もうすぐウルトラファイトオーブが始まりますね。楽しみです。
「え?ステラとヒカリから?」
『うん!あの二人からウルトラサインが送られてきたんだ!』
練習帰りの寄り道。
みんなと一緒にコンビニで身体を休めていたところに、ボガールを追って地球を離れた二人からのメッセージがやってきた。
みかん味のアイス片手にメビウスの隣へ駆け寄る。
オレンジ色の光から空中へ、プロジェクターのように映像が映し出されていく。
通常のウルトラサインではない。どちらかというとビデオレターのようなものだった。
「おおっ。久しぶりに見る顔」
『映像付きなんだ……』
映像をスタートさせた瞬間、ショートボブの少女の顔が大きく視界に飛び込んできた。カメラマンはヒカリなのだろうか。
《ええっと……、映ってるのこれ?》
《ああ》
《……こほん。久しぶりね未来、メビウス。連絡が遅れてごめんなさい》
しばらく聞いていなかった声音を流しながら映像の端に視線を移すと、豪華な装飾が施されたベッドや机が見える。一体今はどこにいるのやら。
《しばらくバタバタしてたけど……今は少し落ち着いてるわ。とりあえず近況報告ね。今、わたしとヒカリは”カノン”という惑星にいるの。そこのお姫様……ええっと……なんて説明すればいいのかな……》
《ステラ様?何をしているのですか?》
唐突に画面に割り込んできた一人の少女がアップで映される。年恰好はステラや未来とそう変わらない。
《ちょっ……!今取り込み中だから!》
《なんですかこれ⁉︎私、見たことも聞いたこともありません!不思議です!》
《あーもうっ!!とにかく!わたし達は無事だから!それだけ!あなた達も頑張りなさいよ!》
ぷつん、と騒がしい声を最後に映像は終わってしまった。
「……なんだろ、今の」
『とりあえず……二人とも大丈夫みたいだね』
ボガールを追うなんて言ってたので心配だったが……どうやらこの様子を見るに平気みたいだ。
アークボガールはまだ捜索中みたいだが、あの二人なら心配する必要はないだろう。
「こっちも何かメッセージ返すか?」
『そうだね。どうしようか』
「そうだな……、ん?」
いつの間にか空になっていたアイスの容器をゴミ箱へ捨て、未来はコンビニの横でダンス練習していた二人の少女に目を向けた。
(まだ練習してたのか…………)
学校から帰ってきてもダンスの練習を続けている曜と千歌。
同じ部分の振り付けなのだが、なかなか上手く合わないでいる。
「あっ……ごめん!」
「ううん、私がいけないの。どうしても梨子ちゃんと練習してた歩幅で動いちゃって……」
今までやってきた練習では、曜のポジションに梨子がいた。すぐに曜の動きで合わせるのは難しいのだろう。
それにしても予備予選とはいえ、一人欠けてるだけでも不安感を否めない。それも初めてのライブの時から一緒だった梨子がいないのだ。
(俺としても、千歌達が問題なく本番を通せるか心配だ……)
「千歌ちゃん。もう一度、梨子ちゃんと練習してた通りにやってみて」
「えっ……でも……」
「いいから!」
二人の様子を見ようと物陰から顔を出していた未来の下から、同じように三人の一年生組が顔を生やす。
「なにコソコソしてるのよ」
「お前らこそ」
「ちょっと心配で……」
あの二人の危なっかしい雰囲気に不安を感じていたのは未来だけではなかったようだ。
「せーのっ……ワン、ツー、スリー、フォー、ファイブ、シックス、セブン、エイト」
曜の掛け声に合わせてステップを踏んでいく。
