ついにヤプールと激突。
一方未来の知らないところで大変なことが……。
「ピギャアアアアア!?」
夜空に開いた異次元へと続くゲートから飛び出してきた赤い巨人が街中に降り立ち、手のひらに乗せた少女を地上へと返した。
(ダイヤさん、怪我はなかった?)
「え、ええ。なんとか……」
(よかった。……すぐにここから逃げて、みんなのところへ行くんだ)
メビウスは背後にうねるまだら模様の影に視線を流す。
徐々にその形を変え、赤い甲殻類のような外見の巨大な怪人へと変貌した。
(早くッ!!)
「わ、わかりましたわ!」
踵を返して走り出したダイヤを見送った後、ヤプールの立つ方向へ向き直る。
大柄な身体。右腕の三日月状に曲がった刃。これがヤプールの戦闘時の姿なのだろう。
(以前からうちの部員に手出してたよな、お前。……今度こそ仕留めてやる)
「口だけならばいくらでも吠えれるだろうな」
(……いくぞ、メビウス)
『奴は四天王の一人だ。……気を引き締めて』
夜の街に浮かぶウルトラマンの双眸と宇宙人の影。
内浦の人々は何度見ても慣れることができないこの光景に息を呑んだ。
◉◉◉
「はあっ……!はあっ……!皆さーーーーん!!」
息を切らしながら必死に四肢を動かすダイヤは、遠くの方で微かに見えた人影に向かって手を振った。
集団の中から一人だけこちらに飛び出してきたのを視認し、無言で両手を広げる。
「お姉ちゃん!」
「ルビィ!」
胸に駆け込んできた妹の背中に腕を回し、強く抱きしめる。
「よかった……本当に……!無事でよかったですわ……!」
「……あ」
涙を浮かべて喜ぶのも束の間。ルビィは不意に瞳の色を変えて声を震わせた。
「……なん……ちゃんが……」
「え?」
「……果南ちゃんが!」
その数秒後、ルビィが口にした言葉の意味を理解することになる。
奥に見える人間のなかに、果南の姿だけが確認できなかったのだ。
「……ど、どういうことですの……?」
「……!ステラちゃんしっかり!」
千歌の声に反応して視線を落とす。
そこに見えたのは、苦しそうに表情を歪めたステラが横たわっている光景だった。
彼女の右腕にはひどい凍傷、そして身体のあちこちに打撲傷と切り傷が見られる。
「はぁ……あ……ぐ……!」
「あつっ……!?」
ステラの額に手を当てると、通常の人間では到底耐えられない体温が彼女の身の危険を訴えかけてきた。
「すごい熱……!いったい何があったんですの!?果南さんはどこに————」
「……果南は」
地を見つめたままの鞠莉が静かに口を開き、皆にとって受け入れ難い事実をダイヤに伝えた。
「果南は…………宇宙人に連れ去られたわ」
塞がらない口から「え」と、言葉にならない音が出た。
どん底にいるような雰囲気をまとった皆を見て、鞠莉が口にしたことが嘘ではないと確信する。
「なんで……どうしてこんな……」
「セヤアッ!!」
メビウスが放った上段蹴りを身体を反らすことで軽々と回避するヤプール。
戦闘が始まってから休むことなく攻撃を浴びせ続けているが、奴に大したダメージは感じられなかった。
(ぐあっ……!)
大木で薙ぎ払われたかのような衝撃の蹴りがメビウスの腹部に直撃し、受身を取ることもできずに大地を転がる。
おかしい。攻撃は当たっている……それなのにヤプールは息切れひとつしないで薄ら笑いを聞かせてくるのだ。
「やはり今の身体ではこの程度の力しか出せないようだな」
(な……に……!?)
膝立ちの状態で自らの左腕に視線を落とすと、今更身体が気がついたように痛みが蘇ってきた。
メビュームインパクトの反動————未だにその怪我を引きずっているのだ。
どうやら以前メビウスキラーをけしかけてきたのは未来達の体力を奪うことも作戦に入れていたらしい。
(……もしかして俺達、かなりやばいことしちゃってたのかもな)
『今それを考えても仕方がないよ。極力打撃を避けて、突破口を開こう』
(ああ……そうだな……っ!)
