とりあえずはサンシャインの一期分が終わるというわけです。
果たして未来とメビウスは隕石から地球を守ることができるのか……⁉︎
「クソ……!どうすりゃいいんだ……⁉︎」
自室で頭を抱えていた未来に寄り添うように、オレンジ色の光が彼のそばまでやってくる。
『その隕石がどれくらいの大きさなのかはまだわからない。……でも、負傷していたとはいえあの二人にも手に負えなかったなんて』
あの後すぐに意識を失ってしまったステラとヒカリは、十千万の一室を借りて寝かされている。
目に見える外傷はなかった。しかし本人はとても苦しそうに何度もうなされては気絶する、を繰り返している状態だ。
「とにかくただの隕石じゃないってことは確かだ。今すぐにでもぶち壊しにいこう!!」
『ダメだ!』
部屋を出て行こうとした未来をメビウスが寸前で止めた。
『やるならギリギリまで待たないと……今僕達が地球を離れるわけにはいかないんだ』
未来にとって宇宙空間での活動は初めてだ。
そしてそれ以上に、今ここを離れると戦えるウルトラマンが地球上からいなくなってしまうことになる。
そこを狙ってエンペラ星人が仕掛けてくる可能性だってあるのだ。いや、むしろそれを目的とした陽動作戦かもしれない。
「…………地球のそばまで来るのを、待つってことか?」
『今は…………それしか方法がない』
明日には隕石がこの星に到達するだろう。それに加えてラブライブの予選まで控えているというのに…………。
「ステラの調子はどうだ?」
「あ、未来くん……」
家を出て駆け足で十千万までやってきた未来は、隠しきれていない焦燥を顔に出したまま千歌の前に立った。
「だいぶ落ち着いたみたい。……でも、しばらく身体は動かさないほうがよさそう」
耳をすますと、襖を挟んだ先にある部屋から静かな寝息が聞こえてきた。
「……明日のライブ、ステラは留守番だな」
せっかく予選当日まで間に合ったというのに不運なものだ。
……まあ、千歌達のそばにいてやれないのは未来も同じだが。
「なあ、千歌」
「ん?」
正直に事情を話そうとして言葉に詰まる。
できることならば彼女達に無駄な心配はかけたくない。
隕石を止めるからライブは見れない、などと口にする気にはなれなかった。
「その……俺…………」
「…………」
口ごもる未来を数秒見つめた後、千歌は当然のことのように言い放った。
「またなにか、危険なことするつもりなんでしょ」
「…………!それは…………」
千歌は苦い顔をして下を向いた未来へ歩み寄り、包み込むようにして彼の手を握った。
「大丈夫だよ…………前に約束したから。私は帰りを信じて待つ。未来くんは、生きて帰ってくる。たったそれだけのことでしょ?」
「千歌……」
こころなしかメビウスが微笑んだのを感じ、指先から順に身体が落ち着いていくような感覚が走る。
……そうだ。もう決めたじゃないか。
自分達が負けるなんてありえない。……だって、負けるわけにはいかないのだから。
今まで通り事件を解決して、笑顔で彼女達のもとへ戻ってくればいい。
「ああ……そうだったな……!」
◉◉◉
「たぶんここで合ってると思うんだけど……」
「千歌ー!」
「あっ!ここだよー!」
駅前で待ち合わせをしていたところで、三人の少女がこちらにやってくるのが見えた。
千歌が言うには学校のみんなもライブに参加して、浦の星学院の魅力をフルに伝える気らしい。
(あれ……?そういやラブライブのサイトに…………たしか……)
胸に引っかかる違和感の正体を掴むために、未来はスマートフォンを取り出してラブライブの詳細が記述されているサイトへとアクセスした。
「他の子は?」
「うん……それなんだけど……実は…………」
「……そっか」
「しょうがないよ。夏休みなんだし」
バツが悪そうに顔をしかめたむつ達を見て、咄嗟にフォローしようとする曜。
しかしその直後、千歌達が思っていたものとは真逆の展開となった。
「私達、何度も言ったんだよ?」
「でも……どうしても…………!」
「「……??」」
まだ状況がわかっていない様子の千歌と曜に披露するかのように、むつは司会者さながらの声を張り上げた。
「みんなー!!準備はいいー!?」
ーーーーイェーーーーーイ!!
