ついにノワールとの直接対決に……⁉︎
近頃は地球に移住しようとしてくる宇宙人は珍しくない。
しかし地球人にとってまだ他の惑星との接触は馴染み深いものではなく、一般人に紛れるには彼らと同じ姿で過ごすことを余儀なくされた。
友好的にとまではいかないが、少なくとも侵略目的以外で地球へやってくる者もいるのだ。
「おい見ろよ!いいもんが手に入ったぜ!」
「あぁ?」
白黒の縞模様の怪人が二人、住処である廃墟でこそこそと何かを話していた。
片方の男が数枚の写真を取り出し、もう一方へと差し出す。
「……っ!?お前、これって……!」
「ああ、今話題のスクールアイドル……μ'sの生写真だ!」
「おおお!」
ほとんど奪い取るように受け取った男はまじまじとそれを眺めては感嘆の声を漏らした。
「まさかお前……!前のライブの時に……?撮影は禁止だったはずじゃ……」
「ああ、ちょいと監視の目を盗んでな。撮らせていただいたのさ!」
「ヒューっ!やるぅー!」
滅多にお目にかかれない宝物を手に入れて上機嫌な二人に、徐々へ近づいてくる影。
かつん、と廃墟に金属音が響き、男達は出入り口となっている扉の方向へ振り向いた。
気配もなく施設に立ち入ってきた影を視界に入れた途端、二人の宇宙人は急に落ち着きのない態度になる。
「……ダダ、か」
「げぇ……!お前は……!!」
「“死神”……!」
「なにその物騒なあだ名」
黒いコートを翻した青年はゆっくりとダダ達に歩み寄ると、作り笑いを浮かべて言った。
「この辺りは人通りが少ないとはいえ……むやみに外で本来の姿に戻るのは控えたほうがいいよ」
「お、おう、そうだな……気をつけるよ」
大人しくそう返したダダに薄気味悪い笑みを贈ると、青年はそのまま踵を返して一歩踏み出した。
「……それと、さっきはやけに楽しそうだったけど————なにを話してたの?」
「と、特になにも!?別に地球人に迷惑かけるようなことはしてないぜ!?」
「あ、そう。ならいいや。……じゃ、またね。コレはボクが処分しておくよ」
「ん……?あっ!!」
手元に視線を戻し、先ほどまで大事に持っていたはずの写真が無くなっていることに気がつくダダ。
再び青年へ顔を上げると、彼の手にはその全てが収められていた。
「いつの間に……!」
音もなく、黒い霧と共に姿を消す青年。
「……ふん、愚かな人達だ。ボクと違って正当な戸籍を手にしていながら違法に走るなんてね」
握っていた数枚の写真が黒い炎に包まれて燃えていく。
塵となったそれを風に預け、視界から消えるまで眺めていた。
◉◉◉
「だはっ……!!」
「対応が遅い!回避されたらすぐに反撃を警戒!あと視線の動きで行動がバレバレ!弱すぎ!へっぽこ!!」
「最後ただの罵倒じゃねぇか!」
休日だというのに朝から鍛錬である。
未来がステラに何度も打ち倒される光景を、千歌は屋上の片隅で練習の休憩がてらに眺めていた。
「頑張るわね、未来くん」
「今のところステラちゃんに全敗だけどね……」
梨子と曜が揃って微妙な表情を浮かべる。
「それにしても……未だに実感がありませんわ。あの二人がウルトラマンだなんて」
「でも確かにこうして隣にいるしね……」
あぐらをかいて地べたに座っていた果南がふと横に視線を移す。
そこには不思議な雰囲気をまとった、オレンジ色と青色の光が浮いていた。
「二人はいつから地球に来てたんだっけ?」
『え?……僕は春に怪獣が現れた時かな。未来くんと出会ったのも同時期だよ』
『俺はその少し後だ』
「やっぱりあの時から既に私達のそばにいたんだね」
地球に二体目のディノゾールが襲来した日。メビウスと未来は一体化し、ウルトラマンとして戦う運命を背負ったのだ。
