メビライブ!サンシャイン!!〜無限の輝き〜   作:ブルー人

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今週のジードも熱い展開でしたね。
キングの力が使えるってチートラマンに片足突っ込んでますよね……

さてそんな中メビライブはノワールとの対決です。
力を手に入れた彼はどのような道を歩むのでしょうか。


第63話 黒いメビウス:中編

ウルトラマン、という名は人々が敬意、親しみ、尊敬……。あらゆる意味を込めて“彼ら”に贈ったものだ。

 

故に自分のような矮小な者が名乗っていいものではない。

 

————だからボクは“ノワールメビウス”。綺麗な肩書きなんか必要ないさ。

 

 

 

 

 

黒い巨人は雨のなか静かな佇まいで、険しい顔で屋上へ登ってきた少年を見下ろした。

 

「ノワール……なのか……!?」

 

「そうだよ、別に驚くことじゃない。君たちがいつも使っている力なんだから」

 

黒い身体のメビウス。

 

未来が変身するそれとは違って禍々しく、性質も逆に感じる。光の巨人ならぬ闇の巨人。

 

「……ふざけるな」

 

自然と拳に力が入る。黙っていられるわけがなかった。

 

ウルトラマンメビウスの力、姿。それをあんな奴が私利私欲のために使っているなんて。

 

「その力は……お前なんかが利用していいものじゃない!」

 

「もっともな意見だ。……だからボクは、使()()()()()()()()()()()()()()()

 

「は……!?」

 

巨人の片手が上がりこちらに向けられ、手招きをするようにして指先が動かされた。

 

「きなよ二人とも。この力は偽物でもなんでもない、正真正銘本物の力だ。この世に二つと存在しちゃいけない関係だ。正しい論理となるのは勝った方の言葉のみ。……だからボクは全力を以て、君達を否定してみせよう」

 

「……戦えってことだろ」

 

心のなかでメビウスが肯定するのを感じ、未来は迷うことなく首を縦に振った。

 

「いいぜ、やってやる」

 

どのみちいずれは決着をつけなければならないと思っていた。

 

ノワールはこれまで未来や千歌達にあらゆる手段を使って光の欠片を奪おうと行動を起こしてきた。

 

だけど今回は違う。純粋に、未来達と戦うためにこうして現れた。

 

シンプルな力比べをしたうえでこちらを叩きのめすつもりだろう。

 

「いくぞメビウス」

 

『……うん。ノワールとの決着はここで付けよう』

 

左腕に輝くメビウスブレスのサークルを回転させ、エネルギーを増幅。

 

「勝負だノワール……!メビウーーーース!!」

 

突き上げた腕から眩い閃光が放出され、屋上に立っていた少年の姿が消失。同時に空から光のカーテンと共に赤い巨人が現れた。

 

 

 

ウルトラマンメビウスとノワールメビウス。赤と黒の二体の巨人がお互いに睨み合う。

 

雨が地に落ちる音が、勝負を沸き立てる歓声のように鳴り響いた。

 

「「セヤアッ!!」」

 

同時に地を走り、同じタイミングで拳を突き出した。

 

 

◉◉◉

 

 

「黒いメビウス……?まさかあの男なの……!?」

 

校庭に出て上空を見上げたステラが信じられないといった様子でこぼす。

 

千歌達も雨に打たれながら二体の巨人が戦う光景を呆然と眺めていた。

 

「メビウスが二人……?黒い方は偽物なの……?」

 

困惑する梨子の隣で険しい表情を浮かべるのは鞠莉と果南だ。

 

「ねえ鞠莉、この感じ……」

 

「……ええ、間違いない。以前私達を襲った、黒ずくめの男ね」

 

間近で感じた雰囲気を再び思い出し、あの青年の姿が浮かんできた。

 

鞠莉の身体を奪おうとした張本人。

 

「なんか嫌な感じ……」

 

「あの黒い方、マルも覚えが——」

 

「……!立ち止まってる時間はないわ!早く避難しないと!」

 

あれこれと考えているうちにステラが全員に向かって叫ぶ。

 

ステラに半ば強制的に校庭から追いやられた九人のなかで、ただ一人だけ黒い巨人に視線を注いでいる者がいた。

 

()()()()()……?」

 

「果南さん……?」

 

「ううん……なんでもない」

 

怪訝な視線を向けてきたダイヤにすぐさまそう言い、果南は振り返って再び走り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(ぐあぁ……ッ!)

