メビライブ!サンシャイン!!〜無限の輝き〜   作:ブルー人

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7話に入りました。
アニメでは廃校問題について関わる重要な回でしたね。


第82話 足掻いた先に

『それでは皆さん!!ラブライブ、ファイナリストの発表でーーーーす!!』

 

マイク越しのハイテンションな声が結果発表の時間を告げる。

 

ステージに立つ出場者達、そして彼女達を応援していた観客席の人達。

 

会場内にいた全ての人間が、息を呑んで巨大なモニターに視線を注いだ。

 

(決勝へ進めるのは……たったの三組だけ……!)

 

自然と手に汗がにじみ、身体に力が入る。

 

様々な色のグラフが上昇していく演出のなか、水色の線が驚異的な速度で走っているのが見えた。

 

(頼む……!)

 

『上位三組はぁ……!このグループですっ!!』

 

思わず瞳を閉じてしまった未来だが、周囲から湧き上がった歓声にあてられてすぐにモニターを視界に入れた。

 

「……あ、くあ」

 

金、銀、銅と三つのグループ名が上に表示されている。

 

一位のところに表示されている名前は、「Aqours」だ。

 

何度も目をこすって確認した後、未来は溜め込んでいた想いを爆発させた。

 

「いよ…………っしゃああああああ!!」

 

大きく拳を突き上げた未来に周りの観客の視線が集まる。

 

そのなかにステラの冷たい瞳が混ざっているのを見て我に返った未来は、小さな声で謝った後に再び腰を下ろした。

 

『やったね、千歌ちゃん達』

 

「みんなの努力が報われてよかったよ」

 

あれだけ練習したんだ、結果が出た時は嬉しいに決まってる。

 

ステージ上で喜ぶ千歌達の姿を見下ろし、未来は目尻に浮かんだ涙を手で軽く払った。

 

 

◉◉◉

 

 

「緊張で何も喉が通らなかったずら……」

 

「あんたはずっと食べてたでしょ!」

 

制服に着替えた千歌達が安心した様子でしみじみと感傷に浸る。

 

「それにしてもアキバドームかあ……!」

 

「どんな場所なんだろうね」

 

それぞれでいい曲を作りたい、ダンスや衣装をもっと頑張りたいと、早速次のライブでの話題が飛び交う。

 

「みんな張り切ってるな」

 

『……ん?あ、あれ!』

 

「どうしたメビウス————」

 

ふと横に顔を向けると、大きなモニターに映る千歌達の姿が目に飛び込んできた。

 

衣装からして先ほど行われたライブの映像だろう。

 

五万近くなっても次々と増えていく視聴回数の数字に驚愕し、声を上げるルビィ達。

 

「本当……こんなにたくさんの人が……」

 

「……正真正銘、千歌達みんなが勝ち取った数字だな」

 

ゼロなんてものとはほど遠い、さらなる高み。

 

前回突破できなかった壁を、彼女達はぶち破った。

 

「生徒数の差を考えれば当然ですわ。これだけの人が見て、私達を応援してくれた」

 

「……あっ!じゃあ入学希望者も!」

 

弾かれたように鞠莉のもとへ皆の視線が集まる。

 

言われるまでもなく、と彼女は既に入学希望者数の確認画面を見ていた。

 

「どうしたのよ?」

 

「うそ、まさか……」

 

鞠莉の口から絞り出すような声が漏れた。

 

「携帯、フリーズしてるだけだよね?昨日だって何人か増えてたし……。まったく変わってないなんて……」

 

「鞠莉ちゃんのお父さんに言われてる期限って、今夜だよね!?」

 

不安そうに尋ねるルビィに続くように、皆の表情が曇っていく。

 

重苦しい雰囲気を壊すように、ダイヤの柔らかな言葉が通った。

 

「大丈夫、まだ時間はありますわ。学校に行けば正確な数はわかりますわよね?」

 

「……うん」

 

「よしっ!」

 

小さく手を広げた千歌は、いつもと変わらぬ笑顔でみんなに向けて言った。

 

「帰ろうっ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ちょっと待ってて」

 

夜八時に学校へ到着したAqours。

 

正確な数字を確認するため、パソコンを操作する鞠莉を食い入るように眺める。

 

「どう?」

 

「……変わってない」

 

「そんな……」

 

「まさか……天界の邪魔が!?」

 

