今回は溜め回かな?
とりあえず3話分は終わりです。
「二つに分ける?」
部室でライブ当日の相談をするために集まった千歌達が、ほんの少しどんよりとした空気のなかでテーブルを囲んでいた。
「うん、五人と四人。二手に分かれてラブライブと説明会、両方で歌う。それしか……ないんじゃないかな」
「でも……」
「それでAqoursと言えるの?」
「ずら……」
あまり乗り気ではない様子の皆が口々にそう述べていく。
「それに、五人で予選を突破できるかわからないデース……」
Aqoursのパフォーマンスは“九人である”ということにアドバンテージがある。
実際全員で披露するつもりだったダンスを改変すれば、迫力も見栄えも落ちてしまうだろう。
「嫌なのはわかるけど……じゃあ他に方法ある?」
「……移動手段さえあれば」
未来の一言も空しく消えていく。
結局この日の話し合いは、分かれて歌うことに落ち着いてしまった。
「本当に良かったのかな?」
「良くはない……けど」
「現実的な方法で間に合わせるには、これが最善なのかもな」
曜、梨子、未来の三人がガードレールに腰掛けながらぽつり、とこぼす。
夕暮れを背にしていると自然に辛気臭い顔をになってしまう。
「私達は奇跡は起こせないもの。この前のラブライブの予選の時も、学校の統廃合の時も……」
俯いていた梨子が弾かれたように立ち上がり、表情を明るいものに変えて口を開く。
「だから、そのなかで一番いいと思える方法で精一杯頑張る!」
落ち込んでいた千歌達を励まそうとしているように、梨子はガードレールを飛び越えては笑顔でこちらを見上げてきた。
「それが私達なんじゃないかって…………思う」
「……そうね。あなた達は今までもそうしてきたんだし」
「今回もなんとかなるだろ!」
「そうだね……あっ」
何かに気づいたような様子で肩を揺らした千歌が、梨子の背後へと視線を移した。
つられて未来とステラも同じ方向へと顔を向ける。
そこに見えたのは広大なみかん畑と、いくつかの車両が繋がっている運搬用モノレールだった。
「……果物、よね。地球の」
「みかんだな。……うん!今年のも美味しそう!」
脳天気に笑う未来の横で呆然と立ち尽くしている千歌。
彼女は急にその場を駆け出すと、ガードレールを跨いで梨子のいる場所まで向かった。
「みかん!みかんだよ!」
「千歌ちゃん?」
「みっかーーーーん!!」
身体全体を使って喜びを表現する千歌だが、他の面々には彼女の考えていることはさっぱりわからなかった。
数秒遅れて何かを察した未来が慎重な顔で尋ねる。
「…………何か思いついたな?」
◉◉◉
ついにライブ当日。
ラブライブ特設会場へとやってきたのは千歌、曜、梨子、ルビィ、ダイヤの五人。他のメンバーは浦の星学院で学校説明会のライブを行う予定だ。
向こうにはステラがサポートとして付いているので、未来もこちらに集中できる。
観客席に腰を下ろした未来が口元を引き締めた。
「…………心配だ」
『さっきからソワソワしっぱなしだね』
信じて送り出したのはいいが、客席で待機してからなぜか震えが止まらない。出演者の方が何倍も緊張しているだろうに。
現在千歌達は自分達の順番になるまで待機中だろう。
未来はサイリウムを握り直して、彼女達がステージに上がるのに備えた。
「そう固くなる必要はないよ。ライブというものは純粋に……そう、適度に自分をさらけ出すことが肝心さ」
「あ、ああ……そうだな。…………ん?」
隣に座っている人影に声をかけられて、反射的にそう言ってしまう。
……しかし、それが誰なのか理解した瞬間、飛び跳ねそうになるくらいの驚愕が全身を走った。
「うおおおおッ!?ノワール!?」
「やあ」
「なんでお前がここに……!」
いつもと変わらない気味の悪い笑顔と黒いコート。
ノワールが隣の席で未来と同じくサイリウムを持ちながら座っていたのだ。
「おかしいことは何もないさ。ボクもAqoursのファンだからね」
「はあ……!?そんなこと言って……また何かしでかす気なんだろ!」
「今のボクに大それた事はできないよ」
参った参った、と両手を挙げるノワール。
……信用なんかするわけない。ライブ中は常にこいつに目を光らせておかなくてはならない。
『エントリーナンバー二十四!Aqoursの皆さんでーす!!』
「……!」
パッとスポットライトがステージ中央に当たり、千歌達五人の姿が暗闇から浮き出てくるのが見えた。
