まあなんだかんだで生き残れたことにひと安心するフレンダなのであった。

 

 

 

 同時刻、昼も終わりもうすぐ夕方へと突入しかけているこの時間、アイテムと同じく学園都市の第七学区にて一人の大男が下水道のマンホールを持ち上げ地下から地上に這い上がってくる。

 

「おつかれさまにゃーー」

 

 と彼に声をかけるのは金髪にグラサン、アロハシャツ、おまけに金のネックレスという、どうみても裏社会に生きる風貌の少年:土御門元春である。で、その大男というのは――

 

「で、シェリーは確保出来たんだろうな?」

 

「もちろんだにゃー。今超音速旅客機を手配してるとこだぜぃー、ステイル」

 

 そうステイル=マグヌスである。「いやー、いいもんみれたぜよ」っと変わった口調で喋る土御門が空を見上げ一言。なんのことか分からないが……

 

「とにかくこれで一つ目はクリアだ。後は――」

 

 そう今回は失敗は許されない。

 

「あの子の為にも次も絶対成功させなくては……」

 

 そのまま彼の目指す目的地へと歩きだすステイル。目指すは第七学区、佐天 涙子自宅である。そんな彼に「気をつけてにゃー。さってと俺はお楽しみの……」と顔をニヤニヤとさせつつどこかへとイソイソと消えていく土御門。ちなみに彼は見た目はヤクザ風だが、ハートはそこまで強くない。とはいえ彼も年頃の男の子。何が起こるかは分からない……

 とまあしかし結局のところ何も起こらず、というよりシェリーの心無い言葉で彼のか弱いハートはズタボロ。その気落ちした心のままロンドンのヒースロー、そして聖ジョージ大聖堂に到着することになる土御門元春なのであった。

 

 

 

 

「そこにあるステーキソースとって、インデックス」

 

「はいなんだよ! ところでるいこ、さっきからスゴく良い匂いがするんだけど、もしかして今日のご飯って!!」

 

「ふっふっふっ。流石だねインデックスさん。今日は――じゃーん! 牛ステーキッ!! しかも国産黒毛和牛のサーロイン! 一枚一万円の超高級肉!! いやー奮発しちゃったよーー」

 

 と佐天涙子。というのも先月はずっと合宿中であったこともあって生活費が丸々一ヶ月分浮いているからなのであり、それ故に「よーし! じゃあお金ぱーっと使っちゃうよー」な感じで今日開いたお祝いパーティも「あー、佐天さん。佐天さんどっか行っちゃったんで食事全部食べときました。後お金は全部白井さんが奢ってくれるらしいんで、それじゃ」みたいな初春の連絡もあり、うんじゃあいっちょ買うか! と病院帰りに「るいこ、ホントに何ともなくて良かったんだよーー」と気落ちしたインデックスこと《妹》を「(おーおーなんとも可愛いこといってくれちゃって!)」と思いつつ、ここらで《餌付け》しとくかというちょっぴり浅ましい気持ちもあって、まあこういう風になった訳である。ちなみに今の時刻は午後五時。晩御飯にしては少し早めの時間である。

 

「よーし、出来た! インデックス出来たよー」

 

「ふふふ、るいこ私も準備万端なんだよ! はやく、はやくするんだよ!!」

 

「まあまあ落ち着きなさいインデックスさんや。よし! 飲み物を冷蔵庫から取り出してっと! 後は、これ並べてっと」

 

 とパッパパッパと手際よくインデックスの待つテーブル――卓袱台だが――に載せていく。「おーーー! す、すごいんだよ!!」とインデックス。一分後にはすべての準備が整う。せーのと掛け声を合わせて

 

「「いただきま――」」

 

 ピーンポーンッ、と部屋のインターホンがタイミング良くなった。

 

「新聞の勧誘かな? インデックスちょっと見てきて」

 

 とステーキをフォークとナイフで切りつつ佐天。「えー、るいこだけずるいんだよ! 私も食べたいっ! けど……むぅ、分かったんだよ……」としぶしぶインデックスが部屋のドアへと向かっていく。「うまい! 旨すぎだよ!! ホントに良いお肉って口で溶けるんだ!? す、すっごーい!!」感動に浸りつつバクバクとステーキを口に入れていく佐天。しばらくして「インデックスー! 結局なんだったーー」と口をモグモグさせながら部屋の入り口を見ると――そこにはインデックスの姿は無く、ただ開かれたドアと眩しいくらいの夕焼けが彼女の目を覆うのだった。「ん?」と佐天。しかし「肉はやっぱ作りたてだよね!」ととりあえずステーキを何切れか食べ終えてから、食卓を離れ玄関へと向かう。ドアが開いているので半身を乗り出し外を見てみると――

 

「(あっ、あれは!?)」

 

 とマンション――いやアパートか?――の二階から一階に降りどこかに向かっていくインデックスといつぞやの神父?風の真っ黒な修道服服に身を包んだ大男の姿が目にはいる。そこでハッと直感がはたらく佐天。こ、これは!?

