メビライブ!サンシャイン!!〜無限の輝き〜   作:ブルー人

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ついに第2章の始まりです。
外伝とは打って変わってライトな雰囲気に戻りますね。



第2章 闇の巨人と輝きのAqours
第59話 次にすること


光がない。

 

光がない。

 

…………光がない。

 

真っ黒に塗りつぶされた視界を開く。そうしても景色は変わらない。

 

闇のなかで想う。どうして自分達だけなのかと。

 

 

 

 

諦めるものか。

 

太陽みたいに輝けなくてもいい。だけどせめて、月のように光を浴びていたい。

 

辿り着いた地で見た光景はまさに楽園だった。見ているだけで救われたのかと錯覚するほどに綺麗なものを見た。

 

いや、実際自分は救われたのだ、“彼女達”の光に。

 

だから()()は——————

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『……見たね?』

 

 

◉◉◉

 

 

「のわ……っ!?」

 

無意識に前へ傾けていた上体を戻して、未来は目を開いた。

 

『そこのボーイ!居眠りはノーサンキューデース!』

 

「あっ……す、すみません!」

 

ステージ上でマイクを通して注意する鞠莉に反応して軽く周囲で笑いが巻き起こる。

 

今は全校集会の真っ最中。クラスごとに列で並んで理事長と生徒会長の話を聞く時間だ。

 

「おはよう未来くん」

 

「もう、休み明けからだらしないわよ?」

 

「大目に見てくれ……こっちは大仕事した後で身体がバッキバキなんだ」

 

隣で冗談めかしく笑いかけてきた曜と、その後ろで呆れ顔をしているのは桜内梨子。

 

未来がマネージャーを務めるスクールアイドル部のメンバーだ。

 

地球に飛来してきた隕石を防いだことで大ダメージを受けてしまった未来とメビウスだが、なんとか登校できるくらいの体力は取り戻せた。

 

『ステラちゃん達はずいぶん元気そうだね』

 

(ほんとだよ。どんな身体してんだあいつら……。なんか強そうな鎧まで手に入れちゃってさ)

 

『僕達だって炎の力を習得したじゃないか』

 

(そうだけどさ……)

 

メビウスと出会ったばかりの頃と比べれば確実に成長はしている。

 

しかし未だに力不足感が否めないでいた。

 

 

 

『さて、と……。ハローエブリバディ!本日より、セカンドシーズンのスタートデース!!』

 

壇上で勢いよく未来達の方を指差す彼女こそ、この浦の星学院の理事長兼生徒、小原鞠莉。

 

「セカンドシーズン?」

 

「二学期ってことよ」

 

『それにしても……遅いね千歌ちゃん』

 

「あれ?まだ来てないのか?」

 

「“これからは一人で起きるから”って言ったそばから遅刻……」

 

「あっはははは……」

 

未来が居眠りしている間も彼女は姿を見せていないらしい。我らがAqoursのリーダーだというのに先が思いやられる……。

 

「理事長挨拶と言いましたですわよね!?そこは、浦の星の生徒らしい節度を持った行動と勉学に励むだと——」

 

「セツゾウを持つ……?」

 

「せ・つ・ど!!」

 

鞠莉の横でカーテンに隠れて文句を飛ばしている彼女は生徒会長の黒澤ダイヤ。

 

「それにしても……惜しかったわね。もうちょっとで予選通過だったんでしょ?」

 

視線だけを横にずらして隣にいる善子、ルビィ、花丸に質問するステラ。

 

「うん、あともう少しで全国大会だったみたい」

 

「過ぎたことをいつまで言ってても仕方ないずら」

 

「しっかぁーし!参加賞が二色ボールペンってどうなの!?」

 

「決勝大会に進出すると三色になるとか……」

 

「……絶妙にいらないわね」

 

「未来ずら〜」

 

「どこがよ!」

 

 

『シャラァ————ップ!!』

 

ぼそぼそと話し出す生徒達に向かって鞠莉の注意が炸裂する。

 

『たしかに、全国大会に進めなかったのは残念でしたけど……』

 

「でも、ゼロをイチにすることはできた。ここにいる皆さんの力ですわ」

 

未来はふと周りに立っている浦の星の全校生徒の様子をうかがった。

 

三年生は三クラス。二年生は二クラス。一年生は一つしかクラスがない。

 

全体的に見ても“少ない”と表現せざるをえない人数だった。

 

しかし、だ。

 

(今では入学したいって人も増えて……少しずつだけど希望が見え始めてる)

 

