メビライブ!サンシャイン!!〜無限の輝き〜   作:ブルー人

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8話後半です。
セブンがステラとヒカリを呼び出した理由とは……。


第85話 絶対零度の影

「「「うわぁ〜!!」」」

 

タワーの展望台から見える巨大な城郭を見て揃って声を上げる千歌達。

 

今いるのは五稜郭タワー。函館の観光名所の一つである。

 

「すごい!すごーい!!」

 

「なんだか美味しそうな形ずらね」

 

星型にも見えるそれを眺めてはそれぞれで思い思いの感想を述べた。

 

「すごいな……変身した時の景色より高い……!」

 

『空を飛んでるみたいだね』

 

五稜郭を見て「魔法陣みたい」とはしゃぎだす善子。土方歳三の銅像に目を輝かせる曜。ガラス張りの景色に足を竦ませる果南。

 

満喫している様子のみんなを見て、未来は残念そうに肩をすくめた。

 

「もったいないなあ、ステラも来れればよかったのに」

 

「そういえばステラちゃん、何かあったの?」

 

「別件があるとかどうとか言って————」

 

何気ない曜との会話の最中、何やら思い詰めた表情のルビィが視界に入る。

 

「あっ!ちょっと見て見て未来くん!」

 

「ぐおっ……!」

 

千歌に強引に腕を引かれて連行される未来。

 

もう一度背後を向きルビィの様子を確認した時には、いつも通りの笑顔がそこにあった。

 

 

◉◉◉

 

 

「なんか落ち着くね、ここ」

 

「内浦と同じ空気を感じる」

 

「……そっか。海が目の前にあって、潮の香りがする街で、坂の上にある高校で……」

 

ふと背後にある坂道を見上げ、登っていた高校生達と会釈を交わす。

 

「繋がってないようで、どこかで繋がってるものね、みんな……」

 

「お待たせずら〜」

 

ずしずしと曇った声音で歩いてくる足音が聞こえ、再び身を強張らせる未来。

 

またも大量に上着を着込んできた花丸が迫ってきたのだ。

 

「ピギィ〜……!!」

 

「また!?」

 

「なんでまた着てくんのよ!?」

 

「止まれ止まれ!!」

 

手を左右に振って制止しようとするのも虚しく、再び花丸の下敷きになる善子、ルビィ、曜、そして未来。

 

「学習能力ゼロですわ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しばらく周辺を歩き、鞠莉のティータイムにでもしようか、という提案を聞いて近くにある店へと寄る。

 

「と、いうことで!」

 

「くじら汁……?」

 

「向こうじゃ見ないな……」

 

道南の正月料理としても有名な料理だ。

 

外に貼り出されているメニューの一部を見た後、ゆっくりと戸を開ける。

 

「すいませーん……」

 

店内に向かって呼びかける千歌だったが、店員らしき人の出迎えどころか返答もない。

 

「すいませーん!……あれ?」

 

「“商い中”……って書いてはいるけど……」

 

「うぅ……とりあえず中に入れて欲しいずら……」

 

冷たい風に吹かれて凍えている花丸を見やり、仕方がないと店内に足を踏み入れる。

 

「じゃあ、失礼しまーす!」

 

「うぅ、やっと助かるずら……」

 

店の中は暖房も炊いてあり、ポカポカとした和みのある空気に包まれていた。

 

適当な席に座り、メニュー表を手に取って目を通すと、ますます今ここにいないステラがかわいそうになってくる。

 

「……あいつの好きそうなのばっかりだ」

 

『持ち帰りってできるかな……?』

 

ざわざわとした店内の雰囲気を感じ取ったのか、店の奥から誰かがやってくる音が聞こえてきた。

 

「すいません!今ご注文を————」

 

黄色いメイド服姿で登場したのは、千歌達も見覚えのある人物だった。

 

「鹿角……聖良さん……!?」

 

「えっ……!?皆さんは……」

 

今まで見たことのない彼女の姿に思わず固まる未来。

 

……この店は、Saint Snowの姉妹二人の実家だったのだ。

 

 

◉◉◉

 

 

「…………」

 

『機嫌を直してくれステラ』

 

「べつに怒ってないわよ」

 

『スイーツの買い置きは彼らに頼んだのだろう?』

 

「そういうことじゃないの!みんなと歩いて、その場で一緒に食べるのが美味しく感じるってものでしょ!?」

 

『やっぱり怒っているじゃないか』

 

困った子だ、と彼女の体内で肩をすくめるヒカリ。

 

セブンに指定された場所は函館山の山頂。ロープウェイに乗りながら、ステラは微かに頬を膨らませていた。

 

彼女が握っている携帯の画面には一枚の写真が表示されている。

 

「未来の奴……わざわざメニューの写真なんて送ってきて……」

 

『助かるじゃないか。どれを買っておくか選んでくれ、という意味だろう?』

 

「余計に今食べられないのが悲しくなるじゃないの」

 

『理不尽な……』

 

彼女はいつもヒカリの意外なところでムキになるので扱いが難しい。

 

娘がいたらこのような感じなのか、と何度思わされたことか。

 

 

 

山頂に着くと、ステラの他にも何人か景色を楽しんでいる者が確認できた。

 

昼間だからなのか、予想していたよりもずっと空いている。

 

「待っていたよ」

 

ロープウェイの機内から降りると、待ち構えていたかのように横から声をかけられる。

 

少々老年に見える男性が、そこに立っていた。

 

「あなたが……ウルトラセブン」

 

「本当は夜に呼びたかったが……あいにくと急いでいてね。なに、昼でも十二分に綺麗な景色だ」

 

彼の後ろについて行き、横に並んで函館の街を見下ろしながら話した。

 

