メビライブ!サンシャイン!!〜無限の輝き〜   作:ブルー人

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今回の話はサンシャイン5話と6話の間に起きたエピソードです。
以前知らせた通り5話の話は省略してあります。


第79話 機が熟すまで

白い壁と天井の一室。

 

ベッドの上で瞼を閉じている少年の手を握りながら眠ってしまっている少女が一人。

 

「……やっぱり」

 

部屋のなかに足を踏み入れたステラは、未来のお見舞いへと向かった千歌が案の定眠りこけているのを確認し、深いため息をついた。

 

自分と入れ替わるように重傷を負って運ばれてきた未来が意識を失って、既に一ヶ月近く経っている。

 

エンペラ星人の魔の手から果南を救出するのは成功したが、彼が目覚めないままでは勝利とは言えない。

 

「……それに」

 

ステラはいつの間にか開いていた窓の方向へ視線を流した。

 

黒いコートを翻した青年が涼しい表情でこちらに瞳を合わせてくる。

 

「どうしてあなたがここに?」

 

「傷つく言い方だなあ。未来くんと果南ちゃんが生きて帰ってこれたのはボクのおかげだっていうのに」

 

「……それについては感謝してる。でもあなたはエンペラ星人の手先だったはずよ。二人を助けてメリットなんかあるわけない」

 

ステラの言葉を聞いて面食らったように黙るノワールだったが、すぐにいつもの調子を取り戻して口を開いた。

 

「……違うよ、ボクはもう一人きりさ」

 

ほんの少し寂しさが垣間見える表情。

 

ベッドで横になっている未来と、それに付き添う千歌の寝顔を眺めた後、ノワールはこちらに背を向ける。

 

「……そろそろちゃんと話しておいたほうがいいんじゃないかな」

 

身体を黒い霧へと変化させ、窓から外に出るノワール。

 

彼の言ったことの意味は理解している。……もうこのままではいけないと、ステラは口元を引き締めた。

 

「……あれ、ステラちゃん?」

 

寝ぼけ眼でこちらを見上げる千歌。

 

————言わなければならない、彼女達が狙われる理由を。

 

 

◉◉◉

 

 

暗闇のなかで目が覚めた。

 

自分の身体がどうなっているのかを確認し、前方へと意識を向ける。

 

一筋の光が道のように続いていることに気がついた未来は、おそるおそる一歩踏み出した。

 

「『……あ』」

 

隣で同じように動いた者の存在を視認する。

 

好青年、といった印象の男がこちらに目を合わせて笑いかけてきた。

 

「……メビウス、だよな」

 

『うん。……こんなかたちで対面するのは初めてだね』

 

奇妙な感覚に悩みつつも、未来とメビウスは光を目指して歩き出した。

 

……自分達以外は何もない空間。

 

「……これは、俺の夢の中なのかな」

 

『夢と表現するのはちょっと違うかもしれない。たぶんこれは……何者かの干渉を受けているんだ』

 

どうやらテレパシーのようなものらしい。

 

以前ウルトラの父からの交信を受けた時もこのような状態だったな、と気にせず進むことにした。

 

「……!」

 

しばらく進み、目の前の光が徐々に大きくなってきたところで、周囲を取り巻くような声が聞こえてきた。

 

————エンペラ星人を取り逃がしたぁ……?

 

「これは……」

 

宙に映し出された映像を見ると、何人ものウルトラマン達が何やら話している光景が見えた。

 

————なら俺が出る。お前はここで待ってろ。

 

————ベリアル、待て……!

 

————お前だけにいい格好はさせないぜ。

 

光の国らしき場所から飛び立っては、猛スピードで移動するウルトラマン。

 

見覚えのある姿に未来はふと名前を呟いた。

 

「……ベリアル……」

 

今映し出されている映像は過去にベリアルが行ってきたであろう記録。未来の知らない彼の記憶だった。

 

現在の黒い外見ではなく、本来の体色である赤と銀…………ウルトラマンとしての姿。

 

————ったく、地球に向かったディノゾールの処理が終わったかと思えば、今度はテロリストの始末だ。

 

面倒そうに言うベリアルからはどこか嬉しそうな様子も見て取れる。

 

まるで「これから功績をあげてやる」とでも言いたげな————

 

「……あっ!」

 

次の映像へと切り替わった瞬間、未来は思わず声を上げた。

 