 

「え、えんこー。ま、まさかあのインデックスが! そんな、そんなことって!」

 

 こうしちゃ居られない! っと部屋にあった特注の50センチ程の金属バットを鞄に大量に入れると今度は愛用の金属バット――こちらは普通の――を肩に担ぎ、二人の追跡を開始する佐天。「(現行犯でつかまえちゃうぞーー! 見ててね初春、白井さん、御坂さん!! 私これから《正義の味方》になります!)」な感じの気合いをいれるとアパートを駆け足で出ると彼らの後を追う佐天。彼女にとってもはや一万円もした高級肉は視野に入らないのであるなぜなら――

 

「(見ててください! 私、御坂さんみたいにこれからバッタバッタとワルモノぶっ倒しちゃいますから! ふふふ、私もこれからは『佐天さん。全くあなたという人は、風紀委員じゃないんですから――』とか白井さんに言われるようになっちゃうのかなーーーー。初春も『佐天さん、なんか遠い人になっちゃいましたね』とか言われて『何いってんの! 初春は私の嫁になるのだーーーー!!』とかな展開にもなっちゃうんじゃ! よし気合い出てきたーー! 行っくぞーーーー!!)」

 

 ――手に入った能力を使いたくて使いたくてしょうがなかったからである! 無論、白井や御坂、初春、そしてインデックスに後で散々に怒られるわけだが、まあそれはまだまだ先の話である……

 一時間後、どういう訳か――まあこれまで風紀委員の仕事にちょくちょく関わっていたお陰なのか――二人に気づかれずに尾行することに成功する――わけもなく――

 

「るいこ!! なにやってるんだよ!!」

 

 とちょうど「あ、あれ見失っちゃたー」と動揺していた佐天の背後からインデックスが現れる。「っつ、わっっわーーーー!!」仰天のあまり飛び上がり振り返った拍子に躓いて、ズテッと顔面から地面に激突する。

 

「いっっっったーーーーーーーーーーーーい!!!!!!」

 

「だ、だいじょうぶ!?」

 

 と衝撃の展開に慌てて駆け寄るインデックス。対して――

 

「もうっ! インデックスのせいなんだから!! ん? あれさっきの神父さんは?」

 

 飄々とした様子で――顔は激突の衝撃で出た鼻血で血まみれである――周囲を見渡す佐天。ちょっと言葉がないインデックス。一秒後、なにかすごいものを見る感じで遠巻きにこちらを見つめている神父を発見する。「くっ!? 見つかったか! だが仕方ないこうなったからには……。インデックス下がっててここは私が!」と手に持った例の金属バットを両手に構え男――ステイル=マグヌスである――へと突撃する。「まっ、待つんだよるいこ!」と慌てて後ろから抱きついて止めるインデックス。

 

「止めないで! この変態エロロリコン神父ーー!! 私の妹になに手ーだそうとしてんのよ! そんなとこで突っ立てないでこっち来なさいよ!」

 

「お、落ち着くんだよるいこ!?」

 

 「あの人は別にそういう感じの人じゃないんだよ。それに今回は――」と続けるインデックスに「離して!! もう三〇歳近そうじゃんあの人! 絶対そういう人だよ! 騙されちゃ駄目だよインデックス!! 絶対どっかに連れ込んで変なことするつもりなんだから! こらー! さっさとこっち来いこの変態!!」と佐天。ちなみに、あまりのおかしな状況に周囲からすっかり人はいなくなってしまっている。

 

「おっ、落ち着いてるいこ! あのね今回はね……」

 

 とインデックスが全力でなんとか佐天を押さえつつ、ことの顛末を必死に喋り始める。要約するとこうだ。

 神父はこれから人探しと、もしかしたら魔術師と戦いにいくことになるかもしれないということ。一人ではとても手に終えないのでインデックスに協力を求めに来たこと。危ないので佐天には何も言わずに出てきたことなどである。

 途中から佐天も落ち着いてきたようで「ふむふむ」と手を顎に当て真剣な様子。インデックスが続ける。

 

「そんなわけで。るいこは危ないから帰るんだよ。それにほら!」

 

 「耳を澄ませて」とインデックス。『完全下校時刻になりました。生徒のみなさんは――』とかなんとか近くのスピーカーから流れる声を聞きとる佐天。「ねっ、だからるいこは――」と続けるインデックスに

 

「やだっ! 帰りたくない!!」

 

 と佐天。「るいこ!」とインデックス。しかし――

 

