メビライブ!サンシャイン!!〜無限の輝き〜   作:ブルー人

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ジード最終話、まさかまたベリアルのあの姿を拝むことができるとは……。
さて、今回からサンシャイン6話に突入です。


第80話 超えるためには

「悪い人じゃないって……ノワールが?」

 

「うん」

 

練習スタジオの廊下の隅で千歌と果南、そして未来が顔を見合わせて何やら話し込んでいた。

 

「……あの時、彼がいなかったらどうしようもなかった。私も未来も、あのまま死んじゃってたかもしれない」

 

「……果南さんはともかく、どうして千歌までそんなことを?」

 

未来が目を覚まし光の欠片のことも伝えた後、二人だけで話しているのを見かけたが……どうやらノワールについての事だったらしい。

 

「私、前にもあの人に会ったことあるの」

 

「なんだって……!?」

 

「その時の印象もそうだけど……あの人、何か別の理由があって怪獣を操っているんじゃないかな……?」

 

千歌と果南にそう言われ、未来は目覚めてから初めてノワールについて考えた。

 

確かにダークネスフィアでの戦いではノワールに命を救われた。あいつがそうする理由はともかく、これは紛れもない事実だ。

 

今は力を失い、エンペラ星人にも命を狙われているような口振りだったが……。

 

「……判断するにはまだ情報不足だ。二人には悪いけど、俺は以前までのあいつの行動を許すことはできない」

 

千歌達が知らないところでも、奴はこれまで様々な方法で攻撃を仕掛けてきた。

 

そう簡単に心を許すなんてできるわけがない。

 

「……そうだよね」

 

「ほら、そろそろ練習始めないと。次のライブが近いんだから」

 

半ば無理やり話を終わらせ、未来は千歌と果南を部屋へと移動させる。

 

……二人の口からノワールについて出てくるのは初めてのことだ。

 

(……俺もあいつの動向は気になる。ここしばらく考えてなかったが……)

 

まだ気を抜くには早いのかもしれない。

 

 

◉◉◉

 

 

「ワンツースリーフォー!ワンツースリーフォー!ここで変わって!」

 

鏡の前に並び立ち、未来の手拍子に合わせて振り付けの練習をする梨子達。

 

横で観察していたステラが改善すべき箇所をアドバイスする。

 

「すごい、前より良くなってるわ。花丸はもう少し腕を上げた状態でキープお願い……そうそう」

 

「ずらぁ……」

 

「じゃあちょっとだけ休憩を挟んで、その後は個人練習ね」

 

次に控えているのは地区予選。前回のラブライブでは突破できなかった難所だ。

 

練習量が多くなるなか、みんなよく頑張っている。

 

「わっ!全国大会出場が有力視されてるグループだって!」

 

「ずら?」

 

「なになに?そんなのあるの?」

 

曜の持つスマートフォンの画面の前に皆が集まり、そこにまとめられたスクールアイドル達のグループ名に目を通す。

 

「ラブライブ人気あるから、そういうの予想する人も多いみたい」

 

「どんなグループがいるの?」

 

「えっと……前年度全国大会に出たグループはもちろんで……っと」

 

画面をスクロールしていき、見覚えのある名前のところで手を止めた。

 

「Saint Snow」と表記された記事をタップし、二人の少女の姿が映し出される。

 

「あ……」

 

「“前回、地区大会をトップで通過し……決勝では八位入賞したSaint Snow。姉、聖良は今年三年生。ラストチャンスに優勝を目指す!”」

 

やはり彼女達の名前も出てくる。

 

頑張っているのは千歌達だけじゃない。他のアイドル達も、優勝目指して切磋琢磨している。

 

「二人とも気合入ってるだろうなあ……」

 

「あとは……。あっ!Aqours!」

 

「えっ!?」

 

「本当か!?」

 

「ほら!」

 

羅列されたスクールアイドルのなかに自分達の名前を見つけ、驚愕しつつもそれを読み上げる。

 

前回は地区大会で涙を飲んだAqoursだが、本大会予備予選の内容は、全国大会出場者に引けを取らない見事なパフォーマンスだった。

 

