メビライブ!サンシャイン!!〜無限の輝き〜   作:ブルー人

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今回で12話分は終わりです。


第56話 Aqours

…………俺は考えなしだと、戦友によく言われる。

 

言われる度に否定も肯定もしなかったが、今なら言える、奴が正しかったと。

 

評価欲しさに無謀にも敵の本拠地へ単独でノコノコとやってきた間抜け、それが俺だ。

 

 

 

その結果が今の状況。

 

手足は動かず、頭も上手く働かない。

 

何も見えていなかった。自分のこと以外は何も。

 

「なかなかの執念だ。光の者にしておくには惜しいくらいにな」

 

向こうから聞こえてくる声の意味は理解できない。意識を保つだけで精一杯だ。

 

なんとか、一歩、一撃だけでも、このクソ野郎に一矢報いて……

 

じゃないと、あまりに自分が情けない。

 

「ぅ…………!ぉぉぉおオオオオッッ!!」

 

「無駄だ」

 

奴の片腕にある腕輪がりん、と空間を揺らす。

 

その美しくも恐ろしい音色が耳に入る頃には、歪んだ空間の波動が俺の身体を吹き飛ばしていた。

 

「が…………っ……‼︎」

 

このくらいの攻撃は防ぐことができるはずだった…………先ほど受けた光線が無ければ。

 

奴の右腕から放たれた赤黒い光線。

 

あれを受けた途端に痛みという言葉では表せない凄まじい苦痛が全身を迸った。

 

そのダメージが響いている。もう戦える状態ではない。

 

死ぬ、と

 

瞬時にそう思ったーーーーいや、理解した。

 

 

 

「手負いの余ならば勝つことは容易い……とでも思っていたか?酷い思い上がりだ。貴様は余を打ち破る力も、技も、可能性も、何一つ持ち合わせていないというのに」

 

暗黒の皇帝が嘲笑混じりに言葉を紡ぐ。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーベリアル

 

 

 

 

 

こんな時でも思い浮かぶ顔はいつも決まってアイツらだ。

 

光の国での日々を、俺はどんな思いで過ごしていたんだっけ。

 

楽しかったか。悲しかったか。憎かったか。退屈だったか。

 

おそらくは全てが正解だ。俺が今感じた走馬灯のなかに紛れ込んでいた感情は例外なく、俺自身からこぼれ落ちたもの。

 

「……………………ン…………。じ…………!」

 

「死ぬ前に一つ教えてもらおうか」

 

数分かけてやっと起き上がった俺に向かって奴は質問を投げかけた。

 

「なぜ貴様らはこの宇宙を守っている?なぜ地球という星に肩入れする?のうのうと太陽に照らされている惑星を、命を、なぜ救おうとする?」

 

ぼんやりとした思考をハッキリさせ、必死に答えを探す。

 

地球にディノゾールがやってきたのはエンペラ星人の差し金だ。目的はおそらく単純な侵略行為。

 

本部の奴らが俺に与えた命令の内容はその阻止。エンペラ星人の刺客から地球を守ることだった。

 

命令に従っただけ、というのが実のところ……だが……

 

地球で最初の任務を終えた後、俺はいらない言葉まであのガキ共に言った。アイツらに何ができるわけでもないのに。

 

光の欠片、などというお伽話を。

 

「へっ……知らねえ、な…………。いちいち理由なんか、考えてられっかよ……」

 

そう口にした途端、闇の皇帝は何かに気がついたように顔を上げた。

 

「なるほど。貴様には何もないのだな」

 

「…………?な……に……?」

 

満身創痍の俺にゆっくりと近づいてくる黒い気配。

 

「何もないからこそ自己顕示欲を”戦う理由”として自らを突き動かしている。……孤独で、哀れで、愚かな戦士よ」

 

守りたいものを持たず、ただ矜持だけを……力を生きがいとしてきた。

 

 

 

「そのような生き方はさぞ辛かろう。余が貴様に”生きる理由”を与えてやる」

 