あちこちで鳴る拍手も段々と勢いが無くなり、静寂が訪れても————千歌達は歌おうとしなかった。
『……!何かあったのかな……!?』
「…………ダメなのか?」
九人で歌えないことが未だに足を引きずっているのか、千歌達は曇った顔のままだ。
「千歌…………!」
「……やっぱりこうなるか」
「あ……?」
「なに、こっちの話だよ」
意味ありげに呟くノワールの瞳は、いつの間にか真剣なものに変わっていた。
「勘違いしないように!」
「……!?」
不意にかけられた声が皆の意表を突いて聞こえてくる。
「……なっ……!」
「……ほら、やっぱり来た」
にやりと口角を上げたノワールとステージ上を交互に確認する。
説明会へ向かったはずの果南、鞠莉、善子、花丸が千歌達の背後に立っていたのだ。
「やっぱり、私達は一つじゃなきゃね!」
「みんな……」
「ほらほら、始めるわよ!」
「ルビィちゃん、この衣装素敵ずら!」
揃った。無理だと思っていたはずの九人が。
「さあ、やるよ!」
「……!うんっ!!」
ーーMY舞☆TONIGHTーー
寺でヒントを得たイメージを基に作曲したものだ。
和ロックな雰囲気に花丸が書いたであろう歌詞がマッチしている。
小さな炎も、集まれば大きな奇跡となる————彼女達の要望と心情をありったけに詰め込んだ一曲だった。
「……ボクは同じ光景を見たことがある」
「……なに?」
ふとノワールが呟いた言葉に反応し、未来はステージから視線を外した。
「だけど千歌ちゃん達は少し違うね…………今後が楽しみだよ。もちろん君も」
「なにを言って————」
曲の途中にも関わらず席を立ったノワールは、そのまま身を翻して会場を立ち去ってしまった。
いったい何だったんだ、と首を傾けつつ、未来は目の前のライブに集中————
「……あれ、待てよ」
『ん?』
「そうだ、果南さん達がこっちにいるなら尚更……!」
慌てた様子で立ち上がった未来は、少し迷うように千歌達を一瞥した後で会場を飛び出していった。
◉◉◉
「来たわね」
「ほんとに使うんだな、これ……」
会場から全力疾走して辿り着いた場所は、
ステラの横で待っていたのはクラスメイトである、よしみとむつの二人だ。
「あなたが事前に連絡したんでしょう、このモノレールを使うって」
ステラはそう言って傍で静止している車両を見やった。
果南達がラブライブの方へ向かったのなら、ステラもこちらに来ていると踏んだのは正解だったみたいだ。
あらかじめやることを話しておいたのが吉と出たようだ。
「ああ、千歌のアイデアだったんだけどな……。二人もありがとう、協力してくれて」
「ううん!全然!」
「今は学校の危機だしね!」
気前よくモノレールを使うことを許してくれた農家の人達にも感謝だ。
「おーい!!」
「お、来たぞ!」
遠くから走ってくる千歌達の姿が見えるのと同時に、むつが勢いよくモノレールのエンジンをかけた。
「お嬢ちゃん達!乗ってっかい!?」
「二人ともありがとー!」
「そっか、これだったんだ……」
「みかん農家じゃ、そんなに珍しくないよ。さ、乗って!」
おー!と掛け声を上げながら次々と車両に乗り込んでいく千歌達。
説明会のライブ時間に間に合わせるため、彼女達はこの運搬用モノレールに乗って移動する。
土壇場でコレを思いついた千歌が、どれだけ必死な思いだったか。
(千歌は諦めることが苦手だからな……まったく)
どんな窮地でも、打開策はきっとある。彼女からはいつもそれを教えられるんだ。
「……って、本当に大丈夫なのこれ!?」
「みんな乗ったー!?」
「全速前進!ヨーソロ〜!」
元々の設計上、この機械に人が乗り込めるスペースはそう広くなかった。
九人でぎりぎり収まったなか、先頭に座っていた果南がレバーを引く。……が、
「……遅いな」
歩いた方が速いのではないかと思うほどの速度で車体が動き出す。
「……冗談は善子さんずら」
「……ヨハネ」
「って言われても、仕方ないんだけどね〜……」
亀の如きスピードに耐えかねたのか、果南の表情が徐々に険しいものへと変わっていった。
「〜〜〜〜……っ!もっとスピード出ないのぉ!?」
再び強くレバーが引かれるのと共にバキン!と嫌な音が耳朶に触れた。
「……バキン?」
恐る恐る果南の手元を確認する。
「…………取れちゃった」
————わあああああああああっっ!?!?
