三匹目の猫   作:AstrAl 4π

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七話

ーーーウタ…あの子は危険ね。

 

昔話をした後帰ったウタを尻目にリアスは悩んでいた。

 

ーーー悪魔でもないのに祐斗相手に傷一つなく勝てる力。更にあの子にはまだ手札があるらしいじゃない。昨日泊まったらしい小猫もどういう訳か話してくれないし…それにあの魔法。

 

そう思い返すのは先程の事。ウタの力についての会話を女子たちでしていたのに、最初にイッセー達の内緒話に気がついたのは悪魔じゃないウタ。溜め息混じりに、「しょうがないから、魔法使いだってことだけは証明しとくか。」と呟くと流れるように魔法陣を展開し高速で詠唱を済ませたウタ。ものの数秒で十個近くの魔法を使ったのに息も乱れておらず、魔力を使った痕跡も殆ど残っていなかった。

 

ーーーでも、眷属にはなってくれなかったけど悪い子ではなさそうなのよね。お兄様に報告すべきかしら?

 

そんなこんなでリアスはあまり眠れないのだった。

 

 

 

時間は少し戻って、ウタは家に帰ってきた。が…

 

「あーー!!!今日もこの人について聞きそびれた!!…あ〜あ、また覚えておかなきゃ…面倒だなぁ。」

 

黒歌について今日も聞きそびれたのである。落ち込みながらも夜ご飯の支度に取り掛かろうと冷蔵庫を開けるが、何も入ってなかった。

 

「あー、そう言えば昨日全部使ったんだっけ。買い物に行かなきゃ。めんどうだなぁ…」

 

ぼんやりと呟き、コートに手を伸ばすが「あ、これ着て買い物行けないや」と思い出し、制服のまま家を出ていった。

 

 

 

「ふぅ、これだけあれば一週間位は持ちそうかな。昨日は痛い出費だった…」

 

買い物から帰る途中、微かな違和感を感じ足を止める。注意深く辺りを警戒していると、ウタの前方十メートルのところに突如空間が歪み、そこからゴスロリの少女が飛び出てきたのだ。

 

「…誰?私に何か用?(この子は強い…絶対に勝てないわ…)」

 

「我、無限の龍神、オーフィス。我、お前、会いに来た」

 

「え?えっと、どっかで聞いた…あ!あの伝説の?なんで私?あと、私は緑野 詩って名前でお前じゃないよ。(はっ!よく見たらこの子めちゃくちゃかわいい…だめだ私!相手は世界最強のドラゴン。油断してたら一瞬で殺られる。どうやって逃げようか…)」

 

テクテクと歩いてくるオーフィスに恐怖を感じながらしかし、目を離すことができない。

 

「我、助け、欲しい。ウタ、強い。」

 

「へ、へぇ〜。最強のドラゴンが力を求めるって、何をするの?」

 

「グレートレッド、倒す。あいつ、我より、強い。我、グレートレッド、倒したい。次元の狭間、取り返す。」

 

「ちょ、私そんな強くないし、グレートレッドになんて敵わないよ。(ちょ、私そんなん相手に戦わされるの?瞬殺されて終わる未来しか見えないんだけど)」

 

「そこ、心配ない。他にも、仲間、沢山いる。我、蛇、与える。皆、力、得る。」

 

「そ、そうなんだ。その人達だってオーフィスのお眼鏡に叶ったんだから、すごく強いんでしょ?私弱いからそこに入ったってなんも変わらないと思うけど…ちなみに、その蛇ってどれ位強くなるの?(それにしてもおかしい…この子からは何も感情が感じられない……次元の狭間なんてなにも無かった筈なのに、なんで行きたいんだろう)」

 

「ウタ、今の強さ、現魔王と同じくらい。蛇、使えば、我より一回り下ぐらい。それに、無限の力、我と似てる。何故持ってる?」

 

その言葉を聞いた瞬間ウタはあまりの驚きに少しの間何も言えなくなった。無限に値する力に心当たりはあった。しかしその力については誰にも喋っていない。それに創ったはいいものの未完成な上、そもそも使う機会がなく、一度も発動していないのだ。

 

「………なんでそれを知っているの?」

 

「ん、雰囲気?」

 

「私に聞くの!?…はぁ、こんな濃いキャラの相手なんて疲れるんだけどな…。それで、グレートレッドを倒してどうすんの?真なる最強みたいな称号が欲しいの?次元の狭間なんて何もないよ。(敵…じゃ、ないっぽい?いい子っぽく見えるし、この子かわいいし、かわいいは正義だし。もしかして、感情とかを知らないのかな?)」

 

「違う。我、静寂、欲しい。」

 

「うーん、静寂…ね。私には良く分かんないや。その後はどうすんの?」

 

「…?わから、ない。」

 

その後のことなんて考えていなかったかの様に首をかしげるオーフィス。と、この空間をぶち壊すかのように、『グ〜』とお腹の鳴る音がした。

 

「……ふふっ、ご飯作ってあげるから私の家に来なよ。また後で答えを聞かせてね?」

 

「ん、そうする。」

 

