メビライブ!サンシャイン!!〜無限の輝き〜   作:ブルー人

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さて9話です。
今回と次回は色々と構成がややこしいのでまとめるのに苦労しました(笑)


第86話 二人の結晶

「やっぱりホテルの中はあったかいわねえ」

 

「なんでさらっと俺の部屋でくつろいでるの?」

 

聖良に頼んでとうふ白玉ぜんざいを一人前だけ持ち帰りさせてもらい、夜になってやっと帰ってきたステラに渡す。

 

なぜか自分の部屋に居座りつつそれを口に運び始めた彼女に、未来は眉をひそめて言った。

 

「冷蔵庫に入れてたからすっかり冷たくなってるだろ」

 

「美味しいものは美味しいわ」

 

「そうか……。で、今まで何してたんだよ?」

 

気を取り直してステラが何の用で別行動していたのか、その詳細を尋ねる。

 

ぜんざいに夢中な彼女に代わってヒカリが答えてくれた。

 

『セブンに呼ばれ、新たな任務を頼まれた』

 

『「新たな任務??」』

 

メビウスと声を揃えて首を傾げる未来。

 

『……っていうか、セブン兄さんだって!?』

 

『ああ、彼自身は別の理由でここに訪れていたらしいが……』

 

「それで、その新しい任務っていうのは?」

 

ヒカリは数時間前に聞いた太陽の黒点の話、そしてエンペラ星人の目的についての話を語った。

 

時空波発生装置によって怪獣の軍団が出来つつあることも全て。

 

 

 

 

『……そんなことが……』

 

『いよいよ最後の戦いが近いのかもな』

 

「……最後」

 

ヒカリの言葉を聞いて、未来の胸がずしりと重くなる。

 

呑気にぜんざいを食べ終えたステラがベッドに腰掛けている未来を見上げ、いつものように静かな口調で言った。

 

「それとね、わたし達……もう少しだけここにいようと思う」

 

「……食べ歩きツアーでもするのか?」

 

「ぶった斬るわよ」

 

部屋の中だというのに寒気を感じた未来は「冗談だ」と両手を上げた後、改めて話に戻る。

 

「何かあったのか?」

 

「……四天王の一人が、この近くに潜んでいるかもしれないの」

 

「なんだって……!?」

 

思わずその場で立ち上がり、目を見開く未来。

 

……やはり自分達を狙って追ってきたのだろうか。

 

「わたしはここに残ってそいつを倒す。あなたは内浦に戻って千歌達を守ってあげて」

 

「ぐっ……まあ、それしかないか……。でも大丈夫なのか?太陽を調べてくれって言われたんじゃ……」

 

「地球で騒ぎになってないうちはまだ黒点の面積も小規模ってことだろうし、用を終えてからでも間に合うわ」

 

それだけ言い残してステラは席を立ち、未来の部屋の玄関へと歩いていく。

 

「ち、ちょっと待ってくれ」

 

彼女の去り際にふと先ほどのヒカリの話を思い出し、引き止めた。

 

「なに?」

 

「……ステラはさ、エンペラ星人を倒して……この戦いが全部終わったら、どうするつもりなんだ?」

 

「……どうしたの急に?」

 

突然の質問に戸惑いつつもステラは思考を巡らせる。

 

数秒間黙り込んだ後、彼女はあっさりとした様子で返答した。

 

「さあね、わたしの故郷はもうないし……それに、この先生きてる保証もどこにもないから。先のことはわからないわ」

 

未来に背を向け、「おやすみなさい」とだけ最後に言った後、ステラは扉を開けて自分の部屋へと戻っていった。

 

「…………物騒なこと言うなよ」

 

静かになった部屋で未来はつぶやく。

 

「……メビウスも、いずれは帰っちゃうんだよな」

 

『それは————』

 

一瞬答えを選ぶような間があり、その数秒が未来にさらなる不安を与えた。

 

『……そういうことになるのかな。でも不思議なことじゃない。君はもともと、普通の高校生として生活していた。……その日常に戻るだけさ』

 

この空気が長く続くのはダメだと、すぐにそう気がついた未来は無理やり笑顔を作ってベッドに倒れこんだ。

 

「あーもうやめやめ!今日は色々歩いて疲れた。そろそろ寝かせてもらうよ」

 

『うん、おやすみ』

 

電気を消し、瞼を閉じてもある単語が脳裏によぎる。

 