今度はどういうわけか二人のタイミングはぴったりと合致し、今までのようにお互いの身体が衝突することはなかった。
「おお!合ったじゃないか!」
「曜ちゃん!」
「これなら大丈夫でしょ?」
「う、うん……さすが曜ちゃん、すごいね……」
直後、千歌の携帯から着信音が鳴った。画面には”桜内梨子”の文字が見える。
千歌は迷わず電話に出ると、嬉しそうな顔で耳元にスピーカーを添えた。
(無事に東京のスタジオまで着いたみたいだな)
梨子も向こうでピアノのコンクールがある。梨子も梨子で色々と大変なのだろうが、あいにく東京まで足を運ぶわけにはいかないので、彼女のために何かできることはない。
強いていえば、千歌達が予備予選を突破してくれることだろうか。
「あっちょっと待って、みんなに変わるから!花丸ちゃん!」
「えっ……えっとぉ……
『もしもし?花丸ちゃん?』
梨子の声が聞こえた瞬間に引きつった顔で仰け反る花丸。
「みっ!未来ずら〜!」
「呼んだ?」
「違うずら」
「なに驚いてるのよ。さすがにスマホぐらい知ってーー」
『あれ?善子ちゃん?』
今度は善子に声をかけられるが、当の本人は花丸と同じく緊張した様子で距離をとろうとしている。
「ふっふっふ……このヨハネは堕天で忙しいの。別のリトルデーモンに替わります!」
『……もしもし?』
「ピッ……ピギィィイイイイ‼︎‼︎」
「なんでそんなに緊張してるんだ……?」
「電話だと緊張するずら!東京からだし!」
「東京関係ある?…………じゃあ曜ちゃん!」
差し出された画面の向こう側に梨子がいると思うと、なぜか途端に気まずいと思ってしまう。
曜は数秒間固まったまま何も言えないでいた。
「あっ……ごめん電池きれそう……」
結局会話も続かないまま、梨子との通話時間は終わってしまった。
「よかったぁ……喜んでるみたいで。じゃあ曜ちゃん!私達ももうちょっとだけ、頑張ろうか!」
「…………うんっ!そうだね!」
夕焼けが爛々と街道を照らすなか、曜は一人下を向きながら帰路についていた。
(これで……よかったんだよね)
先ほどの振り付けは、梨子のものだ。
今まで曜のポジションは梨子が入っていたはずだ。今頃千歌が曜のタイミングと合わせるとなると、少々時間がかかってしまう。
だから自分は、”千歌と梨子”に合わせなければならない。
『憎め』
「えっ……⁉︎」
『憎め……憎め……憎め……!お前を蔑ろにした者を全て……!』
まただ。
どこから発されているかわからない、男性の声。
この声を聞いていると、身体の奥底から抑えきれない感情が溢れ出てきそうになる。
これが嫉妬心というものなのか?
「やめて……やめてよ……!」
「うりゃっ!」
「ッ!?!?」
突然胸部の膨らみを鷲掴みにされた感触。
「オーウ!これは果南にも劣らないーーーー」
「とおりゃあーーーー!!」
咄嗟に後ろから伸びていた腕を掴み取り、背負い投げで一気に前へともってくる。
「アウチっ!」
「…………えっ⁉︎鞠莉ちゃん!?」
◉◉◉
「え?曜ちゃんが?」
『うん。なにか様子がおかしい気がして……』
未来と千歌がバス停から自宅へ向かう途中、メビウスが急に曜についての話題を振ってきた。
「俺は特になにも……」
『千歌ちゃんはどうだい?』
「曜ちゃんが…………」
千歌は顎に手を当てて考える素振りを見せた後、パッと顔を上げて神妙な顔つきを見せた。
(ダンスの振り付けのこと……やっぱりまだ気にしてるのかな?)
