カルデア男子たちの日常   作:3103

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遅れてごめんなさい。




第9話

 

「よし、五章クリア。……じゃあちょっと今からディライトにカチコミ行ってくるわ。戸締りは頼んだぞ、エミヤ」

 

「おいバカ止めろ。思い留まるんだマスター」

 

 紅衣のアーチャーエミヤが、マイルームからアゾット剣片手に出て行こうとする俺を、羽交い締めにしてくる。

 ……くそ、筋力Dめ! 離しやがれ!

 じたばたと暴れるものの弓兵のホールドから逃れる事は出来ない。日々の筋トレで鍛えた肉体をもってしても、流石にサーヴァントとに真っ向から筋力勝負しては敵わない様だ。

 

「離せ! HA☆NA☆SE☆!! 俺はマシュを助けるんだ! 俺は、マシュを、助けるんだぁっ!!」

 

「待て待て待て! 気持ちは解るが運営に乗り込んでどうする! 殴り込みをかけた所でなんの解決にもならないぞ! 落ち着いてストーリーを先に進めるんだ! 大丈夫だから! ちゃんと助かるから!」

 

「おのれぇぇぇぇっ!! 許さん! 今度の今度こそ許さんぞ運営っ!! イベント中にやたらアプリが落ちるのも、ロードがやたら長いのも、ガチャから女の子が出ないのも目を瞑って来たが、今度という今度は我慢の限界だッ!! 俺から最後の希望まで奪う気かよぉ! マシュに何かあったら毎週毎週本社に狸の剥製送りつけてやるからな! もちろん着払いでなぁ!!」

 

「意味不明な犯行予告をするんじゃない! いいから落ち着け! 私の話を聞くんだ!」

 

 サーヴァントの圧倒的な腕力をもって俺を無理やり椅子に座らせるエミヤ。

 マイルームのデスクチェアに座らされた俺は、ふーふーと荒い息のまま目の前の弓兵を睨みつける。

 その様子を見たエミヤは、額を押さえながら深くため息を吐いた。

 

「……取り敢えず落ち着くんだマスター。いいか? よく聞け。彼女は大丈夫だ。ストーリークエストを進めれば復帰してくれる。彼女の安否が心配なら早くキャメロットに向かうべきだ」

 

「はぁぁぁぁぁぁぁっ。……わかったよ。進めるよ。やればいいんでしょやれば。社畜の如く馬車馬のように人理修復させて貰いますよ」

 

「決意が出来たならベッドに寝転がってニートスタイルにならないでさっさと出発するべきだと思うのだが……」

 

 これ以上何言っても無駄だな、となんか色々悟った俺は、枕元に置いてあるジャ◯プを読み始める。……でもこれ古くね。あとがきにア◯シールド21とかミスターフ◯スイングとかネ◯ロとか書いてあるですけど。めっちゃ懐かしいんですけど。

 村田先生、今ワンパンチ描いてるんじゃないの? いつの間に連載再開したの? つーか昨日まで普通に今週号置いてあったよね? 誰だ留守にしてる間にすり替えたの。黒ひげか。黒ひげだな。黒ひげしかいないな。よっしゃアイツ今度ソロで超級殺の修練場に叩き込も。

 

 と、不貞腐れながら資源回収に出し忘れた古いジャ◯プをペラペラ捲っていると、ベッドの側の椅子にエミヤが座ったのが見えた。

 相変わらず礼装の腰の長い部分が座る時に邪魔そうである。立ってる時はかっこいいと思うけどね。あのひらひら。

 

「マスター。君は彼女が気がかりなのだろう? こんな所で不貞腐れていていいのか?」

 

「……あー、アレだよ。今日は休みだ。眠いしだるいし疲れたし。ぐだ男、週休八日を希望しまーす」

 

「……なるほど。まあ、この所休み無しで働いていたからな。休息も偶には必要だろう。今は休むといい。他のメンバーには私から、マスターの体調が優れないから今日は休みにすると伝えておく。今日はゆっくりと休養するがいい」

 

「いやそうやって大人な対応されると流石に心が痛むんですけど。……まあ、でも疲れてるのは事実かもな。そんじゃ、お言葉に二時間ほど休ませて貰いますかね。少し寝たら特異点に向かう事にするよ」

 

「了解した。先程言った通り、皆には私から伝えておこう。……しかし寝ているだけで本当に大丈夫か? 体調が優れないならドクターロマ二に診てもらった方が……」

 

「過保護なオカンかおのれは。褐色白髪筋肉モリモリマッチョマンのお母さんとか誰得だよ。流石にそんなキワモノはジャックちゃんでも拒否るわ。……大丈夫だからしばらくほっといてくれ。二時間してまだ体調悪い様なら、素直にロマンに診てもらうからさ」

 

「……そうか。なら私は大人しく出て行くとしよう。安静にしていろよ、マスター」

 