エンペラ星人に敗れるベリアルの姿。

 

闇の皇帝が伸ばした腕に視界を遮られ————映像は終了する。

 

「……なんだったんだ……?」

 

『……!未来くん!』

 

唐突に見せられた映像に困惑する未来だったが、メビウスに肩を叩かれたことで意識を別の方へと移した。

 

 

 

 

「…………あ」

 

名前を呼ぼうとして虚しく声が消える。

 

背後に立っていた人物に対して、未来は尋ねようと口を開いた。

 

「俺の記憶だ」

 

質問しようとするも、()は未来が言葉を発する前に答えた。

 

『……これが君の体験した出来事だというのかい?……ベリアル』

 

漆黒の鎧をまとったベリアルが静かにこちらを見つめる。

 

この空間に未来とメビウスを招いたのは彼だったのか。

 

「俺はあの時エンペラ星人に敗北し、そして————」

 

自らの身体を忌々しそうに引っ掻き、散った火花を見下ろす。

 

「この呪われた鎧……アーマードダークネスを強制的に装着させられた」

 

「……ベリアル、あんたはやっぱり————裏切ったわけじゃないんだよな?」

 

未来は今まで疑問に思い、そうであって欲しくないと考えていたことを問いかけた。

 

「ウルトラマンべリアルは正義のヒーローなんだよな……?地球を……俺達を救ってくれた英雄なんだよな……!?エンペラ星人の手先になんかなってないんだよな!?」

 

徐々に語気が強くなる。

 

そうであって欲しいという願いを片っ端から言葉にし、彼にぶつけた。

 

未来だけじゃない、千歌や曜、果南…………あの時内浦に住んでいた誰もが思っている。

 

ベリアルが敵だなんて————やっぱり信じられないんだ。

 

「……だが経緯はどうであれ、だ。俺は既に何人もの命をこの手にかけた。今更戻ることはできない。皆が知るウルトラマンべリアルはもういない」

 

「そんなの……ッ!そんなの知るかよッッ!!」

 

アーマードダークネスの影響で理性を失わせ、べリアルに破壊行為をさせた後で罪の意識を植え付ける。

 

この鎧には、簡単には逆らえない。……たとえ今のように意識が戻っていたとしても、べリアルは鎧の本来の持ち主であるエンペラ星人の人形も同然だ。

 

エンペラ星人(あいつ)はべリアルの心を利用したんだ。べリアルが逆らえないとわかっていて……それで……!!

 

「あんたがそう思ってても、俺達にとっては違う!べリアルはべリアルだ!!……光の戦士、ウルトラマンべリアルなんだよ!!」

 

ありったけの想いを言葉に乗せて言い放った。

 

……こうなった理由を聞いたところで納得なんてできるものか。

 

全ての元凶はエンペラ星人だ。……あの闇の皇帝さえいなければ……!!

 

「……子供の幻想だな」

 

「……え?」

 

「俺にとってはお前の言葉の方が“知るか”だ」

 

べリアルは自らの両腕に視線を下ろし、嘆くように言葉を紡いだ。

 

「……見ろよ、この醜い姿を。鎧を装着してからな、少しずつウルトラ戦士だった頃の記憶も薄れてきているんだ。お前らに見せた記憶も……時間が経てばいずれ消える。そうなれば今度こそ完全に皇帝の下僕、カイザーダークネスの誕生だ」

 

天を仰ぎ、闇に染まってしまった自分を見下すように語るべリアル。

 

「俺はもう戻れない。汚れた手を引きずって生きていくしかない。……心のどこかで力を欲していたのは事実だ。……だが——」

 

————こんなことになるのなら、皇帝と対峙した時点で死ねばよかったんだ。

 

あまりにも悲愴的な言葉がべリアルの口から聞かされ、未来は目を見開いて押し黙った。

 

しばらくの静寂の後、未来は溢れてきた感情をひたすらに吐き出した。

 

「……それでも」

 

「……なに?」

 

「子供の幻想でも……なんでもいい……!俺はあなたを救いたい!!だってあなたは紛れもなく……確実に……正真正銘……絶対に……!!俺達の命の恩人なんだからッッ!!」

 

自然と涙が頬を伝っていた。

 

黒いウルトラマンを前にし、未来は彼と真っ向から想いをぶつけ合った。

 

「……今日お前達を呼び出したのは、こんな下らない口喧嘩をするためじゃない」

 