左腕を勢いよく振るい、ブレスから黄金色の刃を伸ばす。
爆弾を抱えた箇所を使うのは少々危険だが、メビュームブレードの斬撃ならばいくらかマシなるはずだ。これでいくしかない。
『(うおおおおおお!!)』
全身から炎を吹き上げ、ヤプールのもとへと駆ける。
バーニングブレイブとなって強化された腕力でブレードを振り抜く。
奴の曲刃と激突し、耳をつんざくような音が轟いた。
『ぐっ……!』
(思ったように動けない……!)
左腕を振るう毎に蓄積されたダメージが神経を食いつぶすような感覚が走る。
日常的に感じていた痛みなので多少は慣れているがやはりベストな戦闘は無理だ。
「はあッ!!」
「グアッ……!」
ヤプールの振り下ろした刃が胸部に当たり、火花を撒き散らしながら後退する。
メビュームバーストもこの調子では充分な威力は発揮できない。決め手に欠けるこの状況で戦い続ければいずれ負けてしまうだろう。
(…………!)
迫ってきたヤプールの豪腕を回避しつつ反撃の機会をうかがう。
(らぁッ!!)
右の拳で奴の胴体に強烈な一撃を見舞い、間髪入れずに回転蹴りの嵐。
「ぬぅ……!」
「セヤァ!」
一瞬の隙をついてメビュームブレードの切っ先をヤプールめがけて突き出した。
ギリギリのところでそれを受け止めた奴はメビウスから一旦距離をとる。
「戦えば戦うほどに……その場に適した戦法を見出すことができる……。なるほど、貴様らがしぶとい理由の一つをまた理解した」
(ォォォオオオオッッ!!)
右拳でヤプールの体勢を崩し、わずかな一瞬の隙をブレードで突く。
流れに乗ったメビウスは次々に強烈な攻撃を奴に浴びせていった。
「……は、ハハハ……!」
(……何がおかしい)
「いやなに、つくづく惜しいと思ってな」
よろめいたヤプールが脱力した状態のままこちらに語りかけてきた。
「なぜお前達は人間を守る?状況によってはいとも容易く売り渡されるというのに」
(なに……?)
『……耳を貸しちゃダメだ、未来くん』
ぼんやりとした言葉で話すヤプールには、不思議と説得力があるようにも感じた。
「言葉通りの意味だ。……ウルトラマンよりも強力な存在が現れた時……人間どもは簡単に貴様らを見限って、そちらに尻尾を振る」
(……そんなことはない。俺達はどんな敵が来ても負けないし、人間もメビウス達を信じている。……人間である俺が、この場に立っていることが何よりの証拠だ)
「ククク……果たしてそうかな?」
ひやかすように言うヤプールに苛立ちを覚え、メビウスは作った拳に力を入れて奴を睨んだ。
「日々ノ未来……お前ならわかっているはずだ。たとえ全ての四天王を討ち取ったとしても……闇の皇帝には敵わないと」
(……!)
日々思い悩んでいたことが、心のなかで一気に溢れかえるようだった。
頭のなかでイメージしていたエンペラ星人の力。絶大な力を持つ彼と対峙した時、自分は対等に戦うことができるのかという不安と恐怖。
「ああ、わかるとも……怖いのだろう?強くなるための稽古とやらも、恐怖を誤魔化すためのクスリに過ぎん」
……違う。エンペラ星人が怖いわけじゃない。怖いわけじゃ————
『未来くん!』
(はっ……!)
我に返った直後、禍々しい光弾が眼前まで迫ってきたことに気がついた。
「グアアアアアア!!!!」
防御姿勢すらとっていなかったことで凄まじい威力がもろに伝わる。
後方に吹き飛んだメビウスはすぐには立ち上がれず、上体だけを起こして歩み寄ってくるヤプールを見上げた。
「隠す必要はない。闇の皇帝を恐れているのは何もお前だけではないのだから」
(ぐっ……!)
「皇帝がこの星に降り立った時には……間違いなく命を落とすことになる。そうなる前にこちら側へ来るのも一つの手だぞ?」
突きつけられた三日月状の刃を掴み喉元から離そうとするが、力が入らないせいでどんどん距離を詰められる。
(くっ……ああぁ……!)
