未来とメビウスを訪ねてきたレオの目的は……⁉︎
(ウルトラマンレオ……?)
『うん。エンペラ星人の軍勢とも戦ったことがあるすごい人なんだ』
(そんな人がなんで……俺達のところに?)
レオに言われるがまま、未来はメビウスの姿を借りて地球の外側へと移動していた。
何も言わないまま先を行くレオに怪訝な視線を送りつつ、未来はひっそりとメビウスへ声をかけた。
(千歌達、大丈夫かな……)
『心配ないよ。今は僕達が地球を離れてもステラちゃんとヒカリがいる』
(それはそうだが……)
『ライブの順番も気になるけど……、今はレオ兄さんについて行ってみよう』
急な出来事だったので千歌達にはきちんと話す暇がなかった。何か厄介なトラブルに巻き込まれていなければいいが……。
(……!ここは……)
宇宙空間を飛翔するレオの背後をついて行くと、やがてポツリと浮かぶ月を目指しているのだと気づく。
わざわざ月面に呼び出して何をするつもりなのだろうかと首を傾ける。
何もない地表に降り立ったメビウスは周囲を見渡した後で、前方に立つレオへと顔を向き直した。
(えっと……)
『地球にやって来ていたとは知りませんでした。もしかして他の兄さん達も————』
ほんの少し高揚気味な様子のメビウスが尋ねる。
が、彼の質問などまるで聞こえていないかのように、レオは無言で腰を低くしては片手を前に突き出す。
「構えろ」
『(へ?)』
あまりに突然な発言に困惑するが、数秒後に言葉の意味を理解したメビウスは慌てて両手を振った。
(ちょ、ちょっと待ってくださいよ!急に現れてなんなんですかあなたは!)
「来ないのならこちらから行くぞ」
『……!未来くん!』
瞬間的に地を駆けてきたレオが眼前まで迫る。
咄嗟に後方へ飛び距離をとったメビウスは、今の動きで彼が本気であると理解した。
凄まじい威圧感に及び腰になってしまうも、ペースを持っていかれないように意識をはっきりと保つ。
(……よくわからないけど……!)
『今は戦うしかないみたいだ』
相手は歴戦の戦士。未来とメビウスでは経験だけでも雲泥の差だろう。
……未来のなかに、ほんの少しだけ“試してみたい”という思いがあった。
これまで戦い、ステラと特訓した今の自分の実力はどの程度のものなのか。
(……よし!)
レオが何を考えているのかはわからない。
しかしこれは自らの力を測るのに持ってこいの状況なのかもしれない。
(いくぞメビウス!)
『う、うん!』
出し惜しみはしない。最初から全力で戦う。
全身から炎を放出したメビウスの胸にファイヤーシンボルが刻まれた。
『(ハアッ!!)』
バーニングブレイブとなったメビウスがレオへ肉薄し、その胴体めがけて右ストレートを放つ。
ステラに鍛えられたその一撃は以前とは比べられないほどに成長していた。
「フン……!」
(…………っ!?)
しかしその攻撃は、何もない空間を突くことになる。
瞬時に上体を下げて回避したレオがアッパー攻撃でメビウスの肘を狙った。
(うっ……!)
痺れが全身を貫き、メビウスの動きが止まったところを強襲。
胴。顔。足。と容赦のない打撃の嵐が未来とメビウスを襲った。
『くっ……!?』
(クッソ……!!おりゃあっ!!)
鈍る感覚のなか、無理やり振り上げた足がレオの頬を掠めた。
「ハッ!」
(えっ……!?)
レオは流れるような動きでメビウスの足首を掴み取り、そのまま背負い投げの要領で地面へと叩きつけた。
『(がはっ…………!!)』
「ホッ……!トリャアッ!!」
メビウスの身体を持ちながら回転を加え、そのまま遠くへと放り投げる。
転がった先ですぐに立ち上がることができなかったメビウスは、ガンガンと痛む頭を押さえながら思考を巡らせた。
(なんだ今の……!?)
『完全にこっちの動きが読まれてる……!正面からじゃ勝てっこない!』
さほど大振りでもない攻撃でも、レオが放つ技は全てが重い。
加えてそれが同時に何発もやってくる。対処しきれたものじゃない。
獅子のような獰猛さと素早さ。
今の未来とメビウスにはない、二人の目指すものが彼には備わっていた。
「どうした?まだ始まったばかりだぞ」
(ぐっ……!ゲホッ……!)
