メビライブ!サンシャイン!!〜無限の輝き〜   作:ブルー人

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今回でサンシャイン4話終了です。
10話も終盤に差し掛かってる感すごかったですよね。


第74話 危機はいつも突然に

「バイト?」

 

「大変そうだなあ……」

 

「しょうがないわよ……」

 

ベンチに腰掛けながら力なくため息をつく未来、千歌、梨子、曜。

 

活動資金を集めるためにアルバイトをしよう、という話が上がったのだ。

 

「現実的に考えたらそれくらいしか方法はないわね」

 

「……ヒカリ」

 

『却下だ』

 

地道にコツコツと稼ぐしかない。時間はかかるかもしれないが、これもラブライブのためだ。

 

「あら?今度は何ですの?」

 

不意にこちらにやってきたダイヤへと顔を上げた。

 

やけにモジモジと身体をすり合わせているのが気になる。

 

「あ、はい」

 

「お腹痛いんですか?」

 

「違いますわ!……い、いえ、何か見てらしたような……」

 

「はい!内浦でバイト探してて、コンビニか新聞配達かな〜って」

 

「ならっ沼津の方がいいかもしれませんわね」

 

バイト求人情報の冊子を持った曜の隣に座り込むダイヤ。

 

「沼津でか〜……」

 

「だったら色々あるよ!カフェとか!お花屋さんとか!変わったところだと、写真スタジオのモデルさんとか!」

 

「おお!なんか楽しそう!」

 

次々と膨らんでいく想像に胸を高鳴らせる千歌達。

 

細かいことは何も考えていない、といったテンションの彼女達を見て不安を募らせたステラが口を開いた。

 

「ちょっと待ちなさい。そんな簡単に————」

 

「ブッブー!ですわ!!」

 

言いかけたところで突如立ち上がったダイヤの声が重なる。

 

「安直すぎですわ!バイトはそう簡単ではありません!大抵土日含む週四日からのシフトですので九人揃って練習というのも難しくなります!だいたい何でも簡単に決めすぎてはいけません!!」

 

腕を組んで背を向けたダイヤに千歌達の唖然とした瞳が刺さった。

 

「————ちゃんとなさい!!……あ」

 

横で一部始終を眺めていた未来とステラは二人並んで目を細める。

 

(……うん、いつも通り)

 

(最後に表情を崩したのが気になるけど……)

 

 

◉◉◉

 

 

「フリマかあ〜」

 

とある公園へと足を運んだAqoursの面々。

 

周囲には彼女達の他に多くの出店が並んでおり、そこそこの賑わいを見せていた。

 

今日はダイヤの案で未来達もフリーマーケットに参加することになったのだ。

 

「これならあまり時間も取られず、お金も集まりますわ!」

 

「すごいお姉ちゃん!」

 

「ダイヤさんはこんなことも思いつくずらね!」

 

「さすがダイヤさん!」

 

「そ、それほどでも……ありますわ!」

 

「あなたにこの堕天使の羽を授けましょう……」

 

「……光栄ですわ」

 

少し張り切った様子のダイヤからはやはり普段と違う。

 

何かを気にしているのか、どこか動きがぎこちない。

 

「ドゥ……フフフフフ……!」

 

(ど、どう思うステラ?)

 

(……こわい)

 

未来は不気味に笑みをにじませるダイヤを見てただ事ではない、と顔を引きつらせた。

 

「お待たせ〜!」

 

「あ、千……歌?」

 

こちらに駆けてきた幼馴染の姿を見て絶句する。

 

身体をすっぽり覆う巨大なみかん型の着ぐるみをまとった千歌がそこに佇んでいた。

 

「どうしたんだそれ……?」

 

「美渡姉の会社で使わなくなったからって……どお?」

 

「使用目的が謎すぎますわ」

 

「みかんのお姉ちゃん!」

 

唐突にかけられた声の方向に向き直る。

 

ペンギンのぬいぐるみを抱えた幼い女の子が千歌の足元に立っていた。

 

「さっそくお客さんが来たみたいだな」

 

「わあっ!みかんだよ〜冬にはみかん!いけっビタミンCパワー!」

 

「もうっ!」

 

冗談交じりに迫り寄る千歌から逃げるように後退する女の子。

 

「これ、いくらですか?」

 

「えっ?どうしようかな……」

 

「値段設定してなかったのか……」

 

