異世界召喚というものを知っているだろうか?
ある日突然主人公が神様などの存在に異世界に召喚される現象のことだ。
その主人公はチート能力を特典として貰ったりするのが定番らしいのだが、実は俺はその異世界召喚というものを経験したことがあるのだ。
およそ500年ほど前に一度だけ。
今いるこの世界へと召喚されたのだが、その間に色々なことがあった。
例えばまだ幼かった頃の強欲の魔女『エキドナ』になつかれたり。
そのエキドナを狙った嫉妬の魔女『サテラ』に危うく殺されかけたり。
エキドナが作った人工精霊であるベアトリスになつかれたり。
エキドナの弟子であり、エキドナに淡い恋心を抱く青年『ロズワール』に襲われたり。
そしてなぜかエキドナと結ばれ、子供まで授かったり。
こうして見てみると全てがエキドナ関係のことなのだが、エキドナの肉体は普通の人間だったので本来ならばすでに死んでいるはずだ。
しかしエキドナは俺の血の従者となることで、不老不死の肉体を手に入れて、ついでに永遠の美貌すらも手に入れてみせた。
そして現在の俺たちはというと……自分の子供に魂を移しながらエキドナとはまた違う方法で不老不死になったロズワールの屋敷で世話になっている。
だがロズワール邸で世話になっているのは俺たちだけではなく、王選候補のハーフエルフ『エミリア』も一緒だ。
なんとこの少女はハーフエルフという種族的なことだけではなく、外見的特徴まで嫉妬の魔女にそっくりなのだ。
400年前には油断していたとはいえ、嫉妬の魔女には一度殺されかけたことがある。
その時はこの世界で初めて眷獣を開放することで助かったが、正直エミリアのことはそのせいもあってか少し苦手なのである。
嫉妬の魔女とは関係ないということはわかっていても、やはり苦手なものは苦手なのである。
さてそんなエミリアが苦手な俺なのだが、エミリアとロズワール邸のメイドの一人である『ラム』と共に王都に来ている。
……のだが俺は二人とはぐれてしまった。
恐らくはまたエミリアがフラフラとどこかに行って、それを追いかけるためにラムも俺から離れて行ったのだろうが、これではなんのために俺がエミリアについて来たのかがわからなくなる。
俺は深くため息を吐いて、周りの人からの聴き込みを始める。
「なあ、おっさん。ここで銀髪の女の子を見なかったか?」
「ん?それならさっき盗品蔵の方に行くのを見たぞ?でもなんだってそんなことを聞いてくるんだ?」
「いや……その子とちょっとはぐれてな……悪いなおっさん、商売の邪魔をして。お詫びにって言ったらなんだけどリンガを10個ほど買いたいんだけど……」
「お?そうか。ありがとうな!ほれ」
「じゃあこれで……お釣りはいらないから貰っておいてくれ」
俺はリンガ屋のおっさんに多めに金を握らせてリンガを受け取った。
「お。兄ちゃん、随分と気前がいいじゃないか!実は見掛けによらずに金は持ってるのか?」
「ああ。ちょっとな……今はロズワール辺境伯のところで料理人と戦闘員的なことをやっていてな」
「へー、凄いじゃないか。ロズワール辺境伯って言ったらあれだろ?ルグニカでも確か五指に入るほどの実力者なんだろ?そんなところで戦闘員なんて、兄ちゃんは戦えるのか?」
「ああ……破壊するのは俺の得意分野だ。昔はうっかり国を潰して危険人物の一人に数えられてたこともあったな」
「兄ちゃんが危険人物?冗談言うなよ!」
「いや……別に冗談ってわけじゃ……もういいか……じゃあ俺はそろそろ行くから。おっさん情報ありがとうな」
「おう。いいってことよ!その代わり俺の店をどうか贔屓してくれよ?」
「ああ、わかった。今度からリンガはこの店で買うことにする」
俺はリンガ屋のおっさんに手を振ってその場から離れた。
そして俺はこの世界に来てから眷獣を使わなくてもできるようになった霧化で盗品蔵を目指した。
俺が盗品蔵に着いた時、ドアを開けて一人の少女が飛び出てきた。
その少女はその家の中に入ろうとしていた俺にぶつかると、尻餅を着いた。
俺はその少女が怪我をしていないか確かめようと目を落とすと、少女が泣いているのを見てしまった。
俺はまさかその少女が怪我でもしたのかと思い、焦ってしまったが、どこにも怪我をした様子はない。
「お、おい。大丈夫か?」
「兄ちゃん、助けてくれ!ロム爺が、皆が!」
俺はその言葉を聞いて、中でなにが起きているのかを察するとドアを蹴破って中に入った。
ドアの止め金は壊れ、ドアは飛んでいく。
そのドアは偶然直線上にいた青年に当たると、青年はまるで車に轢かれたかのような勢いで飛んでいくと、壁にぶつかって止まった。
場は一瞬の硬直状態に入る。
そして一番に復活したなぜかいるエミリアが声を荒げる。
「え?コ、コジョウ!なんでここに!?」
「なんでって……迷子を迎えに来ただけなんだが」
そして次に復活した黒髪ババアが手に持ったナイフで斬りかかってくる。
俺はそれに咄嗟に眷獣を召喚してしまう。
召喚した眷獣は
その女は自分の攻撃の威力をそのまま喰らって、腹が割けて内臓が出てくる。
「あ……」
女は口から小さな声を漏らしてその場に崩れ落ちた。
俺は腹から溢れる大量の血を見て違和感を感じた。
明らかに流れ出る血の量が少ない。
最初はもっと出ていた筈なのに。
と、考えた俺はその場から後ろへとジャンプして離れた。
すると、俺が元いた場所をナイフが通った。
腹を見ると薄皮が切れて服に少し血が滲んでいた。
が、それもすぐに治る。
「あら。あなたも吸血鬼なのね。素敵。吸血鬼の腹は自分の以外は割いたことがないから」
吸血鬼。そう聞いて納得ができた。
内蔵が出たのに次の瞬間には元通りになる理不尽なまでの再生能力。
この世界では自分以外のを初めて見た。
だがこの世界の吸血鬼と俺とでは大きく違うことがいくつかある。
まず1つ目は眷獣の有無だ。
眷獣の存在は大きく、吸血鬼にとっては眷獣の強さと魔力の高さでほぼ勝敗が決まると言っても過言ではない。
2つ目はいくらこの世界の吸血鬼の再生能力が高かったとしても再生できないほどのダメージを与えてやると死ぬことだ。
だが今回は手っ取り早く終わらせるために、超再生を司る眷獣を召喚することにする。
「
「ちょ、ちょっと、コジョウ!?あー、もう!皆早く逃げて!」
エミリアは俺がなにをしようとしているのか理解したのか、逃げるように促している。
中にいた全員が出ようしているのを横目に見ながら楽しそうに笑っている女の方を向くと最後の言葉を言った。
「
俺の呼び掛けに対して出てきたのは水妖。能力は超再生。
出てきたときにその大きさ故に建物を崩壊させるが、俺たち以外は避難済みなので関係がない。
この眷獣の攻撃は相手を原子以前の存在まで戻すこと。
これならいくら相手が不老不死だったとしても関係なく葬ることができる。
俺は眷獣を女に向かわせると、眷獣は建物の残骸を巻き込みながら女を再生させた。