ジードも折り返し地点ですし……時が経つのは早い。
「じゃあ、私達は千歌ちゃん家で曲作ってるね」
「頑張るずら〜!」
「そっちは任せたぞステラー!」
二年生達の背中が遠ざかっていく。
未来の声に手を振って返答した後、ステラは残った三年生と一年生の六人に顔を向けた。
「さてと、私達はどこでやろうか?」
「部室じゃダメなの?」
「なんか、代わり映えしないんじゃない?」
「そうですわね」
いつもと違う環境下での試行錯誤が新たなアイデアを生み出すヒントになり得る。
アークボガール討伐任務の時の自分達に照らし合わせて、ステラはなるほどと首を縦に振った。
「千歌さん達と同じで、誰かの家にするとか?」
「鞠莉んとこは?」
「え?私?」
「確かに、部屋は広いし……ここからそう遠くもないですし」
ダイヤ達の会話を聞いていた花丸がルビィと善子、ステラ達の間に割り込むようにしてひっそりと言う。
「もしかして、鞠莉ちゃんの家ってすごいお金持ち?」
「うん!そうみたい!」
「スクールカーストの頂点に立つ者のアジト……」
「……おかね、もち……?」
いまいちピンときていない様子のステラをルビィ達が取り囲み、キラキラした瞳を彼女へと向けてきた。
「きっとすっごく大きい部屋がいくつもあるんだよ!!」
「きっとすっごく未来ずら!!」
「きっと暗黒の使いが出迎えてくれる魔王城みたいなところよ!!」
「へ、へえ……それは気になるわね……」
何か皆のテンションがおかしな方向へ向かっていると薄々感じながらも、ステラは三人に圧倒されて口を閉じてしまう。
「私はノープロブレムだけど……四人はそれでいいの?」
ささ、とすかさず手を挙げる三人につられて、ステラも小さく片手を挙げて同意を示した。
「賛成ずら!」
「右に同じ!」
「ヨハネの名にかけて!」
「わ、わたしも!」
「オッケー!レッツトゥギャザー!!」
ステラのなかで静かに皆の相談を聞いていた者が一人。
『……まだまだ子供だな』
隠しきれない好奇心をステラの心に感じ、ヒカリは空気が抜けるような口調でこぼす。
子を見守る親のような心持ちで少女達へ着いていった。
一歩踏み入れた途端に感嘆の声が湧き上がる。
周囲の景色を反射する大理石で出来た床。大きくて柔らかそうなソファーが複数。もはや建てた意図すらわからない鞠莉に似た銅像。
何もかもがルビィ達の心を震撼させた。
「すごい!綺麗!」
「なんか気持ちいいずら〜……!」
「心の闇が……晴れていく……っ!あぁ……」
一方でハイテンションな三人の横に立つステラは意外にも冷静な様子だった。
「ステラはあんまり驚かないんだね」
果南の問いに少し考えた後、きょろきょろと辺りを見回しては口を開く。
「ううん。充分驚いてはいるんだけど…………」
『以前地球を離れた時に立ち寄った星で、ここと似た雰囲気の城に入ったことがあってな』
「し、城……?」
「それよりも、ここに来たのは曲を作るためですわよ!さあ!」
「ダイヤの言う通りよ。まずはテーマから決めていきましょう」
本来の目的を切り出したダイヤから順に、皆は設置されてあったソファーへと適当に腰を下ろした。
◉◉◉
「おまたせー!アフタヌーンティーの時間よー!」
しばらくして鞠莉が運んできたものは大量の洋菓子やティーポットが乗せられたアフタヌーンティースタンドだった。
「「「うわぁ〜!!」」」
一年生三人がそれらに釘付けになっている後ろで、ステラがほんの少し頬を染めてその様子を眺めている。
「……ヒカリ」
『どうした?』
「あれ、可愛いね」
『はあ……、確かに色とりどりで見栄えはいいな』
山積みになったマカロンをじっと見つめては首を横に振って正気を保つステラ。
「今の発言は忘れて」
つくづく難儀な性格をしているな、と彼女のなかで唸るヒカリであった。
「超未来ずら……!」
「好きなだけ食べてね!」
「なにこれ!」
「このマカロンかわいい!」
留まることを知らず、さらに加速していく三人のテンション。
「ほっぺがとろけるずら〜」
————そんなに?そこまで美味しい物なのか?