はっきりとしない思考。
ぼやけた視界に映るヤプールの顔が脳裏に焼きつき、エンペラ星人に対する恐怖心を煽る。
同時にメビウスのカラータイマーが赤く点滅しだし、体力の限界を知らせてきた。
(俺は————!)
その時。
ヤプールの背後から発せられた眩い閃光と共に巨大な人影が現れた。
「なに…………っ!?」
咄嗟にメビウスから離れ、後方から放たれた斬撃を回避するヤプール。
『いったいなにが……!?』
(……!メビウス、あれ!)
街の明かりが巨大なシルエットの全貌を露わにする。
中性的な顔立ちに騎士の兜のようにも見える頭部。
赤と銀の体色は紛れもなく————ウルトラマンだった。
「トリャァ!!」
縦方向で構成された光の刃が飛び、後退するヤプールの右肩をかすめる。
「ぐうっ……!」
(切断技……!?)
横に並び、肩を貸してくれた巨人の顔を見上げる。
メビウスは隠せない驚きを解放するように言った。
『エース兄さん!?』
(兄さん……ってことは……やっぱりあなたは……!)
ウルトラ兄弟の一人、ウルトラマンエース。
「メビウス、少年、まだ動けるか?」
『(……!はい!)』
エースの隣に立ち、勇ましく構える。
……相手のペースに乗せられるな。誰を信じるべきかなんて最初から決まっている。
「「…………ッッ!!」」
同時に駆け出した二人の巨人がヤプールへと肉薄し、鋭い手刀の連撃が奴へと殺到した。
本調子ではないメビウスの隙をエースがカバーし、なおかつヤプールの防御を解く。
『(はああああああッッ!!)』
そこへ炎をまとったメビウス渾身の右拳が炸裂し、ヤプールは嗚咽を漏らしながら奥へと吹き飛んだ。
「ハハハハ……!思わぬ邪魔が入ったが……いいだろう。我らはマイナスエネルギーがある限り、何度でも蘇ることができる」
これから倒されることに何の未練も抱いていないような口ぶりで語り始めるヤプール。
これ以上何も聞かないように意識する未来だったが、不快にも奴の声は頭のなかに響いたままだった。
『(はあああああ…………!!)』
「「ダアッ!!」」
エースがL字に組んだ腕から必殺技である“メタリウム光線”を発射し、メビウスは爆炎のエネルギーを全力で増幅させたメビュームバーストを放つ。
「必ず……!戻ってくるぞォ……!!」
二方向からの凄まじいエネルギーを一身に受け止め、ヤプールはそう言い残して爆散した。
◉◉◉
『助かりました、兄さん』
「……俺があいつのペースに乗せられたから……。本当に……ありがとうございました」
人間態へと姿を変えたエースと向かい合う。
彼が助けに来てくれなければ、あのままヤプールになすすべなく敗北していただろう。
「礼には及ばん。……それに、今はこうしていられる状況じゃない」
「え?」
エースの視線が未来の瞳と重なる。
彼は深刻そうに表情を引き締めると、先ほどの戦闘で疲労しきっている未来へと言い放った。
「日々ノ未来くん、君の友人がエンペラ星人のもとへ連れ去られた」
「…………へ?」
言葉の意味を理解するのに少々時間が必要だった。
口を開けたまま呆然としている未来に追い打ちをかけるように、エースはさらに続けた。
「……兄さん達も別件で手が回らない状況だ。彼女を救えるのは————」
「ち、ちょっと待ってください!連れ去られたって誰が!?」
エースは未来の青ざめた顔と向き合った後、重い言葉を口にした。
「松浦果南という少女だそうだ。……急げメビウス、未来くん。奴らが彼女を生かしておく保証はないぞ」
次回、果南奪還作戦。
重傷を負ったステラは戦闘不能……。未来とメビウスは単独で救出に向かうのか……!?
では解説です。
活発化してきたエンペラ星人の軍勢に対処するため、ウルトラ兄弟達も複数地球に潜伏しています。
敵の動向を探り、必要な時はメビウスと未来のサポート等を担いますが、依然として人手不足が否めない状況です。
さて、次回はあの人と対面することに……?