「なんだお前!今すぐ俺の家から出て行け!!」
「わかった!わかったから防犯ブザーに手をかざすのやめろ‼︎」
尻餅をついた状態から手足を動かして蜘蛛のような動きで後ろに下がる。
未来が庭から出て行くのを見ると、少年は未だ怪しむような目つきで前方を見つめ、ゆっくりと玄関の戸を開けて家の中へ入った。
敷地内から出て一息ついた後、未来は今自分が置かれている状況を整理しようと周りを確認した。
青い空と海、近くに見える砂浜。変わり映えのない、いつもの内浦の風景が広がっている。
「なんでいきなりこんなところに……」
痛む臀部をさすりながら立ち上がり、先ほど少年が入っていった家の表札に目を向ける。
「こんな…………ところ……?」
目が点になるほどの衝撃だった。普通では起こり得ないことが目の前にあるのだ。
日々ノ、と。
確かにそう書かれてある。よく見れば外観が自分の家にそっくり……というか全く同じだということに気がつき、余計に頭が混乱する。
隣には”十千万”と看板を掲げた旅館があり、間違いなくここが自宅周辺の景色だということを理解した。
「ここ、俺の家だよな……?さっきの子、堂々と不法侵入してったぞ」
クエスチョンマークがいくつも脳内に浮かび、しばらく無言になる。
メビウスも何か考え込んでいるのか、何も言わない。
先ほど自分達を外に連れてきたあの触手……。
怪獣だとすれば何が目的だったのか。今のところ確認できることは”外に連れ出された”以外には見当たらない。
「っていうかあの子に注意しないと!!」
『ストップだ、未来くん』
再び家の中に入り込もうとした瞬間、メビウスから待ったがかかった。
何事かと踏み出した足を止め、彼の方に意識を移す。
「どうかしたのか?」
『僕の予想が正しければ、不法侵入になるのは未来くんの方だよ』
「なんで⁉︎」
『場所を変えよう。できれば目立たないところに』
「わけがわからん…………」
メビウスに言われるままにその場を離れ、未来は淡島神社の方へと向かった。
◉◉◉
「過去に飛んだぁ!?」
階段に腰掛けていたのが、思わず転げ落ちそうになるくらいに身体を跳ね上がらせる。
「なに言ってんだお前…………」
『こんな冗談は言わないよ。……さっき僕達を襲った怪獣、あれはおそらく”クロノーム”だ』
「クロノーム…………?」
おうむ返しでメビウスに問う。
話によれば、クロノームとは時間怪獣とも呼ばれており、獲物を見つけてはその人物を過去へと引きずり込み、襲うという恐ろしい怪獣だそうだ。
どうやら自分達は運悪くターゲットとなってしまったらしい。
「なんで俺が……」
『それは……ごめん、僕のせいかもしれない』
「メビウスのせい?」
クロノームは怪獣のなかでも高い知能を持っており、危険要素と認識したものは優先的に排除するのだという。
つまり…………
「じゃあ、なんだ?……俺は過去の内浦に飛ばされたと?」
『そうなるね』
「クロノームとかいう奴に?」
『……うん』
数分前の光景が脳裏に蘇る。
未来達が飛ばされたのは自宅の庭だった。それから導き出されることは…………、
「さっきの生意気な子供は、昔の俺か?」
『可愛かったね』
「次言ったらぶっ叩く」
正直言われても実感なんかあるわけがない。悪い冗談であってほしい。
(過去の内浦ねぇ…………)
ーーーーこれから先の未来、お前に幸せが■■■■■
ノイズのように浮かんだイメージを見て目を見開く。
「ああっ!」と声を上げて急に立ち上がった未来に、メビウスは戸惑うような様子を見せた。
『どうしたの?』
「ベリアルだ。もしかしたら、この時間にはまだベリアルがいるのかもしれない」
『ベリアルが……?』
かつて命を救われ、そして奪われかけたあのウルトラマン。
先ほど出会った未来の年恰好は、以前夢に見た光景に出てきた自分の姿と酷似していた。
もしかしたら、もうすぐ”その時”がくるのかもしれない。
もし運良くその場に遭遇して、エンペラ星人の手下になる前のベリアルに会うことができれば、その後彼に起こる悲劇を伝えることができるかもしれない。
クロノームを倒せば元の時代に帰れるだろうが、その前に……
「とりあえずやることは決まった」
「あっ…………」
「え」
下から階段を登ってくる足音が聞こえ、ふと視線を落とす。
虚ろな目を浮かべた
◉◉◉
「ここ、よく来るのか?」
「…………まぁね。落ち着くし」
(愛想のない奴…………)
隣に座っている過去の自分のあんまりな態度に苦笑する。昔の自分はこんなに無愛想だっただろうか、と途端に不安になってきた。
そもそも自分に神社へ入り浸る趣味なんかあっただろうか?