地球の甘味は大好きだが、未だその全てを知り尽くしたわけではない。これは是非自分も味わって————
「……ふんッ!」
「ステラさん!?」
「自分を殴った!?」
「気にしないで」
ダイヤと果南に驚愕の視線を向けられつつも煩悩を消し去るべく頰に平手を打ち込む。
そうだ。何のためにここへやってきた。まだ曲の方針すら定まっていないというのに————
「ダメよヨハネ!こんな物に心を奪われたら浄化される!浄化されてしまう!堕天使の黒で塗り固められたプライドが————!」
「あ〜んっ」
一人で堕天使劇を繰り広げていた善子の口に花丸がマカロンを一つ放り込む。
「ギラン!昇……天……!」
一瞬で目の色が変わった善子はそのまま吸い込まれるようにソファーへと倒れてしまった。
————そんなに?そんなに美味しいのか……!?倒れるほど……!?
「くぅ……っ」
『……ここまで辛そうなステラを見るのはいつぶりだろうか……?』
甘いものが好きな彼女に追い打ちをかけるようにして出された“可愛さを兼ね備えたお菓子”はまさにツボであった。
今にも泣きそうな顔をしているステラに対してトドメを刺すかのように、歩み寄ってきたルビィが一言。
「はい、ステラちゃんも!」
差し出された赤色のマカロンが視界に入った瞬間、ステラのなかで何かが切れる音がした。
「う……!うがーーーーーーッ!!」
「ピギィ!?」
彼女は奇声をあげて立ち上がると、はしゃいでいた三人に向かって人差し指を向ける。
「ええいうるさい!あなた達曲作りに来たんでしょう!?ならいつまでもキャーキャー言ってないで構想を練って————!」
「そー……ほいっ」
横から伸びてきたルビィの手からマカロンが放たれ、ステラの口の中へと見事に収納されていく。
「むぐっ……!?」
『…………ステラ?』
がっくしと膝をついて肩を震わせるステラへ心配そうに声をかけるヒカリ。
「うぅ…………美味しい……」
『あ、ああ。よかったな』
ああ、もうこうなってはダメだ。すぐには戻れない。
結局この後一時間ほど鞠莉の家で怠惰を貪り続けてしまった。
◉◉◉
「浮かびそうもない?」
「うーん……。“輝き”ってことがキーワードだとは思うんだけどね……」
「輝きねえ……」
一方千歌の部屋では梨子、千歌、曜、未来の四人がテーブルを囲んで頭を働かせていた。
全く埋まる気配のないノートと睨み合いながらぽつりとアイデアを出し合っていく。
「……このメンバーでライブの準備するのって、ファーストライブ以来かもな」
「あ、そういえばそうかも」
「あの時はステラちゃんもいたけどね」
どこか懐かしい空気のなか思いを馳せる。
スクールアイドル部を設立させるために行った最初のライブ。
人を呼ぶためにチラシも自分達で作って配り、体育館をお客さんで満杯にすることを目指していたあの頃が既に懐かしい。
まだまだ未熟だった彼女達も今はラブライブを勝ち進むために健闘している。
「……原点回帰、とか?」
「え?」
未来の呟いた言葉に反応するように、千歌は机に突っ伏していた頭を上げる。
「千歌がスクールアイドルを始めようと思った頃の気持ちを思い出してみたらどうだ?」
「確かに……新しくやってくる子達に贈るライブだし……いいかもね」
「……!それだ!よーしっ!!」
急にエンジンがかかったようにペンを走らせる千歌。
「果南ちゃん達に先越されないように……私達もがんば————」
千歌の言葉を遮るようにテーブルに置いてあった彼女の携帯が音を発する。
画面に表示されていた呼び出し主を確認して、その表情に焦りの色が垣間見えた。
「ルビィちゃん……?」
「“すぐに来て”って……」
「うそ!?本当に先越された!?」
「早くない!?」
四人はメールを見た直後、飛び出すように十千万を出て行った。
「まさかもう出来た!?」
黒澤家の階段を駆け上がり、皆のいる部屋へと急ぐ。
しかし千歌達を待っていたのは予想外の事態であった。
「その曲だったら突破できると言うの!?」
「花丸の作詞よりはマシデス!!」
「むぅ……!」
「でも、あの曲はAqoursには合わないような……」
「新たなチャレンジこそ……新たなフューチャーを切り開くのデース!」