「……“今後の成長に期待したい”……。よかったなみんな!期待されてるぞ!」

 

「期待……」

 

千歌は自分に刻み込むようにその言葉をつぶやいた。

 

「フッフッフ……このヨハネの堕天使としての闇能力を持ってすれば、その程度造作もないことです!」

 

「そう!造作もないことです!」

 

いつものように自分の世界に入り込む善子だが、驚いたのは彼女に応じるように立ち上がった人物だ。

 

「……はっ!?」

 

「なにこれ?」

 

突如豹変した梨子を見上げ、未来は首を傾ける。

 

「さっすが我と契約を結んだだけのことはあるぞ、リトルデーモンリリーよ!」

 

「無礼な!我はそのような契約交わしておらぬわ!」

 

堕天使コントを見せつけられた後で皆に説明を求める。

 

「えっ?この人梨子だよな……?」

 

「なんか色々あったみたいで……」

 

「“リリー”……?」

 

これが堕天する、というものなのだろうか。

 

「アティードが眠っている間……新たな上級リトルデーモンとして迎え入れたのよ」

 

「そうなの?」

 

「違うー!これは違くてー!!」

 

「ウェルカムトゥーヘルゾーン!」

 

「待てい!!」

 

気を失っている間にAqoursの環境も少し変わったみたいだ。

 

「今回の地区大会は、会場とネットの投票で決勝進出者を決めるって……」

 

つまりはその場で投票結果が発表される、ということだ。

 

そのルビィの言葉を聞いてほんの少し引っかかる部分があった。

 

「よかったじゃん!結果出るまで何日も待つより————」

 

「そんな簡単な話ではありませんわ」

 

千歌が言いかけたところでダイヤの声が重なる。

 

深刻な表情に変わった鞠莉が、今置かれている状況を説明するように話し出した。

 

「会場には、出場グループの学校の生徒が応援に来ているのよ」

 

「ネット投票もあるとはいえ、生徒数が多い方が有利……」

 

もしも自分の学校に投票することが前提と考えると————

 

最も生徒が少ない浦の星学院が不利になる。

 

 

◉◉◉

 

 

「Aqoursらしさ?」

 

次の日。

 

屋上へと練習しにやってきた皆の前で、千歌から話があると言われたのだ。

 

「私達だけの道を歩くってどういうことだろう……。私達の輝きってなんだろう……。それを見つけることが大切なんだって、ラブライブに出てわかったのに……。それがなんなのか、まだ言葉にできない。……まだ形になってない」

 

今のラブライブを形作ってきた先駆者達の実力。そして現在も活躍しているスクールアイドル。

 

誰もがさらなる高みを目指している。今よりももっと————

 

肩を並べたなんて思う者は、誰もいない。

 

そのなかで駆け抜けるには————

 

「だから、形にしたい。形に……」

 

少しの静寂の後、後ろで話を聞いていたダイヤが口を開く。

 

「このタイミングでこんな話が千歌さんから出るなんて、運命ですわ」

 

「えっ?」

 

「あれ、話しますわね」

 

「え……!?でもあれは……」

 

ダイヤの言葉に狼狽えたのは果南だった。

 

「なに?それ何の話!?」

 

振り返っては三年生達の方に夢中な視線を注ぐ千歌。

 

ダイヤの口から聞かされたその話は、決勝へと進む鍵になるものだった。

 

「二年前、私達三人がラブライブ決勝に進むために作ったフォーメーションがありますの」

 

まだ彼女達が一年生の頃————以前のAqoursが製作したもの。

 

「そんなのがあったんだ!すごい!教えて!」

 

「……でも、それをやろうとして鞠莉は足を痛めた。それに、みんなの負担も大きいの。……今そこまでしてやる意味があるの?」

 

「なんで?」

 

乗り気ではない果南の手を千歌が握る。

 

彼女のまっすぐな視線が、果南の瞳を射抜いた。

 

「果南ちゃん、今そこまでしなくていつするの?最初に約束したよね……!?精一杯足掻こうよ!ラブライブはすぐそこなんだよ!今こそ足掻いて、やれることは全部やりたいんだよ!」

