メビライブ!サンシャイン!!〜無限の輝き〜   作:ブルー人

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サンシャイン二期まであと一週間!というわけで外伝もちょうど終盤ですね。
アークボガールを倒す、というだけの話のはずでしたが……思ったより長く続いてしまった(焦)


Episode11 のぞみ〜感情〜

「皇帝、アレについての調べが終わったよ」

 

この銀河のあらゆる生命が恐れる暗黒の大皇帝に対して軽いテンションで話しかける青年が一人。

 

黒い空間に映し出された映像。獣のごとき咆哮を響かせて戦う銀色の巨人を指差して、彼は言う。

 

「ウルティノイド・ザギ。遥か遠くの惑星で人工的に造られた“神の模造品”」

 

驚異的な学習能力を持ちながらそれが生み出す可能性の範囲を恐れられ、創造主に棄てられた哀れな人形。

 

この絶大な力を秘めた防衛装置は、途方もない時間を暗闇のなかで過ごしてきたのだろう。

 

「……なんか、ボクらと似てるね」

 

青年は真顔を装ったつもりだったが、実際に見せていた表情からは憐れみの感情が伝わってきた。

 

「……どうかな?彼をこちらに引き入れる気はないかい?」

 

「やめておけ。見たところ扱いに困る輩だ」

 

映像ごしに眺めただけでそう断言するエンペラ星人に面食らう。

 

それに彼が「扱いに困る」だなんて口にするとは思わなかった。

 

ザギ————自分たちと同じ、宇宙を彷徨った望まれない旅人。

 

 

 

(君はその果てに……何を手に入れた?)

 

 

◉◉◉

 

 

地下の施設を捨てたエリィ達は路地裏に身を隠し、先ほど起こった奇妙な出来事について頭を抱えていた。

 

気を失っているノンを見下ろしたミコから一言漏れ出す。

 

「さっきのあれは……いったい何だったの?」

 

鬼神のような戦いぶりを見せた銀色の巨人を思い出して、一同は顔を伏せた。

 

(ヒカリ……)

 

『むやみに口出しするのはやめておこう』

 

ザギに関して知らないことが多すぎる。

 

彼は何のためにこの星を訪れ、そしてどうしてノンを助けたのかも。

 

下手をすればボガール達に放たれたあの凄まじい火力が……自分達に向けられるかもしれない。

 

「ん……」

 

「……!ノン!」

 

意識を取り戻したノンはゆっくりと瞼を開くと、自分を覗き込んでいるエリィ達の顔を順番に見る。

 

「ノン、大丈夫なの?」

 

「……急に意識が遠くなって……ウチ……どうなってたの?」

 

「覚えてないみたいね」

 

ザギとしてボガールの集団を焼き払ったことは彼女の記憶にはない。

 

あの状態は完全にザギが独断で行ったものなのだろう。

 

「貴様の中には別の存在が紛れている。それも極めて強力な何かがな」

 

「ザムシャー……!?」

 

ステラは躊躇いなくそう話し出したザムシャーの肩に思わず手を乗せて制止した。

 

「ふん。此奴の身体に潜んでいる者がいかに強い力を持とうとも関係ない。……言葉を聞けばどういう奴かわかるというものよ」

 

「だからって……!」

 

「そうだろう?……先の巨人よ」

 

ザムシャーの問いかけに応じるように、ノンの胸から閃光が点滅しだす。

 

泉が湧きでるように神々しく流れ落ちてきたその光は宙へ浮くと、全員に対して語りかけてきた。

 

「お前達に話すべきことはない」

 

自分の中から現れたその光体を視認したノンの瞳が見開かれる。

 

「あなた——が……」

 

ザギは困り顔を浮かべるエリィ達のなかでただ一人呆然としている紫の髪色をした少女を見下ろした。

 

 

「話すべきことはないって……そういうわけにもいかねえ。俺はお前みたいな見知らぬ存在を見かけたら本部に通報するよう命じられているからな」

 

「ゼロと同意見よ。あなたが何者かわからない以上、野放しにするわけにはいかない」

 

先ほどボガール達を一掃した光線といい、ザギの力はウルトラの父と同等——いや、それ以上の可能性もある。

 

