「能力か〜。先に紙の…小猫ちゃんのお姉さんでいいのかな?そっちから話すね。」
黒歌のことから話すことにしたウタは少し間をおいてから話し始める。
「二、三年前って言うか、師匠が死んでからかな?今までは何もなく平和に過ごしていたんだけど、ある日外で散歩してたら急に羽の生えた人が現れて襲ってきたの。別に大したことはなかったから、テキトーに追い払ったんだけど、その日から散歩してるとよく襲われるようになったんだ。んで、その中で偶々やっつけた奴が落としてったのがあの紙なの。結構見比べていたから、あいつらは顔で判別してるのかな〜って思ったから、一般人と間違えるように仕組んだコートを着て散歩してたわけ。」
「…そうなんですか。言われてみれば、多少似てますね。でも腕を消す必要性はなかったんじゃ?」
「そうそう、あのコートって快適になるように他にも色々術式を組み込んだせいで、年中あれ着て散歩しちゃってさ〜。夏の日に警察に職質されちゃったんだよ……そこで!私は思いついたんだ!腕でも消せば怖がって話しかけてこないかな〜ってね!予想通り全く話しかけて来なくなったんだ〜。」
「…そ、そうですか…(普通不思議がって話しかけると思うんですが…ってそう言えば、呪われるから気を付けようとか言われていた気が…)」
小猫は、可哀想な子を見るような目を送るが、ウタは気付くこと無く続ける。
「まぁでも、最近は気とか探知魔術とかで人の少ない所を通るようにしてるんだけどね。あのコートって魔力を練ってもすぐに散らすようにして人と思わせているから、空間を繋げるのも大変だったな…そのおかげで、結構魔力の量とか使用効率とか良くなったんだ〜。」
「…だったら認識阻害とかすれば万事解決じゃないですか。或いは山の中とかここから遠い場所に転移するとか。」
小猫がそう提案すると、「あー!!!」と大きな声をあげ、「その手があったか〜」と悔しがる。しかしふと思いついたように顔を上げ、小猫を見つめる。
「な、なんですか…?またセクハラですか?」
「違うってば…認識阻害なんて事したら友達に会えないじゃん。」
「えっと………腕の無い姿を、友達に見せたんですか?というか、そもそも友達とかいたんですか?」
「酷い!私だって仲のいい子の一人や二人…一人や…一人いるもん!!あっでも小猫ちゃんがいるから二人だね。それに、人じゃない子だったら沢山いるし!?ボッチとか寂しいやつとかじゃないよ!」
「なんの言い訳ですか…。じゃあその人ならざるお友達って何ですか?それこそ幽霊とかじゃありませんよね?」
と、疑わしそうにジト目で聞く。
「んーとね、この辺に住んでる野良猫友達だよ。この辺の野良猫はほとんど友達なんだ。」
「…そうですか。まぁなんとなく事情はわかった気がします。私の姉が迷惑をかけました…」
「いいよいいよ、頭上げて!顔が似ちゃったことは仕方がない事だし………………あのさ、小猫ちゃん?よかったら小猫ちゃんがその人を恨む理由を教えてくれる?私の力だったらいくらでも貸してあげるから。」
と、急に小猫から出る雰囲気が嫌なものになり、小猫はうつむく。
「………また、今度で。先輩がちゃんと能力を教えてくれたら、私も教えます。」
「うん、無理はしなくていいから。」
とうつむく頭を優しく撫でる。と、急に部屋の真ん中に、真紅に輝く魔法陣が出現した。
「うわ、侵入者だ…」
「…先輩、部長です。」
「おっとっと、部長か…危ない危ない。」
小猫の言う通り、現れたのはリアスだった。
「こんばんは、ウタ。何が危なかったのかしら?」
「いやー、間違って部長の魔法陣を消しそうになっちゃって…」
「そ、そう。まあ、何もなかったのだから、気にしないわ。それより小猫?遅かったから心配したのよ。もうすぐ仕事の時間だから、一緒に行きましょう。(魔法陣を消すなんて、私には出来ない…一体どんな能力なのかしら。監視は小猫に任せれば大丈夫かしらね?)」