なかなかボリュームのあるサイズのそれは小さな子が両手でやっと抱えられるくらいの物だった。

 

商品の状態からも考えるにおそらくは千円を超えるぬいぐるみ。

 

「でも……これしかないけど……」

 

「ええっと……」

 

差し出された五円玉を見て困ったように仰け反る千歌。

 

「ご、ごめんねお嬢ちゃん。さすがにそれだけだと————」

 

フォローに回ろうと二人のそばに駆け寄った未来だが、そんな彼に対して女の子は上目遣いになり————

 

 

 

 

「ありがとー!」

 

「「毎度あり〜!!」」

 

結局五円玉一枚と交換してしまった。

 

「世渡りの上手そうな子だったな……」

 

「あなたまでノっちゃったらダメでしょうに」

 

「ふっ……あの瞳の魔力は向けられた者にしかわからないのさ」

 

「何を言ってくれてるんですの?ちゃんとなさい!」

 

腕を組んで眉をつり上げたダイヤが二人に向かって声を張った。

 

「Aqoursの活動資金を集めるためにここに来てるのでしょう?まずは心を鬼にして、しっかり稼ぎませんと!」

 

「だってぇ……」

 

「すみませーん、これ千円でいいかしら?」

 

「見てなさい!」

 

ダイヤが新たにやってきたお客の前に駆け寄っては引き締まった表情で語りだす。

 

「いらっしゃいませ!残念ですが原価的にそれ以下はブッブー!ですわ!」

 

「で、でも……」

 

「はっきりと言っておきますが新品ではございませんが未使用品!出品にあたっては一つ一つ丁寧にクリーニングを施した自慢の一品!それをこのお値段、すでに価格破壊となって……おりますわ!」

 

勢いよく人差し指をお客さんに突きつけるダイヤに皆の呆然とした視線が突き刺さった。

 

「お客さん指差しちゃダメだよ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はあ……アヒルボート決定ずら」

 

「ピギィ!?」

 

算盤を用いてフリーマーケットでの売り上げを計算していた花丸が不意にこぼす。

 

「それにしても……」

 

「何者にも屈しない迫力だったわね」

 

「さっすがダイヤさん!」

 

「だよね……!」

 

賞賛されているというのに当の本人は地面の方を向いて苦笑するばかりである。

 

「それにひきかえ、鞠莉はそんなの持ってくるし……」

 

千歌の姉、美渡が運転席に乗ったトラックから自分の形をした銅像を降ろす鞠莉。

 

家から持ってきた物なのだろうが、出品されても買おうと思えるような商品じゃない。

 

「これ売る気だったの?」

 

「それを言ったら、善子も売り上げナッシングデース!」

 

「……ヨハネよ」

 

抱えた段ボール箱の中に大量の黒い羽を積んだ善子が切ない表情を浮かべ、風に攫われていく無数のそれを遠い眼差しで見つめた。

 

「フッフッフッ……まるで傷ついた私の心を癒してくれているかのよう…………美しい」

 

「バカなこと言ってないで急いで拾いなー!!」

 

「うぅ……はい〜!!」

 

美渡の雷が落ちるのと同時に足並み揃えて駆け出す善子達。

 

「あぁ……この調子で充分なお金なんか集まるのだろうか————」

 

ふと背後に向き直ると、俯いたまま動く気配のないダイヤが視界に入る。確実に最近のダイヤはどこか様子がおかしい。

 

けれど未来がこの事に気づいて果南や鞠莉が気づかないのはあり得ないだろう。何かしら相談は受けてるはずだ。

 

『……今の彼女は……そうだね、以前までの思い詰めてる時の君にそっくりだ』

 

「なんだよそれ」

 

『近頃は“なんでもない”なんて言わなくなったみたいだけど』

 

「……?なんの話だよ?」

 

『あれ、自覚はしてなかったんだ』

 

メビウスの言うことに首を傾けつつ黒羽根拾いを続ける。

 

つくづく自分の変化には疎い未来であった。

 

 

◉◉◉

 

 

そして後日。

 

今日一日だけ曜の頼みでシーパラダイスのバイトをすることになった千歌達。

 

「えっとー……じゃあ、仕事いい?」

 

イルカ達のパフォーマンスを眺めて歓声を上げるのも束の間、曜の声に反応して彼女の姿を探す。

 

「あれ?どこだ?」

 

「ここだよー」

 

