【完結】とある科学の超電磁砲 ANOTHER   作:いすとわーる

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第一巻 前編 【とある科学の禁書目録】

 

 七月二四日。最悪の日だった。

 ほんの出来心……いや違う、本当はそういう思いがあることは気づいていた。ただ見えないふりをしていただけ……

 ここ学園都市に来て最初に受けた超能力の身体検査、結果はレベル0。超能力の素質無し。

 ショックだった。

 ただ確かにそれで落ち込みはしたけど、別にその後そのことに絶望して、何にもする気はなくなったとかではない。

 時折、卑屈になったり、落ち込んだり、もうやめよっかなっと思った事もあった。けどそれでも、毎日毎日、今日の今日まで、ずっと頑張ってきた。

 いつか超能力者、レベル5になってやる。そう思っていた。そう、あの日、御坂美琴に会うまでは……

 

 正直自分は、どうかしていたのかもしれない。

 冷静に考えれば分かったはずだった。そんな物に手を出すべきでなかったということも、そのうえ自分一人では怖いという理由で友達を巻き込むべきではなかったという事も。

 ただその時の私は、冷静ではなかった。

 御坂美琴やその後輩である白井 黒子を見て、本当に自分が彼女達と同じようになれるのか不安になった。

 いや不安ではなく、実際なれないような気がした。

 そして気が付くと私は友達に得体の知れない――けど私にとっては唯一の希望の様に思えた――あの機械を渡してて、そして私も使っていた。

 その結果……友人の一人が意識不明になり倒れた。

 救急車が来て友人が運ばれた。

 話によると、あれを使った人は意識不明になった後、そのまま昏睡状態に陥り再び目覚めることはないと言う。

 目の前が真っ暗になって、怖くなった私はその場から逃げ出した。

 

 その日の私はおかしかった。だからこそ、道端で倒れ「おなかへった」っと呟いていた、教会のシスターのような、だけどなぜか全身真っ白の修道服に身を包んでいる、不審者同然のまがいものシスター少女を家に連れて帰り、料理を作り彼女に与えてしまったのだと思う。

 

「私の名前はね、インデックスっていうんだよ?」

 

 食事を食べ終わり、少女は唐突にそう切り出した。

 中学一年生の辞書的には、インデックス=目次っとの答えがはじき出される。

 「いや、目次かよ」という突っ込みが思わず頭の中に思い浮かぶが、でもまあ良く見ると彼女は西洋人的な顔つきをしているし、外国人ならそんな名前もあるのかもしれない。もしくは聞き間違えたとか……

 とにかく名乗られたので今度は私の番かな、と思いとりあえず「私は、佐天 涙子」と名乗っておく。

 「良い名前だね」と返答され、その後「見ての通り私は、教会の――」とか何とか。途中イギリスがなんたら言ってた気もするけど、話が長そうなので「へえ」とか「そうなんだ」とか適当に相槌を入れつつ聞き流す。

 そんな私の態度を知らずなのか、それとも知っててなのか、まあどちらなのか分からないが、色々と話をした後、一息ついたという様相で彼女は改まったように口を開いた。

 

「それでね、るいこ。私は、るいこに恩返しがしたいんだよ」

 

 「恩返し?」と私が反復すると、「そう恩返しだよ」と少女も繰り返す。

 

「そうだね、私はシスターだから……るいこ、悩みとかないの、私でよかったら相談にのってあげる」

 

 その言葉をきいて、少しヤケになっていたのかもしれない。気がつくと私は彼女に思い悩んでいた事を全部ぶちまけていた。

 能力の事、学校の事、友達のこと、そして、今日も使ったあれのことも……

 正直話が話だし、途中からあきれたり、軽蔑されたりするんじゃないかと思っていた私の考えとは裏腹に、真剣に、そして真面目に私の話を聞いてくれるシスター少女。

 やはり彼女は、本当にシスターさんなのかもしれない。そう思えるくらい、自然と今まで悩んでいた事が口からこぼれ出て行く。

 やがて、隠していた私の本当の気持ちも浮き彫りになっていく。

 

「レベル0って……欠陥品なのかな」

 

 気づけばそんな言葉が口からこぼれでていた。言葉は止まらない。

 

「それがズルして力を手に入れようとしたから罰があたったのかな」

 

「あたしももう眠っちゃうのかな。そしたら……もう二度と起きれないのかな」

 

 そこまで言って、自分の頬に熱い液体の筋が流れている事に気づいた。涙。

 なんて自分勝手なんだろう……危険な事をして、挙句の果てに周囲を巻き込んで。

 顔を伏せ、泣きじゃくる。

 真面目に聞いてくれてるけど、きっと内心では呆れてるんだろうな、そう思い顔を上げ彼女を見る。

 しかしそこには、まるで女神のように優しい微笑みを浮かべたインデックスの姿があった。

 

「大丈夫」

 

 しかし力強く彼女は言う。

 

「るいこは欠陥品なんかじゃないよ」

 

 泣きじゃくる私。彼女は続ける。

 

「るいこは優しい女の子だよ。道端で倒れてた見知らぬ私を助けて、ご飯を食べさせてくれたもん」

 

