「う〜ん、おはよ〜、小猫ちゃん。結構起きるの早いんだね。」
「……緑野先輩、この人とはどういう関係ですか?」
そう言って差し出された人相書き。ウタは答えるか迷ったが、どうせ今日部室で喋るので、今は話さないことにした。
「ま、そのことについては今日の部活で喋るつもりだからさ。それより、ご飯の用意するから着替えといてね。」
自分の部屋を出ようと扉を開けたところで、ウタはふと思い出したように振り返り、
「あ、昨日話した私の能力…もうしばらく黙っといてくれるといいな。そのうち自分から話すと思うから。あと……その人となにかあったのかは知らないけど、あんまり恨んだりしたらダメだよ?その人にもなにか事情があったのかもしれないし、折角の可愛い顔が台無しだよ?」
そう残して先に言ってしまったウタ。残された小猫は、顔に出ていたのかと自分の顔をペタペタ触っていた。
その後はこれといった会話もなく、ウタ達は別々に学校にいった。なにやらイッセーの方が騒がしいが、いつもより遅く寝て早く起きたウタは、そんな騒ぎを子守歌にウトウトしていた。
「おっはよー、ウタ。昨日は星空が綺麗だったわねー、まるで山の上から見たみたいだった…って寝てるし。」
桐生が何か言っているが眠かったのでこれも無視。結局ウタが再び起きたのはお昼時。
(あれ…知らない間にもう昼ご飯か。ずっとウトウトしてあまり覚えてないんだけど…え、ノートはちゃんと色分けまでしてとってあるし…なんか怖い)
「お、やっと起きたか〜。でもあんたが授業中に寝てるだなんて珍しいわね。ノートはとってたっぽいけど。なになに、もしかして昨日男でも家に連れ込んだの〜?」
「う〜ん?何の話〜?」
「だから、昨日は男と夜遅くまでヤッてたの?」
「へ?なんでそんな話になるのよ!…あんまり言うなら
桐生のセクハラに露骨に嫌そうな顔で返すと、青ざめた顔で首を振ってきた。
「いやいやいやいや、冗談だって。あれはシャレになんないから…それじゃあ昨日は何があったのさ。」
「何って小猫ちゃんを夕食に招待して、遅くなったから泊めてっただけだよ?」
「ほうほう…なるほどなるほど。(これはなかなかいいネタを…)」
ニヤニヤと聞く桐生に首を傾げるも、それ以上の追及はないのでそのままにして、ウタは校内を散歩する事にした。
(そりゃ寝ているところを叩き起こされたらどっと疲れるもんでしょ…)
考え事をしながら、校内をふらつく。
(あれは酷い…憎悪、絶望、悲哀、後悔、嫉妬、疑念…まるで負の感情を詰め合わせたような感じだった…)
ウタは適当にふらついたあと、誰もいない事を確認した後、木の上に座ってくつろいでいた。
(小猫ちゃんには過去に何があったのかな、じゃないとあんな負の感情は感じないし。今は大丈夫かな?フフッ、こうやって透視するのは久しぶりだな…)
空間を操る術の応用で、壁の向こう側と手前側を繋げ、擬似的な透視をして、小猫の様子を見る。
(今は昨日と同じ雰囲気だね。でも落ち着きが無いような…あ、イッセー達だ。あいつらはいつも通りか…やめよ、あんなの見てたらこっちまで狂いそうだ。)
そのまま別の方も見てみると、一人を中心に人だかりができていた。
(ん?あれはイケメン君か。相変わらずの人気だなぁ。入学したときから比べれば、彼はだいぶ負の感情が薄れてきたけど、でもあの感じだと忘れかけているだけだろうな…負の感情は悪寒がするから嫌なんだよね…あ、藍華ちゃんもその中に入って来たな。なんか聞いているみたいだけど、すぐ離れて行っちゃった。誰か探してるっぽいけど…なんか口の動き的に私を探してるのかな…?だったら急がなくちゃ)