ダメージが足を引きずる。
バーニングブレイブで底上げされた身体能力でも歯が立たないとは。
(…………いや、弱気になるな。まだ身体は動く。意識もある)
とは言っても戦闘開始直後にこのザマだ。普通に考えて勝利することは難しいだろう。
だから————
『(…………一発だ)』
渾身の一撃を一発、確実にレオに打ち込む。まずはそれを目標に戦う。
今の未来達の“本気”ではおそらくそれが限度。
「…………」
じっとメビウスが立ち上がるのを待っていたレオが微かに構える。
『(はあああああッッ!!)』
メビウスブレスからブレードを伸ばし、炎をまとわせながらレオへと接近。
「武器に頼れば隙が生じる」
(……!)
振るわれた斬撃を難なく避け、追撃を加えようとレオは拳を突き出した。
(あぶっ……!)
寸前で身体を反らして避けたメビウスは、引くことなく彼の姿を視界に捉えた。
『(セヤッ!!)』
これでもかとブレードを暴れさせてレオに斬りかかるメビウスだったが、その全てを回避されてしまう。
当たるどころか隙一つ見せない徹底した姿勢。
(強い……!)
単純に技量が足りない。
(……なら————!)
『未来くん……?』
ふと未来が笑ったような気配を感じ、メビウスは首を傾けた。
「ハアアアア……!」
高く飛び上がったレオを見上げ、メビウスは咄嗟に防御姿勢をとった。
『レオキック……!?』
「ヤアアアアアアアッ!!」
赤熱化した右足を突き出し、空中から一直線にメビウスめがけて迫る。
回避は不可能。
高エネルギーの塊が弾丸の如く空を切り、メビウスの胸にある炎のシンボルへと直撃した。
(ガハッ……!!ごぼっ…………!)
『ぐっ……あ…………!!』
弱々しい声が宙に響く。
倒れかけるメビウスに何の感情も抱いていないような冷たい視線を送るレオだったが————
(ぁ……ああああああああっっ!!)
「……ぬう……!?」
力強く踏み出した片足に力を込め、左腕を引き、上半身を回転させる。
『(セヤアアアアアアッッ!!)』
技の直後で動きが止まっていたレオに向かって渾身の一撃が放たれる。
メビウスブレスから発せられた炎と共に、左腕の拳がレオの腹部へとねじ込まれた。
強烈な轟音が張り上げられ、月面にあった岩が大きく跳ね上がる。
しばらくの間を沈黙が支配した後、崩れるようにメビウスが倒れてしまった。
(うっ……!けほっ……!)
レオは未だ、涼しい顔で立っている。
全力、渾身だ。全身全霊をかけたつもりの一撃さえも、彼には一切通じなかった。
「レオキックをわざと受けて確実に攻撃を与えようと考えたわけか。……だが、大ダメージを受けた後では充分な威力の拳は放てない」
(く……そ……!!)
「思った通りの実力だメビウス、それと地球人の少年」
無慈悲な声音が耳に滑り込んでくる。
「このような無謀な策に出たのも、俺がお前達を殺すことはないと思っていたからだろう?…………馬鹿者がッッ!!」
『……!』
「先の攻撃で諸共に命を落とす可能性は考えなかったのか?その後のことは思いもしなかったのか!?」
言葉が出なかった。
鈍痛が脳内を支配するなか、レオの怒気に満ちた声が聞こえて来る。
「エンペラ星人は手加減などしない。……一撃?一矢報いるだと?そんな甘い考えは、“真の殺意”の前では無意味だ!!」
(…………!)
ぞくり、と背筋が凍るような感覚。
闇の皇帝と実際に対峙したことのない未来は、実のところ今まで具体的なイメージはできていなかった。
しかしレオに打ちのめされた今、未来は微かにその恐ろしさの片鱗を垣間見た気がした。
「このような戦い方をする者に……地球を守る資格はない」
————ひどい勘違いをしていた。
力を試されていたのは、最初からこっちだったのだ。
レオは見極めていた。未来とメビウスにエンペラ星人と戦うことができるだけの力量があるのかどうかを。
……そのために二人を訪ねてきた。
(……ま…………て……!)
背を向けたレオに必死に手を伸ばす。
(……俺達に足りないものが多いことなんてわかってる……!)
『でも……!僕達は諦めません……!』
足りない力を補うためにこれまで努力をしてきた。
ステラに体術を教わり、成長は確かに感じていた。……けれど。
(……今の戦いで……俺達の考え方も、立ち回りも、技量も……!全然なってないって改めてわかった……!)
「……わかったから、なんだというのだ?」
『(強くなります!!今の何倍も努力して、地球を守れるだけの力をつけます!!)』
同じ言葉を重ね合う未来とメビウスを一瞥した後、レオは最後に一つだけ言い残していった。
「他人の力を頼りにはするな。……だがな、一人で戦っていると思うのもダメだ」
(……え?)