「やーだやーだやーだ。ぜったいやだ!! いいっていうまで帰らない!」

 

 まさかの地面に寝転ぶとゴロゴロゴロゴロ右に左にとローリングし始める佐天。よくだだっ子が母親にすると云われているあれである。「るいこ! そんなことしても連れていかないよ!」と注意するインデックス――と思いきや

 

「え? るいこ?」

 

 と呆然と、いや言葉を無くすインデックス。そんな中佐天は相変わらず「やーだーーーーー」と叫びつつゴロゴロ。しばらくして「ちょ、ちょっと待ってるんだよ」とインデックス、赤髪のすっかりかやの外になっていた例の神父のところへと向かう。ごにょごにょとインデックス。「正気かい?」とステイル。「お願いなんだよ。なんかるいこちょっとおか――」とかなんとか聞こえてくる。それから少しして、どうやら何か進展があったらしくインデックスが佐天の元へと戻ってくる。

 

「あのねるいこ。すていると話したんだけど。あの~るいこも一緒に行く?」

 

「うん! 行く!!」

 

 といきなりスパッと立ち上がると佐天。「うん。……分かったんだよ。でもねるいこ絶対に――」とかなんとか続けるインデックスだがそれは佐天の耳には届かない。

 ――――佐天涙子と魔術が交わるとき物語は始まるのである。

 

 

 

 

「てな具合でもうこっちの状況はひっちゃかめっちゃか。情報が錯綜して――」

 

 と、ここは学園都市の外にある薄命座という劇場、といっても廃墟――ただそれほど古びてはにないが――そのチケット売り場跡地である。

 あの後タクシーをひろいそのまま学園都市外部へと出てきた一行は――なぜかノーパスで出れたので佐天はそれに衝撃を受けつつ――ここに来ていた。ちなみに今佐天達の目の前を歩いているのは日本語は流暢なのに妙な癖のついたしゃべり方をするローマ正教のシスター:アニェーゼ=サンクティスである。

 

「どうしたもんかって感じですよ」

 

 と最後にそうしめる。なんというか苦戦しているようだ。対してインデックスが「そうだね。天草式の特徴はその隠密性だから――」とかなんとか。なんかこう、ずいぶんとマジカルな感じだな~と佐天。とはいえ心はワクワクである。うんうん、これは私の出番もありまくる感じだな! うんうん!

 

「で、僕たちはどうすればいいんだい? 捜索を協力するっていうのでいいのかな?」

 

「いえ、人数的にはもう――」

 

 とアニェーゼ。学園都市の方を任せたい、とかなんとか。「え? 戻るの!?」と佐天が思わず突っ込みをいれる。と「あの~さっきから気になっていたんですが、この娘さんは――」アニェーゼが返そうとすると「ああ気にしないで。この子は別に――」とインデックス。ちょっとムッとする佐天。まあいいさ。私の実力を見れば彼女の態度も変わるだろう。「す、すごいんだよるいこ!! いやすーぱーうーまん! まるでカナミンみたいなんだよ!」とかなんとかなるに違いない!

 話は進む。

 

「それでもいいけど私は待ち伏せがいいと思うんだよ」

 

「待ち伏せですか……」

 

 とアニェーゼ。インデックスが近くにいたシスターから地図を手にいれるとそれを地面に置く。ちなみに彼女たちが今いるのは薄命座前にあるちょっとした広場のようなスペースである。インデックスが地図を手で示しつつ話し始める。

 

「たぶん天草式は、《おるそら》を誘拐した後魔術で逃げる算段だと思うの。日本限定魔術なんだけど、それを使うんじゃないかと思う」

 

 「どんな術式なんですかい?」とアニェーゼ。「瞬間移動だよ。日本中に四七ヶ所ある《渦》を使って移動するんだけど、渦の間なら自由に移動できる魔術でね――」とインデックス。「(すごい! もう都市伝説なんてレベルじゃないよ! す、すごすぎる!!)」と佐天。インデックスの説明はよく分からないが……なんというか、凄まじくダイナミックな話であることは佐天にも分かる。どうせ科学的な説明でも難しいのよく分かんないし、ま、大丈夫だよね。と思う佐天。

 

「じゃ、じゃあどうすりゃいいんですか! そんなもんがあるなら、もうウチにも手の打ちようが……」

 

「問題ないよ。この術式、どこでもいつでも使えるってわけじゃないからね。明日の午前〇時に場所は……ここ! 《ぱられるすいーつぱーく》っていうとこ。ここに《渦》が出現するはずなんだよ。つまり――」

 

「ここで待ち伏せちまえばいいと」

 

