サブタイトルはオリジンサーガ風にしてみました。
タグにもありますが独自解釈と独自設定がバンバン出てきます。
後書きのほうでこの作品での初めての試みが……。
Episode1 かがやき〜輝星〜
肉が潰される音。裂かれる音。鳴き声。
不快感しか感じないはずの様々なものが聞こえてくるが、不思議とわたしの気分は高揚していた。
目の前でなすすべもなく解体されている化け物を見る度に忌々しい記憶が蘇る。
わたしはいい気味だと、ほくそ笑みながら怪物を見下ろした。
(…………あはっ……!見て、ツルギ!死んだ!死んだよ!ほらっ!)
『…………喜ぶのはまだ早い。まだたったの一匹だ。俺達が真に狙うべき敵は、奴らの“王”』
(うん、そうだよね。……でも、でもね)
血が滴り落ちる光の刃を一振りし、既に動かなくなった怪物へ突き立てる。
(こいつらを殺すのが、とても楽しいの。……楽しくて楽しくてしょうがないの)
青い復讐者は鎧の下で、憎しみに満ちた声を吐露した。
◉◉◉
「本当にこっちで合ってるの?」
『タロウから聞いた情報によればそうなのだが……』
「ま、とりあえず向かってみましょ」
地球から数光年離れた先にある王立惑星、そこが今現在自分達の目指している場所である。
カノンと呼ばれるその星は惑星全体が一つの国となっており、文字通り王族というものが存在するのだという。
ステラとヒカリの目的は、カノンに潜伏していると思われるアークボガールとその配下の捜索、及び殲滅だった。
黒い空間に浮遊する無数の星々の中をナイトブレスの力を借りて駆け抜ける。
『今回の任務には、ウルトラ警備隊からの助力も寄越されるらしい』
「援軍でも送ってくれるのかしら?……できればわたし達だけでやりたかったのだけれど」
『相手は仮にも元四天王だ。それに、通常のボガールだけでも数で圧倒されれば手にあまる。気持ちはわかるが素直に従っておこう』
「はいはい」
ナイトブレスが発光し、目の前にワープゲートが展開される。
惑星カノンへと続く道だ。
ステラはこれから始まる過酷なミッションを予感したように息を呑んだ後、ゲート内へと飛び込んだ。
「はあ……はあ……!」
数多くの屋台が並ぶ街中を少女は何かから逃げるように走った。
今日はとある事情から急遽行われることになったお祭りの初日で、周りには笑顔で店を見て回っている民の姿が見て取れる。
そのなかで一人汗を滲ませながら駆ける少女へ、民は怪訝な顔を向けた。
「なあ、今の子……」
「ああ、お前も見たか?」
ヒソヒソと話をする者を見て、いよいよ少女の焦りは頂点に達した。
「いけない、バレちゃう……!」
人混みを離れ、広大な森林がある公園へと隠れる。
「姫様ー!返事をしてください!」
「ひゃっ!?」
近くから聞こえてくる自分を探す声に反応し、情けない声が漏れた。
咄嗟にその場から離れようとしたところで、誰かに服の裾を掴まれる感覚。
「うえっ!?」
振り返るとそこには満面の笑みを浮かべた幼い女の子が立っており、こちらの顔を見ては大声で一言。
「お姫様だ!」
「ひぃ!?」
「……!?姫様!?」
子供の声を聞いて公園まで駆け込んできた男達がぞろぞろとこちらに走ってくるのが見える。
「ねえみんな見て!こっちにコトハ様がいるよ!」
「えぇ!ほんと!?」
「あわわわ……」
あっという間に子供達に囲まれたコトハは抜け出すこともできず、向こうから追ってきた親衛隊の男達へ青い顔を見せた。
「見つけましたぞ姫様!また勝手に城を抜け出して……!近頃は危険だからじっとしていなさいとあれほど……!」
「ごっごめんなさいダイモン!……そんなに怒らないでくださいよ、ね?」
「いいえ、怒りますとも。罰としてこの後はみっちりと訓練を受けてもらいます!」
腰に刀を下げた部隊の長らしき青年が歩み寄り、コトハに群がっていた子供達を優しくひきはがす。
彼女の手を掴み取ると、少々強引に引っ張る。
「ほら、服が泥だらけではありませんか……!帰ってお着替えを!」
「わ、わかりました!わかりましたから!」
親衛隊に連行されていくコトハを見て、子供達は揃って首を傾げた。
「コトハは……戻ったのですか?」
「……はい。ご心配をかけてしまい申しわけありませんでした、お母様……」
広大な一室の奥で豪華な装飾が施されているベッドに寝かされた女性が一人。
カノンの女王であり、コトハの母親でもあるヒルメだ。
「最近はボガールと呼ばれる怪物が現れ、この星を脅かしていることは知っていますね?」
「はい、承知しています。……でも、どうしても私は、街へ行きたかったのです」
「民のことを思って、ですか」
「…………はい」
惑星カノンには、本来守護神である“
カノンをあらゆる脅威から守り、敵を撃退するものだが、現在はその力を行使することができない。
王家の者にしかなれない戦神だが、今現在その力を持っているヒルメは不治の病に侵され、動くことすらもままならない状態だ。
