俺とエミリアは、俺が来るまでに時間を稼いでいてくれた少年の処遇について話し合っていた。
一方でその少年はというと、俺が蹴破ったドアが直撃したために気絶はしているが、たんこぶができた程度の怪我なので心配はないだろう。
「聞く話によるとエミリアを助けるために戦ってくれていたんだから一度屋敷に迎え入れても問題はそんなにないんじゃないか?」
「そうね。私は別に構わないのだけれど……」
「問題はラムがなんて言うか、だな」
「うん。あの子も根は優しい子なんだからそこまで邪険にはしないとは思うけれど……」
「そうだな。まあ物は試し、というわけでどうする、ラム?」
俺が木に向かって話しかけると、そこからはメイド服を着た桃髪のメイドが現れた。
「そうね。私は正直反対だけど、やっぱり最終的な判断はロズワール様に聞かなければならないわね。コジョウ様、その男を屋敷まで連れ帰ってもらってもよろしいでしょうか?」
「ああ。もちろんだ」
「エミリア様は……」
ラムは崩れた家の方を見ると指を指した。
「早くあの娘から徽章を取り返してきてください」
「う、うん。わかった」
ラムはエミリアが金髪の少女の元に向かったのを確認してから俺に言葉をかけてきた。
「コジョウ様。今回の件ですが、やはり王選絡みの……」
「ああ。多分そうだろうな。誰だか知らないが面倒くさいことをしてくれたな。このことが回りに知れたら一気にエミリアは不利な状況に陥るだろうな」
「ええ。どうします?あの娘と老人の処遇は」
「なんでそんなことを俺に聞いてくるんだ?」
「王都でなにか困ったことが起こったら全ての判断はコジョウ様に委ねるように、とロズワール様が仰っていましたので」
「つまりは面倒事は俺に丸投げってか……ロズワールの野郎。帰ったら1発ぶん殴ってやるか……」
「止めてください。コジョウ様が本気でロズワール様を殴ったら原型が残りません」
「……もういいか。どうやらエミリアたちも話は終わったようだしな」
俺たちはエミリアたちの方向に首を向けると、なんとエミリアは徽章を盗んだ少女の手を引いてやってきた。
「ちょっ、なにすんだよ!放せよ!」
「ちょっといい、コジョウ?」
「なんだ?」
「ちょっと見ててね」
そう言ってエミリアは徽章を少女に持たせた。
本来この徽章は王選に参加する資格の有無を確かめるための石。
資格の無いものが持っても石は光ることなく、ただの石っころであるはずなのだが……。
少女が握った徽章は輝いていた。
「!?」
これには流石の俺も驚いてしまった。
なんとエミリアの徽章を盗んだ相手は、王選参加者最後の1人だったのだ。
「……名前は、何て言うんだ?」
「アタシのことか?アタシはフェルト」
「フェルト、か……。フェルト、お前は今この国の王族が謎の病気によって全員が亡き者になったことは知っているな?」
「あ、ああ」
「それじゃあ王選のことは知っているか?」
「も、もちろん知ってるけど……それがどうかしたのか?」
「ああ。フェルトはどうやら龍に選ばれたようだ。お前にも王選に出てもらうわけだが……もうロズワール邸に迎え入れることは不可能なわけだから、衛兵の所に行ってラインハルト・ヴァン・アストレアを頼れ。衛兵にはこれを見せたら話は簡単に通るはずだから後は自分で頑張れ。きっとあいつならお前のことも快く受け入れてくれるはずだ」
そう言って俺は懐からあるものを取り出す。
それは漆黒の宝石で、その宝石には何かよくわからない花の絵が描かれていた。
「暁古城。これが俺の名前だ。困ったら俺の名前を出せば大体が解決する。頑張れよ」
俺はフェルトの頭を撫でてやると、未だに気絶している少年を担いで竜車へと向かった。