こんな核爆弾のような存在を見て見ぬ振りなんかできなかった。

 

「…………俺はただ、俺のために力を使う。それだけだ」

 

最後にそう言い残したザギが再びノンの胸へと戻っていく。

 

「このっ……!ノンの身体から出て行きなさいよ!」

 

「少し落ち着きなさいよエリィ。……何か異常は?」

 

ミコの質問を聞いて反射的に胸元へ手をやるノン。

 

「ううん。ウチは大丈夫だよ」

 

「ならいいわ。今のところ問題があるわけじゃないし、ボガールも倒してくれた。ひとまず敵ではないんじゃない?」

 

「よくそんな簡単に信用できるわね……!ああ、もう!どうしてこう次から次におかしな奴らが舞い込んでくるの!?」

 

この現状がすっかり参ってしまったエリィが頭を抱えて叫んだ。

 

 

◉◉◉

 

 

俺は見た、この星の生命体を。

 

俺は触れた、この星の命に。

 

違う存在と同化し、俺が知らない情報は全て取り入れた。

 

————だからだろうか。心がこんなにも切ないのは。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(ねえ、聞こえる?)

 

返答はない。だが声は届いている確信があった。

 

エリィやステラ達と共に今夜身を隠せる場所を探しながら頭のなかで念じる。

 

(あなた、“ザギ”って名前なんだね)

 

迷いを感じる。

 

一心同体となっている今はノンにも彼の感情の波が手に取るようにわかるのだ。

 

(そっか……あなた、()()んだね)

 

誰とも話したくないが誰かと一緒にいたい。そんな気持ちが伝わってきた。

 

痛いほどわかる。だってこの感情は一度自分も経験したものだから。

 

(あなたはウチのなかに入ってきた時に、ウチの心を学んだ)

 

傷を癒すためではない。感情を学ぶために彼女の身体を借り、そしてそれ以降は肉体を乗っ取るつもりでいた。

 

しかし————

 

 

 

 

————……教えろ、俺が抱えているこの感情、これはなんだ?

 

(へ?)

 

柔らかくて暖かい、人を思いやる感情。

 

「優しさ」と表現できる思いでザギは満たされていた。

 

そして、もう一つ。

 

(あなたはウチに触れて、ウチと同じ優しい気持ちを手に入れたってことかな。……自分で言うとちょっと恥ずかしいね)

 

照れくさそうに語る少女のなかで彼は思っている。

 

初めて触れる感情の暖かさを。小さな星に生まれた命を。

 

 

ボガールに襲われた時、ノンとザギの心は完全に同調していた。

 

誰かを失いたくない。離れることが怖いと。

 

 

————俺は、恐れているのか?

 

かつて自分を棄てた惑星の住人を思い出す。

 

暴走する危険性があったザギを宇宙空間に廃棄したあの生命体に対しての“恐怖”。

 

棄てられるということの怖さを。

 

高度な学習能力を持つザギは、ノンと同化することで学んだのだ。

 

優しさと恐怖、人としての感情の一端を。

 

(あなたが誰にも自分の存在を打ち明けなかったのは、ウチらに嫌われるのが怖かったからなんだよね?)

 

————…………

 

なぜ否定ができない。

 

こんなにも複雑な感情を抱いたのは初めてだ。

 

何もかもがわからない。何もかもが。

 

(そういえば、まだあなたにちゃんとお礼言ってなかった)

 

————礼、だと?

 

うん、と頷いた後彼女は目を閉じる。

 

(ウチが怪我した時————助けてくれて、ありがとう)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それは突然の出来事だった。

 

闇夜に紛れて周囲を囲んでいる目線が数十体。

 

「……!警戒して!」

 

ステラは咄嗟に取り出したナイトブレードを構え、こちらの様子をうかがっている影を睨む。

 

「数は……。っ!なんだこれ……!!」

 

ボガールの気配を感じ取ったゼロが青ざめた顔で言った。

 

「アークボガールの奴……三百体以上のボガールをよこしやがった……!!」

 

この惑星に潜伏していたボガールが全て集結したのかと思うほど、圧倒される頭数。

 

『勝負を決めにきているな。……ステラ』

 