 最後の最後までオカンみたいな態度で、エミヤはマイルームから出て行った。

 その姿を見送った俺は、改めてベッドに身を預けマイルームの真っ白い天井を見上げる。

 

 ……あー。なんかアレだなー。テンション上がんないわ。気持ちが沈んだままになってるといいますか。マシュの事が気になっちゃってなんも手がつかないや。

 

 さっきまでオカンが出てったら積みゲー崩そうとか思ってたのに。いざ一人になったら遊んでやろうなんて気持ちどっかに消えてしまった。

 ショックだったのは事実だけど、まさかここまでメンタルやられてるとはなぁ……。メインヒロインだし死んだりしないだろ。とか高を括ってたのに、今はバッドエンドな事ばっかり考えてしまう。やっぱりエミヤの言う通り、すぐに特異点に向かうべきだったか。

 

「……はぁ。……少し休もう。なんもやる気起きないや」

 

 胸の中を渦巻く不安を沈め、ゆっくりと瞳を閉じる。すると思っていたよりすぐに、意識が遠くなっていく感覚になってきた。案外ホントに疲れが溜まってたのかもな。休養をとる選択肢を選んだの正解だったのかも知れない。

 そんな事をぼんやりと考えながら、俺は暗い意識の底へと沈んでいった。

 

 

 

 ……この時はまだ次の特異点に円卓の騎士達(本当の悪夢)が待っているとは知らずに。

 

 

 

 

 ♦︎

 

 

 

 

 今日もガチャから女の子は出ませんでした。

 

「ああああああああああああああああああ。ああああああああああああああああああああああああああああああああああああ。……おっぱい揉みたい」

 

「でしたらスパルタクスさんに頼んでは如何でしょうか? あれ程鍛え抜かれた胸筋なら、マスターも満足出来ると思いますが」

 

「雄っぱいの話は誰もしてねぇよ。俺が揉みたいのは女の子の柔らかいおっぱいなんだよ。

 ……つーか当たり前のようにいるね、君たち。俺の部屋に。鍵掛けといた筈なんだけどなー。どうやって侵入して来やがったんだろうなー」

 

「……ふっ。この程度のセキュリティ、あの監獄塔に比べれば生温い児戯の様なもの。オレの道を阻むには全くもって足りぬ障害だ」

 

「何カッコつけてんのファリア神拳伝承者。お前がやった事って単なる不法侵入だからね? 手からビーム出して武空術使える人はジャ◯プに帰れ。ここFateだから」

 

 ガチャ爆死後。傷心の俺をマイルームで待っていたのは可愛い女の子でもエッチなお姉さんでも無く、二人組みのエクストラクラスのサーヴァントであった。

 ルーラー、天草四郎時貞とアヴェンジャー、巌窟王ことエドモン・ダンテスは、勝手に珈琲メーカーでコーヒーを淹れて、勝手に午後の優雅なティータイムを過ごしていた。

 

 こいつらちょっと自由過ぎじゃない? カルデアに馴染み過ぎじゃない? ……いやそりゃ馴染めないでボッチしてるよりは良いかもしれないけどさ。

 気がつきゃ鍵破られて侵入されて、だんだん俺の部屋がサーヴァント達の寄り合い所と化してきてる気がするんですがそれは。

 

「……はぁ。もうなんか突っ込むのも疲れたわ。天草、コーヒー俺にも淹れてくれ。ミルクと砂糖、一つずつで」

 

「畏まりました。では、ポチッとな」

 

「おい、マスター。この漫画の続きはどこだ? 浮世の暇潰しに過ぎぬとはいえ、これは中々に興味深い。読んでやるからオレの前に全巻出しておくといい」

 

「なんだこの巌窟王。人の部屋のソファに寝転びながら、よくもまあそんなリラックスできますわね。仰天し過ぎて思わず口調がオカマみたいになってしまいましたわよ」

 

「吐き気を催しますねその口調。大変不快なので今すぐ止めて頂けますか?」

 

「アッハイ」

 

 天草に凄まれてしまったので口を閉じる。

 ……うん、まあこれに関しては自分でもキモいな、ってなってたんで寧ろ有り難かったんだけども。

 ちらりと視線を横に流す。俺はソファに寝そべっている巌窟王が、後で食べようと取って置いたマシュお手製のプレーンドーナツを貪っているのを見てしまった。

 ……あの野郎。我が物顔で何食ってるかと思ったら、よりにもよって一番厳重に隠しといた俺の楽しみを喰いやがって……! 