一転してジェットコースターじみた速度に変貌したモノレールを見送り、未来とステラは肩をすくめて顔を見合わせた。
「俺達も行くか」
「そうね」
むつ達がこちらを向いていないことを確認した後、地面を蹴る。
風のようにみかん畑の横を通り過ぎる二人の少年少女。
……そして、彼らを見守るように物陰に佇んでいた青年が一人。
「……奇跡…………輝きか」
◉◉◉
校庭に作られたステージの付近で、九人分の衣装を抱えながら待機。
「……まあ、わたし達の方が早く着くわよね」
「間に合うといいけど……」
時間はかなり押している。モノレールがなかったら遅刻は免れなかっただろう。
ここまで来るのに少し走る必要があるため、今は千歌達を信じるしかない。
「……わたしね、前からずっと思ってたの」
「ん?」
「どうして千歌達は、廃校を止めようとするの?」
正面を向いたままのステラが唐突に問いかけてきた。
これまで未来と共に千歌達に協力していながら、彼女はまだ理解しきれていなかった。
「スクールアイドルが好きだから……と言っても、統合先でも同じことはできるでしょう?」
ステラの捉えていた千歌の印象は、どこかずれているように感じた。
未来は少し考えるように黙り、同じく正面を向いたまま話し出す。
「当然スクールアイドルは好きなんだろうさ。……でもそれと同じくらい、この学校が好きなんだよ」
彼女達がこんなにも一生懸命になれるのは、浦の星学院が好きだから、ということに他ならない。
「千歌達にとって、
背後に見える校舎を見上げ、未来は無意識に笑みを浮かべていた。
「……あなたはどうなの?」
「……え?」
「あなたはこの学校が好き?」
突然の振りに一瞬戸惑うが、未来はすぐにはっきりとした口調で答えた。
「ああ、好きだよ。みんなと引き合わせてくれた、大切な場所なんだから」
梨子、花丸、ルビィ、善子、鞠莉、ダイヤ————そしてメビウス。
自分の運命を動かすような出会いは、皆この学校で起こったんだ。
「……そう。なら、わたしも最後まで付き合わなきゃね」
『おっと、僕達のことは忘れてないよね?ね、ヒカリ』
『俺は……ステラの背中を押すだけだ』
頭のなかに響く騒がしいやりとりに思わず吹き出してしまう。
「……ああ、そうだ。奇跡でもなんでも起こして、この学校を救う」
遠くの方でわずかに見えた複数の人影に微笑み、手を振り返す。
前にステラが言っていた通り、物事はなるようにしかならないのかもしれない。……けれど、行動を起こすのは自分自身。
その果てに得た結果をどう呼ぶかもまた自分次第だ。
(俺達は起こすぞ……“奇跡”を)
ーー君のこころは輝いてるかい?ーー
歌が伝わる。
彼女達の声、気持ち————風に乗ってやってくる。
かつて聞き惚れた歌声に勝るとも劣らない輝きを前に、男は抑えきれない興奮を手を強く握ることで形にした。
「…………来るのか」
何気なく見上げた空は、どこか不穏な雰囲気で満たされていた。
未来の学校に対しての気持ちも明らかになり、物語は次のステップへ。
二章で未来達に襲ってきた敵は今のところノワールくらいですが、果たして……?
では解説です。
今作では過去に地球に降り立ったことのあるウルトラマンはベリアルのみという設定ですが、それに伴って他のウルトラ戦士達とエンペラ星人の軍勢との因縁も少々違ったものになっております。
ウルトラ大戦争が勃発した時に四天王と対峙した者がそれぞれいるので、彼らを絡めた話も今後注目です。
次回は未来の新必殺技も含めたオリジナル回になります。