ウタは木から飛び降りると桐生のところへ走って行った。
放課後、特に用事は無かったのでまっすぐ部室に向かうと、小猫がお菓子を食べていた。
「…今日は普通にきたんですね。ちょっと見たかったです。」
少しシュンとして見せる小猫だが、ウタは冗談と分かっていたので構わずに答える。
「まーね。怒られちゃったし。他の皆は?」
「……部長はシャワーを浴びていて、副部長はその付き添いです。祐斗先輩は新入部員を呼びに行きました。」
「そう。…イケメン君達はもう来たっぽいけどね。」
溜め息をつきつつそう目をやると、丁度扉が開いて、木場とイッセーが入ってくる。
「失礼しま〜す。」
「……どうも。」
「やあ、 変t…イッセー。さっきぶりだね。」
「おい、ウタ!相変わらずひどく無いか…?っとそれよりもこの子、『学園のマスコット』の塔城小猫ちゃんじゃないか!『二大お姉様』のリアス先輩と言いこの部活のメンバーはレベルが高いな!」
「ハハッ、イッセー君に褒めてもらえて嬉しいよ。」
「お前のことは言ってねーよ!っと、リアス先輩は?まだきて…この音はもしやシャワー!?これは…グヘヘ、妄想が膨らむぜ!!」
感動したイッセーはガッツポーズをしてシャワー室の方を見ているが、ウタと小猫に冷めた目で突っ込まれたのは言うまでもない。
「私たちオカルト研究部は、イッセーを歓迎するわ。悪魔として、ね。」
そう言って翼を見せるかのように出したリアス達。ウタは翼を持っていないので、とりあえずドヤ顔でもしとくか、と考えていたが、非常に退屈していた。
(早く終わってくんないかなぁ、この話。全部知ってる情報だし、イッセーも質問はさむから長引くし。校長先生の話は保健室で睡眠する派の私にとってこれは辛すぎる…)
欠伸を噛み殺しながら他の皆を見回すが、皆は普通に聞いているようなので、まだ我慢して聞くことにするウタ。しかしそれも長くは続かず、気付かぬうちに眠ってしまっていた。
「おーい、ウタ?部長が呼んでるぞ!起きろって。じゃないとお前のおっぱいを…は無理だからグエェェェ!」
「誰の胸がなんだって?もう一回はっきりと言ってみろイッセー!!」
「わ、悪かった!謝るから首を締めるな!!ぶ、部長!見てないで助けてくださいよ〜!」
「あら、貴方の言ったことなんだからちゃんと責任とってあげなさい?それでウタ、貴女の実力を試したいから、祐斗と模擬戦してくれないかしら。」
「これをシメた後でいいなら。」
「さすがに殺しちゃだめよ?」
笑顔で許可をだすリアスに、これ迄で一番の笑顔を見せるウタに連れ去られたイッセーは学園中に響く叫びをあげたという。
「よろしくね、緑野さん。イッセー君の敵を取らせてもらうよ。」
「き、木場ぁ、奴は強い…気をつけるんだ…ガハッ」
「それじゃ、始めよっか。先手はどうぞ。」
「言ってくれるね。だったら遠慮なく行かせてもらうよ!!」
ウタの声が開始の合図となり、木刀を構えた木場は持ち前のスピードで視界から消える。だが…
「甘いよ!そんな直線的で殺気丸出しじゃ、次にいつどの場所を攻撃するのか丸わかりだよ!」
「くっ、まだまだ!」
そう返してさらにペースをあげて猛攻を仕掛ける木場だったが、攻撃を当てることが出来ず歯痒い思いをしていた。
「さぁ、模擬戦だからって遠慮せずにイケメン君の力を見せてよ!」
「ふっ、そうせざるをえないみたいだね。いくよ、魔剣創造!!」
そう叫んだ木場は木刀を捨て、炎の魔剣を創り出す。
(緑野さん、この魔剣なら、熱で大きく回避をするしかないよ。そこに生じる隙を突けばイケる!)