「それに、るいこはすごい努力家だよ。今までこんな大変な悩みを抱えてたのに、ずっとそれに耐えて頑張ってきたんだもん。すごいことだよ」

 

 だけど、と泣きながら、しゃくりを上げながら呟く私。

 そんな私をインデックスは近くまで来ると、両腕でゆっくりと優しく抱きしめる。

 

「大丈夫だよ。もしるいこが眠っちゃっても、私が絶対に起こしてあげる。起こす方法を見つけるよ」

 

「そんなこと――」

 

「出来るよ! 絶対に!」

 

 根拠の無い説得。だけどそれは、すごく力強くて

 

「だからね、るいこ」

 

 ぎゅっと、私を抱きしめる。

 

「私を信じて、待っていて欲しいんだよ」

 

 本当にそれは何の根拠もなくて非科学的だったけど、力強くて自信に満ち溢れたその言葉は、私を元気付けて、不安を拭い去ってくれた。

 

「ありがとう、インデックス」

 

 私は最後にそう言って、彼女の胸のなかで意識を失った。

 

 

 

―――とある科学の超電磁砲(レールガン) ANOTHER――

 

第一巻 前編 【とある科学の禁書目録(インデックス)

 

 

 

「彼女の症状について教えて欲しいって?」

 

 病院の中、診察室でカエルのような顔をした医者は言った。

 対して「お願いしたいんだよ」と返答するのは白い修道服に身を包んだ少女インデックス。

 ここは佐天 涙子が救急車で運ばれた病院。佐天の詳しい症状を聞こうとインデックスは、佐天と同じような状態にある患者の治療を行っているという一人の医者を訪ねていた。

 医者はインデックスに近くにくるよう言うと、自分の前にあるパソコンのマウスを数回クリックした。

 何かの波形が記された図がパソコンの画面上に表示される。

 カエル顔の医者が口を開いた。

 

「これは、《レベルアッパー》の患者達の脳波を表した図なんだけれども、彼らの脳波には共通するパターンがあるみたいでね?」

 

 医者は続ける。

 

「人間の脳波は、活動によって波が揺らぐんだね? それを無理に正せば、まあ人体の活動に大きな影響がでるだろうね?」

 

 ポカンとするインデックス。そもそも脳波やらなんやらという言葉にあんまり親しんでいない、というよりはどちらかというと、そもそもそういう科学的な話に疎い彼女としては、理解しようにも頭がついていかない。

 そんな彼女を見て医者は「まあつまり、被害者は無理やり脳波をいじられて植物状態になったということだね?」とまとめる。

 なんとか理解するインデックス。

 

「僕は職業柄、色々と新しいセキュリティを構築していてね? その中の一つに人間の脳波をキーにするロックがあるんだね?」

 

 そう言うと医者は再びマウスをクリックする。画面上に一人の女性の画像が現われる。

 

「その植物患者達の共通する脳波とこの人物の脳波が同じなんだね?」

 

 木山 春美。それが画像の中の女性の名前だった。

 

「この人の居る場所を教えて欲しいんだよ!」

 

 普通ならそのような個人情報を、医療に関係の無い目的で、しかも身元も知れない一少女に教えるというのはありえないことであるはずである。

 しかし、不思議とその医者は、彼女の言葉に特に異論を唱える事もなく、さも当然のごとく木山 春美の情報を表示させると、近くにあった紙に画面上に記されている彼女の研究所と居住地の住所を書き留め始める。

 

「君、普通の女の子じゃないね?」

 

 紙に住所を書きながら医者は言う。それを聞いて、驚き困ったような表情をするインデックス。

 

「分かるんだ、職業柄何人もそういう子達を診てきたからね?」

 

 医者は紙に情報を書き終えると、今までで一番真剣な表情で続けた。

 

「僕の患者達をよろしく頼むよ?」

 

 

 

 

 ご丁寧な事に、病院を出るとタクシーが待っていた。どうやらあの医者が呼んでくれたらしい。お金も払っていてくれたようで、タクシーに乗り込むと「代金は結構です。目的地は?」という様なことを言う。インデックスが、紙に書かれていた住所を読み上げる。運転手は「わかりました」というと、タクシーを発車させた。

 木山の研究所は、病院からそれほど遠く無い場所にあった。

 扉を開け、研究所の中に向かう為タクシーを降りようとするインデックス。そんな彼女の視界に一台の青色のスポーツカーが通り過ぎる。

 ふと目を移すと、運転席に見覚えのある人物の姿がある。あれは……

 

「木山 春美!」

 

 思わず声を上げる。急いで扉を閉めると、運転手に前に走っているスポーツカーを追ってくれるよう言う。

 探偵まがいの行動に不審がられないかと心配もあったが、あの医者がそれとなく事情を話してくれていたのかもしれない、運転手は「わかりました」というと他に何を言うでもなく、前方のスポーツカーに続いて、尾行を開始した。

 

「(なかなか車がとまらないんだよ)」

 

