新しいシリーズが始まる時のワクワク感がたまらなく好きです。
「……拍子抜けだな」
一人きりの空間にノワールの呟きが溶けるように消えた。
先ほど無断で地球に降り立ち、日々ノ未来と接触したベリアルを連れ戻した後、エンペラ星人のもとへ差し出してきたのだが……
意外にも皇帝の反応は素っ気ないものだった。
アーマードダークネスの精神汚染が未だ完全なものではなかったとわかった以上、てっきりベリアルをその場で処刑するものだと思っていたのだが。
(ボクとしては彼が消えようと支障はないけど……エンペラ星人が何を考えてるのかさっぱりわからない)
少しでも不安要素があれば問答無用で排除するのが彼に抱いていたイメージだ。
以前から気になっていたのは、皇帝がベリアルに対しては寛容だということ。
……いや、さすがに気のせいか。
「……ん?」
宇宙船内にあるヤプールの工房前で足が止まり、ノワールは何気なく室内へと足を踏み入れた。
「小僧か」
「やあヤプール。できれば名前で呼んでくれると嬉しいな」
外見は若い男だが、ノワールはエンペラ星人とほぼ同等の年月を生きている。小僧と呼称されるのは少々間違っているのだ。
「なにをしていたのかな?」
部屋の中央には禍々しく発光する岩のようなものが一つ、無数の管を介して何かの薬品と繋がれている。
超獣でも作っている最中なのだろうか。
「これは……何かの卵?」
「卵、か。例えるなら時限爆弾の方が近い」
「……?超獣ではないのかい?」
キョトンとした表情で質問するノワールに、ヤプールは少しだけ自慢するような口調で語った。
「超獣だとも。我らヤプールの力が集結した究極のな」
「……それは興味深いね。当然この姿が完全体というわけでもないのだろう?」
「当たり前だ。……こいつが目覚めれば、全宇宙を支配することも容易い」
「彼を裏切るつもりなのか?ボクに話してよかったのかい?」
「ふん、貴様も同じ考えのようだが?」
「ま、バレてるよねそりゃ」
以前ベリアルにも簡単に見破られてしまったので、どうやら自分は隠し事をするのが下手なのだろう。
「皇帝を超える超獣ねえ……、想像できないけどな」
「……なにか勘違いしているようだな。宇宙を支配するのに皇帝を超える必要などない」
「……ウルトラマン達、か?」
ヤプールの企みは光の戦士達がエンペラ星人を倒した後で疲弊した彼らを打倒する、というものなのだろうか。
「でもさ、ボクが裏切るというのなら同じように考えている君の障害になることは明白だろう?」
「なに?……クハハハハ!笑わせてくれる!なんの力も持っていない貴様が障害になるだと⁉︎」
「あー……ま、そだね」
無意識に左腕を後ろへ隠したノワールは、ヤプールに背を向けて部屋を出た。
メビウスの力の一部を奪い、力を増したことは日々ノ未来とメビウスを除けばまだ誰にも語ってはいない。
しかし気づかれるのも時間の問題だ。故に早々に皇帝を倒すだけの力を身につけなくてはならない。
さらなる進化を。絶対的な力を。
「…………メビウス」
◉◉◉
「1258円です」
「あれっ?」
「どうかしましたか?」
「あ、いえ……」
予定していた金額よりも上回ったものを伝えられ、思わず未来は戸惑う様子を見せる。
(誰か高いの買ってないか……?)
