ハビット編二話目です。
前回後書きで言っていた二人目の追加戦士の名前が明らかに……⁉︎
『それは————間違いないのか?』
「ああ、次に向かうのは惑星ハビット。小さいがそれなりに住民はいる」
(ヒカリ、どうかしたの?)
宇宙空間を移動しながら光の国からの指令を読み上げるゼロ。
目標地点である星の名前を聞かされたヒカリは、なぜだかそれに反応を示した。
『……いや、その星のすぐ近くに確か……』
(……?)
「見えてきたぜ」
遠くの方に浮かぶ小さな惑星を指差したゼロに続いて、ヒカリもまた飛行速度を上げる。
地球の半分ほどの大きさしかない惑星、そしてその隣には——かつて輝いていたであろう死の星が見えた。
(……!)
『……惑星アーブ。一時期俺が研究対象に定めていた星だ』
(これが……)
ハビットからそう離れていない位置にあるアーブを見下ろす。
生き物の気配など全く感じない、寂れた雰囲気が漂っていた。
(……絶対、勝とうね)
『ああ』
「おーい!何やってんだー!?」
先に進んでいたゼロが止まっていたヒカリとステラに呼びかける。
今は任務に集中しよう、と二人も身体の向きを戻してハビットの方へ向かった。
スラム街、というのが第一印象だった。
建物のほとんどが半壊し、以前まで人間が住んでいたとも感じさせないくらいに寂れている。
変身を解除したゼロとステラはゆっくりと地に降り立ち、周囲に危険がないかを確認してから口を開いた。
「やっぱりここもボガールにやられた後みたいだな」
「……そうね。手分けして生き残っている人間はいないか探しましょうか」
「わかった。何かあったらウルトラサインで知らせてくれ」
ゼロとステラはお互いに背を向け、それぞれ反対方向に足を踏み出す。
……カノンの時とは比べ物にならない。
戦神のような存在がこの星にはいないのか、おそらくはロクに抵抗することもできないまま食い尽くされたのだろう。
——ノイド星と同じように。
地球にはウルトラマンが、カノンには戦神がいる。
だけどこの宇宙にはそういった守り神が存在しない惑星だって数えきれないほどあるのだ。このハビットや、ステラの故郷であるノイド星もそれに当てはまる。
そのような星が侵略者のターゲットにされた時には戦って勝つしか自分たちを守る方法がない。
……ではその戦いにすら負けてしまったら?
「……つらかったでしょうね」
『ステラ?』
「なんでもないわ」
帽子を深く被りなおし、ステラは辺りの惨状を視界に入れながら歩いた。
◉◉◉
「くそっ……胸糞悪いな、ボガールの奴ら……!」
あちこちに血痕が付着している瓦礫に足を取られないように慎重に進む。
ゼロはこの任務が与えられてからずっと、初めて目にする圧倒的な悪逆に震えていた。
歴戦の戦士に鍛え上げられた精神でも音を上げたくなるくらいには酷い有様だった。
「……あーところでさ、少し質問していいか?」
ゼロは不意に立ち止まり、
「お前、ボガールじゃあないよな?」
物陰に潜んでいた一つの影が姿を表す。
大きな布で小さな身体を隠している少女が顔を見せ、ゼロの前に立った。
ツインテールの髪が短冊のように揺れる。
「ええ、そうよ。食べることしか頭にない連中と一緒にしないでよね」
「ってことは……この星の住人か?だったら————」
刹那、嵐のような蹴り技が前方から乱舞し、反射的に腕をクロスさせてそれを防御する。
追撃してきたのを受け止めて放り投げるが、少女は空中で身軽に一回転すると難なく着地を成功させてしまった。
「いきなり何すんだ!」
「悪いわね、私にも確かめさせてちょうだい…………あんたがボガールじゃないかを」
「…………っ……!」
右腕の切り傷を押さえ、焼けるような痛みに耐えながら距離をとる。
ステラは突然現れた金髪の少女と顔を合わせ、絞り出すような声をあげた。
「あなたは……?」
「…………やっと見つけた」
握られた光の剣が振るわれ、軌跡が描かれると共に斬撃が繰り出される。
目で一つ一つを追い、確実に躱しながらナイトブレードを懐から取り出した。
「覚悟しなさい……ステラ……!」
「……!?どうしてわたしの名前を……!」
「ふざけるな!」
凄まじい熱を帯びた一振りを寸前で回避し、バク転をしながら再び彼女から離れた。
路地裏に隠れ、先ほど受けた傷の痛みに顔を歪ませる。
どうして少女は自分の名前を知っているのか、どうして襲ってきたのか。
あらゆる疑問よりも先に、ステラは金髪の少女の瞳が心に深く突き刺さっていた。
(復讐の眼差し——以前のわたしと同じ目だ)
どういうわけか彼女は自分を敵対視しているらしい。身に覚えはないがそれなりの対応をしなければこちらが殺される。
手加減して勝てる相手ではない——
『この星の生き残りとみて間違いないようだな』
「たぶんね。なんで恨まれてるかはわからないけれど」
近づいてくる足音を察知し、身を隠しながら暗い路地裏を駆ける。
「……!?」
直後、後方から放たれた無数の光線に目を見開いた。
ナイトブレードで全弾防ぎ、徐々に距離を詰めてくる少女を睨む。
(遠距離と近距離を兼ね備えた武器……!)
