メビライブ!サンシャイン!!〜無限の輝き〜   作:ブルー人

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サンシャインパートに突入です。
今週のジードに出てきたダダカラーのレギオノイド、ゼロビヨンドを倒すって地味に、というかかなり強いですよね……?
それとも操縦士の技量なんでしょうか。


第65話 新たな課題

「……フ…………フハハハ……!」

 

捻れたマーブル模様の空間のなかで、一人の宇宙人が不気味な笑いを奏でていた。

 

手の上で浮かぶエネルギーの塊を眺めては興味深そうに唸る。

 

「これは良い。本当にメビウスの力をもぎ取っていようとは……あの小僧も最後くらいは役に立ったようだな」

 

異次元に身を潜めるのはエンペラ星人に仕える四天王の一人、ヤプールだ。

 

彼のそばには考案したばかりの超獣…………いや、超()がぼんやりと浮かんでいる。

 

ノワールがメビウスから奪った力と、超獣を製造する自らの技術を合わせて作り出した逸品だった。

 

「先に地球へ忍ばせておいたアレよりは劣るが……奴らを始末するには此奴でも充分……!」

 

それは、かつての大戦争でウルトラマンエースを抹殺すべく作り上げた物の改良版だった。

 

「此度の相手はエースよりも数段劣る小童だ。……我が叡智が敗れることはない」

 

この超人が完成し、メビウスを始末した後は————()()超獣を目覚めさせて、一気に勢力を築く。

 

一人だけの空間でヤプールは嗤う。

 

無限に広がるまだらな世界に、不快な声が響いた。

 

 

◉◉◉

 

 

「きっと……なんとかなるよね」

 

理事長室で父親へ電話をかけに向かった鞠莉を静かに待つ千歌達。

 

皆俯き加減な様子で呟くように話し出す。

 

「しかし……入学希望者が増えていないのは、事実ですわ」

 

「生徒がいなくちゃ……学校は続けられないもんね」

 

かちゃり、と扉を開ける音と同時に少々眉が下がり気味の金髪少女が現れる。

 

「鞠莉さん」

 

「どうだった?」

 

「……残念だけど……どんなに反対意見があっても、“生徒がいないんじゃ”って……」

 

「やっぱ……そこが問題だよな」

 

現実的な現状を突きつけられて意気消沈しかける未来達だったが、ほんの少し強調された鞠莉の声音がそれをかき消す。

 

「——だから言ったの。“もし増えたら考えてくれるか”って」

 

「えっ?」

 

「何人いればいいのって、何人集めれば……学校を続けてくれるかって」

 

「そ、それで?」

 

「…………百人」

 

決して簡単ではない数字が彼女の口から飛び出す。

 

予想はしていたが今いる希望者の数から大きくかけ離れたものだった。

 

「百人……」

 

「ええ。今年の終わりまでに、少なくとも百人入学希望者が集まったら……来年度も募集し、入学試験を行うって」

 

「百人って……今はまだ十人しかいないのですよ……!?」

 

「それを年末までに百人……」

 

「でも、可能性は繋がった」

 

ダイヤと梨子の弱音を打ち消すように言い放ったのは、廊下の奥に立つAqoursのリーダーだった。

 

「終わりじゃない。可能か不可能か、今はどうでもいい。……だって、やるしかないんだから!」

 

「千歌……!」

 

「まあ、確かにそれもそうか」

 

「鞠莉ちゃん、ありがと!」

 

「ちかっち……!?」

 

そばに設置されていた階段を駆け上がってはこちらに振り向く千歌。

 

笑顔でこちらを見下ろす彼女の姿からは、今までよりも一層強い輝きが感じられた気がした。

 

「可能性がある限り、信じよう!学校説明会も、ラブライブも頑張って、集めよう!百人!」

 

「ゼロからイチヘ!」

 

「イチからジュウへ!」

 

「ジュウから……ヒャクヘ!」

 

大きく手を伸ばしてその場から飛び降りた千歌が微かに呟く。

 

「……普通じゃない、か……」

 

誰の耳にも入らないまま、その一言は消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なああぁぁぁ〜…………!とは言ったものの……」

 

「いきなり……?」

 

「だって、ラブライブの予備予選がこんなに早くあるなんて思ってなかったんだもん」

 

屋上の地面に大の字で寝そべりながら千歌が自信なさげにそうこぼす。

 