未来の問いに返答したのは風船片手に子供達と戯れる、シーパラダイスのマスコットキャラであるうちっちーだった。

 

正確にはその着ぐるみを被った曜だ。

 

「わっ!いつの間に!」

 

「とりあえず三、四、四に分かれて」

 

「「「おー!!」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

曜の指示で未来は千歌、花丸、ダイヤの組に。ステラは梨子やルビィ達の組に回された。

 

「きつねうどん!お待たせしましたー!」

 

「結構並んでるなあ……」

 

「うどん、もう一丁!」

 

「マルは麺苦手ずら……」

 

「ほら、のんびりしている暇はありませんわよ!」

 

売店の裏で食器の整理をしながらもついついダイヤの様子を気にしてしまう。

 

(……今のところ普段通り……)

 

「ち、千歌さん」

 

「はい?」

 

「き、今日はいい天気ですわね〜……」

 

「……?はあ……」

 

「花丸さん、うどんはお嫌い……?」

 

「うぇえ……?」

 

思ってるそばからダイヤに異変が起こる。

 

「未来さん、お身体の調子はよろしくて……?」

 

「え?ああはい、前より少しは……」

 

やけに優しげな口調で語りかける彼女からは表現し難い空気がにじみ出ていた。

 

「なに?なにかあった?あったずら……?」

 

「わからないずら……」

 

「もしかしてダイヤさん……」

 

違和感溢れる笑顔を向けてくるダイヤを見て、三人は冷や汗を流しながら身を寄せ合った。

 

「……ウフッ」

 

「「「すっごい怒ってるずら〜……!?」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

売店にやってくる人も少なくなったところで、ダイヤは別の仕事の手伝いへと向かった。

 

未来は塵取りと箒を手にフロアを駆け回る。

 

「なんであんなに怒ってたんだろ……」

 

『やっぱり何かあったんじゃ……』

 

「……ん?」

 

ふとキッチンがある方から洗剤の匂いが流れてくるのに気がつく。

 

洗い物に慣れていない千歌と花丸が過剰に洗剤を入れているのだろうか。

 

未来はゆっくりと歩み寄りながら中の様子をうかがった。

 

「おーい、なんか匂いすごいけど大丈夫————うおおぉぉおお!?」

 

視界に飛び込んできたのは想像を絶する光景だった。

 

「ん?どうかしたの未来くん?」

 

「ずら?」

 

滝のように台所から湧き上がる泡に目を疑った。

 

このままいけば天井に届くのではないかと思うほどのそれを二人は何とも思っていないように作業を続けている。

 

「どうしてこうなった!?」

 

「早く綺麗になるよう洗剤全部入れたずら〜」

 

「かしこい!!」

 

「ずら〜」

 

まさかここまでとは思わなかった。

 

戦慄しながらも未来は早口で二人に指示を出す。

 

「ああもう!二人に任せた俺がバカだった!早くこのナイアガラを処理するぞ!」

 

こんな惨状をダイヤに見られたらどうなるかわかったもんじゃない。

 

彼女が戻ってくる前にさっさと————

 

「あっ」

 

不意に花丸が持っていたお椀が滑り、彼女の手から離れて宙を舞った。

 

未来の真横を通り過ぎたそれは、池に落ちることなくとある人物の頭に覆い被さる。

 

「……三人とも、お気をつけなさい」

 

「「「はぁ〜い……」」」

 

いつの間にか背後に立っていたダイヤは静かにそう言った。

 

 

◉◉◉

 

 

「ダイヤ“ちゃん”って呼ばれたい……?」

 

「みんなともう少し距離を近づけたいってことなんだと思うけど……」

 

「それで……」

 

「じゃあ、あの笑顔は怒っているわけじゃなかったずら?」

 

休憩時間。

 

ダイヤを除いた千歌達八人は果南と鞠莉に呼び出され、イルカ達が泳ぐプールの前に集まっていた。

 

ここのところダイヤの様子がおかしかった理由が二人の口から明かされたのだ。

 

「でも、可愛いところあるんですね、ダイヤさん」

 

「言ってくれればいいのに」

 

「でしょ〜?」

 

「だから、小学校の頃から……私達以外はなかなか気付かなくて」

 

真面目。堅い。お嬢様。頼り甲斐はあるが自分達とは違う、雲の上の存在————

 