「ちょ、ウタ、祐斗!?二人とも熱くなりすぎよ!」
リアスはやり過ぎだと注意するが、木場は聞こえてないかのように駆け出す。あらゆる方向から繰り出される木場の攻撃はしかし、一回も当てることができずさらなる焦燥感が生まれる。
「これでも当たらないなんてね…(もっとしっかり踏み込むべきか?)」
木場は剣を逆手にもって突き立てるように一直線に突っ込む。ウタは少し驚きながらも大きく左に飛んでこれを避ける。
「いやー、いまのはなかなかびっくりだよ。思わず大袈裟に避けちゃったよ。まあ、後先考えずに来たことにってのもあるけどね。」
「はは…当たってないのによく言うよ…」
再び斬りかかる木場だが、焦りと疲労からどんどん動きが悪くなりーーー
「そろそろ…終わりだよ!!」
「なっ!」
木場が先程投げ捨てた木刀で木場の魔剣を打ち払い喉に突きつける。
「くっ、僕の負けみたいだ…こうも当てられないと悔しいな。」
「イケメン君は剣筋はいいと思うよ。まぁ、動きが単調だしスタミナもないとこが改善点じゃない?」
「はは…手厳しいね…」
「はぁ…まったく、ヒヤヒヤさせないでちょうだい。」
「うふふ、やっと終わりましたのね。」
「…お疲れ様です。」
ウタは木場にダメ出ししていると、戦いを見ていた部長達も歩いてきた。ちなみにイッセーはまだ気絶している。
「ウタの実力は見せてもらったわ。ますます私の下僕に欲しくなったわ。なんなら条件をつけてもいいのよ?」
「うーん、特に欲しいものとかないんだよな〜。あと、私まだ力使ってないよ?」
「あらあら、緑野さんは相当強いんですのね。どんな力か見せてもらっても?」
ウタの衝撃的発言に小猫以外の皆が驚き、朱乃が頼むが、ウタはウーンと唸る。
「手札は伏せられるなら伏せておきたいって言うか、失礼だけどさすがにまだ出会って少しで信用しきれてないって言うか…小猫ちゃんにはちょっとだけ話したけど、また追々ってことで。因みに小猫ちゃん、さっきの戦いで私が力を使っていたらどうなったと思う?」
「……祐斗先輩は全身バラバラに解体されると思います。」
「ちょっ、小猫ちゃん!?いくらなんでもそんな事しないよ!?R18展開とかゴメンだよ!?」
「…なに?ウタはそんな惨たらしい技を使うの?」
若干顔が引きつらせて聞くリアスに、まあ使い方によっては…と返して余計に顔を引きつらせ、木場の顔は真っ青になるのであった。
一時間後、イッセーは目を覚まし、木場からウタについて部室で聞いている。
「イッセー君の言うとおり緑野さんはとても強かったよ…敵を討てなくてごめんね。」
「いや、俺死んでないからな!敵討ちなんて言うなよ…にしてもさ、ウタが魔法とか本当に使えるのか?」
急に顔を寄せ小声で話すイッセー。
「え?急になんでそんな事を?」
「いやだってさ、魔法使いとかってゲームだと後ろの方からドカーンって感じで近距離戦闘とかは苦手だろ?でもウタってさ、結構暴力的なんだよな。実は嘘をついてんじゃね?って思うんだけど、実際に戦った木場はどう思う?」
「そうだね。よくよく考えたらそんな気もしてきた…………い、いや、や、やややっぱり魔法使いなんじゃないかな?ほ、本人がそう言うんだし!」
急に慌て始めた木場の額には汗がダラダラ流れているが、それには気づかずイッセーは考察を続ける。
「うーん、でもやっぱり魔法使いじゃない気がするんだよな…」
「…ここまで気が付けないなんて、逆にすごいね。」
「ん?なんの話だ?」
「イッセー、その辺にしておきなさいよ?」
ふとリアスに声をかけられそっちの方向を見ると、ウタが目の前に立ってニコニコ笑っていた。
「ねぇ、イッセー。ゲームの魔法でもさ、攻撃するだけじゃなくて回復したり力を上げたり出来るの。」
「あ、あぁそうだな。」
「ちなみに、イッセーに一つ良い事を教えてあげる。私って聴力を上げる魔法知ってるんだ。この意味わかるよね?」
その言葉を聞いた途端、顔が真っ青を通り越して真っ白になったイッセーは逃げようとするも、首根っこ掴まれて背負い投げをくらい、受け身を取れず痛みにのたうちまわっている。
「さて、次は…」
その呟きを聞き、嫌な予感しかしなかった木場は、ウタが振り向く前に逃げようとしたが、
「なっ、か、体が思うように動かない!?」
「イケメン君には二つ。まず私は、相手がどんな気持ちなのかだったり、何を考えているのかが、特にマイナスな感情とかはよくわかるんだよね。それと私ってなにもせずに殴りかかるよりも、しっかり準備して、バフとかデバフとか盛り盛りにして圧勝するのが好きなんだよね〜。」
体が重く、逃げられなかった木場もイッセーの上に背負い投げされる。
「ぐはっ!!ウタ、これはきついって!!」
「も〜、イッセーも悪魔になったんだから、この程度じゃ死なないって。……師匠の教訓?の一つに近接戦闘の訓練があったんだ。」
突然天井を見上げ、懐かしむように話すウタ。
「『魔法使いだからって武器を捨てては駄目だよ。私みたいに魔法使いとしての才能があまり無い人とかは戦えなくなるからね。お前みたいに才能があっても世の中いつ魔法が使えない時に戦わなくちゃいけなくなるかわからない。それに、相手としても魔法使いが実は剣の達人だったらびっくりするだろう?覚えておいて損な事なんてものは無いさ』ってね。師匠には魔術では勝てても近距離戦闘では一回も勝てなかったなぁ。」
感傷に浸るウタに誰も声をかけられなかった。