 なんだかんだで、かれこれ三十分近く木山 春美を尾行していた。

 自動車が止まったらすぐさま追いつき、木山を問い詰めようと思っていたので、木山が車を止めて出てこないことにはどうしようもない。

 挙句の果て十分程前、高速道路に乗ってしまったことを考えると、かなり遠くまで行くつもりなのかもしれない。

 

「(平日の昼間だからかな。私の乗っているタクシーとあのスポーツカー以外に車が……)」

 

 ここにきて、インデックスは奇妙なことにに気づく。改めて周りを見回してみると自分と木山以外の車は一台も走っていなかった。

 何かがおかしい、そう思い始めた矢先、道路の先になりやらバリケードのようなものとその後ろで銃を持ち防護用のヘルメットを被った一団が待機しているのを確認する。

 直後、前方を走っていた木山の車が停止し、タクシーも停止した。

 バリケードを張っていた一団の中で、がたいの良い男がメガホンを構え、何かを喋り始める。

 内容から察するに彼らは、学園都市の治安維持にあたる警察のようだ。

 戦闘の気配を感じ取ったインデックスは、タクシーを降りると運転手に元来た道を戻るよう言う。

 運転手はやはり「わかりました」というと、特に何か異議を止めるでもなく、バックしユーターンするとその場から去っていく。今更どうでもいいことだがもしかしたら、彼はこういうような事に慣れた人だったのかもしれない。あの医者自身、こういう事には馴染みがあるといっていたし、そういう人脈もあるのかもしれない。とはいえそんなことは今気にすることではない。

 スポーツカーから木山春美が出てくると、彼女はメガホンを構えた男の勧告に従い両手を上げ、それを頭の後ろで組んだ。投降する気なのだろうか?

 そう思った矢先、木山を確保しようと彼女に近づいていた警官の一人が突如銃の向きを変え、一緒に彼女に近づこうとしていた同じ制服を着た――恐らく仲間であろう者に対して――銃を発砲した。銃弾はゴム弾か何かなのだろうか? 銃弾を当てられた数人が、出血はしなかったものの、痛みでうめきながら地面に倒れこむ。

 当然、木山を確保しようとしていた一団はいっせいに銃を発射した仲間へと視線を移し、銃口を向ける。場に混乱が走る。

 その一瞬の隙をついて木山が組んでいた両手を頭から離すと、そのまま手を前方に向けた。すると突然、彼女の手をかざした先に空気がまるで吸い込まれるように集まっていき、直後大爆発が起こった。

 

 

 

 

 爆発によって周囲の状況は一変していた。木山を捕縛しようとしていた一団は隊列も乱され、ろくな反撃も出来ないまま、一人、また一人と木山から放たれる炎やら水やらの前に倒れていく。

 対する木山というと、終始落ち着いた様子で、なんとか体勢を立て直した捕縛側が銃を構え彼女に対して発砲しているのにもかかわらず、結界の一種なのだろうか? 自分の前面に透明の壁のようなものを張っているようで、ゴム弾は全て木山から数センチのところで弾かれている。

 攻撃をかわしつつ、隙を見つけては先程のような爆発を起こし、一団を混乱させたのち、一人一人に狙いを定め各個撃破していく木山。

 そんな中インデックスはというと、爆発によって飛ばされてきた車の下敷きになっていた。

 

「(ぐぬぬ……はやくここから出なきゃなんだよ)」

 

 体をよじり這い出そうとするインデックスだが、戦闘の余波で飛んでくる車だったり、バリケードを組む際に一団が使っていた円柱形の機械が飛んで来て、彼女が下敷きになっている自動車にぶつかっているらしく、なかなか車の下からに這い出ることが出来ない。そんな状況下で、なんとか這い出そうと頑張り続けるインデックス。

 十数分後、インデックスはようやく車の下敷きから開放されたが、彼女の眼前には見るも無残な光景が広がっていた。

 すでに、戦闘は終了していた。それを証拠に、周囲から散々鳴り響いていた銃声はもう聞こえない。ただ、木山が確保されたという節はない。いや、その逆だ。インデックスの目に映るのは、木山を捕縛しようとしていた一団が、そこらじゅうで倒れ意識を失っているという光景と、そして十メートル程先でまるで霧の様にくすぶっている煙。恐らくあの煙の中に――

 そう思った矢先、煙の中から突如、水柱が現われる。もの凄い速度で進むそれは、インデックスが何らかの行動を起こすよりも早く彼女に直撃した。襲い掛かる水流。しかし、不思議な事に水はインデックスに当たると同時に、まるで石によって川の流れが遮られるように左右に分かれると、そのまま後ろに流れていく。水柱に当たっているはずのインデックスが水圧に押し切られ、後ろに動く気配はない。しばらくして水がなくなり、前方に燻っていた煙も晴れる。白衣をまとった一人の女性が現われた。

 

「ふむ、アンチスキルかと思って攻撃してしまったのだが、学生だったか……」

 

 セミロングの髪、眠そうな半開きの目、目のしたにある大きなくま。間違いない。インデックスは確信する。木山 春美だ

 

「聞きたいことがあってきたんだよ」

 

 インデックスは言う。

 