統一感のない様々な意見が飛び交うなか、青ざめた顔を手で覆っているステラが傍に立っていることに気がつく。
「……お、お疲れ」
「…………不甲斐ないわ」
「あはは……」
◉◉◉
「やはり……一緒に曲を作るのは、無理かもしれませんわね」
「趣味が違いすぎて……」
「そっか……」
「いいアイデアだと思ったんだけどなあ」
花丸と善子、果南と鞠莉を残して一旦外に出たダイヤ達が消えそうな声で言う。
好きな音楽ジャンルの傾向もまるで違う三年生と一年生では対立が起こってしまう。
「もう少しちゃんと話し合ってみたら?」
「散々話し合いましたわ。ただ……思ったより好みがバラバラで」
「バラバラかあ……」
「確かに、三年生と一年生、全然タイプ違うもんね」
「でも……それを言い訳にしていたら、いつまでもまとまらないし」
難しい話だ。
グループが結成してからきちんと話す機会もあまりなかったメンバーだ。無理もない。
俯き気味のダイヤが不安げに口を開いた。
「……確かに、その通りですわね。私達は、決定的にコミュニケーションが不足しているのかもしれません」
ステラが居てどうにもならないのなら、本人達がこの状況を良いものに変えなければならない。
学年間の壁は彼女達当事者にしか壊せない。
「となると————」
一転して笑みを含んだ顔へ変わったダイヤが振り向き、とある提案を出してきた。
◉◉◉
退屈で死にそうな日々が続いていく。
ノワールは口笛を吹きながら内浦の街をふらふらと彷徨っていた。
(思っていたよりもエンペラ星人の動きが遅い。……いや、今活動しているのは四天王か?)
自分という駒がいなくなったことで奴らも本格的に地球へ侵攻してくるはずだ。
メビウスと未来はまだエンペラ星人とその配下達の恐ろしさを理解していない。
奴らと戦う時……彼らはいったいどう対抗するのか————楽しみで仕方がない。
「見届ける立場は楽でいいけど……退屈なのは少し辛い」
戦う力も失い、いつ敵が襲ってくるかもわからない状況のなかでもノワールは生き続けると決めた。
Aqoursやウルトラマン達の行く末を見届ける、その日までは。
「失礼。少し道を尋ねたいのだが」
「ん?」
法衣のような衣服をまとった初老の男性に声をかけられて立ち止まる。
どこからか漂ってくる威圧感のようなものがノワールを警戒させた。
「……はい、いいですよ」
「この住所なんだが……“十千万”という旅館の隣にある家だ」
差し出された地図を握る手を見て目を見開く。
彼がはめている、赤い宝石が取り付けられた黄金色の
その両方に覚えがあったからだ。
「……ここなら、この先を進んで行くとわかると思います。近くに見える海がとても綺麗なところですよ」
「かたじけない」
一礼した後で横を通る男。
気づくとノワールは一つの質問を口にしていた。
「どうしてボクに聞いた?」
男は振り向かず、足も止めないまま静かに語る。
「なに、この星の者ではないと一目でわかったからな」
拍子抜けしたような様子で黒ずくめの青年は微笑した。
自分が“ノワール”だということはわからなかったらしい。
「……ボクの顔は把握されてないか。
安全そうだし、と付け加えた後でノワールは姿を消した。
————この先は、退屈せずに済みそうだ。
そろそろ他のウルトラマンもちょいちょい出す頃かな〜っと思いまして……。
ラストに登場したあの人が最初の一人ですね。
解説いきましょう。
前回は主人公の未来を紹介したので今回は同じくオリキャラであるステラについて。
七星ステラは作中でも語られている通り「ノイド星」と呼ばれる惑星出身の宇宙人です。
ボガールに故郷を滅ぼされ、偶然出会ったツルギ……もといヒカリと一体化して復讐を誓います。
ノイド星人は地球とよく似た文明の星で、外見も普通の人間と大差ありません。
ちなみにかなり美人な方ですが目つきが悪いせいであまり目立ちません。(外伝の挿絵で外見は確認できるのでそちらもどうぞ)
アークボガールを倒した後はメビウスと未来のサポートも兼ねて地球防衛の任務を担っています。
現在では未来に体術を教える先生的なポジションに。
次回でおそらく2話分は終わり。
その次の回からはついにあの人が登場……⁉︎