 「そういうことだね」とインデックス。どうやら策は決まったようだ。「じゃあウチの連中にもこれから連絡します。みなさんは――」「バトルですね! 任せてください!!」と佐天が割ってはいる。「る、るいこ!」とインデックス。「え? バトルでしょ? バトルだよね! よ~し! 気合い入ってきたぞーーー!」と燃え上がる佐天。

 

「本当にこれでよかったのかい?」

 

 そう問いかけるステイルに「今のるいこは、なんかこう――すごく危ないんだよ、ほっといたらきっと問題起こしてそのまま《けいむしょ》とかに連れていかれちゃうかも。すているもちゃんとるいこのこと見張っててね」と真剣な顔でインデックス。「はぁ~。まさか子供の御守りをすることになるとは……」ため息をつくステイルに「ま、それが大人の責任だよ。すているもいい年なんだし、そろそろ《子育て》とかも考えていい経験と思って頑張るんだよ!」とのインデックスの言葉に、さらに深いため息をつくステイルなのであった。

 

 

 

「では、我々ローマ正教はその主力でもって正面から天草式に激突します。皆さんは遊撃隊として、オルソラを見つけたら確保しちまってください。戦闘は――」

 

 午後一一時、パラレルスイーツパークを遠目に見えるこの場所で、佐天、インデックス、ステイルはローマ正教側と最後の打合せ中である。

 「(戦闘、戦闘~~~~)」と上機嫌にニマニマしているのは佐天だけで、他の魔術師達は真剣そのものである。

 

「――どっちでもかまいません。〇時までになんとかして《渦》を破壊しなくちゃいけやせんから、見つからなかったらそっちを優先でおねがいしやす。後、〇時一〇分までにオルソラを見つけられなかったら脱出してもらってかまいやせん」

 

 「後の《天草式》は全てウチで始末してしまいます」とアニェーゼ。それで彼女は説明を終わると指揮するらしい漆黒の修道服を纏ったシスター達と――ようやくまともなシスターがたくさん見れたよと思う佐天――パラレルスイーツパークへと向けて移動し始める。佐天達も勿論そこへと向かう。一一時二七分、職員用の出入り口らしき場所に佐天は立っていた。遠くからはドーンッ! とか「うぉーーーーーー!」とかなんか色々な音が聞こえてくる。

 

「(これは盛り上がってきたぞーーーー)」

 

 と相変わらずの佐天。「るいこ。るいこは出来るだけ私達の影に隠れて――」というのはインデックスの言である。「おっけおっけー」と佐天。一一時三〇分佐天達もパラレルスイーツパークへと突入を開始した。

 

 

 

 

 しばらく歩いていると、ザッと物音と同時に四人の各々剣をもった恐らく天草式と思われる連中が物陰――恐らく、昼間はアイスクリームとか売ってる感じの売店――から飛び出してくる。身構える佐天。その顔に恐れはない。よし! いくぞーーー! っとバットを構えると――

 

「CCROP」

 

 突然インデックスがそう呟く。すると――パリンッ! という音の後飛び出して来た四人の武器が粉々に砕け散った。驚く佐天。続いて――

 

「QWXCUT」

 

 再度パリンッという音と共に何かが起きる。何が起きたのかはよく分からない。そして――ドーンッ! と再び今度はインデックスの周囲で見えない爆発が起きる――いや、見えないのでよく分からないけど――とにかく何だかよく分からないが、前方から飛びかかって来ていた四人が逆に後方に吹き飛ばされる。

 そして――

 

「どうなってるの?」

 

 その吹き飛ばされた四人は体勢をたて直すと耳を塞いで恐ろきおののいていた。まあ何にせよチャンスだろう。後ろでは、インデックスが歌――もの凄く上手い。歌手になれるよインデックス!――を歌っているがまあ気にせず、手にしたバットで、天草式の四人を叩きのめす佐天。数分後、佐天達は、敵四人をノックアウトさせ戦闘に勝利していた。そういえばと気づく。ステイルがいない。どこにいったのだろう?

 

「いくよるいこ。敵はまだまだいっぱいいるんだから」

 

 とインデックス。トコトコと、見た感じなんかこう何にも考えてなさそうな感じで先導を開始する。「まっ、待ってよインデックスーー!」と慌てて佐天も追いかける。この後の事というとまあ簡単にいうと――

 

「ちょ、チョロゲーすぎる……」

 

 前方に倒れている、ツンツン頭の「なのよ!」とか言ってなんか見た目ボスぽかったわりに普通に武器を壊され、吹き飛ばされ、耳塞いで、みたいな感じで後はバットでボコボコにした結果、気絶している男を見て思わず佐天がもらす。

 

「まあ私の《強制詠唱(スペルインターセプト)》と《魔滅の声(シェオールスフィア)》の前に敵なんか存在しないんだよっ!」

 