しばらく同じことを繰り返し考えながら、浦の星学院への道のりを歩いた。
夏休みに入ってからエンペラ星人の刺客やノワールの姿はパッタリと見なくなった。
見かける宇宙人は地球への観光か、移住しに来た害のない者達ばかり。
メビウスが言うには『何もない時こそ構えるべきだ』とのこと。
もちろん未来も油断する気はないが、こうも戦う機会がないと身体も鈍ってしまう。
「なあメビウス、やっぱり宇宙警備隊には戦い方を教えてくれる人とかいるのか?」
『もちろん。以前共にインペライザーと戦ってくれたタロウ教官がまさにそうだよ』
「へえ、あの人が……」
確かに彼の体術は洗練されていて無駄のない動きだった。
ウルトラの星にはあのレベルの戦士が何人もいるというのか。
「たしか、メビュームダイナマイトもタロウから教わったんだっけ?」
『いや、教わったというか……。教官のウルトラダイナマイトがかっこよかったからつい……真似しちゃって」
「あぁ、ちょっと安心」
光の戦士とあろう者があんな危険な技を率先して教えるようなことはしないだろう。
きっとメビウスはこっぴどくタロウから説教を受けたに違いない。
『あ、そういえば未来くん。ステラちゃんとヒカリからメッセージが届いてたんだ』
「え?ほんとか⁉︎」
『うん。無事に任務を終えたから、これからこっちに戻るところだって』
しばらく前に地球を離れ、アークボガールを討伐しに向かった七星ステラとウルトラマンヒカリ。
彼女達ならば心配はいらないだろうと思っていたが、無事だという報告を受けてみればやはりほっとするものだ。
彼女達にはまだ自分達の成長ぶりは見せていない。バーニングブレイブの力を得た二人を見た時にステラ達がどんな反応をするのかが今から楽しみだった。
(もう遅れはとらないぜ。みんなと肩を並べて、この星を守り通してみせる!)
拳を作ってそう心に決める。
出会った時とは比べ物にならない未来の引き締まった顔つきを見て、メビウスもまた湧き出るやる気をかみしめた。
「ずら〜……」
「ピギ〜……」
「ヨハ〜……」
「全然こっちに風こないんだけど」
扇風機の前に並んで陣取っているずらピギヨハ三人衆を一瞥し、未来はアイス片手に机へ寄りかかる。
今いるこの図書室にもクーラーが付いていれば楽になるのだが、統廃合寸前の浦の星にそのような話が舞い込んでくるわけもない。
「未来くんはずいぶん涼しい顔してるね」
「それはあれだ、ほら」
「“メビウスのおかげ”、でしょ?ずるいなぁ、もう」
ふくれっ面になる千歌に追い打ちをかけるようにくつろぐ未来。
ウルトラマンだからしょうがない。そう、しょうがないのだ。
「もうすぐステラも帰ってくるんだ。暑さで苦しんでるようじゃ示しがつかないぞ」
「え!?ステラちゃん帰ってくるの!?」
同じことを復唱する千歌に頷き返した未来が鞠莉の方へ身体の向きを変えた。
「だからまあ……、とりあえずこっちもいい報告を聞かせてやりたいんだけども…………どう鞠莉さん?今のところ説明会希望者は何人くらい?」
「えーっと今のところ…………」
「鞠莉さん!はしたないですわよ!」
カウンターを乗り越えて図書室のパソコンを操作する鞠莉にダイヤの雷が落ちるが、当の本人は気にもとめていない様子で手を動かし続ける。
「…………ゼロ〜♪」
前のめりになって期待していた皆を裏切る一言が部屋中に通った。
「そんなにこの学校魅力ないかな……。少しくらい来てくれてもいいのに」
「やっぱりそう簡単な話じゃないか……」
と、その時。
からりと引き戸が開かれる音が聞こえ、十人の視線が出入り口へと移った。
私服姿の少女が三人。全員が見覚えのある人物だった。
「むっちゃん達、どうしたの?」
「うん、図書室に本返しに」
千歌の友人であるよしみ、いつき、むつ。いつも三人一緒にいる仲良し組だ。
「もしかして、今日も練習?」
「もうすぐ地区予選だし」
「この暑さだよ〜……?」
「そうだけど、毎日だから慣れちゃった」
千歌の言葉を聞いて驚きを隠せない三人が揃って口を開ける。