「ステラぁぁぁああああああ……!」
「ヒカリ!」
『ああ!』
小刻みに飛ばされてくる熱量を回避しつつ、ステラはヒカリに頼んでゼロへ助力を求めるウルトラサインを送信した。
「はあっ!」
「……っ」
壁を蹴ってこちらに接近してきた少女は、その金髪を鬣のように振るって光剣を振り下ろす。
ステラは全霊を以てそれをナイトブレードで受け止めた。
「ブレイガンの刃を止めた……!?」
「あなたは何者……!?どうしてわたしを襲うの……!」
「なんですって……?」
ステラの疑問を聞いてさらに怒りを煮えたぎらせていく少女。
「そんなこと……お前が一番わかってるでしょうが……!」
「ぐっ……!」
回し蹴りが腰に直撃し、ステラの身体は一直線に民家の壁に叩きつけられる。
『ステラ!』
「——っ」
「あの世でハビットの民に詫びてきなさい」
容赦なく迫る熱の塊を前にし、思わず目を逸らしかけるが——
「……!」
刃がステラの首に到達する直前、一閃の煌めきが少女の手元を弾いた。
雅な鉄の音が耳に滑り込んでくる。
いつの間にか現れては刀の峰打ちで金髪の少女から武器を取り上げた男は、冷静な瞳でステラを見下ろした。
『……!まさか……』
「久しいなツルギ、そして依り代の娘」
「ザムシャー……なの……!?」
彼の人間態の姿は地球で一度見たことがあった。
ハンターナイトツルギの噂を聞いてやってきた宇宙剣豪。かつてヒカリとステラに挑み、敗北した者だ。
「どうして邪魔をするの!?」
トドメを刺そうとした少女はザムシャーに向かって激昂するが、彼はいたって冷静な態度で刀を鞘に収める。
「落ち着け。俺の観察が正しければ、こやつらはお前の言う怪物の首領とやらではない」
「……⁉︎そんなはずないわ!確かにこの目で見た!」
少女が落としたブレイガンを拾い上げ、その銃口をステラへと向ける。
「背格好も顔立ちも同じ……!こいつは間違いなく、ボガールの長よ!」
マシンガンのように言いたい放題を連発されていたステラだが、やがてため息を吐いてゆっくりと立ち上がった。
「……不愉快ね。まさか奴と間違えられることになるなんて思わなかった」
『君が言っているのはおそらく擬態能力で我々に化けたアークボガールだろう』
「なっ……⁉︎」
ステラの身体から青い光が飛び出したのを見て、目を丸くする少女。
「ああ……ここにいたか」
驚いた顔でステラを凝視する少女と睨み合っていると、横から弱々しい少年の声が聞こえてきた。
ジャケット姿につり目のゼロと————その隣に立つマントで身体のほとんどを隠したツインテールの女の子。
どちらもついさっきまで喧嘩でもしていたかのようにボロボロである。
「……どういうこと?」
金髪少女の間の抜けた声がこだました。
◉◉◉
「宇宙警備隊……ウルトラマン……」
「信じてもらえた?」
「……にわかには信じ難いけれど、どうやら本当みたいね」
エリィと名乗った少女にこちらの事情を話すと、案外すんなりと受け入れられてしまった。
……いや、「受け入れられた」と思うのはまだ早いかもしれない。
中に入れてもらったアジトは地下にあり、かなりひっそりとしたものになっている。
窓もないので光は松明を壁にかけて部屋を照らしていた。
「私達三人はハビット最後の生き残り。……助けなら、もう少し早く来てほしかったわね」
「……わたし達も色々と忙しいのよ」
言いたいことは山ほどあるが、ステラは感情を押し殺して並んでいるこの星の住人達へ視線を向けた。
「私はミコ。エリィから体術を教わったから、多少の戦闘は問題ないわ」
ドヤ顔を作った後で壁に寄りかかって不満気な顔を浮かべているゼロをちらりと見るミコ。