相変わらずな善子に花丸とルビィの冷えた視線が刺さる。

 

現在の希望者数は八十。統廃合の話が無くなるまで、あと二十人。

 

「……じゃあ、あと四時間で……?」

 

「Aqoursの再生数は?」

 

「ずっと増え続けてる」

 

視聴回数と入学希望者数は、当然ながら一致するものじゃない。

 

……どこかで必ず限界が生じる。Aqoursと浦の星の、認識の差が。

 

「……パパに電話してくる」

 

おもむろに立ち上がった鞠莉と、続くようにダイヤが部屋を出る。

 

やり場のない緊張感と不安を内に留めたまま、千歌達は理事長室で過ごすこととなった。

 

 

◉◉◉

 

 

「遅いな……鞠莉さん」

 

かれこれ一時間経った、夜の九時。

 

何度もパソコンを確認しては彼女の吉報を待つのみだ。

 

「向こうは早朝だからね。なかなか電話が繋がらないのかもしれないし——」

 

不意に扉が開かれ、微かに笑みを浮かべた鞠莉が前で手を組んで現れた。

 

「ウェイティングだったね」

 

「お父さんと話せた?」

 

「うん、話した。決勝に進んで、再生数がすごいことになってるって!」

 

「それで……?」

 

梨子の質問にはすぐ答えず、代わりに同行していたダイヤが口を開いた。

 

「なんとか明日の朝まで延ばしてもらいましたわ。……ただ、日本時間で朝の五時。そこまでに百人に達しなければ、募集ページは停止する、と」

 

「最後通告ってことね」

 

さすがにこれ以上は限界のようだ。

 

もともとあった期限がここまで引き伸ばされたんだ、鞠莉と彼女のお父さんがやってくれたことは計り知れない。

 

ふとかけてあった時計を確認する千歌。

 

「でも、あと三時間だったのが八時間に延びた」

 

「わあっ!今、一人増えた!」

 

興奮しながら報告してきたルビィを見て、ほんの少しだけ皆の緊張がほぐれる。

 

「やっぱり……!私達を見た人が、興味持ってくれたのよ!」

 

「ああ、このままいけばきっと……!」

 

その時、脇目も振らずに駆け出した千歌がドアノブに手をかけ、早口気味な口調で言った。

 

「千歌……!?どこ行く気だ!?」

 

「駅前!浦の星をお願いしますって、みんなにお願いして……それから……!」

 

明らかに焦燥に駆られている彼女を見て、そばに立っていたステラが落ち着かせようと声をかけた。

 

「……今からじゃ無理だと思うけど」

 

「じゃあ!今からライブやろ!?それをネットで————」

 

「準備してる間に朝になっちゃうよ?」

 

「そうだ————!」

 

振り向き、さらなる行動に出ようとする千歌のもとへ曜が走り、抱きつくかたちで彼女を制止させた。

 

「落ち着いて!……大丈夫、大丈夫だよ……!」

 

「……でも、何もしないなんて……!」

 

「安心しなさい。あなた達のライブは、きっと学校の助けになってくれる。客席から見てたわたしが言うんだもの」

 

普段のステラからは想像できない、根拠のない励まし。

 

みんなわかってる。……そうするしか、信じるしかないからだ。

 

「……そうだよね。あれだけの人に見てもらえたんだもん。……だいじょぶ、だよね」

 

「さあ、そうとなったら皆さん帰宅してください」

 

話がひと段落ついたところでダイヤからの指示が出る。

 

それを聞いたみんなはそれぞれ不安な表情に変わった。

 

「帰るずらか?」

 

「なんか一人でいるとイライラしそう……」

 

「落ち着かないよね、気になって……」

 

「だって?」

 

皆の様子を予想していたかのように果南がダイヤへ視線を流す。

 

「仕方ないですわね」

 

「じゃあ、いてもいいの!?」

 

「皆さんの家の許可と……理事長の許可があれば」

 

ちら、と目を横にいる鞠莉に向けたダイヤ。

 

当たり前だ、とでも言うように彼女は即答した。

 

「もちろん!みんなで見守ろう?」

 

「わあっ!また一人増えた!」

 

嬉しそうにパソコンを抱えて立ち上がったルビィにつられ、千歌達もまた空気が和らぐのを感じた。

 

「……っと」

 

「未来くん?」

 

唐突に腰を上げて扉のもとへ歩み寄る未来に反応し、何事かと声をかける千歌。

 

