1話分が終わりです。やっと物語が始まる、といった雰囲気ですね。
「「「わあ〜!!」」」
「広ーーーーい!!」
とあるスタジオに足を運んだ千歌達が隠しきれない興奮を解放するようにはしゃぎだす。
「ここ、開けると鏡もありますし!」
壁一面を覆っていたカーテンの一箇所をめくって見せるルビィ。
そこに設置されていた鏡に反射して映っていたのは善子の姿である。
「いざ、鏡面世界へ!」
「やめるずら」
「それにしてもすごい……。よくこんな場所借りれたな」
屋上よりもはるかに設備が整っている。ここを用意してくれた曜の功績は大きい。
「パパの知り合いが借りてる場所なんだけど、しばらく使わないからって」
「さすが船長!」
「関係ないけどね」
「それに!ここなら帰りにお店もたくさんあるし!」
「そんな遊ぶことばっかり考えてちゃダメでしょ?」
「本屋もあるずら!」
好き勝手な意見が飛び交うなか、ダイヤ、果南、鞠莉の三年生三人だけは顔を俯かせて浮かない表情を浮かべていた。
「どうかしたの?」
「……へ?えっと…………」
何気ない口調で彼女達に尋ねる未来と、もどかしそうに口元を動かす鞠莉。
それを見て何かを耐えかねたのか、果南が唐突に切り出した。
「ちょっと待って。その前に……話があるんだ」
「果南さん?」
そういえば少し前から果南や鞠莉の様子がおかしかったのを思い出し、未来はふと嫌な雰囲気を察するように黙り込んだ。
「実は……さ。…………鞠莉」
「————実は!学校説明会は…………中止になるの」
しん、とさっきまでの騒がしさが嘘のように静まり返った。
状況を飲み込むのに数秒かかった未来と千歌がやっと声を出す。
「……え?」
「中止……」
「どういう意味……!?」
少し遅れて身を乗り出した梨子が皆の疑問を代わりに問う。
「言葉通りの意味だよ。説明会は中止。浦の星は、正式に来年度の募集をやめる」
無表情のままだった千歌の肩がほんの少し揺れた。
「そんな……!いきなりすぎないか!?」
「そうずら!まだ二学期始まったばかりで……」
「うん!」
「生徒からすればそうかもしれませんが、学校側は既に二年前から統合を模索していたのですわ」
落ち着いて——いや、落ち着いているように見せているダイヤの言葉が刺さる。
「鞠莉が頑張って、お父さんを説得して、今まで先延ばしにしていたの」
「でも、入学希望者は増えてるんでしょ?ゼロだったのが、今はもう十になって……」
「これから、もっともっと増えるって……!」
未来は混乱している思考を放っておいて改めて千歌に視線を写した。
両手で強く拳を握りしめ、悔しそうにしている彼女の姿。
「それはもちろん言ったわ。けれど、それだけで決定を覆す理由には————」
「鞠莉ちゃん!」
爆発したような勢いで鞠莉のもとへ踏み出した千歌が、彼女の肩に掴みかかって言う。
「……どこ?」
「……ちかっち?」
「私が話す!」
「おい千歌ッ!」
すぐさまその場を駆け出して部屋を出た千歌を引き止める。
「鞠莉さんのお父さんはアメリカにいるんだぞ……!?」
「……美渡姉や志満姉やお母さん。あと、お小遣い前借りして、前借りしまくって……!アメリカ行って……そして……!もう少しだけ待って欲しいって話す」
できるはずもないことを本気で口にするようになれば、それはもう策とかアイデア等の類ではない。
「……千歌ちゃん」
「できると思う?」
「できる!!」
曜や梨子の言葉にもその一点張りだった。
気持ちはわかる。説明会が中止になり、来年度の生徒募集をやめてしまえば、その先にあるのは統廃合。
今までの努力も、ゼロを十にしたのも水の泡となる。
「こうなったら私の能力で!」
善子の無理矢理なジョークも空しく消えていく。
「鞠莉はさ……この学校が大好きで、この場所が大好きで、留学より、自分の将来よりこの学校を優先させてきた」
「今までどれだけ頑張って学校を存続させようとしてきたか。私達が知らないところで、理事長として頑張ってきたか」
「その鞠莉が……今度は、もうどうしようもないって言うんだよ」
「でもっ……でも……っ……!!」
言いたいことは山ほどある。だけど肝心の言葉が出てこない。
一気に流れ込んでくる感情の波を押し殺し、鞠莉は精一杯の平常心を装って言った。