 許さん……! 絶対に許さんぞ……! 食物の恨み、そこの復讐者にたっぷり味わわせてやる。

 俺は怒りを顔に出さない様気をつけながら、エドモンに漫画の続きを手渡した。

 

「そらよ、巌窟王。さっきの続き。ちなみにその巻でヒロイン死ぬから。その次の巻で親友が裏切るしな。ショックで泣かない様に気をつけろよ」

 

「……なっ!? 貴様ッ! 途中でネタバレとはどういう了見だ!!」

 

「ふははははははっ! 自分で取ればこんな事態にはならなかったなぁ! 人のドーナツ勝手に喰いやがってバーカバーカ!! 俺を顎で使った罰だ! ザマァないぜ!!」

 

「……上等だ。表に出ろマスター。この怒りのままに我が怨讐の味、たっぷり味わわせやるッ!!」

 

 エドモンと胸ぐらを掴み合う。

 期間限定召喚星5だからって調子に乗りやがって。今までは大目に見てきたがもう我慢の限界だ。このアヴェンジャーにそろそろ自分の立場というものを教えてやらねば。

 そう無言で視線をぶつけ合っていた俺達の間に、天草がまあまあと笑顔で割って入ってきた。

 

「そこまでにして下さい。マスターに巌窟王。こんな所で暴れるとまた片付けが大変な事になりますよ?」

 

「安心しろよ天草。場所は変えてやるから。今一度こいつにゃマスターの威厳って奴をガツンと叩き込んでやらなきゃなんねぇんだよ」

 

「邪魔するなルーラー。コイツは決してやってはならぬ罪を犯した。だからこのにやけ面を穴だらけにしてでも、罪の重さを思い知らせてやらねばならないのだ」

 

「そうは言われましても。個人的にはどうでもいいのですが、私も一応調停者(ルーラー)としてここに呼ばれているので。例え小学生レベルのしょうもない喧嘩でも止める義務があります。まあそういきり立たず、ここはお互いコーヒーでも飲んで落ち着かれみては?」

 

 言うと天草は俺とエドモンの分、湯気の立つコーヒーを二つ差し出して来た。

 …………。……ちっ。仕方ない。折角入れて貰ったコーヒーを無駄にする訳もいかないし、ここは一旦天草の言う通りにしてやるか。

 俺はエドモンの襟から手を離して、天草からコーヒーを受け取った。

 

「どうしたマスター。随分と聞き分けが良いじゃないか。まさか貴様の怒りはそこの聖人もどきに言いくるめられる程軟弱なものなのか?」

 

「うっせ。別に怒りが収まった訳じゃねぇよ。

ただコーヒーを無駄にしたくないだけだ。高級な豆使って高級な機械で淹れたヤツだし」

 

 四人掛けのテーブルから椅子を引き出す。

 取り敢えず座ってコーヒーを飲もう。俺は机の上に置いてある幾つかの瓶の中から一つを選んで蓋を開けると、スプーンですくった白い粒子を純黒のコーヒーに入れてマドラーでかき回す。

 

「…………ちっ。呑気にカップを傾けている場合か貴様。……まあ良い。俺も丁度美味いコーヒーが飲みたくなった。少しばかりこの怒りを忘れる事にしよう」

 

 コーヒーを天草から受け取ったエドモンが俺の対面に座る。

 俺はそのカップの前に、先ほど使った白い粒子が詰まった瓶とクリームを無言で差し出した。

 

「ふん。随分と殊勝な態度じゃないか。先ほどまで俺を血走った目で睨みつけていた男とは思えんな」

 

「……まあ、多少は反省したって事にしといてくれ。お詫びの気持ちだ。受け取らなくてもいいけどよ」

 

「……いきなり冷静になるのか。本当に腹立たしい男だ貴様は」

 

 憎々しげに言いながらも、俺が差し出した瓶にスプーンを差し込むエドモン。

 一応、沸点を下げてはくれた様だ。それを見て天草は笑顔を見せた。

 

「一件落着ですね。すんなり収まってしまったのが少々ざんね……予想外でしたが、お二人が少しは大人な態度を示してくれて良かったです。やはり調和が取れた世界こそーー」

 

「ぐぼふぁっ!?」

 

 天草の言葉を遮って、エドモンが口からコーヒーを噴き出した。

 その顔は苦悶の表情を浮かべている。よし、作戦成功だ。恐らくいつもコーヒーに砂糖を入れる調子で、瓶の中に入っていた塩をぶち込んだのだろう。くそまずい塩入りコーヒー、我慢して飲んだ甲斐があったぜ。復讐成功だ。

 

「ぷっ、あははははははははっ!! ザマァみろボケが!! マシュのドーナツの恨み、コーヒー一杯で許してやるわきゃねぇだろうがよ!! バーカバーカ! 塩分取り過ぎて高血圧になって死ね!!」

 

「やってくれたなこのクズがッ!! もういい貴様は殺す!! 復讐の炎に抱かれて消えろッ!!」

 

「上等だ厨二野郎!! ダンガンの勢いでロンパしてやるから覚悟してけよおらぁ!!」

 

「……論破するんですか? 今にも殴り合いが始まりそうな勢いなのに?」

 

『おら死ねやぁ!!』

 

 そんなどうでもいい事に首を傾げる天草を他所に、俺は二回目の巌窟王とのスク◯イド展開を開始するのであった。

 

 

 


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