「ちょっと屋上で、外の空気吸ってくる」

 

「えー?ここにいようよー!」

 

「ずっとここで座ってたら緊張で胃がやられそうだからな」

 

冗談混じりのセリフを飛ばした後、ドアを開けて廊下に出る。

 

理事長室よりもほんの少し冷たい空気に眉をひそめながらも、未来は階段の方向へ足を踏み出した。

 

 

◉◉◉

 

 

夜風に当たりながら未来は目を閉じ、塀に寄りかかる。

 

「……百人、集まると思うか?」

 

『大丈夫だよ!千歌ちゃん達も……未来くんやステラちゃんだって、一生懸命頑張ってきたんだから!』

 

「こういう時には頼もしいよ、メビウス」

 

『褒めてる……?』

 

強張っていた身体が少しだけ緩み、未来はその場で塀に背中を預けつつ腰を下ろした。

 

「……前にステラに言われただろ、“学校のこと好きか”って」

 

『……うん、聞かれてたね。未来くんは“好きだよ”って答えてた』

 

「ああ、そうだ」

 

地面に顔を向けながら話す。

 

最近疲れているのか、情けない考えがよく頭に浮かんでくるのだ。

 

「俺は怪獣や宇宙人と戦ってるせいで、好きなこの学校に対しては何もしてやれてないなって……ちょっと悔しい」

 

ゆっくりと地べたに触れ、撫でるようにして感触を確かめる。

 

色んな人達が踏んできた、歴史のある校舎。

 

「だからその分は千歌達に任せて、俺はそのサポートをすれば満足って思ってたけど……なんか、今になってもやもやした気持ちが出てきてさ」

 

一人の生徒として、大切な人達と巡り会わせてくれた浦の星学院に感謝している。

 

生き物のような言い方だが、別に語弊ではない。

 

『……マイナスエネルギー、だね』

 

「え?」

 

『人がもたらす負の感情のことだよ。それが集まって怪獣を生み出してしまうケースもあるみたいだよ』

 

メビウスの話によれば生き物以外にも建築物、無機物等がマイナスエネルギーを発することもあるのだという。

 

「もしかしたらこの学校も、統廃合が悲しくて……怪獣とか生み出しちゃうかもな」

 

冗談半分でそう言ってみるも、後から自分が心の奥底でその仮説を信じていると未来は察した。

 

『あはは、どうだろうね。僕もまだ新人の身だから、詳しいことはよくわからないんだ』

 

最後に「戦いが終わったら勉強し直さないと」と、死亡フラグじみた言葉を口にするメビウス。

 

もしもこの学校が意思を持っていて、自分が統廃合になるとわかっているのなら————マイナスエネルギーを発してしまうのだろうか。

 

「ん?」

 

ふと階段の方へ視線を向けると、ひらひらと手を振って笑いかけてくる千歌の姿が見えた。

 

「来ちゃった」

 

真横に座る彼女からほんの少しだけ距離をとり、何気なく尋ねる。

 

「……みんなの様子はどう?」

 

「そわそわしてるけど、余裕はあるみたい。梨子ちゃんなんかお腹鳴らしちゃってさ!ルビィちゃんと花丸ちゃんと善子ちゃん、あとステラちゃんが買い出しに向かったよ」

 

「……ぷっ!梨子にしては珍しいな、俺もその場にいればよかった」

 

声を抑えて笑いを交わすも、すぐに意気消沈。曇った表情が浮き出てくる。

 

「……ねえ、さっきの話」

 

「……?」

 

「マイナスエネルギーとかいう……」

 

ぎくり、と肩を揺らす未来。

 

聞かれていたのか、と少々顔を引きつらせた。

 

「こんなこと言うのは変かもしれないけど……この学校は、私達の活動を嬉しく思ってくれてるのかな……?統廃合は嫌だって、思ってるのかな……?」

 

「……同じこと考えてたよ」

 

オカルトじみた話だが、こんな状況に置かれてみると気になってしまうものだ。

 

この学校の意思が、想いが。

 

千歌達の頑張りが————きちんと伝わっているのかどうか。

 

「それを聞くためにも……この学校には長生きしてもらわなきゃな!」

 

ニッと半ば無理やり笑って見せた未来を見て、千歌は一瞬頬を染める。

 

「……うん、そうだね」

 

 

◉◉◉

 

 