「ええ、勝つわよヒカリ。わたし達の故郷に誓って……!」

 

直後、足元に広がった血の池のような空間がステラの体勢を崩した。

 

「え————?きゃあああっ!?」

 

「ステラ……!?ヒカリ!!」

 

異空間に引きずり込まれていくステラが視界から消え、ゼロは思考が追いつかないままゼロアイを取り出す。

 

「くそ……!小さいのは任せるぞ!」

 

「わかってるわよ!ミコ!ノンをお願い!」

 

エリィの指示を聞いたミコがノンの腕を引っ張り、ボガールのいない隙間を狙って一直線に駆け出した。

 

ブレイガンから光の刃を伸ばしたエリィが暗闇を照らしながら敵へ光弾を発射。

 

それを合図に、幾度目の乱戦が開始された。

 

 

◉◉◉

 

 

「はっ……あああああ!!」

 

ヒカリに身体の主導権を譲り、高所からの着地をしてみせるステラ。

 

クレーターの中央でゆっくりと立ち上がり、周囲を確認する。

 

「……ここは……?」

 

乾いた大地に歪んだ空。

 

命が感じられない地に二人は立っていた。

 

 

 

『ここは……まさか……!』

 

「————ッ!」

 

横からの殺意を全力で回避する。

 

頰にわずかの傷を許してしまい、ステラの鮮血が宙を舞った。

 

「ようこそツルギ、そしてノイド星の小娘。ここが貴様らの墓場となる地だ」

 

「……出たわね」

 

自分の姿に()()ボガールの王が嗤う。

 

死の上に立っているような印象を受ける奴はステラとヒカリに向けて続けた。

 

「ここはかつて我らが食らった星。貴様らもよく知る地だ」

 

『……やはりそうか』

 

ハビットから連れてこられたこの惑星の名はアーブ。

 

過去にヒカリが救うことのできなかった奇跡の星。

 

「ハンターナイトツルギの存在を知ってから決めていた。——お前達は、必ず我がこの手で食うとな」

 

『俺が殺してしまったこの星で……俺を食う、か』

 

「いい筋書きだろう?」

 

悪趣味なアークボガールが不敵に口角を上げ、ステラに対しても侮辱の意を示してきた。

 

「そこの娘にも相応しい姿で挑まなくてはならないと思ってな——少し趣向を変えてみたのだが……お気に召したかな?」

 

「……口を閉じなさい、下郎」

 

もう既に怒りの限界など超えている。

 

今回の奴の姿は以前とは違った。()()()()()()()()()()()()()姿()()()()()————

 

「わたしの母親は、そんな気持ちの悪い笑みは浮かべない」

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

「くははっ……!」

 

冷たい声で言い放ったステラを見て、ボガールは本性を現した。

 

「食ってやろう、狩人共。この地で貴様らの念を断ち切ってやる……!」

 

アークボガールとしての姿を見せた奴が巨大なものへと変貌していく。

 

「……ヒカリ」

 

『……どうした?』

 

「最後まで……力を貸して……!」

 

『最後まで……か。それはこの戦いが終わった後まで、という意味か?』

 

「いいえ?冗談じゃないわ」

 

闘志を宿した瞳で、彼女は言う。

 

「今のわたし達には、帰る場所があるでしょ」

 

蒼い閃光が疾る。

 

騎士の目覚めを感じたアーブの大地から、ほんの少し喜ぶような地鳴りが聞こえた気がした。

 




外伝は次回で最終回となります。
アーブの地でヒカリとステラはアークボガールとの決戦に挑み……⁉︎

今回は解説の代わりに今後の予定をチラ見せさせて頂きます。

このメビライブという作品を思いついた当初、ラブライブ無印のパターンから考えて二章+αで完結できるように構想していました。
なのでエンペラ星人との決着は二章の終盤で片付き、その後日談として一章でやり残したことを終わらせる予定です。
サンシャインがもしも三期までやるとしたら……そこまで綴るかはまだ未定なのです。

さて外伝も次回で終わり、ついに二章が始まろうとしています。
この作品で最も書きたかったシーンがその終盤に詰め込まれる予定なので、どうか最後までお付き合いください。

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