ウルトラマンジードが正式に発表されましたね。
あらすじを見たところ今までのシリーズとも違ったコンセプトになるみたいなので、とてもワクワクしてます。
その時の記憶は、とても曖昧だ。理由はわからない。
だけど確かに見たんだ。あの時…………確かに俺はあの巨人に助けられた。
海鳴りの音に誘われて森に入り、そこで出会った奇跡。
神秘的な輝きをまとった巨人を見上げると、向こうもこちらに視線を送ってくれた。
前に感じたものとも違う、どこか覚えがあるような…………
ーーーーこれから先の未来、お前に幸せが
◉◉◉
「……なんか、最近未来くん元気ないよね」
帰り支度をする幼馴染の横顔を観察する千歌と曜。
普段もそこまでテンションが高くはない未来だが、近頃は一層活力が無いように感じる。
声をかけても生返事しか返ってこないので、千歌達もやがてそっとしておくことに決めた。
「なにかあったのかな?」
「…………」
今日も彼は自分達には目もくれず、一人教室から飛び出して行く。
「大丈夫だよ。だって、未来くんだもん」
「…………風呂に入りたいなあ」
神社の祠の前に陣取りながら、未来は消えそうな声で呟いた。
この時間に来て一週間ほど経っただろうか。メビウスのおかげで食事は取らなくていいものの、入浴することは叶わなかった。
極力知り合いには顔を見せないほうがいいと言われたので、大人しくひっそりとクロノームが出てくるのを待つしかない。
「十千万に泊まれればよかったんだけどなあ。金持ってないし」
『未来くんなら特別に代金無しにしてくれそうだけどね』
「いや無理だろ。この時代の俺は小学生なんだし」
一時期ステラとヒカリもこうして野宿していたことを思い出す。こんなことを十千万に来るまでやっていたのか、と改めてあの二人の凄さを実感する。
「もう塩水でもいいから浸かりたい」
『風邪引くと思うよ』
光のこもってない目で階段下を見る。
ここには滅多に人も来ない。この前やってきた小学生の未来が最初で最後だった。
「そういえば……。元いた世界の時間の流れはどうなってるんだろう」
『さあ……。結構留守にしちゃったからね』
今頃行方不明になったお尋ね者として貼り紙が街中に拡散されているかと思うと恥ずかしくなってくる。
「ん……”行方不明”…………?」
ふと合宿の時に見たニュースの映像が脳裏をよぎった。
元いた世界で多発していた行方不明事件。犯人は見つからず、やがて起きた事件そのものも忘れ去られていくという奇妙なもの。
(…………そういうことだったか)
あの事件を引き起こしたのも、今回の奴と同じ。つまりクロノームの仕業だったのだ。
事件が忘れ去られていったのは、ターゲットが過去の時間で死んだことによって起きる現象に違いない。
この時間で奴に負けて死ねば、自分もそうなる。
「はぁ……。ほんと、面倒なことに巻き込まれた」
◉◉◉
「クロノームねえ。皇帝くんも厄介な奴を送り込んだものだ」
四天王が集結した宇宙船の一室で地球の様子をうかがう一同。
「ノワールに続きヤプールの奴までもが失態を犯すとは……」
「勘違いしないでもらおうか。前回のはほんの小手調べだ」
四人の将が言い争うなか、黒いコートを翻した男が穏やかな表情で過去のデータを眺めていた。
日々ノ未来がクロノームに飛ばされたという、およそ四年前の地球の記録。
(この時は既にボクも地球へやってきていたか……)
あの頃はまだこうしてウルトラマンとの戦いを繰り広げることなんて思いもしなかっただろう。
かつて慕っていた九人の女神が宿していた力が、自分の目的の障害として立ちはだかるとは。因縁、運命とも言えるのか。
(さて、今後のシナリオはっと…………)
黒いメビウスブレスから文字が浮かび上がり、現在の時間に至るまでの流れが羅列されていく。
「…………?」
それを読み進めていくと、奇妙なことに気がついた。
思わず目を見開き、何度も同じ文を読み返す。
(どういうことだ……?)
