実は僕、あの二人結構好きなので嬉しいです(笑)
「はあっ!せやッ!!」
「軽い軽い。素手でもいいくらいだわ」
太陽の下。屋上でひたすらにパンチの修練に励む未来。
ソフトボール部から拝借したミットを構えたステラに向かって、一発一発に全力を注いで叩き込む。
「……三十分経過。そろそろメビウスも交えてやりましょうか」
『うん、わかった。よろしくね』
未来の身体から一時的に離れていたメビウスが再び彼の体内に入り込む。
最初は未来自身の型を定着させ、その後はウルトラマンとしての活動を考慮して鍛え上げる。
「ふぅー…………。…………らぁッ!!」
底上げされた身体能力を使ってミットを殴る。ズパァン!という衝撃音が周辺に鳴り響いた。
しかしステラは多少眉を動かしたのみで、威力自体はそう高くないと知らしめられる。
……と、思われたが、
「…………」
「ん?どうかしたか?」
無言でミットを手から外しては赤くなっている手のひらをさするステラ。
どうやら顔に出ていないだけでしっかりと効いていたらしい。
「……痛かないわよ」
「すまん、お前がどういう性格なのか忘れてた」
宇宙人とはいえステラも女の子。メビウスの力を備えた未来のパンチを正面から受けるのは危ない。
『ヒカリも参加したほうがいいね』
「そうさせてもらうわ」
傍でこちらを眺めていた青い光球がステラの手招きに反応して寄ってきた。
この特訓を始めてしばらく経つが、未来の成長速度は凄まじいものだった。
一度レオから受けた打撃を身体が覚えているのか、予想以上にすんなりと拳の型が出来上がっていくのだ。
しかし————
「…………必殺技にはほど遠いなぁ」
休憩時間になり、倒れこむ形で空を見上げる。
雲ひとつない快晴。加えて地面の熱が背中を通して伝わってくる。
「疲れてるわね」
「へ?」
ぼうっと上を眺めていると、横からステラの声が飛んできた。
「顔色が悪いわ。最近は特に忙しかったし……今日はもう終わりにしましょう」
「そんなにか……?」
自分ではわかりにくい変化だが、ステラは体調管理に関しても一流だ。
千歌達の体力差等も完璧に把握しているため、マネージャーとしての知識がこういった場面で生きていると言える。
「それじゃあいったん部室に戻って————」
言いかけたところで背後から階段を駆け上ってくる気配を感じ取り、咄嗟に後ろへ振り向いた。
「ついにこの時が来たわね!リトルデーモン・アティード!!」
「待ち伏せしてたな?」
片目を隠しながら現れたのは後輩である津島善子だった。
最近体術の鍛錬が終わった後は決まって————
◉◉◉
「漆黒の……ダークネス……エクスプロージョン……」
ノートに羅列された禍々しくてクール(?)な単語を順番に口に出していく。
そう。ステラの特訓が終わった後は決まって、新しい技の“名前”を考えていた。
「どう、アティード?少しは自分の属性に合った
「いやー……なんかどれもしっくりこないな……」
アティードというのは未来のことらしい。善子なら何かに名前を付けることに慣れていそうだから、という理由で技名の相談をしたところ、いつの間にか勝手に上級リトルデーモン認定されてしまっていた。
「ていうかこのダークな雰囲気の単語嫌なんだけど!もっと明るいの無いの!?」
「なっ……!ヨハネからの下賜が気にくわないって言うの!?」
先ほどから善子が勧めてくる言葉はどこかノワールを連想させられるものばかりで、自分の技に当てはめようとは思えなかった。
善子と未来のやり取りを眺めていた千歌が首を傾ける。
「二人とも何やってるの?」
『僕達の新しい技の名前を考えてるんだって』
「何それ面白そう!」
「あっメビウスの馬鹿!めんどくさい奴を増やすな!」
「なになにー?何の話ー?」
騒ぎを聞いて他のメンバーも未来のもとに集まってきた。
全員が揃って興味深そうにノートを覗き込んでくる。
「これなんかいいんじゃない?」
「あ、これと……そっちを組み合わせたら可愛いかも!」
「えっと……これなに?」
「“ブラックブランク”!」
好き勝手な意見が交差し、未来の頭がついにショート寸前を迎えた。
「だー!!いったん静かにしろォ!!」
気を取り直して再び考えをまとめる。
何気なく腕を組んだ果南がノートと睨み合っている未来に尋ねた。