「レベルアッパーっていうのを作ったのはあなた?」

 

 対して木山は特に動ずることもなく、当たり前といった口調で「そうだ」と一言。インデックスは続ける。

 

「私、約束したんだよ。絶対に、るいこを起こしてあげるって……あなた、るいこを元に戻す方法知ってる?」

 

 知っている、木山が返答する。なら――

 そう言葉を発しようとするインデックスを遮るように木山は再び口を開く。

 

「だが、それを今君に教えるわけにはいかない……私には目的があるからな」

 

 どうしても教えてくれないのかな、インデックスは言う。無理だな、と木山は一言。そっか……、言い終え何かを決意するかのごとく目を閉じるインデックス。そして、次の瞬間には目をあけ、表情を硬くする。

 

「なら、私がやるべきことは一つ。あなたを倒して、るいこを起こす方法を聞き出す」

 

「倒す? 私をか?」

 

 不適な笑みを浮かべつつ木山は続ける。

 

「君に一万の脳を統べる私を止められるかな?」

 

 そう言うと木山は手を前方にかざした。

 

 

 

 

「驚いたな」

 

 木山は言葉通り素直に驚いた様子でそう言った。

 戦場は既に地面へと場所を変えていた。電気、水流、火炎、爆発。アンチスキルを倒していった一連の攻撃が効かないことに気付いた木山が足元のコンクリートを破壊し、高速道路下に自分もろともインデックスを落下させたからである。

 しかし、それらの攻撃を受けたのにも関わらず、インデックスの服に傷ひとつ付いていない状況を見て、彼女は言ったのである。

 

「一体どうやって、私の攻撃を避けているのかな?」

 

 どんな超能力の持ち主なのか、レベルはどれほどなのか、この学園都市に住む一研究者として、当然インデックスに対して興味を持つ木山。

 対するインデックスは相変わらず険しい表情のまま「敵であるあなたに教えるわけ無いかも」っと尻餅をついた状態から体を起こしながら一言。当然の反応である。「それもそうだな」と納得する木山。とはいえ、この目の前の少女を倒さなければならない。木山は、いままでのインデックスの行動を分析する。

 確かに、彼女の防御力は絶対であった。こちらが攻撃を仕掛けようが、彼女がダメージも負っている節はない。それは目の前に見える彼女の傷一つない服が証明してくれている。だが、と木山は考える。彼女の攻撃力はどうだろうか。結論を下すと、恐らくこの少女の超能力に攻撃は含まれていない。無論、ただの憶測にすぎない。だが、少女は先程から、攻撃を防いではいるものの、反撃する素振りと言えば、木山に向かって突進してくるのみである。少なくとも、近接状態でのみ働く超能力であるのは間違いない。

 ならば、話は単純だ。学園都市には、およそ二三〇万人の超能力の開発受けた学生がいる。だが、無敵の能力などというのは、彼らの中でも、もっとも超能力の才能の持った、学園都市第一位、アクセラレータぐらいである。それ以外の能力は、多かれ少なかれ何らかの弱点を抱えているし、それ以前に彼女の顔を見たのは今日が初めてだ。上位の超能力者達の顔は、自身の研究をする中で何度も確認している。彼らですら多くの致命的な弱点を抱えているのだ。間違いなく目の前にいる少女にも弱点はあるはずだ。

 

「(となれば、私が操れる超能力を順々にぶつけて、彼女の弱点を炙り出すかな)」

 

 近づきさえしなければ、危険はない。ならば距離をとりつつ遠距離で攻撃を仕掛けつづければ、必ず勝つことは出来る。それが木山の下した結論であった。

 例えば、こんなのはどうだろうか。木山は地面に落ちていた空き缶を拾うと、ぽいっと、インデックスに向かって投げつけた。

 弧を描き、自身へと向かってくる空き缶を見てポカンとした様子のインデックス。しかし、次の瞬間缶がまるで別次元に吸い込まれていくように歪みはじめると、ハっとした表情になる。何かに気付いたらしい。しかし、彼女が何か行動を起こす前に、缶があった場所で爆発が起きる。

 

「まあ、こうなるか…」

 

 爆発によって巻き上げられた土煙が収まった後、自分の視界に映る相変わらず傷一つ無い白い修道服を着た少女を見つつ木山は呟く。しかし、まったく持って効果がなかったということもないようだ。少女の立っている位置は、爆発前よりも少し後ろに下がっていた。爆発の衝撃は、ある程度は彼女に影響を与えているのかもしれない。

 

「(なら今度は……)」

 

 瓦礫をテレキネシスでどかし、その山の中から空き缶用のごみ箱を引っ張り上げると、それをインデックスに向かって投げつける。中に入っていた大量の缶が飛び散り、空気中で拡散する。さあ、どうでる。するとそれを見てか、インデックスが木山に対し突進を開始する。走って避ける気だろうか…、分析する木山。確かに、このまま走り抜ければ、多くの缶を避けることが出来る。背面から爆発を受ける事にはなるが、爆発力そのものは軽減させる事は出来るかもしれない。数瞬後、缶が空気中に吸い込まれると同時に爆発が発生する。