当然次の後継者であるコトハには期待の目が向けられることになる。しかし…………
「私は未だ、戦神になれるだけの力は持ち合わせていません。……だけどせめて、民を安心させるくらいのことはしたいのです」
コトハには生まれてから一度も、戦神に変身する予兆は見られなかった。
優れた軍事力を持たないこの星では、戦神だけが頼りだ。
ボガールの対処も当然王族の仕事となる。
近頃現れ始めたボガールは人間と同サイズのものしかいないが、いずれは巨大な種も出てくるだろう。
その時に戦神の力がなければ、この星の歴史は終わりを告げる。
「あなたは戦いを望んではいない…………そうですね?」
「…………」
ヒルメの質問にこくり、と頷くコトハ。
先ほど着替えたばかりの真っ白な衣服を握りしめ、言葉を紡ぐ。
「私が戦神になれない理由は、きっと私が戦いを拒むことに関係していると思うのです」
「……ごめんなさいね。私が戦えれば、こんなことには……けほっ!」
「お、お母様のせいではありません!どうか安静にしていてください!」
咳き込む母を心配するコトハだったが、何もできない自分の無力さを思い出し、伸ばした腕を引っ込めた。
「あなたは優しくて強い子です。必ずやこの星の救いになると、私は信じていますよ」
「…………はい」
沈んだ雰囲気のまま「失礼しました」と部屋の扉を開けて出て行くコトハ。
太陽を形取った髪飾りがりん、と小さく揺れた。
真下に広がる、緑に囲まれた街。
ステラは惑星カノンの上空から街を見下ろし、様子をうかがった。
「……やけに賑やかね」
『祭りでもやっているのだろうか』
ゆっくりと地面に降り立ったステラが改めて周囲の状況を確認する。
故郷であるノイド星や、地球と比べれば技術はそこまで発達しているようには見えないが、周りに広がる豊かな自然が心地いい。
黒いコートを翻し、とりあえずは街へ向かおうと足を踏み出した。
「そういえばその援軍ってのはまだ到着していないみたいだけど」
『……そういえばそうだな』
「わたし達が早く来すぎたのかもね」
瞬間、目にも留まらぬ速さで短剣型のアイテム、ナイトブレードを背後へ振りかざした。
高速で引き抜かれたそれは回避不可能なほどに正確な狙いと動きが備わっており、数秒後にはステラの目の前に一つの亡骸が転がることとなった。
「……こいつは……」
たった今斬り伏せたものは幼い少女の姿をしており、切り裂かれた胴体からはおびただしい量の血液が流れ落ちている。
その直後、みるみる姿を変えていく少女の正体に顔を歪ませる。
『……ボガールだな』
「やっぱり、この星にいるのかしらね。…………アークボガール」
血を振り払った後でナイトブレードをコートへしまう。
奴らは自らの姿を変えて、獲物を襲う。
それに加えて、この見知らぬ土地で単独行動をするのはヒカリの言う通り危険なのかもしれない。
カノンの者がどこまでボガールのことを把握しているのかはわからないが、この星の住人にも協力を要請したほうが効率が良さそうだ。
「まずはそうね……、あの城へ向かってみましょう」
遠くの方に見える大きな建物を指差す。
『……いきなりだな。おそらくあそこはこの星の王族が住まう城だぞ?追い返される可能性もある』
「その時は、多少強引でも押し通るしかないわね」
『……まったく、君という奴は……』
面倒くさいことになるな、と今から先が思いやられるヒカリであった。
「■■■■————ッッッ!!」
「…………!?」
街の方から聞こえた叫びと地鳴りに反応し、咄嗟にその場から飛び出す。
巨大な影が視界に入り、思わず足を止めて灰色の怪物を見上げた。
先ほどのものとは比べ物にならない、巨大な体躯を持ったボガールだった。
「…………早速きたわね」
『先ほど倒したボガールに反応して出てきたのだろうか……?』
「どうでもいいわ、とにかく戦うわよ。できるだけカノンの人々の印象に残って、なおかつ感謝されるようにね!」
『少しは本心を隠すことも大切だと思うぞ』
「別にわたしは正義の味方ってわけじゃないし」
右腕に出現させたナイトブレスへブレードを装填。
青白い光に包まれたステラは飛翔すると、空のなかで巨人へと姿を変えた。
初回はオリジナルキャラの紹介といった感じでしょうか。
コトハの元ネタはオリジンサーガに登場したアマテ。ビジュアルはことりちゃんと瓜二つ、という設定です。
ただし一部彼女とは違い、髪が肩にかかる程度までしかありません。
外伝に入るにあたって、これまで文面だけだったステラの外見も絵におこしてみました。
とても上手いとは言えませんが、特徴は捉えているつもりなので参考までに。
ステラ
【挿絵表示】
コトハ
【挿絵表示】
全ての回に、とは宣言できませんが、外伝では挿絵もちょくちょく挟もうかと考えております。完全に自己満足なのでお気に召さない方には先に謝っておきます。m(_ _)m
次回の投稿はまた少し間が空くと思います。
それではまたノシ