 と、ふふん! と自慢げにインデックス。「あ、あと《歩く教会》もかな♪」と付け加える。なんというか、まあ今までのことを簡単に説明するとこう……

 

「い、いんでっくす無双すぎる……」

 

 そうなのだ。敵は揃いも揃って集団で挑んでくるのだが――天草式の特徴らしい――登場した瞬間インデックスの《スペルインターセプト》で武器と防御結界――インデックス曰くかなりの打撃攻撃も防げる便利な魔術だそう――が破壊され、仮に攻撃されても《歩く教会》が敵の攻勢を完全ガード、次の瞬間《シェオールスフィア》が発動! 敵が吹き飛ばされ恐怖におののく、そしてそこを佐天がバットでボコボコにする……私ただの乱暴者じゃん……と落ち込む佐天。というか、能力使ったら意識失っちゃうし、どうせ戦えないじゃん私、テヘッ、と佐天。ちなみになぜ今日彼女のテンションがこんなに高いのかというと……

 

「あ、眠くなってきたな。そろそろ飲んどくか《ハイパーカフェイン》」

 

 ポケットに入れていた小さめの缶ボトルを取りだし、学園都市製超精力剤:ハイパーカフェインを一気に飲み干す佐天。興奮のあまり――つまり、ふふふ、私の能力みんな見たら驚くぞーーテヘへ――な感じで九月八日はあまり眠れず起床。うん、眠いときにはカフェインだよねカフェイン、てな感じで紅茶、コーヒー、コーラ、栄養ドリンクなどなど朝からがぶ飲みを繰り返し完全に精神状態がまあなんかこんな感じになっていたからなのだ。飲み干した栄養ドリンクの缶を近くのゴミ箱に捨てる佐天。「皆もちゃんとゴミはゴミ箱にね、エヘッ!」とかなんとか一人で呟いている。

 

「るいこ……」

 

 そんな彼女を見つめる悲しそうな表情のインデックス。佐天がそのことに気づくのはもっともっと先、明日の話である。

 とまあ時は進み午後一一時五八分。天草式は、インデックスの活躍もあり全滅。佐天とインデックスは「いやはや助かりました。あなた達には感謝してもしきれねぇです」とのアニェーゼの言葉を受け「少ねぇですけど気持ちです。受け取ってください」となぜか札束――百万の束三つくらい、え? いいんですか? いやじゃあ貰えるんだったら、と佐天がいそいそとバッグにしまう――が貰えたり、なんかいつの間にかオルソラも捕まったらしく、最後にインデックスに「そういえばるいこ宿題は終わったの? ういはるが最近苦しんでたけど?」とか言われ「あぁ~、って、そういえば! あのクソ教師! あの一週間って言った時の不敵な笑みはこれのことか! や、ヤバイ! これは本気で! インデックス、後いつの間にか戻ってるステイル?さん。私はこれで!」とダッシュで学園都市へと帰っていくことになる佐天涙子なのであった。

 ちなみに明日以降九月三〇日まで、彼女は毎日夜遅くまで――勿論学園都市の完全下校時刻の午後六時以降まで――補講漬けの毎日を送ることになるのだが……まあそれはもっと先の話である。

 

 

 

 

 時は移り場所も変わり九月九日、午前五時オルソラ教会にて――

 

「ったくっ、面倒なことに、巻き込んでくれてんじゃねぇですよ、フンッ、全く! な、おい、聞いてぇんですか、このロバ女ッ!」

 

「ひ、ひぃーーーー!」

 

 とそこにあるのはローマ正教のシスター:アニェーゼ=サンクティスと彼女に足蹴りにされ地面にへばりつくように倒れこんでいる天草式から《救出された》オルソラ=アクィナスの姿。そして二〇〇人を超すローマ正教の戦闘組織《アニェーゼ部隊》のシスター達である。

 

「にしてもラッキーでしたね、えぇ!? あんな異教のクソ猿、あぁ一匹だけでしたか、後は汚ならしいクズ共。いやぁだめですよ、そもそも十字教にイギリスもロシアもねぇっつー話です。あるのはウチ、ローマ正教だけですよ! ねぇそう思うでしょ、オルソラ!!」

 

 と周囲のシスターと同時に何度も足蹴りをくらわせるアニェーゼ。呻くオルソラ。そうこれは《罰》なのだ。

 

「禁書である《法の書》なんか解読して一体なにがしたかったのか? おかげでこっちはいい迷惑ですよ! あぁ、いやそうでもなかったですかねぇ、えぇ!!」

 

 すでに倒れボロボロになっているオルソラにさらに追い討ちを掛けるように足をグリグリと踏みつけるアニェーゼ。オルソラの悲痛な叫びが教会中に響き渡る。

 