 とはいえ、先程とは比較にならないほどの大爆発。巻き起こる爆風。しかし、木山に向け直進してくるインデックスがそれに動じている節は無く、むしろ背後から吹いてくる爆風を追い風にしている。

 

「(ふむ、どうやら爆発そのものによるダメージは無いようだな。だが……)」

 

 木山はごみ箱を持ち上げた際にこぼれ落ちたいくつかの缶をテレキネシスで操ると、向かってくるインデックスの進行方向上にあるコンクリート製の柱に向かってそれぞれ投げつける。インデックスの目は木山を見つめている、缶に気付いている節はない。上手くいったようだ。木山は、インデックスが走る速度からタイミングを見計らいつつ、それを爆発させた。

 

 

 

 

 木山は少女の超能力に対し一つの仮説を立てた。恐らく、少女の能力は攻撃を完全に防ぐものではなく、その影響を軽減させるものではないのかと。彼女が、木山の攻撃を受けた際、それによってダメージを負っている節は無いが、その衝撃を受けて、怯んだり、体を動かされたりしていたからだ。軽減しきれないほどの衝撃を彼女に与えれば、ダメージを与える事は可能かもしれない、木山はそう考えた。

 とはいえ、木山自身の持つ能力では、彼女にダメージを与えるほどの威力を出す事はできない。ならば、と木山は考える、自分以外の力を借りればよいと。そして、実際作戦は正しかったようだ。木山は結論を下す。目の前に広がるコンクリートの瓦礫と、その中に埋もれピクリとも動かない少女の姿を見て。正面が駄目なら搦め手に回るまでのこと。戦闘は終了した。もっと手こずるかと思ったが……まあ、こんなものか。

 

「恨んで貰って構わんよ」

 

 瓦礫に背を向け、歩きつつ木山は言う。

 

「手荒な事はしたくなかったが、統括理事会が動く前に片を付けなければならない」

 

 私には目的がある。あの子達の快復手段を見つけ、あのような悲劇を二度と繰り返させないという目的が。

 そう私は……

 

「(この町の全てを敵に回しても止まるわけにはいかないんだっ!!!)」

 

 邪魔するものは何人たろうと叩いて潰す、最後にそう呟き場を立ち去ろうとして、木山は自身の腰のあたりに違和感を感じる。その原因を確認する為、首をそこへと向ける。

 結局のところ、木山の考えは仮説にすぎなかった。インデックスの能力についても、そしてまた彼女の安否についても。木山の視線の先には、自らの腰に手を巻きつけたインデックスの姿があった。

 

「なっ!?」

 

 思わぬ光景に、反射的にインデックスを払うかのように自身の手を彼女に叩きつける。しかし、彼女の手はまるでことわざのごとく、暖簾を殴りつけたかのように、するりとインデックスを抜け空を切る。どういうことだ、思わずそんな思いが頭を駆け巡る。どうすれば、と必死に対応策を考えようと頭を回転させるが…しかし結果からいえば、それは無意味に終わった。

 というのも、腰にへばり付いていたシスター少女が、木山の背中をまるで猿のように駆け上り、そして……

 木山の頭に噛み付いたからであった。

 

「ぎゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!」

 

 思わず叫び声を上げる木山。激痛が、頭から全身に走り出す。痛みからのがれようと、頭を振ったり、手で頭上のインデックスを振り払おうとするも、少女が離れる気配はない。徐々に意識すら薄れていく。

 

「(まずい!このままでは……)」

 

 そう思った矢先、頭に今までとは別の痛みが走る。しまった……これはまさか!?

 

「(ネットワークの……暴走。いやっ、これは……虚数学区……の)」

 

 それを最後に、木山 春美は意識を失った。

 

 

 

 

「やっ、やりすぎちゃったんだよ……」

 

 目の前に倒れた木山を見つつ、インデックスは呟く。本当は噛み付いて、相手から情報を聞き出すのが目的だったのだが、少々やりすぎてしまったようだ。

 どうしようかと思い悩み、ふと木山の頭に視線を向ける。後頭部の一部分が発光している。これは一体……そう思った直後、木山の頭から何かが噴出した。幾重にも束になっているそれは、らせん状に空中を這い上がると重なり合い、胎児の形をした一つの物体へと変化する。その頭上にリング状の何かが現われる。

 それを見てハッっとした表情になるインデックス。

 

「まさか!?」

 

 直後、その物体の目と口が開くと、その口から悲鳴のような大声が放たれ、周囲へと響き渡った。

 

 

 

 

「う……ん、私は……?」

 

 コンクリートの柱近くに横たわっていた木山は体を起こしながら呟く。視界に白い布が見えたので顔を起こすと白い修道服を着た少女の姿があった。

 

「聞きたいことがあるんだよ」

 

 インデックスはそう言うと、木山から別の方向へと顔を向ける。木山も反射的に同じ方向へと顔を向けた。視線の先には、頭上に天使の輪を乗せた巨大な胎児のような物体の姿があった。あまりに途方もないものを見たからだろうか、思わず笑い出してしまう。

