メビライブ!サンシャイン!!〜無限の輝き〜   作:ブルー人

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ついにジードの出生が明らかになりましたね……。
ペダニウムゼットンのデザイン結構ツボです。


Episode9 おのれ〜自分〜

「ウルティノイド・ザギ……?それがあなたの名前なの?」

 

「ああ」

 

ノンという少女の身体を借りた生命体が頷き、無表情のまま続ける。

 

「俺を造った者達は、何かが恐ろしかったのだろう。俺は自分が造られた理由も知らないまま宇宙に廃棄された」

 

 

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口にしている内容とは裏腹に、ザギは悲しみという感情を全く表に出さない。

 

機械のように無機質な言葉を聞きながらステラは無意識に身体を強張らせた。

 

『……その身体の少女——ノンの意識はどうなっている?』

 

「俺が表に出ている間は意図的に眠らせてある」

 

「……あなたはこの星の出身ではないのよね?何のために彼女の身体を借りているの?」

 

ザギが一瞬何かを考えるように黙り込む姿はまるでコンピューターのようだった。

 

「……さあな、俺も自分がわからない。はっきりしているのは……俺がこの少女から離れれば、彼女はたちまち命を落とすということだけだ」

 

「『……!?』」

 

その直後、ノンの瞳がくるくると色を変え、ザギが話していた時とは違う柔らかい雰囲気へと変わった。

 

「あれ?ウチ、何か言ってた?」

 

「い、いいえ」

 

「そっか。……最近なんだかぼーっとしちゃうことが多くてね。疲れてるのかな……」

 

どうやら本人は自分の中に別の存在がいることに気づいてないらしい。

 

ノンは何事もなかったかのようにこちらへ背を向けて再び歩き出した。

 

「ねえあなた、最近変わったことはなかった?」

 

「え?」

 

前触れもなくそう質問してきたステラに少し戸惑いつつも、顎に手を当てて廊下の天井を見上げる。

 

「変わったことね……。あ、そういえばこの前食糧を探しに行った時のことなんやけど……」

 

ノンが教えてくれた話のなかにザギが口にした言葉の意味に対するヒントがあった。

 

彼女は食べ物を探している途中にボガールと遭遇し、逃げている最中に崖から転落してしまったのだという。

 

そこから先のことはよく覚えていないとのことなので、おそらくはノンの生命活動が停止する直前にザギは彼女と一体化し、その命を繋ぎ止めたのだろう。

 

「今考えても不思議やなあ……よくあんなところから落っこちて無事でいれたもんやね」

 

「…………」

 

黙っておくべきだろうか。

 

ザギが何を考えているのかさっぱりわからないが、彼のおかげでノンは存命していられるということは本当らしい。

 

……どうしてザギは、彼女やエリィ、ミコに自分の存在を打ち明けない?

 

ウルトラマンと似た力を持っているのなら、共にボガールと戦うこともできただろうに。

 

近しい者ではあるが、戦う手段は持っていないということなのだろうか。

 

(……どうする?)

 

『しばらくは様子見だな。彼が何を思ってノンを助けたかはわからないが、理由はどうであれそのおかげで彼女は今生きている』

 

(でもなに考えてるかわからないし……ちょっと怖いわ)

 

『君に何かを怖がる感性があったとはな。意外だ』

 

(失礼ね。か弱い女の子なんですけど、わたし)

 

『あえて何も言わないでおくよ』

 

心のなかでありったけの文句を漏らしながら、ステラはノンに連れられて施設の廊下を進んだ。

 

 

◉◉◉

 

 

「……俺に何か用か?」

 

「ぬ……?」

 

拠点周辺の見回りに向かっていたゼロだが、先ほどからザムシャーが自分と同じ方向に付いてきていると気づき、おもむろにそう切り出した。

 

「どうしてさっきから俺についてくるんだよ」

 

「気にするな。後ろから襲おうなどとは考えていない」

 

本当かよ、と内心落ち着いていられないゼロ。

 

宇宙剣豪ザムシャーの名前は光の国にいた時にも聞いたことがあった。

 

実力者に勝負を挑み、自らの力を証明するために宇宙を旅している者だと。

 

(まさか俺を狙っているのか……?ったく面倒くせえな……)

 

とはいえ彼に勝負を挑まれたのなら、それは戦士として認められたと解釈していいのではないだろうか?

 

修行を終えたばかりで自分の力を充分に発揮できていないゼロにとっては、ザムシャーとの決闘は力試しに丁度いいのかもしれない。

 

(カノンでは情けない姿を晒しちまったし……それもありかもな)

 

段々と湧いてきたやる気に毒されてすっかり戦うつもりになってしまったゼロ。

 

もしも名のある戦士に戦いを挑まれたのなら、嬉しいと思ってしまうのは若気の至りなのだろうか。

 

(よっしゃあ!いつでもこいや!)