とても冷たく、悲しい言葉だった。

 

 

◉◉◉

 

 

「何をしている……!メビウス!!早く……ぐっ……‼︎」

 

「ベリアル……あんた……」

 

今にも暴れ出しそうな悪意が膨れ上がり、ベリアルの自我を押しのけて強烈な存在感を増幅させていく鎧の気配。

 

……アーマードダークネス。エンペラ星人が生み出した最凶の兵器。

 

メビウスと未来は前に一度戦った時にその恐ろしさは嫌という程味わった。

 

『君はいったい……!』

 

「どういう……」

 

「……‼︎さっさと……殺せ!!」

 

物凄い剣幕で迫るベリアルに圧倒され、尻餅をつきそうになる。

 

ふと手の中に視線を落とせば、ベリアルに渡された銀色のナイフが一本。

 

これで自分を殺せと、彼はそう言った。

 

「ダメだ……!そんなことは絶対に…………‼︎」

 

今でも鮮明に覚えている、あの光景を思い出す。

 

 

 

「あ……⁉︎」

 

「あんたは一度俺達を助けてくれた!だから今度は……俺が!!」

 

 

 

直後、ミサイルのような速度でこちらへ向かってくる禍々しいオーラを察知し、未来は反射的に空を見上げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………あのさぁ。困るんだよね、勝手にこんなことをされると」

 

「……お前は……!」

 

何度も見た顔。何度も憎んだ顔。

 

漆黒のコートが風になびき、未来達を見下していた。

 

()()()()疑われちゃうじゃないか」

 

「ノワー……ル…………」

 

いつものにやけ面とは違い、険しい表情で徐々に地面に降り立つ。

 

「お前……は……!」

 

「迎えにきたよベリアル。ボクと一緒に帰ろう。皇帝くんも待っている」

 

ノワールは口を動かしながら左手を振りかざし、前方に立つ未来を波動で吹き飛ばした。

 

『うぐっ……⁉︎』

 

「この力は……⁉︎」

 

倒れ伏す未来を一瞥し、すぐに興味を失ったような顔でベリアルの方を向く。

 

「……へえ、なるほど、そういうことか」

 

「ぐっ……!おま、え…………‼︎」

 

「まだ理性が残っていたなんてね。皇帝の予想も上回る()の強さ……感服だ」

 

黒いコートがたちまちに肥大化し、人間態のベリアルを飲み込む。

 

長袖の黒服となったノワールは再び未来の方を向くと、憎悪に満ちた瞳を浴びせた。

 

「随分と調子がいいみたいだね、未来くん。精々良質な踏み台として育ってくれよ」

 

「なんだと……⁉︎おい待て!!」

 

黒霧に包まれて上空へ飛翔していくノワールに手を伸ばすが、当然届くわけもなく空を掴む。

 

 

「あいつ……まだ何か企んでやがるのか……⁉︎」

 

『……ノワールはあくまで数多くいる刺客の一人だ。元凶を絶たない限り、この星には脅威が降りかかり続ける』

 

「……エンペラ星人、か」

 

最終的な目標は変わらない。でも今はベリアルのことも気になる。

 

先ほどの彼の様子は明らかに異常だった。

 

ノワールが無理やり連れて行ったことを考えると……やはりベリアルは……

 

 

(ベリアル……、あんたは一体……)

 

 

 

 

 

〜♪

 

「ん、メール……って……あ!」

 

メールの差出人は千歌。

 

ここでやっと自分が皆とはぐれてしまっているこの状況を再確認し、慌ててその場から駆け出した。

 

メールの内容は「みんなで音ノ木坂に行くよー」といったものだ。

 

勝手に抜け出したことは……まあ、一部の人達から咎められるであろう。

 

 

◉◉◉

 

 

「遅い!!」

 

「どこに行ってたんですの!?」

 

「ちょっと拉致に遭って……」

 

「……は?」

 

「いや、ごめんなさい……ほんと、はい」

 