 

「すごいな、まさかあんなバケモノだったとは」

 

 学会で発表すれば表彰ものだ、と冗談めかした様子で木山は呟く。

 

「あれはなに?」

 

 ここまで状況になってしまった以上、何を隠したところで意味は無い。木山は目の前の物体に対して自分なりの仮説を喋り始める。少女が理解できたかどうかは分からないが、目の前にある物体は、恐らくAIM拡散力場の集合体、学園都市で都市伝説として騒がれているいわゆる虚数学区の正体である。それが木山の意見であった。

 話を聞き、木山に対して少女は質問を始める。AIM拡散力場とは何か? 脳波とは、電子的ネットワークとは何か? そして、それがレベルアッパーとどのような関係を持っているのか。それらすべての質問に対して木山が回答すると、インデックスは口を開いた。

 

「レベルアッパーを使った人たちの頭の中にある《結び目》をほどけば良い。そういうことだね」

 

「まあそういうことだな」

 

 随分と回りくどい言い方だが、間違いは無い。結局のところ目の前の怪物は、レベルアッパーのネットワークが産んだものに過ぎない。ネットワークという名の《結び目》をほどけば、目の前の怪物が消滅する可能性も十分にある。

 

「(とはいえ、レベルアッパー治療用のプログラムは《彼女》に渡してしまったからな)」

 

 数時間前、自分の研究所にやってきてレベルアッパーに関する資料を見てしまった《少女》のことを木山は思い出す。口封じの為手錠を嵌め、車の助手席に乗せていたのだが、あの少女がいないことにはどうしようもない。極力自分の車には戦闘の影響が及ばないように気を掛けてはいたが、彼女が無事で居るということも、そしてまた彼女に渡した治療用のプログラムが書き込まれたメモリーが安全であるということも確証はない。

 とりあえず彼女にそのことについて話しておこうか、そう思ったその時、ふと視界にこちらに走って近づいてくる人影を確認する。数十メートル先にいるため、しっかりと確認はとれないがあの特徴的な『髪飾り』には見覚えがあった。

 

「どうにかなるかもしれないな」

 

 木山は呟いた。

 

 

 

 

「いそぐんだよ、かざり!」

 

「わかってますよ!」

 

 インデックスにかざりと呼ばれた少女、初春 飾利は返答する。二人は、アンチスキル所有の装甲車の中にいた。初春は、車内に備え付けられたパソコンを操作し、インデックスは、彼女の横で画面を覗き込んでいる。二人はレベルアッパーの治療プログラムを起動させようとしていた。ただ、治療プログラムとは言っても直接にそれを実行して、レベルアッパーの被害者の脳に情報を書き込むというものではなく、実質的なところ、それはレベルアッパーの治療用の《音楽》であった。レベルアッパーとは、音を利用し超能力者同士の脳を繋げる事で高度な演算を可能にするもの、その治療も当然音を利用し行う、木山は二人にそう語った。そして実際、飾利はパソコンに音楽プレーヤーを差込んでいる。彼女達の後ろでは、アンチスキルの構成員である男が無線に向かって怒鳴り声を発している。学園都市中に配置されているスピーカーで《治療プログラム》を流すよう要請しているのだ。

 

「準備出来ました! 行きますよ!!」

 

 初春は後ろにいる男を振り向く。要請を通したようで男が許可を出す。初春はキーを押し、音楽データをパソコンから送信した。

 しばらくして無線から治療プログラムを流しているという報告がくる。インデックス、初春、そして男は一斉に車から降りると、遠方で浮かんでいる当初の大きさに比べると数倍に大きくなり、体から手のようなものを無数に生やしているAIM拡散力場の集合体、木山いわくの《AIMバースト》を見つめる。

 

「何も、起きませんね」

 

 初春はAIMバーストの様子が何も変わらないのを見て言う。どうなっているんだ、とアンチスキルの男が飾利に怒鳴るように問い掛ける。

 木山を連れ、アンチスキルに目の前の現状と対処法を説明した為、最初AIMバーストに対して攻撃を加えていたアンチスキルであったが、現在は静観の面持ちであり、一応AIMバーストも高速道路付近をくるくると円周上を回っているだけで、周囲の施設や民間人に被害を及ぼしてはいないが、突然凶暴性を発するとも限らない。男が焦燥感を感じ、初春に強く当たってしまうのも仕方のない事と言えるかもしれない。

 そんな中、インデックスだけは落ち着いた様子で、しばらくして何かを決心したかのように口を開いた。

 

「やっぱり、私があの子に直接歌を聞かせるしかない」

 

 思わず顔を振り向かせ「は?」と声を漏らす初春と男。対するインデックスはというと、いたって真面目な様子で「私をあの場所に連れて行って欲しいんだよ」とAIMバーストを指差している。一体なにを言ってるのか、と飾利や男が問い掛けるも「とにかく連れて行って」っと真剣な様子のインデックス。

