メビライブ!サンシャイン!!〜無限の輝き〜   作:ブルー人

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最近ほんとに寒くなりましたね。
僕のいる所は部屋の中もほっとくと10度くらいになるので……
皆さんも体調管理、気をつけてください(・・)ゝ

というわけで今回から8話、「HAKODATE」に入ります。


第84話 北の輝き

「どこだ……!どこにいる……!!」

 

吹雪のなか、建物の上を渡りながら移動する影が一つ。

 

……やっと見つけた。かつての戦争で相対し、仕留めることの叶わなかった相手。

 

青いフードを深く被ったそれは、怨敵の名前を繰り返しながら宙を舞った。

 

「ウルトラセブン……!!」

 

氷結の悪魔は唸る。

 

宿敵の潜んでいる位置がわかった矢先。ウルトラマンメビウスを抹殺するという目的も忘れ、男はただ過去の恨みに目を向けていた。

 

「今度こそ……俺は貴様を殺す……!!」

 

 

◉◉◉

 

 

「さっっっっむ!!」

 

正面からぶつかってくる雪の嵐に抗いつつ、未来は悲鳴にも似た声を上げた。

 

視界が白く塗りつぶされ、まともに歩くこともできない。

 

「ここ……どこ?」

 

「何も……見えませんわね……!」

 

「天は……ルビィ達を……」

 

「見放したずら……」

 

「よく知ってるなそんなセリフ……」

 

厚着をしてはいるが、それすらも貫通してくるような冷たい風の槍。いや壁だ。

 

ウルトラの星には冬という季節が存在せず、寒い環境には上手く対応することができない。故にメビウスやヒカリを宿している未来とステラも今回ばかりは少々キツイのだ。

 

「……ふん、こんなの……前に喰らった冷気に比べればどうってことないわ」

 

「死ぬほど震えながら言うセリフかなあ」

 

青ざめた顔で自らの身体を抱えているステラを一瞥した後、改めて前方へと視線を向けた。

 

「なんだか眠くなって……」

 

「私も……」

 

「ダメだよ!寝たら死んじゃうよ!寝ちゃダメ!」

 

オレンジ色の覆面を身につけた千歌が膝を曲げた曜と梨子の肩を揺する。

 

「これは夢だよ……ゆめ……」

 

「そうだよ……。だって内浦にこんなに雪が降るはずないもん……」

 

「じゃあこのまま目を閉じて寝ちゃえば、自分の家で目が覚め————」

 

「……ないと思うぞ」

 

ふっと一時的に止んだ吹雪の隙をつき、目の前にある駅を見上げた。

 

函館駅、と表示されているそれは間違いなく現実のもの。……そう、

 

「ここ、北海道だし」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いやぁ〜!はるばる来たね、函館!」

 

風も収まり、周囲の景色もはっきりしてきた頃。

 

駅前に集まった千歌達。なぜ彼女達がわざわざここまで足を運んできたのかというと————

 

「まさか地区大会のゲストに——」

 

「招待されるなんてね……!」

 

果南の手にあるチラシには「地区予選大会観覧のご案内」の文字があった。

 

ここ北海道で開催される地区予選に、なんとAqoursの九人がゲストとして招待されたのだ。

 

「……うぅ、寒い……」

 

「寒いの嫌い」

 

「曜ちゃん、もうちょっと厚着した方がいいわよ」

 

「ステラもいつものコートと帽子だけじゃキツイぞ……っていだぁ!」

 

うっすらと張られた氷のせいで足を滑らせた未来は、そのまま吸い込まれるように尻餅をついた。

 

「未来くんも雪道でいつもの靴履いてちゃダメだよ……」

 

「用意する暇がなくて……」

 

内浦の環境とは全く違った、というか正反対なそれに戸惑うばかりである。

 

異世界にでも迷い込んでしまったのかと思うほどに路面の状況から積雪に至るまで、何もかもが違う。

 

「その通りデース!」

 

「そんな時こそコレ!」

 

「「じゃーーん!!」」

 

ダイヤと鞠莉は身体を寄せ合い、揃えた片足の靴裏を見せてきた。

 

滑り止めが施された冬仕様の靴だ。

 

「これでバッチリデース!」

 

「さすがお姉ちゃん!」

 

「「これで例えこのような雪山でも、ご覧の通り!!」」

 

言った直後に穴の開いた雪山に埋もれる二人を見て呆れた顔を浮かべる千歌達。

 

「お待たせずら〜」

 

「あ、花丸ちゃ————」

 

横から飛んできた花丸の声に反応して振り向くも、彼女の異様な姿に未来は言葉を失った。

 

いつもよりひと回り、ふた回りと大きくなった身体がこちらに迫ってくる。

 

「やっとあったかくなったずら〜」

 

「花丸ちゃん!?」

 

「どんだけ着込んでるんだよ!!」

 

皆のツッコミが入った直後、バランスを崩した花丸がごろりと倒れこんでくる。

 

「ちょっおま——」

 

「「うわぁああああ!?」」

 

未来、曜、善子、ルビィの四人を巻き込んで巨大な球体と化した花丸が上にのしかかってきた。

 

「もう……」

 