待ってましたと言わんばかりのタイミングで一斉に登場した、浦の星学院の制服を着た少年少女達。
「全員で、参加するって!!」
驚愕のあまり唖然とするAqoursのメンバー達。
「みんな……!」
「びっくりした?」
「うん!これで、全員でステージで歌ったら、絶対キラキラする!学校の魅力も伝わるよ!」
「ごめんなさい!」
突然聞こえた謝罪の声がした方向に皆の視線が集まる。
そこに立っていたのは、申し訳なさそうに眉を下げた梨子だった。
同時に未来もサイトの確認を終え、残念そうに頭をかいた。
(やっぱりな……)
「実は……調べたら、歌えるのは事前にエントリーしたメンバーに限るって決まりがあるの」
「…………そんな……」
「それに、ステージに近づいたりするのもダメみたいで……」
マネージャーである自分がきちんと調べ、もっと早くに気付いて伝えることができればよかったのだが……。
隕石の事ですっかり頭の中から抜け落ちていた。
「……ごめんね、むっちゃん」
「い、いいのいいの。いきなり言い出した私達も悪いし」
「じゃあ私達は、客席から宇宙一の応援してみせるから!」
「浦の星の団結力の見せ所だね!」
暗くなった雰囲気を変えようと三人が激励を飛ばす。
文字通り浦の星学院全員の魂を背負った千歌達は、気を引き締めて会場へと向かうのであった。
「不思議だなあ。内浦に引っ越してきた時は、こんな未来がくるなんて思ってもみなかった」
「千歌ちゃんがいたからだね」
ライブ本番を間近に控えた千歌達は、学年ごとに分かれてそれぞれの準備中だ。
ホールの出入り口前では千歌、曜、梨子、そして未来の姿があった。
「それだけじゃないよ。……ラブライブがあったから、μ'sがいたから、スクールアイドルがいたから。曜ちゃんや梨子ちゃん……それに、未来くんとメビウスがいたから」
これから先、待っているものは楽しいことだけじゃない。
当然それと同じくらい、辛くて苦しいことだってあるはずだ。
だとしても千歌は…………いや、Aqoursのみんなは、それを楽しみ抜いて乗り越えるのだろう。
「全部を楽しんで、みんなと進んでいきたい!それがきっと……“輝く”ってことだと思う!」
「そうね」
背後からかかった澄んだ声が耳朶に触れる。
ダイヤ、鞠莉、果南、善子、ルビィ、花丸。
未来は揃った九つの光の前に立つと、静かに口を開いた。
「……?未来くん?」
「花丸ちゃん。ルビィちゃん。善子ちゃん」
「ずらっ!?」
「ピギ……⁉︎」
「だから混ぜないでって……あれ?今、名前…………」
唐突に名前を呼ばれた三人が小さく揺れる。
「三人とも最初の頃よりダンスが凄く上達した。たまにこっそり集まって個人練習してたのが報われたな」
「「「……!」」」
「果南さんと鞠莉さんとダイヤさんは生徒会のサポートもあるなか、俺の仕事まで手伝ってくれてありがとうございました。あなた達がいなかったら、手が回りきらなかったです」
「未来さん……」
「どういたしましてデース!」
「なんか、改まられると照れちゃうな……」
未来は身体の向きを直し、最後の三人と順番に目を合わせた。
「梨子、曜、千歌は作詞と作曲、衣装作りの中心になってみんなを引っ張っていたな。千歌に関しては締め切りに間に合うよう頑張ってほしいところだが」
「な、なんか私だけダメ出しされてる……!?」
柔らかい笑みを浮かべながら、未来は彼女達に背を向けて言う。
「たとえこの予選がダメだったとしてもな、今まで積み重ねてきたものが無駄になるわけじゃない。みんならしくあることが大切だ」
彼女達のそばに居続けて、知らなかったことをいくつも発見できた。
そして、千歌も変わった。
「…………行くんだね?」
「ああ。これは、俺とメビウスにしかできないことだからな」
「……わかった。じゃあ私達は、私達にできることをするよ」
ゆっくりと廊下を進んで遠ざかっていく未来の背中を見つめていた千歌達は、彼に聞こえるくらいの声量で叫んだ。
「イチ!」
「ニ!」
「サン!」
「ヨン!」
「ゴ!」
「ロク!」
「ナナ!」
「ハチ!」
「キュウ!」
「…………ジュウ!」
「Aqours!」
ーーーーーーーーーーサンシャイン!!
◉◉◉
「メビウーーーーーース!!」
巨人の姿になるのと同時に空高く飛翔し、あっという間に大気圏ギリギリの場所まで到達する。
突き抜けた雲が下へ下へと離れていくなか、メビウスは数百キロ向こうに見える飛来物を視認した。
(あれか!)
『間違いない!ここで……絶対に止めよう!』
(ああ!俺達の星には…………!)
さらに加速し、自分よりも何倍もある巨大な球体を激突するかたちで受け止める。
(落とさせねぇぇぇぇええええええええええ!!!!)
生身で最高速度の列車にでもはねられたかのような衝撃が全身を貫き、思わず嗚咽にも似た声を漏らした。
『ぐうッ……!!ぉぉおおお…………!!』
(なんてデカさだ……!)