 ここは超能力者達が住む科学の街、学園都市。まるで修道女のような格好――ただ、なぜか真っ白の、まがい物?――をしているが彼女だが、何かこの状況を打開する能力を持っているのかもしれない。インデックスの確信を持った表情を見て、段々と飾利や男はそんな気になってくる。この子なら何とかしてくれるのではないかと。

 

「分かった、行こう」

 

 男はそう言うと、装甲車の近くにあった乗用車にインデックスを連れ乗り込んだのだった。

 

 

 

 

 

 AIMバーストまで百数十メートルの距離まで来ると、インデックスは「ここまででいいんだよ」と言い、男は車を停車させた。彼女が車から降りようとすると運転していた男も車から降りてきた。インデックスは、自分一人で行くと言ったが、男は「学生を一人で危険な場所に行かせるわけにはいかない」と返す。男の目は真剣であったし、その声にもなにかひとつの芯があるようだった。恐らく何を言ったところで男は自分についてくる、そう思ったインデックスは、彼の同行に同意する。いざとなれば男もここの警察官か何かのようだし、自分の身くらいは守る事は出来るだろう。インデックスはAIMバーストへと歩き出す。

 

「(ここまでくれば大丈夫だよね)」

 

 二、三十メートルの距離まで近づくと、インデックスは足を止めた。AIMバーストはインデックスに気付き、彼女へと目を向けつづけているが、何か行動を起こすような雰囲気は見られない。やはり、こちらから危害を仕掛けない限り、攻撃を加えてくることはないようだ。これなら、障害無く問題を解決できそうだ。インデックスは、目を閉じ精神を集中させる。

 正直なところ彼女にも不安が無いわけではなかった。木山から目の前の現象と科学的な用語について説明を受け、おおよそ理解することは出来たが、所詮付け焼刃の知識で完璧に理解したわけではない。彼女がこれから行う《歌》にしろ、こういう使い方をするのは初めてである。

 

「(だけど…)」

 

 インデックスは思い出す。佐天涙子のことを、彼女の悲しみに暮れた顔を、そして彼女の話から伝わってきた悲痛の叫びを。

 

「できるよ」

 

 だからインデックスは呟く。まるで自分に語りかけるように。自分を勇気付けるように

 

「祈りは届く。人はそれで救われる。私みたいな修道女は、そうやって教えを広めたんだから!」

 

 目を見開き、目の前にいるAIMバーストを見つめる。そう私は――

 

「私の祈りで救ってみせる。AIMバースト(この子)も、るいこも、学園都市も!!」

 

 

 

 

「んぅ……ここは」

 

 黒いロングの髪を持ち、年の割には身長が高いものの、まさにTHE東洋人というような感じの中学一年生の少女、佐天涙子は病院の一室で目を覚ました。随分長いこと眠っていた気がする。そのせいなのか、不思議と気分がスッキリしている。今ならどんな難しい難題でも、簡単に解けてしまいそうな気がした。それこそ自分が今まで抱えてきた悩みも、全て。っと、ふと隣から何やら食べ物を咀嚼しているような音が聞こえる事に気付く。なんだろうか。そう思い顔を向ける。そこには銀色でロングの髪を持ち、恐らく見た目的には佐天よりも二、三歳年上にも関わらず、頬に赤いのソース――ケチャップだろうか?――をつけてホットドッグをむしゃむしゃと食べている、白色の修道服を纏ったまさにTHE西洋人な少女、インデックスの姿があった。

 

「このホットドッグ無茶苦茶おいしいんだよ! はっ! まさか! ここにも学園都市製の最新技術を使われているんじゃ!? 私としたことが、危うく学園都市の術中に――って、るいこ! 目が覚めたんだね!!」

 

 インデックスはそう言いバクリとホットドッグを一口で口に入れると、まるで蛇のごとくゴクリとそれを飲み込み、佐天へと飛びつき抱きしめてくる。まるでアニメのような情景に色々と圧倒されながらも、とりあえず「おおっ! ……おぅおぅ」と受け止め、抱き返す。

 

「あっ、佐天さん。目が覚めたんだ」

 

「って、えっ、御坂さん!」

 

 「あら、本当ですの」と佐天に御坂と呼ばれた少女:御坂 美琴に続いて、個室に入ってきた少女に対して「白井さんまで!」っと返す佐天。

 彼女の名前は、白井 黒子。御坂 美琴の後輩であり、学園都市の治安維持機関の一つである風紀委員に所属している。病室に入ってきた御坂に、インデックスが「これすごくおいしいんだよ!」と言いホットドッグが入っていたと思われる紙袋――佐天の記憶が正しければ、確かホットドッグ一個二千円とかいうふざけた値段で売っている店の――を掲げる。どうやら、御坂に買って貰ったらしい。

 はは、良かったわ、とインデックスのまるで子供のような純粋そうな口調や、頬についたケチャップに気付いたらしく、微笑みを浮かべながら答える御坂。

 そんなインデックスの様子に思わず保護意識にかられてしまったのか、佐天は思わず「私が払――」と言いかけるが、ホットドッグの入っていた紙袋を思い出しおもわず言葉を止めてしまう。正直、中学生の財布には二千円は結構キツイ。

 結局、何も言えなくなってしまう。何か雰囲気でも察したのか、白井が口を開く。

 