「そう考えると……昔内浦に現れたウルトラマンのことも気になるわよね」
『…………』
善子の何気ない一言につい黙り込んでしまうメビウス。
ベリアルについての詳細は未だに彼女達には話していない。
今はエンペラ星人のもとにいることも、以前現れた黒いウルトラマンこそがベリアルであるということも。
それを知っているのは実際に彼と戦ったメビウスと未来くらいだ。
————アーマードダークネス。
ベリアルが装備しているあの鎧はエンペラ星人以外が装着すれば精神を食いつぶされ、正気を保てなくなるという恐ろしいものだ。
おそらく未来はベリアルがあの鎧に操られているせいでエンペラ星人の手先になっていると睨んでいるが、実際のところはわからない。
「そうそう、私達を助けてくれたあのウルトラマン!過去の証言を集めても手がかりなしで……メビウスも知らないとなると手詰まりデース!」
頭を抱えてそう唸る鞠莉を見てヒカリが何か気づいたように声を上げる。
『……メビウス、まさか————』
『ああ、彼女達には黙っておいてくれ』
ベリアルが残した言葉……“闇の皇帝を倒す方法”を探している鞠莉だが、極力光の欠片の情報は彼女に伏せてある。
これ以上この九人を危険にさらすわけにはいかない、という未来とメビウスの判断だった。
「そういえば鞠莉さんと果南さんは妙な調べものをしてましたわね」
「えっ!?…………ま、まあね」
どうやら秘密なのは鞠莉と果南も同じだったらしい。ダイヤの問いに不自然な反応を見せた。
「みんなで……なに話してたのさ……」
ヘトヘトになって戻って来た未来が大の字で目の前に倒れこんだ。
対するステラは相変わらず余裕な表情で水の入ったペットボトルに口をつけている。
「お疲れさま」
『ちょっとね』
「大丈夫……?」
「ありがとうルビィちゃん」
ルビィから手渡された水を片手にのっそりと起き上がる未来。
『どうだいステラちゃん、未来くんの調子は』
「見てたでしょ、全然なってないわ。…………でも、うん。少しずつだけどキレが良くなってる」
「本当か!?」
未来が急に元気を取り戻したかのようにキラキラした瞳でステラを見つめる。
「ええ。たまにだけど……ほんの少しだけ危ないって思わされる時があったわ」
「俺も成長してるんだなあ……」
「ま、未だに拳での攻撃を優先しちゃうみたいだけど」
少しずつだけど確実に前には進んでいる。いつもは辛辣なステラが言うのだから間違いない。
「よっし!休憩が終わったら続きな!」
「やる気だけは一人前ね。比例して実力も上がればいいのだけれど」
深く座り込んで水分補給したその時、見上げた空の色が灰色がかったものへ変わるのを見た。
「……雨、だね」
千歌がぽつりと呟くのを皮切りに、点々と屋上の地面に雨粒の模様が描き出されていく。
未来はなぜか雨が降る光景を見て、咄嗟に何か不穏な雰囲気を感じ取った。
「中に入ろっか」
果南が駆け出し、その後ろから他のメンバーも付いて校舎の中へ逃れようとする。
『……未来くん、この感じ……』
(ああ、わかってる。……感じる、アイツが近くにいる……!!)
◉◉◉
「これじゃあ屋上での練習は無理だね。今からスタジオに移動する?」
「私傘持ってきてないよ〜……?」
「私も〜」
徐々に強くなっていく雨を窓越しに眺めつつ、Aqoursの面々は眉を下げた。
「ねえ未来くん————」
何気なく振り向いた千歌の顔が驚愕で固まる。
そこにいた幼馴染の姿は普段のパワフルな彼ではなく、顔を真っ青にして今にも倒れそうな表情を浮かべた少年だった。
「うっ……!くぅ……ッ!」
「ちょっと未来!?」
「未来くん!?どうしたの!?」
うずくまる未来の背中に手を当てて心配そうに少女達が顔を覗き込ませていた。
————未来くん!