相変わらず騒がしいみんなの様子を尻目に、ステラはふと上空を見上げる。

 

『……どうかしたのか?』

 

「……今、何か通ったような……」

 

じっと目を凝らして周囲を探るが、特に変わったものは見られなかった。

 

「……くしゅんっ!」

 

『大丈夫か?』

 

「……やっぱり寒いのは嫌い」

 

 

◉◉◉

 

 

ライブが始まる直前、Saint Snowの二人に挨拶へ向かおうとしていた千歌達。

 

その道中で他校の生徒から記念撮影をお願いされる等、決勝へ進むことがどれだけ凄いのか改めて感じさせられる事が多々あった。

 

「さて、未来くんは外で待っててね」

 

「へ?」

 

「バカ、女の子の控え室にズカズカ入るつもり?」

 

「あっ……そうか、了解」

 

ぽつん、とほんの少しだけ寂しそうな顔になった未来を廊下に残し、ステラは千歌達に続いて部屋の中へと足を踏み入れた。

 

「失礼しまーす……。Saint Snowのお二人は……」

 

「はい?……ああ!お久しぶりです」

 

既に白いライブの衣装に身を包んだサイドテールの少女、鹿角聖良が鏡の前にある椅子に腰掛けていた。

 

その横に座るイヤホンをつけて目を閉じているツインテールの少女は、聖良の妹である理亞だ。

 

「ごめんなさい、本番前に……」

 

「いいえ。今日は、楽しんでってくださいね。……皆さんと決勝で戦うのは、まだ先ですから」

 

「はい、そのつもりです」

 

聖良の揺るぎない、自信に満ちた表情を見て、ステラは流石だなと感心した。

 

以前会った時も同じだった。この人は自らの勝利を疑わない。それだけの努力を積み重ねてきたのだろう。

 

「お二人とも、去年の地区大会は圧倒的な差で勝ち上がってこられたし……」

 

「……また見せつけるつもり?」

 

イベントでのライブは忘れもしない。

 

千歌達の心を打ちのめし、そして成長させたあのパフォーマンス。

 

今回も、もしかしたら————

 

「いえいえ、他意はありません。それにもう……皆さんは、何をしても動揺したりしない」

 

「どういう意味ですの?」

 

「Aqoursは、格段にレベルアップしました。今は紛れもない優勝候補ですから」

 

「優勝候補……」

 

再び自分達の置かれている立ち位置を自覚し、静電気のような緊張が身体の芯を通る。

 

聖良は席を立ち、深々と頭を下げては言った。

 

「あの時は失礼なことを言いました。……お詫びします」

 

「聖良さん……」

 

不意に差し出された手を一瞥し、千歌は彼女と目を合わせた。

 

「次に会う決勝は、Aqoursと一緒に…………ラブライブの歴史に残る大会にしましょう!」

 

突然の真っ直ぐな宣戦布告を聞き、慣れていない雰囲気もあってか千歌は一瞬戸惑ってしまった。

 

「千歌ちゃん」

 

「ここは受けて立つところデース」

 

「……うん!」

 

自分のコートでごしごしと手を擦った後、聖良の右手とガッチリ握手を交わした。

 

「……理亞!理亞も挨拶なさい!」

 

背後に佇む妹を呼びかけるが、本人は依然目を閉じたままだ。

 

聞こえていないのか。それとも聞こえているがだんまりを決め込んでいるのか。

 

「理亞!」

 

「ああ、いいんです!……本番前ですから」

 

「……ん」

 

傍で理亞の様子を眺めていたステラが視線を落とすと、彼女の重なった両手が震えていることに気がついた。

 

他にそのことに気づいている者はただ一人。

 

先ほどから気にかけるように理亞を見ていた————ルビィだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うわぁ〜!すごい声援だ!お客さんもいっぱい!」

 

千歌達が案内されたのはステージに対して左側、その上層の席だった。

 

見渡す限りの観客が持つサイリウムの光が広がり、会場内を照らしている。

 

「観客席から見ることで、ステージ上の自分達がどう見えているか……」

 

「どうすれば楽しんでもらえるかも、すごい勉強になるはずだよ」

 

「だよね……!」

 

未来とステラはいつも観客席からライブを見ているが、やはりステージに上がる本人達が見ると学べる点も違う。

 

「それで、Saint Snowの二人は……」

 

「プログラムによれば、確か次だけど……」

 

パッと照明の色が変わり、紫がかった光がステージの上を彩った。

 

その中心で背中を合わせて直立しているのが、Saint Snowの姉妹二人。

 

「イッツショータイム!」

 

序盤からギター音が鳴り響き、これから始まるライブのボルテージをさらに引き上げる。

 

そしてついに彼女達が動き出————

 

 

◉◉◉

 

 

地区予選が終わり、千歌達は結果が表示された巨大なモニターの前に集まっていた。

 

一位「Super Wing」、二位「あしも☆え~る」、三位「Kiss Bear」。

 

ランキング上位三組に載ってあるそれらの名前を見て、息を呑む。

 

……Saint Snowは————

 

「……びっくりしたね」

 

「まさか、あんなことになるなんて……」

 