「……?」

 

べリアルはこちらに背を向けると、徐々に捻れていく空間へ吸い込まれるように去ろうとした。

 

「忠告しに来たんだよ。次に俺と戦う時は、殺す気でかかってこい。……俺もそうする」

 

「……!待っ————!」

 

離れていく背中に手を伸ばすが、届くわけもないそれは虚しく空を切った。

 

「俺はまだ……あなたに伝えたいことが————!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

白い天井が見えた。

 

背中にある柔らかいベッドの感触とお別れし、上体を起こして身体の具合を確認する。

 

「…………俺は————」

 

弾かれたようにベッドから飛び降りた未来は、そのまま病室を抜け出して浦の星学院へと向かった。

 

 

◉◉◉

 

 

「光の……欠片?」

 

「ええ、それがあなた達の中に眠っている。……敵はそれを狙って、果南を攫った」

 

千歌達九人を部室に集め、ステラは彼女達が秘めている可能性について話した。

 

エンペラ星人という巨悪を倒す唯一の方法である究極の光の存在。光の欠片についての詳細も、知っていることは全て伝えたつもりだ。

 

「それって、私達も未来くんやステラちゃん達の力になれるってこと!?」

 

「……残念だけど、そこまではよくわからないわ。光の欠片の力は未知数…………まだわかっていないことの方が多いかもしれない」

 

「……そっか……」

 

興奮気味に聞いてきた千歌が一気にテンションを落として俯く。

 

彼女はずっと前から未来やメビウスの力になりたいと考えていたのだ、無理もない。

 

「これも見えない力……なのかもね、リリー?」

 

「私達にそんな力が……」

 

善子と梨子はほんの少し戸惑いつつも、胸に手を当ててステラの言葉を噛み締めた。

 

「……今後もあなた達は狙われるかもしれない。だからくれぐれも気をつけて————」

 

ガタン、と扉を開く音に反応して振り返る。

 

皆の視線が集まった場所には、よろよろとした足取りで部室に入ってくる少年の姿があった。

 

「……!未来……!?」

 

「未来くん!?」

 

「よ、よお……」

 

曜は身体のあちこちに包帯が巻かれた未来の肩を支え、ゆっくりとそばにあった椅子へと座らせる。

 

「ちょっと未来、勝手に病院抜け出しちゃ————」

 

果南が飛び出しかけた言葉を飲み込む。

 

異様な雰囲気に包まれている今の未来からは、不思議と威圧感が感じられた。

 

「……だいぶ気を失ってたみたいだな」

 

「う、うん。でもよかった……!もう一生起きないかと思って……」

 

「未来くん」

 

強い意志を感じさせる瞳と目が合う。

 

千歌は彼と正面から向き合うと、覚悟を決めたように口を開いた。

 

「……ステラちゃんから聞いたよ、私達の中にある……力のこと」

 

横に立っていたステラに視線を流すと、首を縦に振ることで返された。

 

「……そうか」

 

いずれは打ち明けなくてはならない時が来ると思っていた。

 

……さっきのベリアルとの会話もそうだ。この戦争が着々と終幕へ向かっていると実感する。

 

「……これから先、今以上にみんなを巻き込んでしまうかもしれない」

 

「今更、でしょ?」

 

奥の方でウインクして見せた果南が未来へ微笑んだ。

 

抑えていた感情が一気に溢れ出し、溜め込んでいた涙がこぼれる。

 

「……ありがとう、みんな」

 

孤独な戦いから解放されるのと同時に、危険がより大きくなる。

 

ベリアル。ラブライブ。四天王。エンペラ星人。

 

決着をつけなくてはならないものはまだまだある。

 

何かが終わったわけじゃないんだ。

 

ここからさらに激化するであろう戦いのなかで……自分達はどこへ辿り着くのだろうか。

 




ついにベリアルの秘めた想いが明らかに。
未来やメビウスが彼をどうするのかも注目です。

解説いきましょう。

今作のベリアルは元の設定よりも善の部分が押し出されています。
しかし力への憧れやウルトラの父への嫉妬等はそのままなので、エンペラ星人にはその隙を突かれた感じですね。
今はなんとか意識を保ってはいますが、それも時間の問題です。
いずれは未来達と戦う運命……。その時彼らはどのような決断を下すのか。

次回からはまたしばらくサンシャインの話を進めたいと思います。

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