未来とメビウスの必死の抵抗も、まるで蟻をあしらうかのごとく隕石は進み続ける。
心臓のように不気味に脈打つソレは、次第に形状を変化させていった。
(なっ……!これは……‼︎)
『触手…………!?』
鉤爪を取り付けたような青い触手が無数に伸び、両手を広げていた無防備なメビウスの横っ腹を薙ぎ払う。
(ガハッ…………!)
『未来くん……!』
黒い空間へと放り出されたメビウスだが、すぐに体勢を立て直して再び隕石を押さえつける。
……ビクともしない。あざ笑うかのように一直線に地球へと落ちていく。
『(まだだぁッッ!!)』
全身から紅蓮の炎を放射したメビウスが、これでもかと巨大な塊へ食らいついた。
しかしバーニングブレイブとなり、強化された肉体でも気休め程度にしかならない。
『このままじゃ……!』
(……諦めねえ……!諦めないぞ!!)
(ちょっと……!右側空けなさい!!)
少女の声が聞こえるのと同時に、真横に雷のような速度で迫ってきた青い巨人が激突する。
『……!?ステラちゃんと……ヒカリ!?』
(お前ら身体は…………!?)
(平気よ!これくらいどうってこと…………!!)
『止めても聞かなかったものでな』
今にも意識を失いそうなか細い声で意地を張るステラ。
(バカ!そんな調子で……!本当に死んじまうぞ!?)
(うっさいわね……!大丈夫だって……言ってるでしょ!)
刹那、ヒカリの身体が七色に輝き出し、見覚えのある姿へと変身を遂げた。
ハンターナイトツルギと呼ばれていた時の、あの鎧を身につけていたのだ。
『その鎧は……!?』
『…………話せば長い』
二人のウルトラマンが並んで隕石を押しとどめようとするが、やはり吸い寄せられるように地球へ迫るばかりである。
(……やっぱりね。このままじゃ埒があかないわ)
(どうするんだよ……!?)
(どうもできないわよ……!ごり押しはあなた達の得意戦術だったはずでしょ!?)
(まあ、そうなるよな…………!!)
今地球では千歌達のライブが行われていることだろう。
彼女達の輝きを……めいいっぱい解き放って。
(落とさせるわけにはいかないんだ……!この星は絶対に……!)
熱風でほとんど見えない目を凝らし、隕石を睨む。
(守るんだあああああああああああああああああッッ!!)
ーーーーーー「よく言った、若者よ」
周囲の空間が急に明るくなり、何かに包み込まれているような優しい気配を感じ取った。
ぼやけた視界を巡らせると、自分たちは光で出来たネットのような物の中にいることがわかる。
『これ……は……!?』
満身創痍となったメビウスもまた状況を確認しようと周りに視線を散らす。
身体がとても軽い。
先ほどまで止まる気配もなかった隕石が徐々にその落下速度を落としているのを感じ、未来は安堵のため息を吐いた。
パシュ、と何かが切り離される音。
光のネットを生成していたと思われる
(今……のは……?)
(……!チャンスよ!この速度なら地球に被害は出ない……!海にでも放り込めば、わたし達の勝ちよ!)
ステラにそう言われたのを皮切りに、失いかけていた意識が徐々に戻る。
既に大気圏内へ突入しており、メビウスとヒカリは慌てて隕石の裏側へと移動した。
真下にあるものは太平洋。ここの奥底へ沈めれば終わりだ。
(千歌達…………ちゃんと……やれてる…………かな……)
『未来くん……?』
(ちょっと、未来……?大丈夫ーーーー)
段々と黒ずんでいく視界に奇妙な心地よさを感じるのと同時に、
一人の少女の声が、聞こえた気がした。
◉◉◉
目に映るのは七色の光と、一際強い存在感を放つ太陽の光。
少女は掴めるはずもないその光へと手を伸ばし、叫んだ。
「みんなーー!!一緒に……!輝こうーー!!」
最後の最後であの方達が来てくれましたね。具体的なメンバーは第2章で明らかとなります。
投稿を始めて約一年……。とりあえずは第1章完結です。これまで読んでくださった方々には感謝の気持ちでいっぱいです。
一章最後の解説いきましょう。
隕石から伸びた触手の見た目から考えればわかると思いますが、成長した姿は”あの超獣”となります。
ただし登場するのはこの作品が本当に終盤まで辿り着いた時でしょう。
そして次回からはステラとヒカリが地球を離れていた間、どのような経験を積んできたのかを描く外伝が始まります。
今回の話でアーブギアを装着していた理由もそこで明らかになるでしょう。
そして少しだけ外伝の内容を教えちゃうと、”とあるμ'sのメンバーのそっくりさん”が登場する予定です。
果たしてどのようなポジションのキャラとして登場するのか……。
それではこれからも、メビライブサンシャインをよろしくお願いします!