「ウルトラマンの新技かあ。具体的なイメージはついているの?」
「えーっと……パンチっていうのはわかってるんだけど……。それだけじゃ上手くまとまらなくて」
「パンチ、ですか……」
ふと何かを考え込むようにダイヤが顎に手を当てる。
「もっと派手なのじゃダメなの?こうビビビーって」
「光線技ならもう充分に強いのがあるよ」
十字のジェスチャーで示してきた千歌の意見はあっさりと却下された。
メビュームシュートはメビウスが宇宙警備隊として自らを鍛え上げた末に必殺技として昇華させたものだ。
そもそも地球人の未来にビームなんか撃てない。自分だけの必殺技を作るのなら、必然的に打撃系統の技になる。
「パンチとなると……接近戦になるよね。相手の攻撃をかわしながら確実な一発が出せないと必殺にはならないし……」
「なんか果南さんやけに詳しいね?」
「なんとなくそうかなって」
感覚で物事を考える彼女らしいアドバイスだ。未来も言えた口ではないが。
しかし果南の言ったことも馬鹿にはできない。拳を必殺技として使うには近づかなければならないのは確かだ。
「……クックック……!それならっ!」
ウッキウキな様子でいつもの堕天使ポーズをとる善子に皆の視線が集まる。
もちろん期待の眼差し、というわけではない。
「そのスキルを磨くためのいい場所を知っているわ!」
「……心配ずら」
「心配ね」
「ヨハ子様、こっちは割と真面目なんだよ?」
「ヨハネよ!わ、私にだってちゃんとした考えくらいあるんだから!」
それはぜひお聞かせ願いたい。こちらとしては猫の手も借りたい状況なのだ。
「ズバリ!“動体視力”よ!」
◉◉◉
「……で」
とあるゲームセンターに足を運んだ一向。
ギラギラした筐体が並び立つ周辺を見渡し、精一杯の不安げな顔で善子を見やる。
「なんでゲームセンター?」
「ふっ……動体視力を鍛えるのにうってつけの物があるのよ」
彼女が指差した方向を向くと、一箇所だけやけに暗いスペースが視界に入る。
「……リズムゲーム?」
「そう!流れてくる譜面に的確な動きで対応する……。これぞまさにアティードが求める力への近道よ!」
「わかるようでわからない」
助けを求めようと周りに視線を送るが、いつの間にか千歌達の姿がなくなっていることに気がつく。
「あ!あのぬいぐるみ可愛い!」
「私に任せなさい、ルビィ!」
「もし取れなくても私が言い値で買い取りマース!」
「そ、それって大丈夫ずらか?」
「曜ちゃん梨子ちゃん果南ちゃーん!これ面白そうだよー!」
少し見ない隙にそれぞれで自由に遊んでしまっている。
最後の頼みであるステラですら「めんどくさそうだから勘弁」といった瞳を向けながらどこかへ去ってしまった。
「……わかったよ。何事も挑戦だ」
「話が早いリトルデーモンは好きよ」
「契約した覚えはないけどな」
唯一小さい頃にプレイしたことのある太鼓型の筐体の前にしぶしぶ立ち、百円玉を入れて曲と難易度を選択する。
「そりゃっ」
「あ”!」
横から伸びてきた善子の腕がバチで最高難易度の楽曲を選び、そのまま決定が押される。
「何すんだよ!」
「一番難しいやつで練習しないと意味ないでしょ」
「んなこと言われても……!」
昔少し触れただけで極めるほどプレイしたことはない。
最高難易度なんかできるわけがない。
「ちくしょおおおお!やってやるよもう!」
「その意気よ!」
結果は言うまでもないだろう。
力尽きて膝を折り曲げている未来に善子の心配そうな声音がかけられる。
「まったく情けないわね、大丈夫?」
「…………ちょっと酔った」
「この星の明日はあんたにかかってんのよ!さあ立って続き!」
俯きながら呟く未来の背中をさすりながらも檄を飛ばす善子。
「他に何かないのか……?あのドラム型洗濯機みたいなのとか……」
「あれは手袋無しだと火傷するわよ」
「ゲームなんだよな?」
なにやら物騒な単語が聞こえたが、先ほどのゲームの影響で思考が上手く働かない。
「こんなこともあろうかと私のを持ってきたわ。次はあれを————」
「お待ちなさい!」
背後からの待ったの声に未来達の動きが止まる。
ペンギンのぬいぐるみを抱えたダイヤが大股で歩いてくるのが見えた。
「やはりそんなことでは未来さんのためになりません!もっと現実的な方法を試すべきです!」