と、リアスは小猫の手を取り魔法陣を再び展開する。
「…そうでしたね。では、緑野先輩。また…いいえ、行ってきます。」
「うん、いってらっしゃい。」
二人はそのまま魔法陣で消えていった。
「さて、また勉強し直しとくかー。」
ウタの家にはかなりの量の本が置いてある。種類も、文学作品、漫画、ラノベ、辞典など様々である。と、それらの本の中に認識阻害をかけられたものがあり、その中の正解を引くと、隠し扉が開く仕掛けがある。
「えっと…右から四番目だっけ。お、開いた。」
別に空間を繋げればいいじゃないか、と思われるかもしれないが、ウタ曰く『こっちの方がロマンがあっていいよね!』だそうだ。
そんな隠された書斎には魔導書が沢山置いてある。その中でもウタは『師匠オリジナル魔法』と若干汚い字で書かれた本を手に取る。
「懐かしいな〜。相変わらず師匠って凄いや。こんな効率的かつ強い魔法を考えつくなんて、そういう才能があったんだろうな〜。はぁ…」
と隣に置かれている『ウタのオリジナル』と書かれた本を見る。まだ書きかけで全然埋まってないが、師匠の魔法と比べるとどうしても無駄が多くなってしまう。とは言っても一般的な魔導書に比べればウタも全然優れているのだが。
「…さらに凄いのは、師匠はちょっとしか魔法を使えなかったことだよね…」
そう、ウタの師匠が凄いところは、強力な魔法を試すこと無く創り上げてしまうところだ。それも失敗作なしに。
「…私ももっと頑張らないと!!師匠に顔向け出来ない!」
と、気合を入れ直したウタは、読むスピードを速くする。
三時間後ーーー
普段ならとっくに眠っている時間だが、ウタは辛うじて起きていた。
「………よし、あと、半分…が、がんば…るぞ……」
『ハーレム王に、俺はなる!!』
満身創痍なウタにふと、どこぞの変態の叫びが耳に入ってくる。
「……まったく…こん…な夜中に…近所…迷惑だっ……(だめだ、眠すぎる…今日は授業も…寝てるから、夜更かし…してもいいと…思って……)」
そのまま机に突っ伏し寝息を立て始めた。
仕事を終えた小猫は『いつでもこの場所に来れるよ』とウタに渡されていたブレスレットに魔力を込め、ウタの家に戻る。
「…さて、今日も探索しましょうか。昨日はこっちだったんで、今日は逆側に行きますか。」
地図を片手に小猫は歩み出す。と、地図を眺めていると気がつくことがあった。【書斎】と書かれた場所の近くに不自然な空間があるのだ。
「…なにかありそうですね。行ってみますか。」
そう呟いた小猫は地図を頼りに書斎のある所に行く。と、そこには明かりが点いていた。小猫は慎重に書斎の入り口に近づき、聞き耳を立ててみると、ウタの呟く声が聞こえてきた。
「……に関する本は、このくらいかな。後は、新しい魔術の……を、やっぱ……だしあまやかしちゃ……よね。にしても、………隠れて……輩ちゃんは、……いてないと……てるのかしら?まぁいいか。後はメモでも書いて、………いいかな。」
「…何を言っているのか聞こえませんね。もうちょっとだけ近づきますか。」
「……にしてもこの耳……………可愛いわね。私も欲し…………才能だって………私は創る……だったし。」
ーーーもう少し、もう少しいけます。
「最初の……よく嫉妬してた………ま、これからも頑張って長生きしてね。
ーーー緑詩?…昔どこかで聞いたような?
そう思い顔を覗かせたと同時に、額に鈍い痛みを感じ、小猫は気絶した。
「まったく、やっと顔を出したな。そろそろタイムリミットだったし、若干焦ったわね。可愛い子だったから結構甘やかしてたけど、スパイだったなんてね。メモに付け足しとくか。」
と、先ほど投げた本を拾って戻し、小猫を抱える。そのまま小猫の部屋へ行き、小猫を寝かせる。
「…これからどうなるかは緑詩次第。自業自得ね。さて、こっちも寝とくか。」
そのままウタの部屋に戻っていた。