最後の出来事ですっかり警戒心を解いたウタは、大事なこと(財布の中身)も忘れてオーフィスを連れて帰るのだった。

 

 

 

「ウタの料理、おいしい。我、もっと欲しい。」

 

「そ、そう。ウ、ウレシイナ〜。でももう残ってないんだ……はぁ。」

 

家で夜ご飯を食べていたのだが、作った料理を一瞬で食べられてしまい、自分の分がなくなって落ち込んでるウタは、これ以上の出費はヤバいので誤魔化すことにした。

 

「そう…残念。」

 

「それで?どうしたいのか答えは見つかった?」

 

「…なにも、しない。あそこ、なにも無い。」

 

「でも、退屈だと思うよ?私はよく知らないけど…えっと、なんだっけな〜。名前が出てこない…ミドリ…カエル…オウムだっけ?海の中でいつも寝てるって奴。海の底なんてほぼ何も無いそいつなら知ってそうだし、相談してみたら?」

 

「ミドガルズオルムのこと?…わかった。相談してみる。」

 

「そうそう、そいつのこと。い、いや、わざと間違えたんだよ?別に忘れてた訳じゃないよ?」

 

ドラゴンだし仲間の名前を間違えられたら怒るかな〜、と考え慌てて誤魔化すウタだったが、オーフィスは気にとめる様子もなく、逆にほんの少しだけ笑っていた。

 

「ウタ、へん。これは、何?」

 

「んー、多分楽しかったんじゃない?嫌だった?」

 

「嫌、じゃない。もっと、楽しい、ほしい。」

 

「そっか。こっちには楽しいことや面白いことが沢山あるけど、次元の狭間にはないと思うよ?よかったら考え直してよね。」

 

「それは、残念。考えておく。また来ても、いい?」

 

首をチョコンと傾けて聞くオーフィスに、こちらも不思議そうに返すウタ。

 

「…?別に遠慮しなくてもいいのに。友達でしょ?」

 

「友達?友達だと、どうなる?」

 

「うーん、楽しいし、私だったらご飯も作ってあげれるよ。」

 

「わかった。我、ウタの友達。また来る。」

 

「うん、またね。」

 

そう言ってウタは手を振ると、オーフィスも手を振り、フッと消えてった。

 

「はぁ、緊張した〜。心臓に悪いね、やっぱあぁいう格上と話すのって。でもいい子でよかった!あんなかわいい子からのお願いなんて滅多にないのに、勿体無いことをしたかな?………あ、ご飯どうしよう…」

 

「…今日はパスタがいいです。」

 

「んひゃあ!?!?こ、ここ小猫ちゃん!?どこから聞いてた!?」

 

独り言を呟き考えていたウタは、まさか今日も小猫が来るとは思っておらず、突然の不意打ちに思わず変な声を上げてしまった。

 

「え…『ご飯どうしようか…』ってところですけど。なんですか、緑野先輩もスケベな事考えてたんですか?」

 

「私はイッセー(変態)じゃない!って結局なんでここに?(オーフィスのことは黙っておいたほうがいいよね…)」

 

「…忘れたんですか?今日部室で、『ご飯が食べたいので緑野先輩の家に住んでいいですか?』と聞いたら『…うん、いいよ〜』って言ったじゃないですか。」

 

「ん〜?そんな重大なこと聞かれたっけな…」

 

何度も自分の記憶を思い出しみるが、そのような事実に同意した覚えはない。

 

「ちゃんと言ってましたよ。正確には『…うん、いいよ〜…ムニャムニャ』でしたが。」

 

「小猫ちゃん!?それ寝言だよね!信じちゃ駄目なやつじゃん…」

 

「…でもずっと私の頭撫でてましたよ?」

 

「なん…だと…!?」

 

ウタは力が抜けたかのように膝をつく。自分が夢遊病かもしれない、という事にではなく、

 

「なんで…なんで私は覚えてないんだ!!こんなかわいい子の頭なんて撫でたことなかったのに!!はぁ…私の知らない間にそんなことがあったなんて…今日はなんか変だ…」

 

「…えっと、ダメ、ですか?」

 

「いいよ!!いい、全然オッケー!大歓迎だよ!!」

 

さっきまで項垂れていたウタは、手のひらを返すように、小猫の手をとりぶんぶん振って了承する。

 

「…ありがとうございます。(これがチョロいってやつですね。緑野先輩これから大丈夫ですかね?)それで、夜ご飯は何ですか?」

 

「…………」

 

笑顔のまま固まってしまったウタ。どんどん顔が真っ青になって、やがて虚ろな目になってポツポツと告げる。

 

「アハハ…ごめんね、小猫ちゃん……私もう今月お金がちょっとしか無いんだったよ…バイト増やそっかな…でもこれ以上は辛すぎる…もういっそ体でも売っちゃえば…」

 

目から光が消え、虚空を見つめて力なく笑う様に、さすがに見かねた小猫が声をかける。

 

「…食費は私が出しますから、そんなこと言わないでください…」

 

「こ、小猫ちゃんホント!?ありがとう!!小猫ちゃんマジ天使!悪魔だけど。」

 