————最後。

 

 

◉◉◉

 

 

翌日。

 

ハンバーガーショップでルビィ、花丸、善子が同じ席に座り、その向かえには————

 

「…………」

 

不機嫌そうに飲み物の泡音を立てている理亞と、ステラの姿があった。

 

昨日の夜、ルビィに言われた時は本当に驚いた。

 

「理亞と一緒に、ダイヤと聖良に贈るライブをやりたい」と聞かされたこと。そして、その協力を頼まれたこと。

 

グローザムの件でここに残るつもりだったので特に支障はないが。

 

「……三人も来るなんて、聞いてない」

 

「ああでも、花丸ちゃんも善——ヨハネちゃんも、ステラちゃんだってとても頼りになるから……」

 

「関係ない!……私、もともとみんなでワイワイとか好きじゃないし……。だいたいあなたメンバーじゃないでしょ!?」

 

「マネージャーよ。……なるほど、確かにこのメンツじゃ心許ないわね」

 

集まったメンバーを一通り見て言い放つステラと理亞の間に、バチバチと雷電がぶつかり合っているように見える。

 

「それを言ったら、マルもそうずら。善子ちゃんに至ってはさらに孤独ずら」

 

「ヨハネ!……なにさらっとひどいこと言ってるのよ!」

 

「……ずら?」

 

花丸の口調を聞いて語尾に違和感を感じた理亞が首を傾ける。

 

「はっ……!!これは……オラの口癖というか……」

 

「オラ?」

 

「違うずら……マル……」

 

「ずら丸はこれが口癖なの」

 

善子に簡潔に説明されてもイマイチわかっていない様子の理亞。

 

「だからルビィといつも図書室にこもってたんだから」

 

「そうなの?」

 

一転して表情を明るいものへと変える理亞の横顔を見て、ステラはなんとなくルビィ達一年生と同じ雰囲気を感じ取った。

 

「ずら……。今年の春まではずっと、そんな感じだったけど……」

 

「私も……学校では、結構そうだから……」

 

(……同じ人種なのかしら)

 

無言で飲み物を吸い上げつつ彼女達の会話を聞いていると、それぞれの性格や個性は違えど、どこか似通った部分があるなと感じた。

 

何気ないじゃれ合いのなか、理亞の表情が一瞬緩んだのをステラは見逃さなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「“私は負けない何があっても”……」

 

「“愛する人とあの頂に立って、必ず勝利の雄叫びをあげようぞ”……」

 

「……千歌って、実はすごかったのかも」

 

理亞の考案した歌詞を声に出して読んでいくと、なかなか短絡的な————もといストレートなものばかりだ。

 

「だから言ったでしょ!?詞も曲もほとんど姉様が作ってるって!」

 

「まだ何も言ってないけど……」

 

善子とステラはテーブルに置かれたポテトを手に取り口へ運ぶと、頬杖をついて言う。

 

「……しっかし、捻りも何もないわよね」

 

「直接的すぎるわね。うちの熱血バカといい勝負かも」

 

「熱血バカ……?」

 

「でも、歌いたいイメージはこれでわかったずら!」

 

「ルビィも手伝うから、一緒に作ってみよう?」

 

口々に語るルビィ達を見て、理亞は不安げな口調で質問を投げかけてきた。

 

「あなた達、ラブライブの決勝があるんでしょ?歌作ってる暇なんてあるの?」

 

「それは……」

 

言葉に詰まるルビィの代わりに花丸が立ち上がり、理亞に向かって笑顔を振りまいた。

 

「ルビィちゃんは、どうしても理亞ちゃんの手伝いをしたいずら!」

 

彼女に続いてルビィも席を立ち、強気な物言いで語りだす。

 

「理亞ちゃんや、お姉ちゃんと話してて思ったの。私達だけでも、できるってところを見せなくちゃいけないんじゃないかなって。……安心して、卒業できないんじゃないかなって」

 

と、その時。

 

善子の携帯が鳴り、直後に彼女が短い悲鳴のような声を上げる。

 

「げっ!リリーだ!」

 

「なんて書いてあるの?」

 

「“どこにいるの?もう帰る準備しなきゃダメよ”って……!」

 

親子のようなやり取りの後、梨子から怒りマーク付きで「リリーって言わないで」と届き、またも身体を仰け反らせる善子。

 

「……!?思考を読んだだと……!?」

 