 

「……?」

 

無意識に拳に力を込めたゼロに怪訝な表情を向けるザムシャーであった。

 

 

 

 

 

 

「一つ聞きたいことがある」

 

「ん?」

 

しばらく無言で歩いていると、背後から低い声でザムシャーが問いかけてきた。

 

「確かゼロといったな。ツルギとは長い付き合いなのか?」

 

「ツルギ……?ヒカリのことか?いいや、少し前に任務で初めて顔を合わせたばかりだ。……まあ、あいつは光の国でもちょっとした有名人だし、知らなかったわけじゃないけどな」

 

ウルトラマンヒカリはかつて宇宙科学技術局所属の科学者で、“命の固形化に関する技術の研究”でスターマークを授与されたほどの博士だ。

 

文武両道である彼は現在宇宙警備隊に在籍していると聞いている。そのようになった経緯は知らないが。

 

「まあ、一後輩として尊敬してないわけでもない」

 

「……そうか」

 

「なぜそんなことを聞く?」

 

「……いやなに、以前奴に言われた言葉の意味がよく理解できずにいたのでな」

 

「……?どういう————」

 

ザムシャーの方を振り向いたその時、彼の後方から迫ってきた影に気がつき息を呑む。

 

身構えたゼロを見てザムシャーも察知したのか、腰に下げていた刀を引き抜いて後ろへ向けた。

 

「くっ……!?」

 

猛スピードで迫るソレは一体だけではない。

 

無数のボガールらしき影とともに奴は現れた。

 

 

 

 

 

「しつこい奴らだ。そこまで我に食われたいというのならば——」

 

「……!お前、その姿は……!」

 

ボガールの集団から出てきた一人の少女に目を疑う。

 

コートにキャスケット帽を被った見覚えのある顔がそこにあった。

 

「望み通り腹の中に収めてやろう」

 

「アークボガールか……!つくづく悪趣味な野郎だぜ!」

 

ステラの姿に擬態していたアークボガールは不敵に笑うと、軽く腕を振るってみせる。

 

それを合図に待機していたボガールが一斉に滝のごとく駆け出してきた。

 

「その姿でエリィ達の仲間を皆殺しにしやがったのか……!」

 

怒りで顔を歪ませたゼロが強く一歩を踏み出す。

 

「悪いがお前をかばう余裕はない」

 

「ぬかせ。貴様の助けなど無くとも、諸共に星斬丸の錆にしてくれるわ」

 

二人の戦士がボガールの集団に突っ込んでいくのを確認すると、アークボガールは微笑しながら暗闇の街道を駆けた。

 

「さて……これで邪魔する者はいまい……!」

 

 

◉◉◉

 

 

夢を見た。

 

どこからともなく現れた獣によって、惑星が蹂躙されるという恐ろしい記憶の夢。

 

宇宙から飛来した獣に星を破壊されていくなか、民は信じられない光景を目にする。

 

————神だ。神秘的な銀色の翼を持った神が、獣を一掃していくのだ。

 

圧倒的な力で獣共を消滅させた神は、すぐにその場を去ってしまった。民の不安は完全には拭えなかった。

 

その星の住人はずば抜けた科学力を有しており、再び獣が現れた時に備えて“神の模造品”を作ることにした。

 

星を守るための存在を————

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………っ!」

 

不思議な感覚に襲われて、ノンは目が覚めた。

 

今は夜中で、部屋の中は真っ暗だ。

 

傍で寝息を立てているエリィとミコを一瞥した後、ノンは顔を手で覆って夢の光景を思い出した。

 

(ウチの知らない……記憶……?)

 

夢というにはあまりにも鮮明な映像だった。

 

知らない誰かの記憶が頭のなかで勝手に再生されているかのようだ。

 

 

「…………ザギ……?」

 

ふと頭に浮かんだ名前を口にする。

 

なぜだか胸の中が少し暖かく感じ、ノンの表情は自然と解けていった。

 

 

 

「……ノン……眠れないの……?」

 

「あ、ごめんねエリィ。起こしちゃった?」

 

左目を擦りながらむくりと上体を起こしたエリィと視線を交わす。

 

きょろきょろと周囲を見渡した彼女は、引き締まった顔で口を開いた。

 

「そういえばあいつらは……ちゃんと“部屋”に案内した?」

 

「ステラちゃん以外はまだ帰ってきてなくて……」

 

「……ま、いいわ。あいつだけでも隔離してるなら」

 

「大丈夫だと思うんやけどなあ」

 

ステラに“部屋”として案内した場所は、いわゆる留置所のようなものだった。

 

エリィの指示で、万が一アジトに尋ねてきた者がいれば数日間はそこで大人しくしてもらうという決まりだ。

 

特殊な施錠がかかっていてこちらが操作しなければ部屋からは出られないので、明日の朝には自分たちが閉じ込められていることに気がつくだろう。

 

ステラ達には悪いが、ボガールの脅威がある以上は念入りにしなくてはならない。

 

「ザムシャーはここで寝泊まりするつもりはないみたいだけど……あのゼロって奴は帰ってきたら一緒に入れておかないと」

 

「あはは……」

 

エリィがここまで神経質になるのも妹を失ったことによる影響が大きい。

 

(…………ほんと、大丈夫なんかな……ウチら)

 

 

 

 

 

こんこん、と扉を叩く音が響く。

 

「あ、二人が戻ってきたんやない?」

 

反射的に立ち上がって出入り口まで歩いていくノン。

 

外に設置してある監視カメラからの映像が近くにあったモニターに映し出される。

 

「…………あれ……?」

 

そこに写っていた者は————今は隔離されているはずのステラの姿だった。

 

 

 




いきなりアジトに攻め込まれてしまう……⁉︎
ザギはまだ黒くなる前なので本編とだいぶ雰囲気が違いますね。

今回の解説はノン。


【挿絵表示】


ハビット編のμ'sキャラのなかでは唯一欠損がありません。
ザギと一体化する前は戦闘能力がほぼ皆無で、エリィとミコに守られながら身を潜めていました。
果たして彼女はザギと共に立ち上がることはできるのか……。

さてサンシャイン二期が始まるまであと少し。
二章では一章と同じようにオリジナルエピソードも複数用意する予定なのでそちらもお楽しみに!
まだ三年生組がメインの回は書いてませんしね。

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