「最後にちょっと《はした金》をあの雌猿に渡してやったんですが。ぷ、ぷはははっはは!! 本当に、いまでも笑えてきますよ、あの卑しい獣の笑み、本当、あり得ませんよね? えっ!? もうあれは人間じゃないですよ! ホント、獣ってのは手なずけるのが楽で助かります。《お駄賃》渡して適当に愛想ふりまいてりゃ、ホイホイ言うこと聞いてくれんですから!」

 

「あなた方は……」

 

「あぁ?」

 

 醜く顔を歪めるアニェーゼにオルソラは、優しくしかし力強い声で

 

「本当に人を信じられないので御座いますね。お金や猜疑心のみで動いている……私は今思い知らされているのでございますよ……」

 

 そうハッキリと呟く。対して「なに一人前の口きいてんですか、えぇぇぇ!!」とアニェーゼ。今度は彼女の顔を踏みつける。

 

「もとよりてめぇに反論する権利なんかこっちは与えたつもりはないんですがねぇぇぇぇ!! もうてめぇは終わりなんですよ。この後枢機卿達の素敵なおままごとにつきあわされるだけの存在なんですよ、てめぇは!」

 

 「もうすっかりきっかり女すてることになりますよ! あっ、はははははっは」と高笑いするアニェーゼ。対して――

 

「たとえそうだったとして、私は何を恨めばいいので御座いましょう」

 

 と彼女は顔を床に押し付けながらもはっきりとそう口にする。「あぁぁぁ!?」とアニェーゼ。

 

「結局のところ私もそのあなたの言う《汚ならしい》方達のようにはなれなかったのですから……」

 

「あぁ? 何が言いたいんですかあなたは?」

 

 とアニェーゼ。オルソラは続ける。

 

「私も結局はあなた達と同じローマ正教の人間だったという事で御座います。人を疑うことしかしらない、仮に信じたとしてもそれは上辺だけ、いざとなればどこかへそそくさと逃げ去ってしまう……あの時、私も《天草式》の方々を信じていれば何か変わったので御座いましょう。でも私は信じられなかった。いつも教会では……そう、十字教を広めるため、いつも私が説教していたのは上辺だけのただの理想論だった…… それこそが私の本質であると、そしてまたローマ正教の本質であると気づけたので御座いますから」

 

 「きっと神の思し召しで御座いましょう」とオルソラ。「聖人にでもなったつもりですか、あぁぁぁぁ!」とアニェーゼ。オルソラは最後に――

 

「つまりは、この《私》がローマ正教の行く末を示しているということで御座います。あなた達の未来はあなた達が見ているこの《私》だからで御座います。いづれあなた達も遠からず同じ運命を辿るでしょう。バチカンも、そしてローマ正教も……」

 

「はっ!? 私達を心配してくれるってことですか! 随分と余裕じゃないです?」

 

 「ほら! あなた達、この獣はまだまだやられたりないようですよ!」と周囲のシスターがオルソラへと群がってくる。再びリンチが始まる。そんな中、オルソラは思う。自分がどんなに幸運であるのかを。アニェーゼ達、ローマ正教のシスター達を通して、今までの自分を返りみることが出来たことを。見ず知らずの自分を救ってくれようとしてくれた天草式の十字教徒と触れあえたことを。そして――

 

「ずさんだね! ここの《結界》穴だらけなんだよ。こんなのとても《アエギウスの結界》を使って組み上げたとは思えない! ローマ正教、人材の質悪すぎなんだよ!」

 

「ご高説のとこ悪いけど、その《大根みたいに太くて気持ち悪い足》どけてくれないかな? そこのシスター――」

 

 自分が――

 

「うちの、君たちの言う汚ならしい獣の《イギリス清教》のシスターだからさ」

 

 今はもう《ローマ正教徒》ないということを……

 

 

 

「何訳の分からないことをいってんですか?」

 

 と返すのはアニェーゼ。今、教会の入り口から侵入して来た二人の《獣》に対し――

 

「おら! 何してるんですか! さっさと出ていかねぇと《内政干渉》とみなしちまいますよ!」

 

 手に持っていた司教杖を振り回しつつ言う。次の瞬間、二人のすぐ近くの地面にボコッと大きな穴が開く。

 

「ったく、君の目は節穴かい? 彼女の胸を見てみろ」

 

「あぁ? 胸?」

 

 視線をステイル達からオルソラへと移す、とっ――

 

「け、ケルト十字! て、てめぇ、まさか!」

 

「そう、それは僕の手で、イギリス清教の《神父》たる僕の手で、歩く《教会》の了解のもと彼女の首にかけた十字架だ。もちろん、君なら分かるだろう? それはそのまま僕たち《イギリス清教》の庇護を得るということ――すなわち、僕達の仲間になるということを示している」