遠くの方で声が聞こえる。千歌達の声だ。
自分を……日々ノ未来を呼ぶ声。
ダメだ、どんどん遠ざかっていく。聞こえなくなってしまう。
闇に支配された空間。あるのは虚無のみ。真っ黒に塗りつぶされた空間を見て想う。
(これが……こんなものが…………あいつが経験した世界だっていうのか……!?)
時間すら止まって見える完全な闇の世界。光など塵ほども見当たらない絶望的な空間。
冗談じゃない。頭がおかしくなりそうだ。
ダメだ、正気を保て。自分を忘れるな。
(俺は……!俺の名前は……未来……!)
消えていく。何もかも塗りつぶされていく。大切なものも全部————
————ボクの心を読もうとしただろう?
(……!?)
————慣れてもいない奴がボクの“なか”に踏み入れるのはやめたほうがいい。……じゃないとほら、既に気が狂いそうだろう?
(が……!あ…………ッ……!)
誰だ。誰の声だ。若い男の声。
暗くて何も見えない。メビウスは無事か?メビウス————あれ?
(メビウスって…………誰だっけ)
『はぁあああああ……!!』
(……!)
一気に視界が明るくなる。
正面から周辺へ広がっていく光に包まれた未来は、そこでやっと正気を取り戻すことができた。
「はあっ……!!はぁッ……!!うっ…………!!」
「未来くん!」
『大丈夫かい!?』
どうやらメビウスが
大丈夫。自分の名前も千歌達の顔もちゃんと覚えてる。
「逃げろみんな……!ここは危険だ!」
「え……?」
「ステラ!あいつが来る……!みんなを頼む!」
状況が理解できていないといった顔の千歌達に向けて急いで避難するよう指示を出した。
「早くしろッ!!」
「……!みんな、こっち!」
「ステラちゃん……!?ちょっと……!」
強引に九人を連れて行ったステラを見送り、未来とメビウスは改めて周囲を囲んでいる“気配”に集中した。
————ははは。ボクと同調するのは構わないけど、それなりのリスクは覚悟しておかなきゃね。
「ノワール……!どこにいる!出てこい!!」
————言われなくともそうするさ。……そのためにボクはここにいる……!
土砂降りの空から雷鳴が轟き、未来が立っていた廊下が白く照らされる。
雷と共に現れた黒ずくめの男は不敵な笑みを浮かべると、険しい顔をした未来と目を合わせて言った。
「この時を……ずっとずっと待っていた」
左腕に宿る漆黒のメビウスブレスが具現化し、闇色の閃光が迸る。
『……なんだ……!?』
「俺達が奪われた力……!」
ノワールは落ち着いた口調で、そしてよく通る声で口にした。
「
◉◉◉
地鳴りが響く。この街の住人ならば聞き慣れた騒音。
怪獣が現れた時。そしてウルトラマンが現れた時にそれは鳴る。
「早く外へ!」
階段を下り、校舎の出口へと急ぐステラ達。
大地が揺れたことで怪獣が出現したと気がついたのか、千歌達も迷わず玄関を目指していた。
「……!あれって……」
「千歌ちゃん……!?」
唐突に立ち止まって窓の外を見上げた千歌と、彼女に反応して足を止める梨子。
「二人とも!何やって————」
先を進んでいたステラも呼びかけようと叫ぶが、視界に映ってしまったある光景に思わず目を見開いた。
「黒い…………」
雨のなか、一体の闇の巨人が立ち尽くす。
顔を上げたソレは、まさしく————
「おまたせ、未来くん。これでようやく“対等”だ」
————漆黒のウルトラマンメビウスだった。
ついに黒いメビウスブレスの真の力が発揮されました。
今回がノワールとの最初で最後の戦いになるかも……?
解説はノワールメビウスについて。
奪い取ったメビウスの力の一部と自分の闇の力を掛け合わせて実現したノワールの超人形態。
外見はメビウスの赤い部分を黒に変えたもの。
スペックはバーニングブレイブと互角程度です。
この力を手に入れたノワールの行く末は……?