過去にウルトラマンベリアルが内浦に現れたのは一度きり。
クロノームを倒し少年時代の日々ノ未来を救ったなどという記録は、一切載ってはいなかった。
数秒考え込んだ後、たった一つしかない可能性にたどり着く。
「そういう……ことか……」
自分は…………いや、自分達はなにか勘違いをしていた。
…………彼を救うのはベリアルではない。
「これに彼が気がつくのも時間の問題か……」
……どうやら今まで思っていた展開よりも、はるかにつまらないものになりそうだ。
なぜウルトラマンを嫌っていたはずの彼が、五年後には正義感溢れる今の日々ノ未来に変わったのか。
「これじゃあ、前にベリアルを向かわせた意味が薄れちゃうなあ」
「お祭り?」
「うん!三人で行こうよ!」
どこかそわそわした様子の千歌と曜が玄関前に立っていた。
二人は浴衣姿で、どうやら今日がその祭りの日らしい。
「そういうことは事前に誘ってくれよ」
「ご、ごめんね。だって……その……未来くん、断るかな〜って」
「……?」
よく見ると先ほどから視線を合わせようとしない曜が後ろに何か隠し持っている。チラシだろうか。
無言で彼女に歩み寄り、少々乱暴にその紙を奪い取った。
「あっ」
「……”ウルトラマン降臨祭”……」
「あの……えっと……」
二人の様子から察するに、ウルトラマンが嫌いな自分を誘うことが後ろめたかったのだろう。気をつかわせてしまったようだ。
「……うん。いいよ、行こうか」
「えっ!ほんと!?」
「ちょっと待っててくれ。すぐ準備してくるから」
なにも意地を張って断ることもないだろう。
明るい表情となった千歌達を背に、未来は家の中に戻った。
『なんか今日は、人が多いね』
「ウルトラマン降臨祭……か。そういや昔はこんなのもあったな」
本来はウルトラマンに対してのお祭りなのだろうが、同時に怪獣騒ぎである例の件を祝って祭りを行うのは不謹慎だという理由でいつの間にか無くなってしまったものだ。
『未来くん?』
「そうだ……俺、たしかこの日に……」
ノイズがかった映像が蘇る。
森の中に映る怪獣ーーーークロノーム。そして奴と戦うウルトラマンの姿。
ーーーーオォ…………オ……
海の方から波音にも似た鳴き声が耳朶に触れ、ハッと顔を上げる。
「…………!今の音は⁉︎」
咄嗟に神社の階段を登り、途中にある拓けた森のなかへ飛び出した。
高い場所から見える海は街の光を反射して不気味に揺らめいている。
『…………まさか、今日なのか……?』
「ああ、間違いない。クロノームは…………あと数時間もしないうちに襲ってくる!」
そしてあいつも、ベリアルもここにやってくるはずだ。
もし少年の頃の未来が心変わりする瞬間があるとすれば、今日この時以外に考えられない。
◉◉◉
並んだ屋台の間が光の道のように続いている。
街の人が賑わうなか、千歌と曜に手を引かれて人混みを駆けた。
ウルトラマンの顔を模したお面だったり人形だったりと、売り物のほとんどが彼に関連した何かだった。
いつもは苦い顔になる未来も、千歌達や他の客の熱気にあてられて心から祭りを楽しむことができていた。
(たまには…………こういうのも……)
「…………⁉︎」
直後、周囲の音が消えた。
電飾が施された屋台だけが残り、周りにいた人間は全て神隠しにでもあったかのようにその場からいなくなっていた。
先ほどまで手を繋いで歩いていた千歌と曜も目の前から消えている。
「……なっ…………にこれ……」
ーーーーオォ…………ォオオ…………!
「ひっ…………!」
背後から迫る咆哮を聞き、咄嗟に地面を蹴る。
後ろを振り返ると無数の触手が自分を捕らえようと、めちゃくちゃに動き回りながら近づいてきているのが見えた。
「なんだよこれ…………‼︎」
必死に逃げ回り、やがて神社のある山の麓までたどり着いた。
徐々に接近してくる気配から逃げるように階段を駆け上がり、側にあった茂みへ身を隠す。
「はぁっ……!はぁっ……‼︎」
『危ない……!助けないと!』
「待てメビウス!」
離れたところで少年の姿を見ていた未来が抑えた声でメビウスを制止した。
少年……過去の自分はひどく怯えた様子で森の中でうずくまっている。
『どうして止めるんだ……⁉︎』
「ここだ。もうすぐベリアルが来るはずなんだ!」
『……はぁ!?』
「……!あれは……」
山頂から見える海のど真ん中に巨大な影を視認し、身震いする。
「あれが……クロノーム…………」
ウミウシのように鮮やかな体色を持つ怪獣。月明かりに照らされたことでクロノームの全貌が明らかになる。
「オォ…………ォ…………」
奴から伸びる触手は真っ直ぐこちらへ伸びている。どうやら未来達を狙っているようだ。
クロノームは触手を張り巡らせ、息を殺して隠れている少年を念入りに探している。