「心意気だけでもしっかりしてるなら上出来だと思うぞ」

 

「はい余所見しない」

 

「あだぁッ!?」

 

皆が休憩しているなかも未来はステラに絶賛絞られ中だ。

 

地に叩きつけられて涙目になっている未来を尻目に、皆の相談が続いていく。

 

「出場グループが多いですからね……」

 

「この地区の予備予選は来月初め。場所は、特設ステージ」

 

「有象の魑魅魍魎が……集う宴!」

 

『早いと何か困ることがあるのかい?』

 

未来とステラの特訓を眺めながら千歌達の話を聞いていたメビウスが尋ねた。

 

「歌詞を作らなきゃいけないからでしょ?」

 

「あぁ、なるほど。……千歌」

 

少々不安そうに視線を注いできた未来を見て千歌の表情が曇り始める。

 

「あー!私ばかりずるい!梨子ちゃんだって二曲作るの大変って言ってたよ〜!」

 

「それ言ったら曜ちゃんだって……」

 

「あはは……九人分だからね」

 

新しい歌詞に新しい曲、そして新しい衣装……と、大会に参加する前にこなさなくてはならない仕事が山積みだ。

 

「同じ曲ってわけにはいかないの?」

 

「残念ですが、ラブライブには“未発表の曲”、という規定がありますわ」

 

「厳しいよ……ラブライブ……」

 

「それを乗り越えた者だけが……(いただき)からの景色を見ることが……できるのですわ」

 

「それは……わかっているけど……」

 

改めて考えてもこの大会はハードルが高い。

 

まさに途方もない努力を積み重ねた者だけが通れる道だ。

 

「……で?歌詞のほうは進んでいるの?」

 

青空を見つめていた千歌の視界が一瞬にして梨子の顔面に占領される。

 

「わぁ!?そ、そりゃあ、急がなきゃ……だから?あは……」

 

(うーん様式美)

 

もはやライブ前のお約束である千歌と梨子のやりとり。

 

この二人は出会った春からやってることが変わっていない。

 

「ここに歌詞ノートがあるずら」

 

「わーーーーっ!?」

 

傍に置いてあった一冊のノートを手に取っておもむろに開く花丸。

 

そういえば千歌が構想中の時の歌詞はきちんと見たことがなかったので、未来も好奇心のままに花丸の隣に並んでノートを覗く。

 

「なんだ、ちゃんと考えてあ————」

 

花丸がページをめくる毎に現れるのは歌詞ではなく、デフォルメされた梨子の怒り顔だった。

 

口元がダイヤ型になっている辺り特徴を捉えている————って、注目すべきはそこじゃない。

 

「すごいずら〜」

 

「そっくり!」

 

「結構、力作でしょ?」

 

「真っ白じゃないか!」

 

落書きばかりで歌詞に関しては一切書かれていないノートを見て戦慄する。

 

「昨日、夜の二時までかかっ————」

 

最後のページがめくられるのと同時に隠れていた本物の梨子の顔が見えた。

 

もちろんつり上がった眉とダイヤ型の口である。

 

「千歌ちゃん……!?」

 

「……はい」

 

顔を逸らして逃れようとする千歌を鋭い視線で捕まえる梨子。

 

……課題は多いが、頑張らなければ先へは進めない。

 

 

◉◉◉

 

「う〜ん……。ねえ二人とも、前に作ったウルトラマンをイメージした歌詞があるんだけど……」

 

「それじゃあAqoursらしさは」

 

『出ないんじゃないかな?』

 

「だよねー……」

 

ちょっと前にも千歌は同じことを話していたが、その時もこうして却下させてもらった。

 

それに今回作るのはラブライブと学校説明会で使う曲だ。ウルトラマンの力を借りては意味がない。

 

「でも、このまま千歌達に全部任せっきりというのもねえ」

 

「じゃあ果南、久しぶりに作詞やってみる?」

 

「い、いいや私は……ちょっと……」

 

「以前のAqoursの作詞担当は果南さんだったの?」

 

「そうだよー。ちなみに私は曲作り担当ね!」

 

「へえ……なんか意外……」

 

てっきり琴を嗜んでいるダイヤが曲を作っていると思っていたが……。

 

「じゃあ衣装は?」

 

「まあ、私と————」

 

