三匹目の猫   作:AstrAl 4π

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一話

腕の無い人ーーそれはフード付きロングコートに身を包んでいる人で、人なら本来あるはずの腕から先の裾だけ常にだらんとさせている。しかし、フードは深くかぶっており、夕方や夜にしか現れないので、顔も性別も、腕がないという事以外全く判明されてないのである。

とは言っても、日常で見かけたからといって存在が消されたり無差別に襲われたりすることはない。精々不良達のケンカに突っ込んできて二人ともボコボコにされた、程度の被害しか出ておらず、世間では、足の代わりに腕がない間抜けな幽霊ではないか、などと囁かれている。

 

 

 

そんな腕の無い人の正体であるウタは家に帰ると、また今日もロングコートを持って、今日の散歩道を考えていた。

 

ーーーはぁ〜、今日は藍華ちゃんに見つからないようにしなきゃね。とはいっても場所なんて魔術でも仙術でも使えばすぐわかるし、あんま関係ないか。

 

 

 

そんなことを考えながら時間を潰し、日もやや傾いてきたので、ロングコートを着てフードをかぶり、目の前に手を翳した。すると空間が裂けて、近くの公園の森に繋ぐ。

 

「おっと、腕は消しとかなきゃね」

 

そうウタは呟くと、手の先からどんどんなくなって袖がだらんとなっていく。

腕がなくなったのを確認したウタは公園へ行き、気まぐれに足を運ぶのであった。

 

 

 

数日がたち、二年生生活にも慣れてきたある日の朝、事件は起きた。

 

「イッセーに!!」「彼女が出来ただと!!」

 

松田と元浜の叫びにクラスは騒然とし、隣のクラスからも騒ぎを聞きつけた生徒達が教室の前で群がっている。

そんな冷静な分析をしてみたウタだったが、本人も信じられず思わず「まじで!!」と言いながら振り返ってしまった。

 

「だ〜か〜ら〜!本当に昨日の帰りに告白されたんだって言ったじゃん!!」

 

余裕の表情でそう言い返された松田と元浜は涙を流しながら、「「ちくしょう!!!裏切りやがって!!」」と殴りかかっている。

ーーー嘘はついてないし、イッセーに人を騙すような力や知能はあるわけないし…かといって人を脅すような悪人じゃあないんだよね…

 

そうブツブツ言いながら前に向き直るウタの勘が、これは何かあるぞ、と訴えていた。

 

 

 

その日授業が終わったウタは、始業式の日からほぼ毎日桐生に誘われている幽霊探しをいつも通り断り、家に帰ろうと誰もいない場所で手を翳した。家に着くとすぐにロングコートを着て、その日は珍しく玄関から飛び出していった。

 

ーーー事件の香りがする…テンション上がってきた!!

 

そんな事を考えながら、道行く人の目も気にせず走り回っていたが、三十分ぐらいたったところで、立ち止まった。

 

ーーーヤバい…疲れたしもう飽きてきた…ただ面白そうな予感はするんだよね。そうだ!ここは皆にも手伝ってもらお。

 

と、既に飽きてしまったウタは気で誰もいない事を確認してから、空へ向かって大声で「にゃ〜お!!」と叫んだ。

するとどこにこれ程沢山いたのか、というくらい大量の野良猫が目の前に集まった。

 

「みんな、今日は集まってくれてありがとう。突然で悪いんだけど、事件の香りがするから、イッセーに何か変わったこととかあったら私の所に来て教えてね。」

 

ウタはそう集まってくれた野良猫達に呼びかけると一斉に『にゃー!!!』と元気な返事をして、また元にいた場所へと帰っていった。

 

ーーーさて…なにか見つかってくれればいいけど…

 

とウタも腕を出し、家へと帰っていった。


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