 

「……でも、これはセンターを務める人の負担が大きいの。あの時は私だったけど……千歌にそれができるの!?」

 

「大丈夫、やるよ……私」

 

切り上げようとする果南の腕を引き、必死にくらいつこうとする千歌。

 

(負担が……大きい……)

 

未来は目を伏せ、過去に自分が感じた痛みを思い出すように、腕に巻かれている包帯に触れた。

 

「決まりですわね。あのノートは渡しましょう、果南さん」

 

「今のAqoursをブレイクスルーするためには、必ず越えなくちゃならないウォールがありマース!」

 

「今がその時かもしれませんわね」

 

皆に押される形で果南は手にしていた、フォーメーションが記述してあるノートを千歌に手渡した。

 

「言っとくけど、危ないと判断したら……私はラブライブを棄権してでも千歌を止めるからね」

 

「……ちなみに、そのセンターの振り付けっていうのは……?」

 

未来はおそるおそる果南にその詳細を尋ねた。

 

 

◉◉◉

 

 

「……ロンダートからのバク転……かあ」

 

その夜。

 

家のそばにある海岸で大技の練習に励む千歌を、未来はそわそわした様子で見守っていた。

 

「よ……っとととと……!」

 

「うっ……!」

 

バランスを崩して転ぶ彼女を見て思わず目を瞑る。

 

先ほどから何度も繰り返し挑戦しているが、経過は芳しくない。

 

砂の上なのである程度柔らかいとはいえ、やはりこう何度も身体を打ちつけていると————

 

「心配そうね」

 

十千万の方から歩いてきたステラが暖かい缶コーヒーを差し出してきた。

 

それを受け取った後、手をつけずに話し出す。

 

「…………千歌はああ言ってたけど……やっぱり俺も賛成するとは言えない。いきなりこんな危険な技————」

 

『……自分と重なるかい?』

 

メビウスの問いにはすぐ答えられなかった。

 

……図星だ。このまま無茶をすれば、千歌は大怪我をしてしまうのではないだろうかと不安で仕方がない。

 

「……まったく、それはあの子達も同じでしょ」

 

「え?」

 

隣でコーヒーを一口飲んだ後、ステラが言う。

 

「最近はわたしが避難誘導で、あなたが戦う。……一緒に行動してるとわかるのよ。いつも心配そうな目であなたを見送っているわ」

 

戦うことに————みんなを守ることに夢中で気づかなかったこと。

 

こうして立場が逆になって初めてわかった。

 

「…………見守る側の気持ちって、こんなに辛いんだな」

 

本人は必死に頑張って物事を成功させようとしている。……だからこちらからは一概にやめろとは言えない。

 

『応援するか止めるか。……難しいところだね』

 

「果南さんの気持ちもわかるよ」

 

ははは、と笑い飛ばそうとするが、自然と表情が暗くなる。

 

千歌がボロボロになっていく様を……ただ眺めることしかできないなんて。

 

「まったく……相変わらず鈍いわね」

 

「ステラもありがとな。命がけでみんなを守ろうとしてくれて」

 

「……べつに。今までそのつもりでやってきたんだし」

 

何かむず痒い空気を感じ、未来は誤魔化すためにもらった缶コーヒーを口にした。

 

「……ぷっ!にっが!!これブラックじゃん!!」

 

「甘い方は売り切れだったから」

 

「ちゃっかりラスイチは自分の物にしてるのな……」

 

冬が近づき、冷たい風が肌に食い込む。

 

コーヒーをカイロ代わりにして、未来とステラは終わるまで千歌の練習する姿を見守っていた。

 

 




放送当時も思いましたが、この振り付けかなりキツイですよね。
実際のライブでは披露するのか気になるところです。

では解説へ。

冒頭で語られた千歌と果南によるノワールに対しての考え。
前回の戦いでは思わぬ活躍で未来達を救ってくれた彼ですが、今後の動向はいかに……?
ベリアルと合わせてこの後の展開でも鍵になる人物です。
同胞であるエンペラ星人ともまだ掛け合いがあるかも……?

それでは次回もお楽しみに。

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