「これが……ラブライブなんだね……」

 

「一度ミスをすると、立ち直るのは本当に難しい……」

 

じっとランキングを見つめ続けるルビィの横で、ステラは瞳を細めて数時間前の出来事を思い出した。

 

ライブが始まってすぐに彼女達はお互いに身体を衝突させてしまい、バランスを崩して転倒してしまったのだ。

 

その後は動揺したせいでやり直しも効かず、結果はそのまま————

 

「……あの子」

 

「……へ?」

 

突然ステラに声をかけられたことでほんの少し肩を跳ねて驚くルビィ。

 

「理亞って子、震えてたの気づいてたでしょ?本番前の控え室で……」

 

「あ……うん。ステラちゃんも?」

 

小さく頷いた後、今度は千歌達の方へと視線を向ける。

 

ライブを行う数分間、たった一度のミスが全てを終わらせる。

 

これまでの努力も、成果も、全て泡沫のごとく————一瞬で。

 

一歩間違えればAqoursも同じ道を辿る可能性がある。

 

 

 

「はい、どうぞ」

 

「失礼します」

 

再び控え室に戻り、Saint Snowを訪ねようとした千歌達だったが……。

 

扉の先にはもう、彼女達の姿はなかった。

 

代わりに同室していた少女達が二人の経緯を話してくれた。

 

「……Saint Snowの二人、先に帰られたみたいです」

 

「この後、本選進出グループの壮行会あるんですけど……」

 

「控え室で待ってるって、聖良さん達言ってくれたのに……」

 

残念そうに語る彼女達の声は徐々に小さくなっていった。

 

鏡の前に二人の姉妹の姿を幻想する。

 

「今日は、いつもの感じじゃなかったから……」

 

「ずっと……理亞ちゃん黙ったままだったし……」

 

「……あんな二人、今まで見たことない……」

 

「あれじゃあ動揺して歌えるわけないよ……」

 

「それにちょっと、ケンカしてたみたい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夕暮れ時。

 

路面電車に乗り自分達のホテルへと向かう千歌達だが、なかなか昼間の出来事が頭から離れてくれない。

 

未来はふと、以前スクールアイドルについて調べていた時に視聴したSaint Snowのライブ動画を思い出していた。

 

「……あの二人も、千歌達と同じように努力してここまで這い上がってきたんだ」

 

「それが最後の大会でミスして、ケンカまで……」

 

「たしかに……」

 

ステラは最後、という単語を聞いてルビィの肩が微かに震えるのを見た。

 

「ルビィ、寒いの?」

 

「えっ?ううん、大丈夫。ありがとね」

 

自分から目を離した直後、彼女の視線が無意識にダイヤの方を向いたのを見てしまう。

 

「…………」

 

「やっぱり、会いに行かないほうがいいのかな……」

 

「そうね!気まずいだけかも!」

 

無理に場を和ませようと明るく振る舞う善子。

 

しんみりとした空気のなか、鞠莉も穏やかに口を開いた。

 

「私達が気に病んでも仕方のないことデース」

 

「そうかもね」

 

「あの二人なら大丈夫だよ」

 

「仲のいい姉妹だしね」

 

「……うん」

 

段々と湿った雰囲気が晴れていき、皆も少しずつ笑顔を取り戻してきた。

 

「じゃあこの後は、ホテルにチェックインしてー」

 

「明日は晴れるらしいから、函館観光だね」

 

話がまとまり、ようやくみんなの余裕も戻ってきた頃。

 

『……ステラ』

 

「ん?…………あ」

 

顔を上げ、そこに描かれた光の文字が視界に入った。

 

ウルトラサイン。光の国における連絡手段の一つ。

 

(差出人は?)

 

『セブン……ウルトラセブンだ』

 

(セブンってたしか……)

 

以前アークボガール討伐任務を担った時、共に戦ったウルトラマンゼロの父親。宇宙警備隊のなかでも指折りの実力者と聞く。

 

そんな彼が自分達に何の用だろうか。

 

『……明日、指定した場所に来て欲しいとのことだ』

 

(……あした?)

 

『ああ。君には悪いが、函館の甘味を味わうのはお預けだな』

 

さあ、と無表情のまま青ざめた顔を隣に座っていた未来に向け、彼の腕をやや強めにつねる。

 

「いででで……!なんだよ……!」

 

「別件ができて明日は一緒に行動できないから、何か甘い物とか見つけたらわたし用に持ち帰ってちょうだい」

 

『なるほど、その手があったな』

 

『「別件……?」』

 

首を傾ける未来とメビウスを尻目に、ステラはうっすらと瞳を潤すのであった。

 

 




放送前から待ち望んでいたSaint Snowメイン回。まさか実現してくれるとは思いませんでした。
公式さんありがとう。

では今回の解説です。

日本各地に調査へ出ているウルトラ兄弟達。セブンが北海道に潜伏しているのは話の都合もありますが、役者さんが北海道出身ということなので関連付けてみました。
今作ではウルトラ大戦争勃発時にグローザムと戦い、その能力故にお互い引き分けた設定です。

次回からは久しぶり(?)にステラとヒカリ視点になると思います。

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