 

『くっ……!』

 

強烈なラッシュを受け流すも最後に放たれた蹴りが防御しきれず、後方へ思い切り吹き飛ばされてしまった。

 

「ダメだなあ、そんなんじゃ。全く張り合いがないよ。……本気でこなければ死ぬよ?」

 

(バカにしやがって……!)

 

起き上がるのと同時にメビウスの身体から爆炎が放出され、瞬間的に炎のエンブレムが胸に刻まれる。

 

『(うおおおおッ!!)』

 

バーニングブレイブとなったメビウスがノワールへと突進し、渾身の右ストレートを放つ。

 

それを最小限の動きで回避したノワールは距離をとりつつ軽快な口調で言った。

 

「そう!それそれ!その炎の力!それを待ってたんだ!」

 

(そうかよ……!なら存分に受け取れ!!)

 

地を蹴ったメビウスがノワールの腹部に砲弾の如き一撃を加え、間髪入れずに二つの拳で連打。

 

「がはっ……!」

 

『(はあああああ……!!)』

 

メビウスブレスから吹き上がった炎でさらに勢いをつけてノワールの顔面を殴る。

 

大きく回転して後方に広がっていた海にまで吹き飛んだノワールは、周囲に水柱を発生させて倒れこんだ。

 

(はあ……はあ……)

 

『……!まだだ!』

 

ゆっくりと亡霊のように水中から起き上がってきたノワールを見て無意識に思わず一歩引いてしまう。

 

「ああ……今のは効いたよ。腰の入ったいいパンチだった。そういえばステラちゃんに稽古つけてもらってたんだっけ」

 

(くっ……!この変態野郎が……!)

 

首を回しながら歩み寄ってきたノワールに対して並ならぬ恐怖を覚えてしまう。

 

戦いの最中に奴が何を考えているのかわからない。それが一番不気味だった。

 

(ノワールのなかを覗くか……?)

 

『それだけは絶対にダメだ。君では奴の闇に耐えられない』

 

数分前の事でノワールの心を読むのは無理だとわかっている。一歩でも踏み込めば簡単には戻ってこられない。

 

「……いや、まったく……つくづく不公平だよ、運命というものは」

 

(……なに?)

 

「どうして君のような人間が選ばれたんだ?何の取り柄もないただの子供が、どうしてウルトラマンの力と光の欠片を宿している?」

 

静かな声音だが、そこには凄まじい怒気が込められていた。

 

(……!?ぐっ……!)

 

『未来くん!』

 

目にも留まらぬ速度で迫ってきたノワールがお返しと言わんばかりに腹部へ拳を見舞ってきた。

 

「ボクのほうが強い。ボクのほうが優れている。ボクのほうが何倍も光を愛していたというのに……!!」

 

ラッシュが止まらない。どれだけ防御しても奴はそれを打ち破ってきた。

 

「それなのにどうしてボクには“闇”しかないんだ!君達が当たり前のように手にしている力が……!どうしてボクは持っていない!!」

 

(が……!)

 

ひゅ、と風を切る音が聞こえ、次の瞬間には身体が宙を舞っていた。

 

メビウスの巨体が海へと落ち、大きな水しぶきと音が上がる。

 

「見ろ……!ボクはこんなにも強くなった!それなのにどうして……!どうしてこの力は()()()()()()()!?」

 

嘆くノワールの言葉を聞いて、最後の言葉に反応するようにメビウスが語りだした。

 

『やっぱり……使いこなせていないんだね……』

 

よろよろと立ち上がったメビウスがノワールを見据え、細々とした声で言う。

 

『君が使っているのが僕の力というのなら、その真価は発揮しないさ』

 

「………………」

 

(うぉおおおお……!!)

 

隙を見て発射したメビュームシュートがノワールへ迫る。

 

奴はそれを視認した瞬間、黒いメビウスブレスに手を添えかけて————腕を引いて、上体を反って光線を回避した。

 

『……やっぱりね』

 

(どういうことだ……?)