「と、いうと?」
「ズバリ!精神統一ですわ!」
◉◉◉
「お邪魔しまーす……」
雅な空気が漂う家の中に入り、ダイヤの後ろをついていく。
縁側を歩いて行くと、横に見える一室にいくつものぬいぐるみが散乱しているのが気になって視線を横流しする。
「あのぬいぐるみは……」
「……あ!」
何かに気づいたように身体を跳ね上がらせたルビィ。
「ルビィ!あれだけ片付けなさいと……!」
「ご、ごめんなさい!」
弾かれたように駆け出しては床に散乱したぬいぐるみ達をかき集めるルビィを見て、どこか違和感がよぎる。
『……!あの宝石は……』
テーブルに置かれていた一個の青い石。
ルビィはそれを大事そうに小瓶へ詰めると、落とさないようにしっかりと自分のポケットの中にしまいこんだ。
(……クォーツ星人の時の)
『……もしかしてあのぬいぐるみは————』
メビウスが途中で言葉を切る。
「……どうかしました?」
『「ううん、何も」』
少し歩いて行くと広めの和室に着いた。
千歌達が全員入っても余裕なほどの一室で、未来とステラを含めた十人はダイヤに言われた通り並んで正座する。
「では始めましょう」
スラッとどこからともなく木刀を取り出したダイヤが立ち上がる。
「ちょっと待って!?」
「なんでそんな物騒なもの出してきたの!?」
曜と未来が同時に仰け反って抗議する。
「無論、精神の乱れを漏らした者に罰を与えるためです」
「イヤイヤイヤイヤ!なんで私達まで!?」
「俺もまだ趣旨が理解できてないんだけども!」
「お黙りなさい!」
こほん、と咳払いで場を静めたダイヤが口を開いた。
「新必殺技となれば大切なのはイメージです。未来さんには沈黙の中でそれを固めてもらいます。他の皆さんはついでです」
「ついでって何!?」
「問答無用!では始め!」
強制的に開始された精神統一に戸惑いつつ、未来は咄嗟に目を瞑って暗闇のなかへ飛び込んだ。
(…………なんか、思い浮かべてたのと違うなあ)
必殺技を生み出す、となればひたすら特訓のイメージだったが、他にも大切なものがあると皆に気づかされた。
『でもありがたいね。こうして僕達に付き合ってくれるなんて』
(まあ……それもそうだな)
みんなに協力してもらったんだ。せめてヒントくらいは思いつかないと————
過去に経験してきた戦いを思い出す。
(パンチ……メビウス……威力……)
……正直に言うと自分だけのアイデアで必殺技が完成するとは思えない。やはりメビウスからも何かしら引き出してもらわないと……。
自分だけの、ということにこだわり過ぎてた。レオも「一人で戦っていると思うのはいけない」と言っていたじゃないか。
仲間達からヒントを得て、さらにそこへ自らの考えを加える————
(そういえばメビウスの技の中に……パンチ技……)
『「あっ!!」』
急に声を上げた未来に驚いた千歌達がビクリと身体を揺らした。
「そこっ!」
「あいたっ!!」
スパン!と未来の肩にダイヤが振り下ろした木刀が炸裂する。
「ストップストップ!思いついたんだって!」
「え?」
木刀を構えるダイヤから逃げるように遠ざかった後、自信ありげな顔を見せる未来。
……難しいことを考える必要はなかった。もっとシンプルに、大胆に、かつインパクトのあるものだ。
「……聞かせてくれる?」
正座を崩さないまま、ステラは静かな視線を注いでくる。
「ああ————」
と、その時。
甲高い音が街中に響いた。
同時に人々の悲鳴が耳に届き、未来は反射的にその場を飛び出した。
「……!あれは……!」
異様な光景が視界に入ってきた。
見覚えのある、そして恐ろしい景色————
「空が
未来の必殺技のためにAqoursメンバーが協力する流れは二章で書きたかった展開の一つです。
次回はついにあの超人が登場します。
今回はクォーツ星人について振り返りましょうか。
第18話と第19話、「ルビィの妹」に登場した今作オリジナルの宇宙人です。
今回ルビィが持っていた青い石はサファイアという名のクォーツ星人が変化したものでしたね。
以前メビウスに「器があればまた動くことができるかもしれない」と言われましたが……?
この辺りも今後触れる機会があると思います。(おそらく終盤に)
次回、未来とメビウスの新必殺技が炸裂……⁉︎