ゼロはどうやら一撃痛いのをもらったようで、そのうち彼女に飛びかかってしまうのではないだろうかと思うほど一層目つきが悪くなっている。
「ウチはノン。……二人と違って、戦いは苦手かな」
マフラーを身につけた柔らかい雰囲気の少女が軽く手を上げて語る。
彼女達三人……たったこれだけがこの星の生き残りだというのか。
「……ザムシャー、あなたはいつこの星に?」
「三日ほど前だな。アークボガールとやらの噂を聞いてこの星にやって来たが……貴様らと再び相見えることになるとはな」
利害の一致で彼女達に協力しているのだろうか。本人はおそらく以前と同じ強者と戦いたいという理由でここまでやってきたのだろうが。
「……なるほどね。これだとつまり巨大なボガールと戦えるのはわたしとゼロ、そしてザムシャーだけ……ってこと」
何気なく整理したステラの口調に苛立ちを覚えたエリィは、隠す様子もなく眉をひそめた。
「……あなた達はいいわよね、力があるんだから」
「え?」
「きっと何かを失うことなんか怖くないんでしょうね」
席を立ち、別の部屋へと早足で移動したエリィの背中を見つめる。
ステラはどうしても過去の自分と重なってしまう自分自身が嫌だった。
「……ごめんね。エリィったら最近少し機嫌が悪くて」
「苦労してそうね、あなた達も」
代わりに謝ったノンと、彼女の隣で腕を組むミコ。
「そうだ、新しい住人に部屋を用意しなくちゃね。付いてきて」
「いや、俺はもう少し外を見回ってくる」
「では俺もアークボガールとやらを探しに出向くとするか」
ゼロとザムシャーがさっさと外に出て、結局残ったのはステラとヒカリだけとなった。
「……行こか?」
「……ええ、お願いするわ」
蟻の巣のような構造の道を進んで行くと、複数の扉が並んでいるのが見えた。
元々何かの施設だったのか、思っていたよりは充実している。
『……一つ、いいか?』
「んー?」
迷いを振り切って絞り出したかのような声が聞こえ、歩きながらノンが答える。
『一目見たときから気になっていた……。君はこの星の人間ではないね?』
「……⁉︎えっ……!?」
ヒカリの質問に驚いたのはノンではなくステラだ。
先ほど紹介を聞いた時はそんな情報を彼女の口から聞いていなかったからである。
「……やっぱり、あなたにはバレてたか」
『おそらくゼロも気づいているだろうな』
「どういうこと?」
背を向けていたノンが足を止め、こちらに振り向く。
「……確かに、
一人称と共にまとっていた雰囲気を一変させたノンに驚愕する。
「……ヒカリとゼロに見破られたってことは……あなたもウルトラマンなの?」
「違う。……おそらく似たような存在ではあるのだろうがな。実のところ俺が知っていることも自らの名前くらいのものなんだ」
「名前……?」
一呼吸置いて、彼女————いや、彼といったほうが良いのだろうか。
その神秘的な声を紡いだ。
「俺はかつて”ウルティノイド・ザギ”と呼ばれていたらしい」
はい、前回の冒頭に出てきたのはまさかのザギでした。
といってもネクサス本編に出てきたドス黒い彼ではありません。
まだノアの存在も知らず、防衛装置としての機能しかない状態です。
外見はザギの黒色部分を銀色にした感じです。
解説はミコについて。
【挿絵表示】
モデルは言わずもがなにこっち。
ボガールとの戦いで左腕を失っています。その影響からか得意な戦法は足技が主体です。
服装はオリジンサーガのガイさんが着ていたものをイメージしました。
エリィのストッパー的存在であり、ラブライブ本編に登場するにこよりも少しだけ落ち着いている性格です。
次回はまた少し物語が動く……⁉︎