 

『彼は僕が基本的に扱える光線等の()()使()()()()んだ』

 

今のタイミングなら同じ光線技やバリアでも充分防げただろう。しかしノワールはそうしなかった。いや、できなかった。

 

『その力で引き出せるものは限られている。せいぜい僕らと同じ身体能力を持った“仮初めの肉体”をまとうだけだ』

 

凄まじい殺気が未来とメビウスに向けられる。

 

確かな殺意を持ったノワールの声が聞こえてきた。

 

「……ああ、その通りさ。ボクはこの力を使いこなせていない。……メビウス、君の意思がボクに使役されることを拒んでいるからだ」

 

大股で接近してきたノワールの黒い拳が放たれる。

 

一つ一つを正確に避け、未来は反撃の機会をうかがった。

 

「どんなに闇を嫌っても……!ボクに与えられた運命は光を得ることを許さなかった!だからボクは……!その両方を超えてみせると誓った!」

 

一撃一撃が重い。まるで奴の感情が一発の攻撃ごとに流れ込んでくるようだった。

 

「ああそうさ、ボクはこの力を扱いきれていない。でもそれがどうした……!そんなことできなくても、今ここで君達の息の根を止めるくらいは造作もないんだよ……!!」

 

回し蹴りが土手っ腹に直撃し、赤い巨人は横飛びで内浦の上空を舞った。

 

『(くうっ……!)』

 

「そうだ、光なんていらない……!ボクはボクの力だけで……自身の証明を成し遂げるんだ……!」

 

 

 

 

 

今度はすぐには立ち上がれなかった。

 

……あまりにもバカバカしい、思わず笑ってしまいそうになるほどだ。

 

(……くはっ)

 

いや、笑ってしまった。

 

「……何が可笑しい」

 

(お前の言ってることがだよ。さっきから嘘ばっかじゃん、お前)

 

「なんだと……?」

 

(今でも未練たらたらなくせして……光なんていらない、とか口走りやがって……!)

 

「……未練なんて残していない」

 

(嘘だな)

 

「嘘じゃないッッ!!」

 

大ぶりな一振りがメビウスに近づく。が、それを容易に避けて懐に突っ込んだメビウスはありったけの力を注ぎ込んだ一撃をノワールへ見舞った。

 

「がっ……ッ!!」

 

(お……らぁ!!)

 

黒い巨体が浮き上がり、弧を描いて地上へと落下する。

 

巨大な地鳴りを響かせたノワールが腹部を押さえて膝をつく。

 

(お前はまだ光を諦めきれていないんだよ。……今はその八つ当たりをしてるだけだ)

 

「…………ああ、本当にムカつくね君。知ったような口を利かないでくれるかな」

 

(知っているから言えるんだ。……お前の攻撃を受ける度に、メビウスの力を通してお前の感情が流れてくるんだよ)

 

光を羨ましいと思う感情。闇から逃れられないという恐怖。

 

(……お互いの精神は繋がっているって、お前はそう言ったはずだ)

 

「…………黙れ」

 

(中途半端な奴だよ、お前は……!)

 

「黙れって……言ってるだろ!!」

 

同時に駆け出す。

 

お互いに左腕のブレスに全ての力を集中させて拳を握りしめた。

 

「「ァァアアアアアアア!!!!」」

 

中間で炎と闇のオーラが交差する。

 

(ここだ……!)

 

首を横にずらして奴の攻撃を受け流す。

 

「……!」

 

炎をまとった拳がノワールの頬に直撃し、炎柱が貫いたように後方へ広がった。

 

凄まじい衝撃をもろに受けたノワールはゆっくりと膝を折り、メビウスの前に倒れ伏した。

 

(うっ……!)

 

『未来くん!大丈夫……!?』

 

(ああ……なんとか)

 

後半は奴が冷静さを欠いたことで勝機が生まれた。ノワールが正確な判断の下行動していたら勝つことは難しかっただろう。

 

(俺の勝ちだ…………ノワール)

 

動きを止めた黒い巨人を見下ろし、未来はやるせない気持ちを誤魔化すように口元を引き締めた。

 

 

 

 

「……まだ、だ」

 

(……!お前まだ……!!)