 

 「勿論これはウチのアークビショップが直々に用意した一品だ。君が本当に《十字教徒》ならこの意味は分かるよね?」とステイル。しかし、あくまでアニェーゼは歯軋りをし――

 

「そんなのはただの屁理屈です! これはそんな形式だけの話じゃあありません! こいつは、《法の書》、ローマ正教、ひいては十字教世界全体を揺るがす問題です。そんな理屈、通るとでも思ってんですか!」

 

 「こうなりゃ実力行使です! あんたら二人程度いくらでもどうとでもなるんですよ! やっちまいなさい!」とシスター達――武器を持ち、むろん魔術の扱いも心得た――に命令を下す。そう、そうなのだ。アニェーゼの言うことにも一理ある。

 

「実力で押しきるか……成程ね、入り組んだ問題だけに、だからこそのやったもの勝ちか……嫌いじゃないよ、だけどね――」

 

 直後、教会側面の壁が爆発し――

 

「はっ! ちょっと出るの早すぎだってのよ! もうちっと抑えろって!」

 

 「まぁ、こっちも同じ立場だったらどうなるか分かんなかったのよな!」と天草式、ツンツン頭の、佐天にボコボコにされていた天草式のリーダー:建宮斎字と、総勢五一人の――殴られ満身創痍だが、気合十分の――天草式十字凄教が登場する。対するのは――

 

「ぐあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

 ステイルが事前に仕掛けておいたルーンにより発動した《イノケンティウス》によって燃え盛る火炎の中逃げ惑う二〇〇人の火だるま状態のシスター達。そうもう勝算がどちらにあるかは明らかだろう。勝負は――

 

「冷静に対処しなさい! 《ウンディーネの恵み》の術式の組み上げをっ!!」

 

「冷静に対応してください! 私達の戦力は敵の《四倍》です! 落ち着けば負ける相手ではありません!」

 

「なめてんじゃねぇぇぇぇぇ! 異宗派のクソ猿!!」

 

 体勢を建て直した《アニェーゼ部隊のエリート》残り一〇〇人vs五二人。勝負はちょっとばかり……いや、かなり不利だ。しかし――

 

「あはははっっ! ちょっとくらい不利な方が面白味もますってもんよな! 行くぞ! 天草式十字凄教、多角融合式十字教の力見せてやるのよな!」

 

「ふふふ、一〇万三〇〇〇冊を記憶している私に不可能はないんだよ!!」

 

「大切な《この子》の為にも、ここで負けるわけにはいかない!!」

 

 こちらの士気とて劣ってはいない。囚われたヒロインを助けるという状況でまさに最高潮である。さて軍配があがるのはどちらなのか? 結果は――――

 

「結局その程度ですか! まあ見えてたことですけどねっ!!!」

 

「シスタールチア! しっかりしてっ! 目を開けてください! シスタールチアぁぁぁぁぁぁ」

 

「建宮さん……そんな……そんなことって……」

 

 アニェーゼ達の辛勝であった。転がっているのは教皇代理:建宮斎字を含めた天草式五一人の死体とアニェーゼ部隊一九〇人の死体。そして、アニェーゼの司教杖に首根っこを押さえられたステイルである。ちなみにインデックスは教会外にて残り八人のシスターと奮戦中である。

 

「ははははははっっっ!! ふざけんな! このクソ野郎が!!! わたしのっ、私の大切な家族を殺しやがって! ふざけてんのか、あぁ!!」

 

 ともはや魔力も切れたアニェーゼがステイルを教会の壁に押し当てる。窒息させるつもりである。

 

「死ね!! このクソ猿ぁぁぁぁぁ!!!」

 

「そうはさせません!!!」

 

 次の瞬間、アニェーゼの首が宙を舞う。ぼとりっと床に落ちる肉塊。吹き出す血の噴水。それを浴びていたのは――

 

「ひ、ひぃぃぃぃ! し、シスターアニェーゼーーーー!!!!」

 

 《聖人》神裂火織であった………

 

 

 

 

「とんでもないことをしてくれたわね、ステイル」

 

 ロンドンの街中、うっすらと降り落ちていく雨の中を白地に金色の刺繍が施された可愛らしい傘をさしたローラ=スチュアートが歩いている。その横を歩いているのは――

 

「……申し訳ありません……」

 

 黒い、コウモリ傘をさしたステイル=マグヌスだ。その顔は、やはり傘のごとく黒く死人じみている。

 ローラが振り向くことなく続ける。

 

「分かっているとは思うけど神裂がイギリス清教から《破門》されることで決まったわ。まあもう行方が掴めないのだから、本人に伝えようもないのだけれどね」

 