皆がそう思ってしまう影響から、ダイヤ自身も「みんなの理想」にならなくてはと距離をとってしまうのだという。

 

「本当は、すごい寂しがりやなのにね……」

 

 

 

 

 

と、その時。

 

騒がしい声と足音が施設内のあちこちに響くのが聞こえ、咄嗟にその場から駆け出す。

 

「わっ!なにこれ!?」

 

遊びに来たのであろう幼稚園の子供達が一斉に別々の方向へと散ってしまっている。

 

「うわっこりゃ大変だ……!」

 

「ちょっと、どうするの!?」

 

ステラは群がる子ども達をおんぶに抱っこでなんとか押し留めていた。

 

幼児に圧倒されるステラとはレアな光景だな、と思う暇も一瞬。未来も散り散りになった子供を落ち着かせるために思考を巡らせた。

 

「こういうの苦手なんだけどなあ……!」

 

『久しぶりに僕が前に出ようか……!?』

 

「でもこれだけの人数だぞ?なんとかなるか……?」

 

あれこれ考えているうちにも園児達の暴走は続く。

 

「何か手は————!」

 

 

 

 

 

直後、施設中に聞こえるような笛を鳴らす音が響いた。

 

皆の視線が音のした方向へと吸い込まれていく。

 

「さあ、みんな!スタジアムに集まれー!!」

 

飛込み台の上に立つ人影を見て驚愕する。

 

「だ、ダイヤさん!?」

 

「園児のみんな!走ったり、大声を出すのは他の人に迷惑になるからブッブー!ですわ!」

 

ダイヤの掛け声につられて子供達が一気に中央へと集まっていく。

 

予想外の事態に未来はポカン、とその光景を眺めるばかりだった。

 

「みんな、ちゃんとしましょうね?」

 

————はーい!!

 

 

◉◉◉

 

 

「結局、私は私でしかないのですわね……」

 

「それでいいと思います」

 

バイトが終わる頃には日が落ち、夜に入る前のオレンジ色の闇が辺りを包んでいた。

 

「私、ダイヤさんはダイヤさんでいてほしいと思います。確かに、果南ちゃんや鞠莉ちゃんと違って、ふざけたり冗談言ったりできないなって思うこともあるけど……」

 

「でもダイヤさんはいざという時に頼りになって、俺達がだらけている時は叱ってくれる。そんな、ちゃんとした人なんだ」

 

何も意識する必要なんかない。

 

黒澤ダイヤは今のままでいいんだ。厳しいけれど優しい、千歌達全員にとって姉のような存在————

 

「だからこれからもずっと、ダイヤさんでいてください!よろしくお願いします!」

 

「私は……」

 

言い淀んだダイヤが静かにこちらへと顔を向ける。

 

何かを誤魔化すように黒子をかいた彼女は、はにかみながら口にした。

 

「私はどっちでもいいのですわよ!…………別に!」

 

彼女の本心はわかっている。

 

千歌の合図で全員が一斉に声を張り上げた。

 

「せーのっ!」

 

————ダイヤちゃん!!

 

綻ぶように笑みをこぼすダイヤ。

 

その足元には————

 

 

 

 

 

 

 

「えっ?」

 

地面に巨大な亀裂が迸り、ガラスのように甲高い音を立てて裂けた。

 

「なっ……!」

 

言葉を交わす暇もなくダイヤの身体が異次元空間へと吸い込まれ、見えなくなる。

 

「お姉ちゃん!!」

 

「ダイヤッ!!」

 

「…………ッッ!!」

 

咄嗟に地面を蹴った未来が閉じる前の異次元へと身を投げた。

 

その直後、見計らったように大地が修復され、別の世界へと通じる穴は消え去ってしまった。

 

あまりに唐突な事態に言葉を失う千歌達。

 

「……未来くん……?ダイヤさん……?」

 

奇妙な空間の中に落ちてしまった二人の姿はもうない。

 

今何が起こったのか。それを理解するのに時間はかからなかった。

 

 

 




今回は解説ではなく今後の展開について話しておきましょう。

この先の数話はオリジナル回となります。
それに伴って五話の話を大幅に省略する予定です。(詳細はこの後のエピソードで)よしりこ推しの方には申し訳ありませんがご了承願いますm(_ _)m
次回からは四天王の一人であるヤプールとの戦いに加えて物語がほんの少しだけ動く予定です。
それでは次回もお楽しみに。

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