 

暗かった双眸から再びぼんやりとした明かりが灯される。

 

「ボクはまだ負けてない……!ボクは君達よりも強くなった……!その炎の力だって目じゃないくらい強くなったはずなんだ……!!」

 

驚異的な執着心がノワールを起き上がらせる。

 

…………しかし、

 

「ぐっ……!うぅ……ッ!」

 

戦えるほどの体力は残っていなかった。

 

再び膝をついては顔を下に向けてしまう。

 

『…………もうやめるんだ。これ以上続けても意味がない』

 

「うるさい……!ボクは……ボクは……!!ボク、は————」

 

徐々に漆黒の身体が消失していき、最後には完全に見えなくなってしまった。

 

雨の音だけが聞こえる。

 

メビウスと未来は、何も言わずにその場を立ち去った。

 

 

◉◉◉

 

 

「くそ……くそ……!クソ!!」

 

ボロボロな風貌へと変わったノワールが木に背中を預けて腰を下ろす。

 

まだ光に未練を残している、と。彼らにそう言われた。

 

「違う、違う違う違う……!ボクはもう光と闇なんてものは……!!」

 

光が欲しい。闇から逃げたい。

 

「ボクは……!ボクはぁあああアアアアアアアア!!!!」

 

刹那、横からの衝撃によって身体が羽のように吹き飛んだ。

 

雨で濡れた地面を転がり、泥だらけになったノワールは顔を上げて一つの影を視認する。

 

「……お前は……!」

 

「ずいぶんと惨めな姿に成り下がったなあ、小僧」

 

木の幹に映るまだらな人影が浮かび上がり、倒れているノワールを嘲笑した。

 

「ヤプール……!」

 

「皇帝の指示でな、貴様に恨みはないが……死んでもらうぞ」

 

「エンペラ星人が……ボクを……!?」

 

そんなはずがない。

 

彼は自分と同じ境遇であり、同胞だ。少なくともそう思われるように振舞ってきた。

 

ここで殺されるなんて……!

 

「……と、その前にやるべきことがあったな」

 

「……なに————ぐあぁあああああああああ!!」

 

強烈な痛みと共に身体から力が抜けていく感覚。

 

いつの間にか左腕にあった漆黒のメビウスブレスは消えており、ヤプールのそばにはノワールから抜き取ったであろう力の塊が浮遊していた。

 

「貴様がメビウスから奪い取ったというこの力は頂いていく。新たな超獣を生み出す材料になりそうだ」

 

「……!ふざけるな……!返せ!!それはボクの————」

 

ヤプールの指先から電撃が放たれ、ノワールの身体を蹂躙する。

 

「うあああああ!!がぁ……!!ああああああ!!」

 

「皇帝は貴様が裏切りを計ろうとしていたことはお見通しだったようだ。先ほど貴様がメビウスに敗北した時点で処刑は決まっていたのさ」

 

「……くそ……!くそぉぉぉおおお!!」

 

「……!」

 

最後の力を振り絞り、辺り一面に黒霧を散布させる。

 

「……ッッ!!」

 

決死の思いでその場を離れたノワールは、ヤプールの目から逃れられる範囲まで逃走しようと森を駆けた。

 

 

「……くはは、逃げ足だけは早い男だ」

 

異次元空間が開き、銃を抱えた一体の宇宙人が現れた。

 

「ナックル星人、小僧を追え。奴にはもう以前のような力はない」

 

「了解」

 

 

◉◉◉

 

 

どうしてこうなる。何がダメだった。

 

今まで散々手を尽くしてきた。こんなに頑張った。

 

ここまで来たのに、どうして……!!

 

「はあッ……!はあ……っ!」

 

いやだ。死にたくない。ここまで来て何も得ずに終わりたくない。

 

「やだ……!やだ……!!」

 

闇の力なんか望んで手に入れたわけじゃないのに。

 

……ただ光が欲しかっただけなのに。

 

「うあっ……!!」

 

地に出ていた木の根に足を取られ、派手に転んで濡れた地面に倒れる。

 

「…………どうしてこうなる……!」

 

頰に流れる水が涙なのか、汗なのか、もう雨でわからなくなってしまった。

 

 




まさかのノワール退場の危機……⁉︎
今までライバルポジションとして暗躍していた彼も二章では序盤でボロボロです。

では解説いきましょう。

今作でのエンペラ星人は意外と甘い面を見せています。
まずノワールに対しては同じ境遇でありながら「光を諦めていない」という点で始末する対象でした。皇帝にとって光を求めるなんて事は何よりも不快なものですからね。
しかし同胞ということもあって多少は期待していたのでしょう。今まで命は取らないでおいたのが今回の件で完全に見限ってしまいました。
もしかしたらノワールという青年は最初から詰んでいたのかもしれません。

さて、彼は今後いったいどうなってしまうのか……?

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