「ちかっち……ごめんね。テヘペロっ」
「……!違う……そんなんじゃない。……そんなんじゃ」
何も言えない。
未来はこういう時にどんな声をかけたらいいのかがわからない。
どう励ます。下がっていく士気をどうすれば持ち上げられる。
結局彼は、最後まで何も言えないままだった。
◉◉◉
翌日の朝。
再び開かれた全校集会で、理事長である鞠莉本人から学校説明会中止の知らせが言い渡された。
ノワールの調査で昨日スタジオにやって来なかったステラもまた瞳を大きく見開いて未来に説明を求めるように顔を向ける。
(……昨日千歌が家でやけに元気がなかったのはこのせいね……)
(……まあな)
戦いを重ねて成長しても、こういう状況の時に何もできないのは歯がゆい。
『きっと大丈夫だよ。今は千歌ちゃん……Aqoursのリーダーを信じるしかないさ』
(……そうだな。あいつならきっと立ち直れる)
スクールアイドルの活動をサポートするのが未来とステラの仕事だ。
今回の件について答えを出すのは千歌達。未来とステラは彼女達が選んだその道を進む手助けをすればいい。
あのメンバーなら必ずできる。そう思うことができるのが何より嬉しい。
(…………だから俺は、自分のことにも集中しなくちゃな)
『……未来くん?』
(もっと強くならないと。どんな怪獣にも負けないくらい強く。千歌達の輝きを守れるように)
『……?それは、つまり……』
(ステラ!ヒカリ!)
生徒の列に並んだままテレパシーで二人に頼む。
(なに?)
(俺に稽古をつけてくれ)
「はいドン」
「がはっ……!!」
ほんの少し涼しい風が吹く早朝のグラウンド。
未来とステラは制服から動きやすい練習着に着替えた後で体術の特訓を行っていた。
ただしお互いに体内のウルトラマン達は外に出てもらっている。
未来とステラ、二人の素の力を鍛えるのが目的だった。
「いったたたた……」
ハーフパンツからはみ出した足に擦り傷ができ、その部分の泥を落とそうと未来は息を吹きかけた。
メビウスとヒカリの力は借りていない、といっても地球人とノイド星人では身体能力の差は大きい。さらに戦闘経験もステラの方が遥かに上だ。
稽古が始まってから約一時間。未来はステラに一本も取れないまま、組手の回数は既に五十を超えていた。
「ちくしょう……!なんで一発も当たらないんだよ!」
「だってあなた攻撃が単調なんだもの。さっきからパンチパンチパンチって……もっと身体全体を使いなさい。足だって二本付いてるでしょう」
「んなこと言ったって……。お前みたいにピョンピョン跳べるわけじゃないんだし……」
思えばウルトラマンとして怪獣達と戦う時はメビウスの光線技やブレードを駆使してきた。
今のように格闘だけで戦う、というのは初めてだ。
その点ステラは完全に自分の実力を把握しつつ、無駄な動きを削っている。洗練された戦い方だった。彼女も普段は光の剣で戦っているというのに。
『しかしステラ、君はまた腕を上げたみたいだな。以前の任務を終えて成長しているようだ』
「そ、そうかな……。えへ、ありがと」
(……ステラの弱点はヒカリ、と)
顔を少し赤くさせて照れる彼女を見て思わずメモを取りそうになる。
「だー!改めて実力不足が身に染みたー!こんな相棒でごめんメビウス!」
『そ、そんな!君はよくやってくれてるよ!ヒカリとステラちゃんがちょっと強いだけさ!』
大の字になって叫ぶ未来におろおろと寄ってくるオレンジ色の光球。彼のためにも強くならなければ。
「ほら、寝てる暇はないわよ」
「……うす」
厳しく手を伸ばしてきたステラの手を掴み、立ち上がる。
そしていざ、と再び身構えたところで背後からの呼びかけに反応し、未来は振り向いた。
「おはヨーソロー!二人とも、朝から精が出るね!」
「おはよう、曜」
「みんなも来てたのか」
気づけば木の下に複数の人影が見える。千歌を除いた、八人のAqoursのメンバーだった。
「うふふ、考えることは同じだね」
「堕天使の導きが伝わったのね……」
「違うずら」
「二人は……何してたの?」
ボロボロになった未来と息一つ切れていないステラを交互に見て、ルビィが不安そうにそう聞いてきた。
「気にしないでくれ、ただの特訓」