『……いいや、あり得ない。彼はこの時には……もう……!』
「そんなわけあるか!俺は確かに覚えている……!」
そうだ、この場所だ。
夢で見た記憶と景色が一致している。
ここで未来は、ベリアルと二度目の出会いを果たすはずなんだ。
…………しかし
『……違うよ未来くん。誰も、こない』
「……いいや来る!絶対来るはずなんだ!」
膝を抱えてガタガタと震えている少年の近くにクロノームの触手が迫っていた。
ベリアルはまだ、こない。
『未来くん!』
「…………どうしてだ……!どうして来ない…………⁉︎」
『…………!危ない!!』
少年の姿を発見したクロノームは触手を勢いよく伸ばし、彼を捕らえようとする。
気付いたら、身体は勝手に動いていた。
「メビウーーーース!!!!」
伸ばされた触手に向かって光の刃が振り下ろされ、一瞬のうちに両断。
赤と銀の巨人がクロノームの前にそびえ立った。
「へ……?」
身体を小さくしていた少年は戦闘音がする方向へ引き寄せられるようにして歩み寄る。
「セヤッ!」
「■■■■ーーーーーーーーッッ!!」
見た目は少し違う。だけどすぐにソレだとわかった。
ーーーーウルトラマン。
『一気に決めよう!…………未来くん?』
(あぁ……そうか、そういう……ことだったのか……)
今ならわかる。
自分が憧れた存在は………………
クロノームから発射する光弾を防御し、放たれた触手を切り落としていく。
「セヤァッ!!」
「■■■■ーーーーッッ!!」
赤い拳が奴の身体に叩き込まれ、たまらず悲鳴をあげた。
ーーーーその名前は、
「セヤアアアアアッッ!!!!」
十字に組まれた腕から放たれた光線がクロノームへと殺到し、瞬く間にその全身を焼き払う。
「すげぇ…………」
海上で爆発する怪獣とそれを成したウルトラマンを見て、少年はふと呟いた。
空中へ飛び上がったメビウスが森の方へ移動し、少年時代の未来を見下ろす。
『見られちゃったね。念の為、僕達に関する記憶は凍結しておこうか』
(ああ、そうだな。…………あんまり意味ないと思うけど)
『え?何か言った?』
(いいや)
自分がウルトラマンに憧れを抱いた瞬間。それが今だ。
日々ノ未来はこの時…………呪いから解放されたのだ。
(おい、そこの少年!)
「えっ……お、俺……⁉︎」
突然話しかけられて驚くような反応を見せる彼に視線を合わせ、未来は言った。
(お前、幸せが無いとかどうとか言ってたな。でもそれは違う。今ここに、俺という存在があるんだからな)
「……え?」
(約束するよ。これから先の未来、お前に幸せが
クロノームを倒したことで元の時代に戻ろうとしているのか、メビウスの身体が光の粒子となって消滅しだした。
ゆっくりとメビウスが彼に手をかざし、記憶の改竄を始める。
(ある意味貴重な体験をさせてもらったよ)
『でも……時空を越えるっていうのも楽じゃないね』
(そうだな。…………帰ろう。みんなが待ってる)
ふっと意識を失った少年を一瞥した後、巨人の身体が完全に空へと溶けていった。
◉◉◉
「「おっきろぉーーーー!!!!」」
「うおおおおお!?!?」
鼓膜が痛くなるほどの叫びが耳元で炸裂し、飛び起きる。
「ここは……?」
「ここは?じゃないよまったく。なんでこんなところで寝てたの?」
「千歌……と曜か……」
目の前に並んでいる幼馴染の顔を交互に確認した後、自分の身体を見下ろす。
周囲を見渡すと、どうやら自分は十千万の前で倒れていたみたいだ。
千歌と曜の外見を見るに元の時代へ帰ってこれた。
『無事かい?未来くん』
「なんとかな…………」
「二人ともなんの話して…………って臭ッ!未来くん臭い!!」
「え”っ!?そんなに!?」
飛ばされた瞬間からそう時間は経っていないようだが、向こうで過ごした分は蓄積されているみたいだ。
つまり一週間近く身体を洗っていなかった状態だ。
「どうしてそんなに泥だらけなの⁉︎」
「あーもうお風呂入ってきたよ!」
「わかったから押すなって…………」
二人に押されるがままに十千万へ入る未来。
その時彼は、かつて憧れの人物に言われた言葉を思い出していた。
(ああ、確かにあったな…………”幸せ”が)
過去の真相が明らかになりました。
あの時未来を助けたのはベリアルではなく、未来自身であったと……。サブタイトルにも複数の意味を込めました。
解説いきましょう。
今回舞台となったのは四年前の世界。μ'sが活躍していたのは五年前という説が濃厚らしいので、おそらくはもう解散した後かな?
この頃はまだノワールも大人しく、クロノームを除けば怪獣騒ぎも起きていませんでした。
できれば千歌と曜以外にも幼少期メンバーを登場させたかったのですが、かなりキツキツになるのでカットしました(泣)
次回からはサンシャイン12話に突入です!