梨子の質問に答えつつ、ダイヤの視線がルビィの方へと向けられる。

 

「……へ?」

 

「あぁ!だよね!ルビィちゃん裁縫得意だったもん!」

 

「得意っていうか……」

 

横で話を聞いていた花丸がどこからかすかさずバッグを持ち上げ、そこに施されてある熊らしき刺繍を見せつけてきた。

 

「これも……ルビィちゃんが作ってくれたずら!」

 

「かわいい!」

 

「刺繍もルビィちゃんが?」

 

「……うん」

 

花丸の持つバッグを興味深そうに眺めながら、ステラがぽつりと呟く。

 

「……今度教えてもらおうかしら」

 

「ははは、縫ってる間に怪力で針折りそうだな」

 

「どうしてそんなに死に急ぐの?」

 

「ごめん」

 

冗談交じりに言ったつもりなのだがステラにはひどく気に障ったらしい。

 

ヒカリ曰く、「ステラは“女の子らしさ”に憧れている」

 

 

かたん、と唐突に席を立った鞠莉に皆の視線が集まる。

 

「じゃあ、二手に分かれてやってみない?」

 

「「「「二手?」」」」

 

全員のハモりが部室に響く。

 

説明を求める千歌達に、鞠莉は腰に手を当てて語り出した。

 

「曜と、ちかっちと、梨子が説明会用の曲の準備をして。他の六人が、ラブライブ用の曲を作る!そうすれば、みんなの負担も減るよ!」

 

未来とステラを交互に見た後で一言付け加える。

 

「マネージャーもちょうど二人いるしね!」

 

「でも、いきなりラブライブ用の曲とかなんて……」

 

「だからみんなで協力してやるの!」

 

不安げに言うルビィを元気付けるように声を張る鞠莉。

 

「一度ステージに立っているんだし、ちかっち達よりいい曲ができるかもよ?」

 

「“かも”ではなく、作らなくてはいけませんわね。スクールアイドルの先輩として!」

 

「おおっ!言うねえ!」

 

「それいい!じゃあどっちがいい曲作るか、競争だね!」

 

すっかり方針が決まった様子だ。

 

やる気になった千歌達を一通り眺めた後、未来はほんの少し不安げな顔をしたステラに肩を叩かれた。

 

「ん?」

 

「あなたは千歌のグループを見ててちょうだい」

 

「いいけど……どうしてだ?」

 

「人数が少ない方があなたでも制御できるでしょう。……梨子もいるしね」

 

「……?どういう意味だ?」

 

首を傾ける未来の耳に顔を近づけてステラはひっそりと話した。

 

「メンツをよく見なさい。六人の方は明らかに取締役が欠けているわ」

 

「……あっ」

 

改めて振り分けられたメンバーを見る。

 

三年生と一年生。濃いメンバーなのは言うまでもない。

 

ダイヤもしっかりしているようで流されやすいタイプだ。こちらはステラが適任だろう。

 

「では、それぞれ曲を作るということで決まりみたいですね」

 

「よし、みんなでがんばろー!」

 

千歌が掛け声を上げる姿を見て不安が煽られる。

 

「……ミイラ取りがミイラにならないようにな」

 

「ふん、わたしに限ってそれはありえないわ」

 

ステラの頼もしい発言に、未来は不思議と旗が立つイメージが重なった。

 

 




ヤプールが作り出そうとしているのは……?
まあバレバレですけどね(笑)

読者の方々の支えもあり、この作品も一年以上と長い間続けることができました。
そんななか第二章から読み始めたという人もいることでしょう。
それに伴って一章に出した設定で今後も登場する可能性のあるものをいくつか紹介したいと思います。
今回は主人公である未来について。

浦の星学院二年生の少年。
千歌や曜、果南とは幼馴染。
地球に初めて現れた怪獣であるディノゾールの襲撃によって両親を失い、その事件の時にはベリアルに命を助けられる。
"両親の命を救ってくれなかった"という幼い憎しみからウルトラマンという存在を軽蔑していたが、それもクロノームから助けてくれたメビウスによって考えを改める。(第51話〜第53話参照)
その後エンペラ星人に敗北し、実体化できなくなっていたメビウスに身体を借してウルトラマンとなる。
現在はエンペラ星人のもとにいるベリアルに複雑な感情を抱いているが…………?

次回は外伝以来のステラ視点になりそうです。

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