「…いえ、ただ同居人がそんな変態だと自分にも被害にあいそうで迷惑なので。」

 

「そんな…酷くない?」

 

喜んだり落ち込んだりと感情がコロコロ変わるウタを小猫は、ちょっぴりだけ微笑んで眺めるのであった。

 

 

 

「…ごちそうさまです。」

 

「うん、お粗末様。小猫ちゃんはどうする?悪魔の仕事をやりに戻る?」

 

小猫の食器を下げ、洗いながらきくウタ。

 

「…そうですね、もう少しゆっくりしたら行きましょうか。ちょっと話もありますし。」

 

「うん?悩みとかの相談?」

 

「…いえ、まぁ…そんなところですか。」

 

「な…!小猫ちゃん!!クラスでいじめとか!?悪魔の仕事がめちゃブラックとか!?」

 

ウタ食器を洗う手を止め、小猫の肩を揺する。眉間に皺を寄せて考えていた小猫は、少し迷いながらも告げる。

 

「……そうですね、実はとても困った先輩に悩まされていて。」

 

「うんうん、そいつはどんな奴なの? 私がぶん殴ってきてあげるよ。」

 

「…ええ、見た目は暗い緑色の髪で長さは肩より少し長いくらい、駒王学園二年生の先輩がとってもしつこくてウザいんですよ。」

 

「うーん、どこかで聞いたような。他に特徴はある?」

 

「…先輩は鏡を見ればすぐに見つかると思いますよ。」

 

「な、なんだって…!?鏡はどこだ〜!」

 

ドタドタと走り、鏡を求めて家中を駆け回るウタ。家の中の空間が入り組んでいるため、足音があちこちで聞こえるのが気になった小猫だが、放っておいてテレビをつける。と、ニュース番組で腕の無い人の特集がやっていた。

 

「姉様のことについて聞きたかったのに…自分の事だと気がつかないなんてとんだお馬鹿さんですね。…そう言えば、姉様のせいでこれをやってるって言ってたような。」

 

とドタドタと言う音が近づいてきて、リビングに入ってきた。

 

「ねぇ、小猫ちゃん…」

 

「…はい?(やっと気がつきましたか)」

 

「私って悪霊かなんか憑いてるの?鏡見ても私しか見えなかったよ…」

 

「…は?(ダメだこの先輩、私がなんとかしないと)…そうですね、たぶん馬鹿になる幽霊でも憑いてるんじゃないですか?」

 

「そ、そんな、私が馬鹿になっちゃうよ…いったい私はどうすればいいの…?幸運になる壺でも買えばいいのかな…」

 

「…先輩はわかってボケているんですよね?」

 

きょとーん、と、なんの話だろう、という顔をしているウタ。小猫はやれやれと首を振る。

 

「…はぁ、先輩は皮肉って言葉の意味を知ってますか?私さっきから皮肉ばかり言ってるんですけど。」

 

まだきょとーん、としているウタ。それこそ、なんの話をしているんだ?と聞いてくるような顔で。

 

「いや、皮肉ぐらい知ってるよ?でも、小猫ちゃんが皮肉なんて言うなんて…全部ツンデレかな〜って。」

 

「………わかりました。はっきり言いましょう。私は緑野先輩がちょっと鬱陶しいと思ってます。理由は何かとアクションがオーバーだからです。」

 

「ガーン!!小猫ちゃんに嫌われたなんて、もう生きていけないよ…私はこんなに小猫ちゃんが大好きなのに!!」

 

「…それがウザいです。てきとうに笑って誤魔化せばいいのに。あと今の発言はやめてください。自分の身が心配です。………まったく、話が進まないじゃないですか。こんなどうでもいい事の相談なんてするつもりはなかったです。」

 

両手両膝をついて落ち込んでいる自分に、そう言えばちょっと前にもこのポーズをしたな〜、などどうでもいい事を考えているウタだが、小猫のへの思いを否定され、反論しようと顔を上げるがーーー

 

「私は本当に小猫ちゃんが…………へぇ、白なんだ〜。」

 

「んなっ…!?」

 

ウタの目線は当然低く、顔を上げると小猫の下着がモロに見える。

 

「…変態は死んでください。」

 

小猫は、戦車の特性の怪力によって顔を問答無用で地面に叩きつけ、後頭部を踏みつけた。

 

「…ったー、小猫ちゃんちょっと力強くない!?あと体重かけるのやめて!!首が痛いし顔上げれないから!」

 

「…顔を上げたらまた見られるので嫌です。変態先輩は大人しく下を向いて生きてください。……はぁ、これ以上話が長引くのも嫌なのでこのまま質問に答えて下さい。」

 

「ごめんって!!謝るから許して!このままだと何かが目覚めそうだから!!」

 

「…それは困りますね。はぁ、仕方が無いのでどいてあげますが、次にセクハラしたら沈めますからね。」

 

ウタは、いたた…と首をさすりながら起き上がり椅子に座る。

 

「それで、質問ってなに?」

 

「…先輩の能力の全貌と……今朝の紙に描かれていた…私の姉のことについて、です。先輩とはどういう関係なんですか。」

 

若干ながら憎々しさを出して小猫は聞くーーー


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