案の定合流するや否やダイヤと千歌にガミガミと説教を喰らう未来であった。

 

「それは置いといて……いいのか?」

 

梨子に問うかたちで疑問形。

 

以前東京に来た時は彼女の要望で音ノ木坂には行かなかったからだ。

「うん、私はもう大丈夫だから」

 

「……?そうか」

 

他のみんなと目配せして微笑み合う梨子を見て、なぜだか自分だけアウェイ感が否めない。

 

 

”音ノ木坂学院下”の看板が見え始めたところで、ルビィやダイヤの挙動に落ち着きがなくなってくるのが見えた。

 

「うぅ……なんか緊張する……!どうしよう!μ'sの人がいたりしたら!」

 

「へ、平気ですわ!その時は……ササササインと……写真と……!握手……」

 

「単なるファンずら」

 

階段上にあるμ'sの母校を見上げ、期待に胸膨らませている二人。

 

(この上に……μ'sのいた場所が……)

 

前にノワールが言っていたことを信じれば、彼女達九人は全員光の欠片を宿していたという。

 

エンペラ星人を打ち破る唯一の方法である、究極の光を生み出す力。

 

……ずっとそうとしか見ていなかったけど、やっぱり何か引っかかる。

 

「……っ!」

 

「……千歌!?」

 

「抜け駆けはずるい〜!」

 

数秒の沈黙を破ったのは千歌が地面を蹴り、階段を駆け上がっていく姿だった。

 

みんな先を越されまいと、長い階段を踏み越える。

 

 

 

 

 

「ここが……μ'sのいた…………!」

 

「この学校を、守った……!」

 

「ラブライブに出て……」

 

「奇跡を成し遂げた……!」

 

葉が舞い散る正門前に並んで立ち、瞳を輝かせる千歌達。

 

かの伝説のスクールアイドルが在籍していた学校。ファンからすれば興奮しないわけがない。

 

「あの」

 

「……?」

 

横からの呼びかけに反応し、ほぼ同時に十の顔が振り向く。

 

音ノ木坂の制服に身を包んだ、一人の女子生徒が立っていた。

 

「なにか?」

 

「すみません。ちょっと、見学してただけで……」

 

「もしかして、スクールアイドルの方ですか?」

 

「あぁ、はい。μ'sのこと……知りたくて来てみたんですけど」

 

「そういう人、多いですよ!」

 

今日が初めてのことではないらしく、彼女はこちらへクスリと微笑んだ。

 

「……でも、残念ですけど……ここには、何も残ってなくて」

 

「え?」

 

「μ'sの人達ーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オレンジ色の光が座席を濡らしている。

 

線路を走る音と穏やかな揺れに眠気を誘われながら、未来達は東京を離れた。

 

「結局、東京に行った意味はあったんですの?」

 

「……どう思う?果南さん」

 

「そうだね……。μ'sのなにがすごいのか、私達となにが違うのか、はっきりとはわからなかったかな」

 

「じゃあ、どうしたらいいと思うの?」

 

「私?」

 

鞠莉の問いに果南はふと顔を伏せ、何かを思いだすように不自然な間が空いた。

 

「私は……学校は救いたい。けど、Saint Snowの二人みたいには思えない。……あの二人、なんか一年の頃の私みたいで……」

 

「……ビックになったね、果南も」

 

「……訴えるよ」

 

言い終わる直前に鞠莉が果南の胸を思い切り頰を擦り寄せるのを見てギョッとする。

 

「なあ、千歌は……」

 

「ねえっ!海、見ていかない⁉︎みんなで!!」

 

「千歌ちゃん⁉︎」

 

未来の質問が投げかけられる前に千歌が席を立ち、飛ぶように電車から勢いよく降りた。

 

 

◉◉◉

 

 

μ'sの人達、なにも残していかなかったらしいです。

 

 

 

海なら内浦で毎日見てるだろ、などという野暮なツッコミは誰も言わなかった。

 