「そうよ、いじめてたわけじゃないわ。こいつが弱いから一方的になっただけよ」
「後輩の前で本当のこと言わないでくれる……?」
服に付着した泥を払いつつ、メビウスを身体の中へ戻す。
すると強化された聴覚が徐々に近づいてくる足音を捉えた。
「……来るな、怪獣」
「え?」
ふと未来がこぼした前触れもない一言に反応して曜は首を傾ける。
「怪獣!?ど、どこですの!?」
「ダイヤ取り乱しすぎ」
「果南さんはどうしてそう落ち着いていられるのです————!?」
未来が指す「怪獣」を、どうやらダイヤは勘違いしたらしい。ひどく震えては鞠莉の後ろに隠れてしまった。
「怪獣なんてどこにもいないじゃない」
素朴な疑問を投げてきたのはステラだ。
「来るさ。……とびっきり強い、
未来がそう言った直後だった。
「ガオオオオオ————————ッッ!!!!」
海の果てまでも届きそうな雄叫びがグラウンドに現れた少女から上がった。
「起こしてみせる!奇跡を絶対に!……それまで、泣かない!泣くもんか……!」
「やっぱり来たな」
背後からの声に反応して千歌は後ろへと振り向く。
涙をこらえた瞳で、そこに見えた皆の顔を見据えた。
「未来くん…………みんな……!」
そう。考えていることは同じ。
同じ舞台に立った者達だから。
同じ悔しさを感じた者達だから。
「不思議なものだな、言葉にしなくてもやりたいことが伝わるなんて」
「……きっと、諦めたくないんだよ……諦めたくないんだよ……!鞠莉ちゃんが頑張ってたのはわかる。でも私も、みんなも何もしてない!」
「そうね」
ダメなら仕方ない。けれどそう思うまではやれることをやりたい。
「無駄かもしれない……けど、最後まで頑張りたい!足掻きたい!ほんの少し見えた輝きを探したい!……見つけたい!」
「……ほんと、諦めることが苦手だよな、お前は」
「————みんなはどう?」
千歌が微笑んだ先には、「答えるまでもない」といった顔が揃っていた。
「ちかっち……みんな」
「いいんじゃない?足掻くだけ足掻きまくろうよ」
「そうね。やるからには…………奇跡を!」
————奇跡を、とそれぞれが改めて口にする。
お互いに同じ言葉を聞き、メンバー全員が同じ気持ちであると伝えあった。
『……奇跡。いい言葉だよね』
「お前にも付き合ってもらうぞメビウス。最後の最後まで、一緒に見届けてもらうからな!」
『ああ!喜んで!』
迷いはない。何度も繰り返した問答だ。
昇った太陽の光がグラウンドを照らす。
それにあてられたかのように、千歌は唐突に傍に設置されていた鉄棒へと駆けた。
「「千歌ちゃん!?」」
「ぐえっ!?」
千歌が逆上がりをする直前にステラが流れるような動きで未来の首を横へと持っていった。
「起こそう奇跡を!足掻こう精一杯!全身全霊!最後の最後まで!みんなで……!輝こーーーーう!!」
上から彼女の声が日光のように降り注ぐ。
未来は彼女の眩しいほどの笑顔を全身で受け止め、感化されるように笑みを返した。
◉◉◉
「良い」
遥か彼方から少年少女を透視する青年が一人。
「良いね、そうでなければ困る。ボクの力は闇よりも……そして光よりも強いことを証明するには君達の力が必要不可欠だ」
ドス黒い双眸を薄めて男は左腕をさする。
「……奇跡、確かにいい言葉だ。未来がどうなっているかなんて未来の自分しかわからない……けどね、
闇のオーラが左腕を燃やす。
黒い閃光と共に現れたブレスを見つめ、ノワールは呟いた。
「さあ始めよう未来くん。ボク達の
1章では無かった未来の修行シーン。やっぱり王道な主人公といえば特訓ですよね⁉︎
2章ではとあるウルトラマンとの絡みも兼ねて多く取り入れたいです。
解説いきましょう。
未来の戦闘能力については今までほとんどメビウス頼りでした。唯一例外なのはバーニングブレイブの状態ですかね。
メビュームブレードも使いやすいからとか、かっこいいからとか、単純な思考で使用しているので、状況によっての使い分けはあまり頭にありません。よく今まで戦ってこれましたね(焦)
ステラについては地球人では考えられない動きで攻めるので、未来にとって初見での対応はほぼ不可能ですね。
そんな彼女の弱点はヒカリ……⁉︎
次回はおそらく今作オリジナルの話になります。