「それだけではありませんわよ」

 

『本日、発表になりました、次のラブライブが!同じように……決勝は秋葉ドゥーム!!』

 

と、その時。

 

体育館から息を切らして駆け込んできた一人の少女の姿が見えた。

 

「千歌!」

 

『トゥーレイト!』

 

「大遅刻ですわよ!」

 

「次のラブライブ……!」

 

体力が尽きかけても喋ろうと口を動かす千歌。

 

「どうするー!?」

 

「聞くまでもないと思うけど」

 

「善子ちゃんも待ってたずら!」

 

「うゆ!」

 

「ヨハネ!」

 

曜や果南に続いて他のメンバー達も彼女へ期待の眼差しを送った。

 

もちろん未来とステラ、メビウスとヒカリも例外ではない。

 

次に千歌が言う言葉はもうわかりきっていた。

 

「出よう!ラブライブ!……そして……そして!一を十にして、十を百にして、学校を救って————そしたら!」

 

————そしたら!?!?

 

体育館に全校生徒の声が反響する。

 

以前行った予選でのライブ以降、浦の星学院の生徒達の心は一層繋がりを強めていた。

 

「……そうしたら、私達だけの輝きが見つかると思う。きっと!」

 

————輝ける。

 

また最初から始めるんだ。自分達の物語を。

 

 

◉◉◉

 

 

「いたたたたた!!痛い痛い!!」

 

「かっっったいわねあなた……。家でストレッチしてないでしょ」

 

屋上で練習前の準備運動。

 

善子の開脚前屈を手伝おうと背中を押すステラだったが、予想以上の硬さに思わず顔を引きつらせる。

 

「もうちょっといけるでしょう。堕天使の力はこんなもの?」

 

「そんなわけ————あだだだだだ!?ギブギブギブ!!」

 

軋む音の代わりに悲鳴を上げる善子に周囲のメンバーも苦笑。日々のストレッチは大切である、と彼女によく教えてもらった。

 

「花丸ちゃんはずいぶん曲がるようになったよね」

 

「毎日、家でもやってるずら」

 

体力のなかった花丸だが、彼女も柔軟運動ならば皆と引けを取らないほどに上達していた。

 

「それに腕立ても」

 

「本当!?」

 

「見てるずら〜?」

 

自信満々に身体を両腕だけで支える花丸へ視線が集まる。

 

(ほんと、入ったばかりの頃とは見違えたな)

 

どこか感心したように彼女を見やる未来。

 

マネージャーとしてアイドルの成長が見られるのはとても嬉し————

 

「い〜〜〜〜〜〜〜〜……

 

腕の関節を曲げたところで動きを止めてしまった花丸を見て一瞬思考が止まる。

 

…………〜〜〜〜〜〜〜〜〜ち。完璧ずら……」

 

「マジで?」

 

前言撤回。どうやら買いかぶりだったようだ。

 

身体を一度も上げることができないままカウントを止めた花丸を見下ろす。

 

「花丸ちゃんの練習メニュー、ちょっと追加しとこうか」

 

「ずらっ!?」

 

「ずらじゃない」

 

「善子もきちんと家でストレッチしてくること。いい?」

 

「は、はい……」

 

未来とステラもマネージャーらしさが板に付いてきた。

 

九人の体調管理はやはり大変な仕事だが、苦にはならない。

 

「それで……次のラブライブっていつなの?」

 

「たぶん……来年の春だと思うけど」

 

「ぶっぶー!!ですわ!その前に一つやるべきことがありますわよ!」

 

「「え?」」

 

唐突に迫ってきたダイヤにたじろぎつつ、曜と梨子は準備運動を中断して耳を傾ける。

 

「忘れたんですの?入学希望者を増やすのでしょう?」

 

「ああ、そっか……忘れてた」

 

「オフコース!すでに告知済みだよ」

 

「せっかくの機会ですっ。そこに集まる見学者達にライブを披露して、この学校の魅力を伝えるのですわ!」

 

「それいい!」

 

横からの一声に反応して階段の方を向く。

 

うっすらと笑みを浮かべる千歌がそこに立っていた。

 

「それ、すごくいいと思う!」

 

「トイレ長いわよ!もうとっくに練習始まってんだからね!」

 

「善子は自分のことも気にしなさいよ……ねっ」

 

「あいたたたたたたた!!」

 

(相変わらず容赦のない……)

 

善子の背中に両手で一気に力を押し込むステラを見て苦笑する未来。

 

『……?』

 

(ん?どうかしたかメビウス?)