「君達が北海道に来ていると知った時は驚いたよ。ちょうど新しい仕事を頼もうと思っていたところなんだ」

 

『新しい仕事……?』

 

「また討伐任務?」

 

「いや」

 

セブンは不意に空を見上げ、太陽のある方向を指し示した。

 

「近頃、太陽に異変が起きている。現場に向かって、詳しい様子を観察してきて欲しい」

 

「……!太陽が……!?」

 

彼の口から飛び出した用件は、あまりにも突拍子のないことだった。

 

なんでも太陽に原因不明の黒点が現れ、現在も徐々に面積を広げているそうなのだ。

 

「我々はエンペラ星人が怪獣をおびき寄せるために設置した、時空波発生装置の位置の特定で手が離せない。どうか引き受けてはくれないだろうか?」

 

顎に手を当てて考え込む。

 

このままいけば地球に送られる太陽光は消え去り、永遠の闇が訪れる。

 

……こんなことをするのは————十中八九奴しかいない。

 

「それもエンペラ星人の仕業……よね」

 

『……以前から気になってはいたが、時空波を発生させているというのに地球へやってくる怪獣の数も一致しない』

 

「おそらく……それは地球へ送るのではなく()()()いるのだ」

 

怪獣を引き寄せる時空波で周辺にそれらを集め、凄まじい数の怪獣軍団を構成する。

 

それが……エンペラ星人の目的。

 

それに加えて太陽の黒点だ。間違いなく何かを始めようとしている。

 

「まるで……戦争でもやるつもりみたい」

 

ふと感じた寒気を紛らわすように、ステラは自分の手に息を吐いて温めた。

 

「……ここ数日間、周辺の気温が特に低下している。もしや————」

 

「……?」

 

何か言いかけたセブンに首を傾ける。

 

「……エンペラ星人の部下のことは把握しているか?」

 

『ああ、その内ヤプールは既にメビウスとエースによって倒されたはずだが……』

 

「もしも、だ。グローザムという宇宙人と遭遇した時には極力戦闘を避けなさい」

 

「……え?」

 

そう言い残したセブンはステラに背を向け、ロープウェイ乗り場へと足を運んでいく。

 

どうやらこれで話は終わりらしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『グローザムは四天王の一人。……グローザ星系人という種で、氷を操る能力を持つのが特徴だ』

 

考えをまとめるため、ステラは暗くなるまで当てもなく函館の街を歩いていた。

 

「どう考えても……以前戦った奴のことよね……」

 

青いフードを被った男。ステラを重傷になるまで追い込み、果南を連れ去った張本人。

 

思い出しただけで怒りが湧き上がってくる。

 

「……あいつが……近くに……」

 

ギリ、と歯が軋む音。

 

やがて赤レンガ倉庫が並ぶ場所にたどり着いたステラは、道の隅で立ち止まって言った。

 

「……ヒカリ」

 

『俺達で倒そう、か?』

 

「うん」

 

強く頷いたステラに、ヒカリは少々困った様子で唸った。

 

『記録によれば、奴は凄まじい再生能力を持つと聞く。……先ほど会ったセブンと戦い、引き分けにまで持ち込んだ恐ろしい奴だ』

 

「再生ね……。わたし達の鎧と根比べってところかしら」

 

『……ちょっと待て、まだ戦うと決めたわけではないぞ』

 

はっきり言って奴はメビウスと共闘してでも倒し切れるか怪しい。おまけに函館はウルトラマンにとって活動しにくい気候だ。

 

『慎重に事を運ぶべきだ。でなければ……以前と同じように、敗北するだけだ』

 

「恨みだけじゃない」

 

ヒカリの言葉に語気を強めて言い放つステラ。

 

ここでグローザムが暴れて何もしなければ当然犠牲は出る。増援なんか待つ暇はない。

 

「……何もできずに、人の悲しい顔を見ることしかできないのは……もうやだ」

 

病院のベッドから眺める景色は最悪だった。

 

浮かない顔でこちらを見下ろす千歌達。あのまま未来とメビウスが果南を取り戻してくれなかったら、どうにかなっていたかもしれない。

 

『……まったく。しかしどうする?数日もすれば俺達はここを去る予定なのだろう?』

 

「わたし達だけ残りましょう。太陽の異常を調べるのは、グローザムを倒した後でも間に合うわ」

 

強引な彼女にため息をつかずにはいられないヒカリであった。

 

 

 

「……ん?」

 

しばらく歩いて行くと、巨大な電子装飾が施されたクリスマスツリーの前に出た。

 

その下に立つ二人の少女が視界に入り、反射的に名前を呼ぶ。

 

「ルビィ」

 

「……あ!ステラちゃん」

 

ルビィの隣に立ち、こちらへつり目を向けてくるツインテールの少女。

 

「あなた……」

 

Saint Snowのメンバー、鹿角理亞だった。

 

「遅かったね、未来くん達心配してたよ?」

 

「え、ええ……。どうしてここに?」

 

不意に駆け寄ってきたルビィがステラの手を握り、前触れもなく言った。

 

「ステラちゃんにも、協力してほしいことがあるの!」

 

「…………へ?」

 

 




太陽の黒点や時空波についての話が出ました。こちらも元の設定とは少しだけ絡み方が違います。
ルビィとダイヤの話も省かれているので、そこはサンシャイン本編を視聴することをお勧めします。

では解説です。

グローザムの再生能力は確か質量が小さくなった状態で受ける熱ダメージには耐えられませんでしたよね。
しかし今作ではGUYSのようなサポートしてくれる防衛隊がいません。つまりウルトラマン達の力のみで倒さなくてはなりませんね。
ステラとヒカリはどうやって奴を倒すつもりなのか……?

次回から9話に突入します。

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