千歌が言いたかったのは、そんなことじゃないだろう。

 

『急にどうしたんだろうね……』

 

(……まあ、あいつが唐突な行動に出ることは今に始まったことじゃないけど)

 

 

波の音が聞こえる。

 

内浦の海とも違う。もっと寂しくて、それでいて強い想いが感じられる場所だった。

 

 

「私ね、わかった気がする。μ'sのなにがすごかったのか」

 

「本当か?」

 

「たぶん、比べたらダメなんだよ

 

”μ's”も、

 

”ラブライブ!”も、

 

”輝き”も…………」

 

 

 

 

 

”それでいいんだよ”って。

 

 

 

 

「μ'sのすごいところって、きっと何もないところを……何もない場所を、思いっきり走ったことだと思う」

 

 

しばらく理解していないような表情をしていた者も、時間が流れるにつれて悟った様子へ変わっていく。

 

「みんなの夢を、叶えるために。……自由に、まっすぐに、だから飛べたんだ!」

 

 

μ'sのように輝くのと、μ'sの背中を追いかけることはイコールでは結ばれない。

 

自由に走り抜けることこそが、輝ける方法なのだと。

 

全身全霊、

 

何ものにも囚われずに、

 

「自分達の気持ちに従って!」

 

 

 

 

 

 

ーーーー自分達はμ'sではなく、Aqoursなのだ。

 

 

 

「……向かう場所は決まってるのか?」

 

「私は……ゼロをイチにしたい!」

 

東京でのライブ……その投票数が脳裏をよぎる。

 

「あの時のままで……終わりたくない!」

 

「千歌ちゃん……」

 

「それが今、向かいたいところ」

 

「ルビィも!」

 

「そうね、みんなもきっと!」

 

「なんか、これで本当に一つにまとまれそうな気がするね!」

 

「遅すぎですわ」

 

「みんなシャイですから!」

 

 

 

ああ、やっとわかった。

 

μ'sが光の欠片を生み出せた理由。千歌達に光の欠片が宿った理由。

 

彼女達は、そんなものには興味がなかったんだ。

 

究極の光なんて関係ない。ましてやエンペラ星人なんか尚更だ。

 

ただ自分の正直な心に従った結果、欠片を発現させるに至っただけ。

 

 

 

「じゃあ、いくよ!」

 

「あ、待って!」

 

円陣を組んで手を出した直後、曜からのストップがかかった。

 

「指、こうしない?」

 

親指と人差し指でVの字を形取る。

 

「これをみんなで繋いで……ゼロから、イチへ!」

 

「それイイ!」

 

「でしょ⁉︎」

 

「じゃあ、もう一度!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ステラとヒカリへ。

 

返すのが遅くなって悪かった。映像だと恥ずかしいので、文字だけで送らせてもらう。

相変わらずエンペラ星人の刺客がうろちょろしているが、心配はいらない。

千歌達も大切なものを見つけることができたみたいだ。

それに俺も……いや、これは言っても混乱するだろうからやめておく。

とにかくこちらの心配は無用だから、お前達はボガール退治に専念してほしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ゼロからイチへ!今、全力で輝こう!」

 

ーーーーAqours!

 

 

 

 

 

ーーーーーーサンシャイン!!

 

 

十の光、その始まりの声が、海岸中にこだました。

 

 

 

 




サンシャイン12話での海岸のシーンはBGMも相まって印象深いシーンです。

では解説へ

冒頭のエンペラ星人とベリアルの戦闘はウルトラ大戦争の直後のことです。
ウルトラの父と相打ちになり、傷を負ったエンペラ星人を追ってダークネスフィアまで辿り着いたものの、レゾリューム光線の影響で返り討ちに遭ってしまいました。
レゾリュームさえ受けなければ……まだ勝機は充分にあったかもしれませんね。

次回でついに13話に突入です。
その後は予定していた通り、二期が始まるまでステラとヒカリのエピソードとなります。
ラブライブ要素がゼロに等しくなることでしょう()

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