「それにしてもインデックスさん。正直、一般人の方が事件に関わるのはあまり感心できることではないのですが、あなたがいなかったら、どうなっていたことか。学園都市の治安維持を担っている者の一員として感謝致します。本当に有難う御座いました」

 

 対して「気にすることはないんだよ。迷える子羊達の手助けをするのはシスターとして当然のことかも」と返答するインデックス。何の事やらという感じの佐天。

 

「佐天さん、実はね……」

 

 そんな佐天の様子に気付いた御坂は、事の顛末を語り始める。とはいえ彼女自身話のまた聞きであるため、途中実際に事件に立ち会っていたインデックスや初春から話を聞いた白井が横から補足を入れ説明する。全てを話し終わると、佐天が口を開いた。

 

「そっか……私、本当にたくさんの人たちに迷惑掛けてしまったんですね」

 

 手を布団の下から出し、その手の平を見つめる。本当、何やってたんだろ私。つまらない事にこだわって、その上周囲に迷惑を掛け――

 

「またつまらないことにこだわってるね、るいこ」

 

 ニュッと、佐天の視線の先にインデックスの顔が現われる。思わず「わっ!」っと驚き顔を引く。

 

「済んじゃった事はしかたないし、悩んでたってなにも始まらないよ。確かに、時には悩む事も必要だけど、やっぱり世の中前を向いて歩いていくのが一番大事なんだよ! るいこみたいに過去の事をいつまでもクヨクヨ悩んでたって時間の無駄かも」

 

「うっ」

 

 思わず言葉が詰まる佐天。インデックスは続ける。

 

「それにるいこは、まだ子供なんだから間違いだって犯すこともあるし、そんな時は私みたいな大人の手を借りるのはある意味当然のことなんだよ。もし反省する心があるなら、落ち込まずにその経験を明日へ生かす努力をすべきなんだよ」

 

 力説するインデックス。反省する佐天 涙子。とはいえ、どこか引っかかる所のある佐天。なんか引っかかる。

 結局のところ、佐天 涙子は基本明るい性格である。確かに、インデックスに会ってからの彼女は落ち込んだり、涙を流したりといった事も多かったわけだが、基本的に彼女はそんなことにクヨクヨ思い悩むような性格ではない。よって、インデックスの言葉でその生来の明るさを加速度的に取り戻していった佐天は、この時には既に明るさを取り戻していたのかもしれないわけで、結局のところ、彼女の発言に対する返答も日常会話のようなレベルの返答になってしまったのだろう。

 

「ってか、インデックスが《大人》って、ぷぷっ。なにそれ、何のジョーク」

 

「ひ、人が真面目に話してるときに、ふざけないんで欲しいんだよ!」

 

 笑い始める佐天に対し、「る、るいこはもっと反省すべきなんだよ!」っと今度は真逆の言葉をかけるインデックス。わいわいと言い争う二人。やれやれという表情の御坂と白井。

 しばらくして、個室の入り口から「おっ、なんか盛り上がってるみたいですね」っと初春が登場し、インデックスが「かざりにも聞いて欲しいんだよ!」っと彼女を巻き込み、三人でわいわいがやがやと言い争い、なだめ役の二人がまあまあっと彼女達を仲介しつつなどしていると、気付けば日も落ち夕暮れ時になっていた。

 

「そろそろ面会時間も終わるし、私達もおいとまさせてもらいますか」

 

 病室にあった時計を見つつ御坂は言う。時計の針は、六時を指している。

 学園都市によって決められた完全下校時刻に則って、病院の面会時間も学生の場合は、早めに設定されている。「そうですわね。あまり遅くなって門限に遅れてしまってもあれですし」と白井 黒子。彼女達は、常盤台中学という学園都市でもかなり名の知れた学校に通っているのだが、いわゆるお嬢様学校というやつで、寮には常駐の寮監が配置されたりしていたりと、門限には厳しいのだ。

 「夜は治安も良くないですしね」と返すのは、初春飾利。白井の同僚として風紀委員をしている彼女は、学園都市の完全下校時刻以後の治安が良くないことは、日々の活動をこなす上ですでに折込済みである。結局、インデックスも彼女達に流される形で「じゃあ、私も帰るんだよ」っと一言。すでに体力を取り戻した佐天に病院の入り口から見送られ、四人は病院を後にしたのだった。

 




・あとがき

 ここまで読んでくださって有り難う御座います。作者の《いすとわーる》というものです。
 楽しんでいただけたでしょうか? もしそうでしたら、とてもうれしいです。

 この小説は二〇一〇年から書き始めて、二〇一三年に書き終えました。昔投稿し、二年前に諸事情で削除したものを再投稿しました。削除の理由は一次創作に集中しようと思ったからなのですが、心境が変化して、再投稿という運びになりました。

 そのようなわけで最新の設定とは矛盾することもあるかと思いますが、ご容赦ください。

 感想など頂ければ、嬉しいです。
 
 それでは、またお会いできる日を心待ちにしております。

  二〇一六年八月二七日 作者:いすとわーる

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