 

『いや、鞠莉ちゃんがちょっと……』

 

(鞠莉さん……?)

 

メビウスに言われるまま鞠莉が立っている場所の方を振り返る。

 

いつものおちゃらけた雰囲気とは真逆の、険しい表情を作った彼女の姿があった。

 

 

◉◉◉

 

 

「そっか。秋になると終バス早くなっちゃうんだね」

 

練習を終えた帰りのバス停。

 

ほとんど何も書かれていないような時刻表を見つめて曜がそうこぼした。

 

「そうずらね」

 

「日が暮れるのも早くなるから、放課後の練習短くなっちゃうかも……」

 

「説明会まであまり日はありませんわよ?」

 

「それは、わかってるけど……」

 

「一度スケジュールを練り直したほうがいいかもな」

 

そろそろ夏も終わり、太陽が沈む時間も早まってきた今、あまり遅くまで学校にいるわけにもいかなくなる。

 

季節が変わるのと同時に、練習時間の調整も自然と必要になってくるだろう。

 

「朝、あと二時間早く集合しよっか」

 

「……合宿の時にも似たようなこと話したよね」

 

以前の合宿では朝四時に集合とのことだったが、結局時間通りに集まったのは花丸だけだった。同じ悲劇を繰り返すわけにはいかない。

 

「それと善子ちゃん、もう少し早く帰ってくるように言われてるんでしょ?」

 

「ギクッ!ど、どうしてそれを……?」

 

梨子の質問が不意打ちだったと言わんばかりに身体を強張らせる善子。

 

「うちの母親が、ラブライブの時善子ちゃんのお母さんと色々話したらしくて……。なんか、部屋にも入れてくれないって」

 

「だ、だから!ヨハネは堕天使であって、母親はあくまで仮の同居人というか——」

 

“母親”と言ってしまっているあたり即興で作った設定なのが丸わかりである。

 

「ヨハ子ちゃんのお母さんって……どんな人なんだ?」

 

「学校の先生なんだって。善子ちゃん幼稚園まで哺乳瓶離さなかったから、お母さん————」

 

「こらあああああああああ!!」

 

どんどん堕天使の余計な情報が増えていく。

 

善子がやりたいことをすればいいと言ってスクールアイドルに誘ったのはこちらなのだが、親にかける心配は程々にしてほしいものだ。

 

「……待って、沼津からこっちに来るバスは……遅くまであるのかな?」

 

「えーっと……仕事帰りの人がいるから……」

 

「……あっ!向こうで練習すればいいんだ!」

 

名案が浮かんだと同時に唸っていた千歌の表情も一気に明るいものへ変わっていく。

 

「それなら時間も確保できるずら!」

 

「ルビィ賛成!」

 

「そうだね。…………鞠莉は?」

 

パッと果南が背後を見ると、どこか物悲しげに肩を落としている鞠莉の背中が見えた。

 

「……へ?ノープロブレム!」

 

(……ん)

 

彼女の笑顔に違和感を感じてふと果南の顔を確認する。

 

やはりいつもと様子が違う。果南の何か言いたげな顔を見れば一目瞭然だった。

 

『……やっぱり何か……』

 

(ま、ここは話し慣れた人に任せるとしよう)

 

『君がそう言うなら……』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「またねー!」

 

遠ざかっていくバスを後ろから見送る梨子と未来。

 

「あれ、千歌は…………あっいたいた」

 

海岸沿いに立って夕日の映った海を眺めていた千歌の隣に二人が駆け寄る。

 

「綺麗……」

 

「本当……」

 

「少し眩しいけどな」

 

三人の前にあるオレンジ色の光。近いようでとても遠いそれは、まさに千歌達が目指しているものを体現したかのように輝いていた。

 

「私ね、一瞬だけど、本当に一瞬だけど……あの会場でみんなと歌って、“輝く”ってどういうことか、わかった気がしたんだ」

 

「本当に?」

 

「うん、もちろん!」

 

「————って千歌!?」

 

未来は前触れもなく地を蹴って走り出した千歌へ手を伸ばすが、掴むことなく空振りに終わってしまう。

 

「とぉぉおおおおおおおおおおっ!」

 

海に飛び込む勢いで全力のジャンプを見せた彼女の両腕を梨子と二人で掴み取り、ほっと胸をなでおろした。

 

「まだぼんやりだけど……でも、私達は輝ける。頑張れば絶対って……そう感じたんだ」

 

「……大変な道になりそうだけどな」

 

「だからいいんだよ!」

 