「お前達の戦い方には“クセ”がある。直そうとしても簡単にはいかん。…………ならばいっそ、その“クセ”を武器にしろ」
飛び上がっていくレオの背中を眺めながら、彼の言葉の意味を考える。
————“クセ”を武器に……?
◉◉◉
「そっか……一番は取れなかったか」
『残念ながら……』
地球に戻ってきた後で千歌から抽選の結果が聞かされた。
Aqoursの歌う順番は二十四番。完全なる中盤だ。
携帯越しに聞こえる千歌の声はどことなく力が抜けているように感じる。
「くじ引いたのはヨハ子ちゃんだっけ。……あはは、落ち込んでなきゃいいけど」
『決まっちゃったのは仕方ないけど……ほんとにどうしよう……』
窓から見える夜空を見上げながら未来も頭を動かす……が、なかなか案が出てきてくれない。
「どちらかを選ぶっていうのも…………そう簡単には決められないよな」
『……うん』
彼女達にとっては両方が大切な事柄だ。
学校を救うか。ラブライブを取るか。
「……っ」
不意にこみ上げてきた胸の痛みに顔を歪める。レオキックのダメージがまだ残っているのだ。
……レオの言う通り、無謀なことをしたものだ。
『未来くん?』
「ああ、大丈夫。……俺じゃ上手いアドバイスはできそうにないな。梨子とも話してみなよ」
『うん、そうしてみる————ステラちゃん?』
向こう側で何かしらのやり取りが聞こえた後、再び千歌の声が聞こえてきた。
『ちょっとステラちゃんに替わるね』
「ステラに?」
ゴソ、と携帯を持ち替える音の後で静かな声音が滑り込んできた。
『昼間何があったか聞かせてもらえる?』
「ああ……」
レオに会ったこと。彼と戦って負けたこと。
そして言われたことを全てステラに打ち明けた。
しばらく押し黙った彼女が、いつもと同じ冷静な口調で言う。
『……クセを武器に、か。確かにその方があなた達に合ってるかもね』
「どういうことだ?」
『レオの言葉にはわたしに対してのメッセージも含まれているわ。“未来の鍛え方”についてのアドバイスみたいなものね』
「俺の……鍛え方?」
よくわかっていない様子の未来にステラが続けて述べる。
『以前あなたのクセについて話したことがあるでしょう』
「ああ……パンチでの攻撃が多いとかなんとかいうやつ……」
『ええ。わたしはそれを指摘して、改善させようとしていた。……けれど、あなたはどうしても無意識に拳を主体とした戦法に移ってしまう』
思えばノワールと戦った時もそうだった。
身体全体を使えと言われても具体的なイメージが浮かばなかった未来が、結局最後に選ぶ戦い方————
『でも正すのは間違いだった。……あなたの場合そのクセを制御して、自らの技に昇華させる方が合っている…………っと、レオは言いたかったのかもね』
「自らの技…………」
少年漫画じみた思考を総動員させて、未来は考える。
ステラの話を聞いて辿り着いた結論は、至ってシンプルだった。
『……未来?』
『未来くん?』
急に黙ってしまった未来にメビウスとステラが声をかける。
「……そうか……!それだ……!」
『どうしたのよ、急にはしゃいで』
今の未来はメビウスの光線技や武器に依存している部分が大きい。
バーニングブレイブに関しても、メビウスが隣にいて初めて使用できる形態だ。
だから————
「俺だけの技…………!新技だよ!!」
『新……技……?』
「ああ!俺がメビウスの身体を動かして……初めて使える必殺技!」
日々ノ未来という人間の力を充分に発揮できる、新しい技を————!
「今後の特訓では、新必殺技についても考えることにする!」
『……ふうん。まあいいんじゃないかしら。方向性は間違ってないと思うわ』
「決まりだな!」
千歌達も新しいことにドンドン進んでいってる。
(俺も……負けていられない……!)
新必殺技……今作だからこそできる展開ですね。
未来には主人公としての意地を見せてもらおうではありませんか。
サンシャインパートがかなり削られているので、細かい部分の繋がりは3話を視聴することをお勧めします。
解説いきましょう。
今作では作者の個人的な好みにより、ベリアルアーリースタイルも物語に深く関わっています。
かつて内浦に現れたディノゾールを撃破し、エンペラ星人と対峙した後で行方不明になってしまったベリアル……。
アーマードダークネスをまとった姿で再び現れ、未来達とも戦いましたが、その時には過去の彼よりも残虐さが目立っていました。
元の設定とは違いプラズマスパーク絡みの事件には関与していませんので、姿が変わったのはアーマードダークネスの影響によると言うことですね。
そんな彼の目的とは……?
では次回もお楽しみ。