千歌達がスクールアイドルとして活動していたのは承知していたことだろうが、夏休みを潰し、猛暑に耐えてまで練習していたというのは予想外だったようだ。
「そろそろ始めるよー」
「あ、うん!じゃあね!」
果南の呼び声に応じて三人に手を振りながらその場を離れた千歌。
大変ながらも学校のために頑張る彼女の姿は、その友人達にも強く心に残るものであった。
◉◉◉
「ふう」
タオルで汗をぬぐいながらプールサイドに座り込んだ未来は、少し離れたところではしゃいでいる千歌達へ目を向けた。
先ほど図書室にやってきた三人と何か話している様子だった。
「思えば遠くに来たもんだなあ」
千歌と曜に乗せられてマネージャーになり、これまで共に活動してきた。
最初は今度もいつかは辞めてしまうのではないかと不安で仕方がなかったが、今の千歌にそのような様子は感じられない。
(飲み物でも買ってくるか……)
腰を上げ、過去の思い出に浸りながら自動販売機のある校内へ向かった。
(えーっと水……水……)
「ふうん。少しは締まりのある顔になったじゃない」
「あ……?」
急にかけられた言葉に間の抜けた声で返した未来は、反射的に後ろを振り返った。
黒い髪をボブカットに揃え、キャスケット帽を被った物静かな雰囲気の少女。
夏だというのにぶ厚い紺色のコートに身を包んだ彼女はミステリアスな笑みをこちらに向けてきた。
「久しぶり、未来。元気そうで何よりね」
『予定より遅くなってしまった、すまないメビウス』
「ステラ!ヒカリ!」
どんな感情よりも真っ先に浮かんだ二人の名前を即座に口にする。
帽子を取り、近寄ってきた未来に見せた表情はわかりにくいが笑っているようだ。
『ステラちゃん!無事でよかったよ……!ヒカリも!』
『いらぬ心配をかけた。おかげで…………もう心残りはない』
「ええ。今まで感じたことのないほどに晴れやかな気分よ」
「じゃあ……アークボガールも倒したのか?」
「当然でしょ。じゃなきゃのこのこ帰ってきたりするもんですか」
相変わらず生意気なステラだが、今は苛立ちなど覚えない。
「色々話を聞かせてくれよ。他の惑星にも行ってきたんだろ?」
「ええ。奴らの首は持ってこれなかったけど、土産話ならたくさん聞かせてあげれるわ。でもその前に、千歌達にも顔を見せないとね」
歩き出したステラの隣に並び、買おうとしていた飲み物のことも忘れて未来は足を動かした。
「……そういえば知らせなきゃいけないことがあったわ」
「ん?」
玄関までやってきたステラは夕焼けを背に未来へ語りかける。
「ここに来る途中、地球目掛けて向かってきてる隕石を見つけたの」
「は?隕石?」
突然出てきたその単語に疑問符をつける未来。
「いや、隕石っていうにも様子がおかしかったわ。脈打ってて、まるで生き物みたいだったもの」
「なんだそれ……?」
想像できない光景に首を傾ける未来に続けて説明しようとするステラを手で止め、先に彼が質問する。
「隕石が向かってきてるって……ここに来る途中で破壊はしなかったのか?」
「ああ、それはーーーー」
直後、一気に顔から血の気が無くなったステラが地面に吸い込まれるようにして倒れた。
「なっ!?どうしたんだよ!?」
「……ごめんなさい。アークボガールとの戦闘で受けた傷が……まだ癒えてなくて」
胸を押さえて苦悶の表情を浮かべるステラ。
先ほどまでは虚勢を張っていただけだったのか。
「とにかくこの星が危ないわ。今のわたしは使い物にならない。あなた達で、地球を守るのよ」
未来の手を払い除けて無理やり立ち上がったステラは、鋭い目つきで彼を見据えた。
隕石の正体が明かされるのは結構後になります。まあ究極の超獣と言われれば大体の予想はつくとおもいますが(笑)
解説はステラとヒカリについて。
地球を離れた後、二人はすぐにボガールの足跡を見つけ、惑星カノンへと降りたちます。
そこで出会うことになるのがオーブオリジンサーガに登場した戦神です。
オーブとは別の宇宙なのでアマテ等のキャラクターは登場しませんが、外伝には代わりに多数のオリジナルキャラが出ます。
活動報告も更新いたしましたので、そちらもよろしくお願いします。
それでは次回もお楽しみに!