仏頂面で一点を見つめる少年の横顔は、ひどく悲しそうだった。
……そうだ。この頃にはもう、父さんと母さんは死んでいるんだ。
不意に両親の顔が思い浮かび、つい目元に涙が滲んでしまう。
「……なんで泣いてんの?」
「泣いてねえし」
「…………きもちわる」
「はぁ⁉︎」
その発言は自虐になってしまうぞ、と心の中でツッコむ。まさか目の前にいる男が未来の自分自身だなんて思いもしないだろう。
(……あっそうだ)
未来が見た夢を合わせると、彼がベリアルと出会ったのは二度ということになる。
この時点ではどうなのだろうか。
「なあ君、ウルトラマンって見たことあるか?」
ぴくり、とその単語に反応を示す。
「……お前、この辺の人じゃないの?」
「えっいやその……うん」
「ふーん」
興味がなさそうにそっぽを向いた少年が、微かに歯ぎしりしたことには気づかない。
「内浦に住んでる人なら一度は見たことあるだろうね」
「怪獣に襲われた時だよな。…………そのあとは?」
「は?」
彼は未来の質問を聞くと、怪訝そうに…………いや不愉快そうにこちらに向き直った。
「だから……それ以降ウルトラマンには会ってないの?」
「……ない」
「そうか……。じゃあさ!」
もう一つ質問を重ねようとしたところで、少年は耐えきれなくなったようにその場で立ち上がった。
突然のことだったので、未来も間の抜けた声を漏らす。
「どいつもこいつも……!なんでだよ……⁉︎」
「お、おい……?」
「そんなにアイツが好きなのかよ!!」
「アイツ……?」
怒号を吐き出す少年の瞳には、憎しみにも似た焔が宿っている。
「助けられなかった人間のことなんかお構いなしに……‼︎怪獣を始末したらさっさといなくなったアイツが……!!」
「……⁉︎ちょっと待てよ……!一体どういうーーーー」
「何も失わなかった奴らにはわからないんだ……‼︎俺のこれから先に待っている人生に……幸せなんかない!!」
まくし立てる少年は、魂魄を吐き出すような勢いで……、
「俺は!ウルトラマンのことが大嫌いだよ!!」
未来から逃げるように階段を下りて走り去っていく少年。
わけがわからずに、ただその後ろ姿を呆然と眺めていた。
「ウルトラマンが…………嫌い……?」
どういうことだ。こんなことを思っていた記憶なんて欠片もない。
ベリアルに命を救われてから、未来はウルトラマンという存在に羨望の眼差しを向けていたはずだ。
だが過去の自分が今話した以上、それが間違った記憶だと認めざるをえない。
「俺は……ベリアルに憧れていたんじゃ…………」
◉◉◉
胸が締めつけられるように痛い。なにがそんなに辛いのかもハッキリしない。
本当はウルトラマンが悪いわけじゃないのはわかっている。でも、それではこの悲しみはどこにぶつければいい?
父さんと母さんを殺した怪獣はウルトラマンが倒した。ならこのままやり場のない憎しみを溜め込んだまま生きろというのか。
…………誰か、
「あれ、未来くん?」
公園で走り回っていた千歌と曜がこちらに気づき、ほぼ同時に駆け寄ってくる。
肩を落とした未来は二人に見向きもせずに素通りして行ってしまった。
ーーーーォオ…………オ…………。
海鳴りのような音が背後から迫る。
時の流れを狂わす怪物が、少年へ確かな悪意を突きつけていた。
夢に出てきた怪獣がクロノームであることが判明しましたね。
なぜ過去編の怪獣をこいつにしたかというと……過去に戻る理由を付けるのに都合がよかったから。それだけです。
解説いきましょう。
今作品のタグにある”オリジナルタイプ”。文字通りメビウスのオリジナルの形態が登場する予定です。
その形態は今では空気設定となってしまっている”光の欠片”が大きく関わってきます。
そして気になっている方も多いと思うのが”メビウスブレイブ”の存在。
先にバーニングブレイブを習得してしまった未来達ですが、メビウスブレイブが登場する機会は…………。必要なアイテムの片割れの持ち主が遠出してしまっているので今のところは無理ですね(焦)