「あはははは!」

 

 

三人で笑顔を交わしながら不意に気づく。

 

「そういえば……ステラちゃんは?」

 

「あれ……?」

 

ステラは十千万で居候しているので、バスを降りるなら同じ場所のはず。

 

「メビウス、何か聞いてるか?」

 

『ううん。ヒカリからも連絡はないね』

 

「……ま、あいつらなら大丈夫だろ」

 

「ステラちゃんだって未来くん達と同じ、ウルトラマンだしね」

 

千歌を地面に引き戻し、三人はそれぞれの自宅へ帰ろうとその場を後にした。

 

 

◉◉◉

 

 

夕焼けの光が木々の隙間からはみ出し、地面を濡らしている。

 

ステラは道路沿いの森に足を運んでいた。

 

未来達には気付かれないようにこっそりとバスから抜け出して人気のない場所までやってきた理由はただ一つ。

 

「……で、誰よあんた」

 

「誘いに乗ってくれてありがとう、ステラちゃん……そしてウルトラマンヒカリ」

 

黒髪に黒いコート、明らかに怪しげな青年がそこで待っていた。

 

「こうして話すのは初めてだったかな?」

 

「少なくともこの星の人間じゃないわね。……用があるなら十秒で済ませてちょうだい。それと、ふざけたことを喋ればその瞬間に殺すわ」

 

「怖いこと言わないでよ……ほら、そんなにシワ寄せたら可愛い顔が台無しだよ?ちょっと話したいだけだって」

 

「黙りなさい。お前からはアークボガールと同じ匂いがする」

 

ステラの体内で待機しているヒカリも無言ではあるが男を警戒していた。

 

いつでもナイトブレードを取り出せるよう、スカート付近まで手を寄せておく。

 

「……アークボガール……か、君達の戦いも見ていたよ。正直ボクもあの手の下品な輩は苦手だったんだ。倒してくれてすっきりしたよ」

 

「十秒経過。おとなしく死になさい」

 

予備動作も見せずにステラは黒ずくめの男へ肉薄した。

 

こいつはどこかおかしい、と本能が告げている。生かしておけば厄介なことになるかもしれない。

 

「でもハズれだ。……ボクは皇帝よりずっと弱いけど、なめてかかると痛い目見るかもよ?」

 

「————っ!?」

 

奴が防御に使ったモノを視認して驚愕する。

 

突き出したナイトブレードの刃を防いでいるそれは————“黒いメビウスブレス”だった。

 

「手に入れた時よりもずいぶん力も増したし……小手調べに付き合ってくれないかな」

 

『……!ステラ避けろッ!』

 

「はっ…………!」

 

漆黒の光が広がり、咄嗟に奴から距離をとる。

 

『こいつは危険だ……!一旦退け!』

 

「どういう……!?」

 

『早く逃げるんだ!』

 

「ちっ……!」

 

ヒカリの指示は何よりも信頼できる。彼が退けというのならそれが最善なのだろう。

 

「あれ?おーい!待ってよー!」

 

駆け出したステラの背中を残念そうに見送る男。

 

 

 

「戦えると思ったのになあ。……やっぱり初戦は“彼ら”にしろって、神様からのお告げかな?」

 

左手に現れたブレスを消滅させ、()()()()は不気味に口元を歪ませた。

 

「光が手に入らないなら……今ある力でそれを超えればいい。そうすればボクはもっと高みへいけるんだ……!」

 

古い記憶を辿って彼は一人の少女の顔を思い出していた。

 

「見ていてくれよ……————ちゃん」

 

消えてしまいそうな一言に彼女の名前を乗せる。

 

高揚しているノワールの横を、冷たい風が吹き抜けた。

 

 




既になにかやらかしそうなノワール……。便利な悪役ですよこの人は……。
2章では他のウルトラ兄弟達もオリジナル回と絡めて登場させるので注目です!

ここら辺でもう一度ノワールについて解説しましょうか。

エンペラ星人と同じ惑星の出身、生き残りです。
皇帝と同じく闇の中を彷徨いながらも、光を諦めきれずに地球へ辿り着いた青年。意外と今作一の努力家かもしれません。
当初は未来やAqoursのメンバーが持つ「光の欠片」を奪おうと暗躍していたが、代わりに奪い取ったメビウスの力が闇に染まってしまったのを見て一旦その目的を変更。エンペラ星人をも超える存在になることを決意する。
彼が今後どう物語に関わっていくのか……⁉︎

それでは次回もお楽しみに!

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