 無論言葉は日本語なのだが。気味が悪いことに、あの《訛り》がない。どうにも普通に喋ることは出来たらしい。

 

「とはいえ――」

 

 突然、クルリとステイルの方を振り向くローラ。そして――

 

「まあローマ正教側も《聖人による死者》はたったの《一人》。今回は、色々と借りを返させる結果になってしまいたけれど、大目に見てくれることで決まりたわ」

 

 「《幸運な事に》天草式にも被害が出ていたのもおおきけれなのよ。彼らが大半の敵を倒したということに見せかけることが出来たのは僥倖なりけるわね」と上機嫌に笑いつつローラ。《訛り》はいつの間にか戻っている。

 

「でね、あなたが一番気にしているであろう《禁書目録》のことだけど――」

 

「――保留で決まりたわ」

 

「そ、そんな馬鹿な!」

 

 と一瞬遅れてステイル。

 

「馬鹿な事ではなくてよ。むしろ喜ぶべきことでしょう? あの《禁書目録》に《新しい軛》をつけることに成功していることが分かりたのだから」

 

「っっつ!!」

 

「流石なのよステイル。私自身《佐天 涙子(あれ)》の利用価値をはかりかねていたけど、まさか《戦場に連れ出すことで》それを証明してみせるとはね。見事なりたわ。あの執心ぶりからして、いざという時には、あの少女さえ人質にでも取りければ、禁書目録は私の操り人形となりけるでしょうね」

 

 高笑いするローラ。「ところで――」と続ける。

 

「なぜお前は《オルソラ教会に襲撃を仕掛けたのかしら?》」

 

「それは!?」

 

 「それはあんたが《法の書》と《オルソラ》を奪取せよと!」と返したステイルに再び笑うローラ。

 

「あのねステイル。私がいうたのはこうよ。『ローマ正教が《神裂》と由縁のある天草式を狙っている。《神裂》が《下手をうたぬよう》なんとかせよ』。オルソラだの法の書だのは別にどうでもよかりだったのよ」

 

 「そんな馬鹿な!」とステイル。しかしローラは落ち着いた様子で――

 

「ステイル。ローマ正教が《法の書》を本当に《極東の一辺境宗派》ごときに奪われると思うていたのかしら? いうたわよねすべてそういう《噂》だと」

 

 「実際の法の書はバチカンの奥深く、厳重に保管中だそうよ」とローラ。「つまりね」と彼女は続ける。

 

「ローマ正教は、なにを思うてか法の書を解読してしまった《愚かな》オルソラを始末しようと《天草式》を祭り上げただけなのよ。元より《オルソラ救出》などどちらでもよかりけれだったのよ」

 

 「結局解読も《出来ていなかった》ようだし。全く愚かな女よね」とローラ。

 

「そういえば、もうひとつありたわね」

 

 「実はこれが一つ私の《ミス》でね。まあこれに関しては完全に私の落ち度なるのけれど」と付け加えるようにローラ、そして――

 

「どうにも今回、法の書問題には《関わる必要すら》なかったようなのよ」

 

「神裂の奴がいつ、どのタイミングで出てきたかは覚えているかしら?」

 

 「……覚えていません」とステイル、はぁ~とため息のローラ。

 

「まあこの失敗が今回、私があなたと禁書目録に《寛容な》措置ですませた原因なのだけれど……どうにも神裂はもとより天草式を助ける気は《なかった》ようなのよね」

 

「考えてもみけるのよ。神裂の力なら、いついかなるときでも一瞬でローマ正教の一部隊ごときどうにでも《始末》できたはずなのよ。でも彼女が出てきたのは、《あなたが》《殺されかける》直前だった。分かるステイル? 禁書目録でなく、天草式の元仲間達でもなく、《あなた》が殺される直前だったのよ。しかもよ」

 

「人を殺すのを嫌う、たとえ自分が殺されかけていたとしても、喜んで首を差し出すようなあの《聖人》が《あなたの為に》同じ《十字教徒の首》を飛ばした。それによって《親友の禁書目録》の立場が危険にさらされると知っていたのにも関わらずよ? つまりね、ステイル――」

 

 やめろ!

 

「神裂はお前を――」

 

 やめろぉぉぉぉぉぉぉ!!!

 

「男として好いていたようなのよ。《愛する男の為、自らの信念も曲げる女》なんて実に涙を誘う話よね、ステイル?」

 

 

 

 

 

TO BE CONTINUED

 




・あとがき

 作者の《いすとわーる》です。

 お話も折り返し地点にやってきました。
 もう半分も宜しくお願いします。
 
 感想など頂ければ、嬉しいです。

 それでは、またお会いできる日を心待ちにしております。

  二〇一六年九月一七日

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