「もうそんな時間!?」

 

「どうするの?」

 

「今は冬休みずら」

 

「だから?」

 

「だから————」

 

 

◉◉◉

 

 

「ここに残る!?」

 

「「「うん!」」」

 

一年生とステラによる報告を聞いて驚く千歌達に、花丸がやや強引に説明を始める。

 

「そうずら!理亞ちゃんが大変悲しんでいて、もう少し励ましたいずら!」

 

「そうそう……!塞ぎこんじゃっててどうしようもなくてさ……!」

 

「うゆ!」

 

やけに饒舌な三人に違和感を感じた後、未来はステラの顔を見てなんとなく事情を察した。

 

「ステラが付いてるからそれはいいとして……泊まる場所はどうするんだ?」

 

「幸い、理亞ちゃんと聖良さんの部屋に余裕があるからそこで……」

 

「わあ!なんか面白そう!」

 

「そうですわね。この際私達も————」

 

みんなで残ろうとダイヤが提案しかけたところで慌ててフォローに入るルビィ。

 

「ああっでも、そんなに広くないというかなんというか……」

 

「そうずら!それに理亞ちゃん、色々ナイーブになってるずら!」

 

即興で考えた言い訳が終わると、ルビィがダイヤのもとへ駆け寄り上目遣いで言った。

 

「ごめんね、お姉ちゃん。二、三日で必ず戻るから……」

 

「……べつに、私は構いませんけど?」

 

動揺を隠しきれていないダイヤの許可を得ると、ルビィ達の表情がパッと晴れやかなものになる。

 

「いいんじゃないの?一年生同士で色々話したいこともあるだろうし」

 

一人だけ二年生が混ざっているはずなのだが、背丈があまりルビィ達と変わらないせいで全く違和感がない。

 

思わず笑いそうになるのを堪え、未来はステラから視線を逸らした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ルビィ達を置いて帰りの飛行機に乗った千歌達。

 

数日間の思い出に浸りながら、函館の街に別れを告げようとしていた。

 

「来てよかったね」

 

「うん!すごく。私達の知らないところでも、スクールアイドルは同じように頑張ってるんだなあって……」

 

「食べ物も美味しかったし!」

 

『街も綺麗だったね』

 

シート越しの会話をしながら窓を眺め、眼下に広がる景色を見る。

 

すっかり小さくなってしまった街がほんの少しだけ名残惜しい。

 

「あぁ……ルビィ……」

 

そんななか携帯の待ち受けを見つめてため息をつく者が一人。

 

「何か気に入らないことでもしたんじゃないの?」

 

「そんなこと!」

 

急に大声を上げたダイヤに他の乗客達の視線が集まった。

 

「お客様!?」

 

「ああ、だいじょぶでーす!……でもあの様子、明らかに何か隠してる感じだったけど……」

 

「メンバーが分かれてSaint Snowの家に……。もしかして……!!」

 

Aqoursを脱退して「Saint Aqours Snow」を結成するのでは——!?と、よからぬ想像をかき立てる鞠莉。

 

先ほどから心配で胸が張り裂けそうになっていたダイヤはそれを聞いてまたも悲鳴に近い否定を叫んだ。

 

「ブッブーーーー!!ですわぁーーーー!!」

 

「お客様ぁ!?」

 

「お、落ち着いて……」

 

「イッツジョーク……」

 

未来も少しだけ考えてはみるが、そういえばステラが残る理由は聞いていてもルビィ達の事情は把握していなかった。

 

「そうじゃないと思うよ」

 

「え?」

 

不意に千歌が口を開く。

 

「たぶん、あれは……」

 

「あれは?」

 

「うーん…………いーわない!もう少ししたらわかると思うよ!」

 

焦らされたことでダイヤの疑問と不安が同時に爆発し、三度機内に彼女の悲鳴が轟くこととなった。

 

「そんなぁ〜!!」

 

 

◉◉◉

 

 

「ここが理亞ちゃんの部屋?」

 

再び鹿角家へと戻って来たルビィ達。

 

理亞の部屋へと案内され、好奇心のままに周囲を見渡す。

 

「好きに使っていいけど、勝手にあちこち————」

 

「うわぁ……!綺麗ずら!」

 

棚に置いてあったスノードームを手に取る花丸だったが、すぐさま彼女の手の中から理亞が奪うようにして取り返す。

 

「勝手に触らないで!」

 