「九十四人……」

 

「あと……六人か」

 

あと少し。あと少しなんだ。だけどタイムリミットの五時まであと一時間もない。

 

千歌はパソコンを両手に取り、祈るように繰り返した。

 

「……お願い。……お願い……!お願いお願いお願い……っ!お願い!!」

 

「……っ」

 

未来は彼女の隣に立ち、画面を覗き込んでは同じように願った。

 

「頼む……あと少し……!あと少しなんだ……!あとちょっとで救えるんだよ……!!」

 

「千歌ちゃん……未来くん……」

 

増えない数字を睨み続ける。意味のない行為にも意味があると信じて行う。

 

ふと傍に視線を外せば、安らかな表情で目を瞑る曜の姿があった。

 

「……さすがの曜ちゃんも睡魔には勝てないか……」

 

「寝てないよ。……けど、待ってるの、ちょっと疲れてきた」

 

パチリ、と目を開けてそう口にする曜。

 

「みんなも少し外に出てみたらどうだ?頭がすっきりするよ」

 

「いいね、気分転換に行こうか」

 

「私はもう少し見てるね」

 

果南、千歌、梨子、曜は伸びをしながらドアを開く。

 

未来も続こうと最後尾を歩くが、ドアが閉まる最後まで机に置かれたパソコンの画面を見つめていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……あと六人!お願い!!」

 

「……お願いしますっ!」

 

プールサイドのそばにある階段に立ち、千歌と曜は並んで手を合わせた。

 

「おぉーーーーーーい!!」

 

唐突に立ち上がった果南が口元に手を添えて叫ぶ。

 

反響した彼女の声が山彦のごとく返ってきた。

 

「浦の星は、いい学校だぞぉーーーーーーーー!!」

 

「おーーーーい!!絶対後悔させないぞーーーー!!」

 

「みんないい子ばっかだぞーーーー!!」

 

夜通し起きてたというのに元気一杯な様子だ。

 

未来も何か叫ぼうかと考えていたところで、背後から第四波がやってくる。

 

「私がーーーー!保証するーーーーーーッ!!」

 

梨子が声を張り上げると、静かだった空間に一時の笑いが飛び交った。

 

「……ふふっ保証されちった」

 

「私の保証は間違いないわよ!」

 

「違いないや」

 

どっと湧いた笑いの渦を遮るように————

 

 

 

 

 

「千歌ちゃん!来て!!」

 

その時間はやってきた。

 

ルビィが呼んだのを聞き、反射的に身体が理事長室に向かう。

 

息を呑む暇もないまま目的地に着いた千歌達は、急いでパソコンの画面を確認する。

 

「……あと三人!」

 

現在の人数は九十七。目標の百まであと本当に……本当に少しだ。

 

あと数歩、もう一踏ん張りあれば————!

 

「でも……時間はもう……」

 

「お願い!…………お願いッ!!」

 

神様に祈るなんて、今まで本気でしたことはなかった。

 

でも、今は————

 

(頼む、神様……!どうか俺達の学校を……!みんなを……!)

 

————救ってください。

 

「九十八!!」

 

「よし……!あと二!」

 

「時計は?」

 

「大丈夫!大丈夫……絶対に届く!」

 

あと二。たったの二だぞ。

 

あと一歩。たったそれだけあればこの学校を救えて、みんなの努力も報われて————

 

全部…………全部、笑って喜べるっていうのに。

 

「……届け」

 

「……届く!」

 

「……届け……!」

 

「届く!!」

 

「届け!!」

 

カタン、と時計の針が動く音。

 

五時になったことを知らせられた直後————

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

入学希望者数は、()()()()()()()()()()()()()へ変わり、

 

浦の星学院の統廃合が、正式に決定した。

 




放送当時も視聴して驚きましたが、G's設定のサンシャインは最初から廃校が決定していますからね。
やはりアニメでもそれに合わせた展開になったのでしょうか。

今回の解説です。

マイナスエネルギーについての言及がありました。
原作のメビウスでは80登場の回に統廃合が決定した学校からマイナスエネルギーが放出され、生徒達と80をもう一度会わせてあげるために怪獣を呼び出していましたね。
詳しくは話せませんがそれを基にしたエピソードも書く予定です。
具体的には11話パート辺りに……。
(今作の設定的に80が登場するのは難しいかもしれませんが。)

それでは次回もお楽しみに。

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