「雪の……結晶?」

 

ステラが尋ねると、理亞はなぜだか眉を下げて語り始めた。

 

「……そう。昔……姉様と雪の日に、一緒に探したの。……二人でスクールアイドルになるって決めた。あの瞬間から、雪の結晶を……Saint Snowのシンボルにしようって」

 

スノードームを優しく棚に戻し、再びこみ上げてきた悔しさに胸を痛めながら彼女は続ける。

 

「……それなのに……、最後のラブライブだったのに……」

 

「綺麗だね」

 

悲しげな雰囲気を追い払うようにルビィが小さく言う。

 

「当たり前でしょ!姉様が見つけてきたんだから!ほら、あなたの姉より上でしょ?」

 

「……!そんなことないもん!お姉ちゃんはルビィに似合う服すぐ見つけてくれるもん!」

 

「そんなの姉様だったらもーーーーっと可愛いの見つけてくれる!」

 

「そんなのーーーーっ!!」

 

二人による姉自慢争いが激化するなか、花丸と善子、ステラは目を丸くしてその光景を眺めていた。

 

「こんな強気なルビィちゃん……!」

 

「初めて見た……!」

 

(性格は正反対だけど……)

 

二人のなかの共通点。きっとそれが、今回ルビィを動かした理由。

 

「ほんと、姉のことになるとすぐムキになるんだから」

 

「それは……お互い様だよ」

 

「そうかも」

 

お互いに顔を見合わせて微笑むルビィと理亞。

 

真逆に見えるが、もしかしたら二人は————ダイヤや聖良とも違う性質の、心を許せる相手なのかもしれない。

 

「皆さん……本当に戻らなくて平気なんですか?」

 

ノックと同時に扉が開かれ、メイド服姿の聖良が顔を出す。

 

「あ、はい」

 

「他のメンバーに頼まれて、どうしてもこっちでやっておかなきゃいけないことがあるずら!」

 

「あぁ、そうですか……」

 

花丸がそう説明した後で聖良の前に善子が歩み出て、頭を下げる。

 

「こちらこそ、急に押しかけてしまって……すみません」

 

「いえいえ、うちは全然平気なんですけど。では……ご飯ができたら呼びますね」

 

そう言い残して去っていく聖良。

 

普段では見られない善子の姿に、皆珍獣でも見るかのような目を向ける。

 

「……なんとかごまかせたわね」

 

「善子ちゃんが……」

 

「ちゃんと会話してる……!」

 

「いつもこうならいいのに」

 

「ヨハネ!あんた達に任せておけないから仕方なくよ!仕方なく!……堕天使はちゃんと世に溶け込める術を知ってるのだ!」

 

「みんな意外な一面があるずら」

 

「隠し持っている魔導力と言ってもらいたい!」

 

近くで見てきたはずのステラも驚くばかりである。

 

……近くにいたからこそ見えにくい、とも言うのか。

 

「でも……そうかも!」

 

「え?」

 

「ルビィ最近思うの。お姉ちゃんや上級生から見れば頼りないように見えるかもしれないけど、隠された力がたくさんあるかもしれないって!」

 

ルビィの言葉を聞いて、何か閃いたように挙手しては言う。

 

「じゃ、決まりずら!」

 

「何が?」

 

ピースサインを見せながら彼女は口を開いた。

 

「歌のテーマずら」

 

 

◉◉◉

 

 

姿を隠しながら鹿角家を観察している者が一人。

 

「あのガキ共は……」

 

そのなかに紛れているウルトラマンの姿を見たグローザムは、不気味な笑い声を響かせた。

 

「前に氷漬けにしてやった女……?なぜここに……」

 

ウルトラセブンを追ってこの地に来たが、ここには自分に対して有利な環境が揃っている。

 

能力差を考えても負けることはないだろう。

 

「……ク……クハハハ……!」

 

セブンはそう簡単に姿は見せない。ならば————

 

「まずはあのガキを処刑し、餌にする他はあるまい……!」

 

 




ステラのよからぬフラグが立ちまくりですね……。
次回はついにグローザムとの戦闘に。

解説です。

二章から読み進めた方は把握していないと思いますが、ステラの故郷であるノイド星はアークボガールとその仲間達によって滅ぼされています。
その因縁も断ち切り(外伝参照)、エンペラ星人との戦いが終わった後はどのような道へ歩もうとするのか。

それでは次回もお楽しみに。

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