「どうして急にそんなことを……」
『いや、ちょっと気になってーーーーーー」
その時。
夕暮れ時の太陽を隠すように雲が流れ始め、辺りは一変して薄暗くなってしまった。
『…………この感じ……』
灰色の雲に覆われた空を見上げていると、メビウスが何か異変を感じ取ったように周囲を警戒しだす。
「……一雨きそうだな…………」
小さい頃からの幼馴染である曜と千歌。二人は女の子同士ということもあってか、未来と一緒にいる時には無い特別な繋がりを感じていた。
昔から千歌と何か一緒にできることはないか、と何度か同じ部活にも誘うことがあった。
「でも……中学では断られちゃってさ。……だから、千歌ちゃんが一緒にスクールアイドルやりたいって言ってくれた時は、すごく嬉しくて」
千歌の言葉から始まったスクールアイドルだが、気づいた時にはAqoursのみんなが集まっていた。
「もしかしたら千歌ちゃん……、私と二人は嫌だったのかなって……」
ある程度のことは器用にこなしてしまう曜。しかし要領がいいと思われがちな彼女も、千歌や未来に対してはひどく不器用だ。
「なに一人で勝手に決めつけてるんですかっ?」
「だって……」
鞠莉は腰を下ろしていたベンチから立ち上がると、曜に背中を向けて言った。
「曜はちかっちのことが、大好きなのでしょう?なら、本音でぶつかったほうがいいよ」
「え?」
「大好きな友達に本音を言わずに、二年間も無駄にしてしまった私が言うんだから、間違いありません!」
と、その時。
サアァ、と雨粒が打ち付けられる音が聞こえ、鞠莉と曜はふと建物の外に見える道路へ目を向けた。
「あら、雨?」
何気なく呟く鞠莉だったが、窓に伝う液体の”色”を見てすぐに表情を曇らせた。
「赤い…………?」
◉◉◉
「赤い雨…………か」
「不気味だよね〜……。ニュースでも原因は謎だって言ってたし」
翌日。
部室の窓から外を眺めると、あちこちに赤い水溜りがあるのが見える。
昨日この鮮血のような雨が降り注いだのは世界中らしいのだが……。
『……嫌な予感が的中しちゃったかもしれない』
(備えておくか……)
エンペラ星人の刺客がやってきたのは間違いないだろう。もしかしたら既に近くに潜伏している可能性もある。
未来がそう考え込んでいると、視界の横から飛び出すように何かが入り込んできた。
「はいっ。未来くんとメビウスの分ね」
「リストバンド……?」
手に握られているリストバンドを受け取り、なぜ今これを渡してきたのだろう、と一瞬疑問がよぎる。
黒い地に赤と黄色で炎のマークが刻まれているデザインだ。
「なんだこれ?」
「東京から梨子ちゃんが送ってくれたんだ!」
振り返り、部室にいるみんなへ視線を移すと、それぞれ違った色のシュシュを手首に着けているのが見えた。
未来だけリストバンドなのは、梨子が気を利かせてくれたのだろう。さすがにシュシュだと男子が身につけるのは抵抗がある。
『そういえば未来くんがアクセサリーとか着けたところ、見たことないな』
「まあそういうの疎いし……」
早速右手にリストバンドを通し、珍しいものでも観察するようにまじまじと見つめる未来。
こういうのも悪くないな、と若干お洒落心をくすぐられる。
「おはよー!」
「あっ曜ちゃん‼︎」
横にある引き戸が開かれ、よく通る声で元気に挨拶をしながら曜が部室へと入ってきた。
昨日メビウスが気にしてたこともあったので、こっそりと彼女の様子をうかがってみる。
(……特に変わったところもないよな……)
「特訓始めますわよー!」
「「「はーい!!」」」
曜に水色のシュシュを渡した千歌も、ダイヤの招集に応じて部屋を出ようとする。
「千歌ちゃん!」
「……?」
「……頑張ろうね」
「うんっ!」
咄嗟に千歌を引き止めた曜は一言そう声をかけると、肩を落として物悲しげな表情を浮かべた。
「………………?わあっ!?未来くんいたの!?」
「ひどくない……?」
隅で一連のやりとりを見ていた未来の存在に気づいた曜は、なぜか頰を赤く染めて後ろへ下がる。
『ねえ曜ちゃん、最近なにか変わったこととかあるかな?』
「え?」
オレンジ色の光が彼女の目の前にやってくると、急な質問を投げかけた。
「どうして?」
『いや……深いわけはないんだけど……。なにもないならいいんだ』
数秒の沈黙を破るように、未来が部室の戸を開けて体育館へ飛び出す。
「じゃあ、曜も早く着替えて来いよ!」
「うん!」
『くく…………』
赤く濡れた地面に、ぼんやりとした人影が浮かび上がる。
部室の外から様子を見ていたとある存在は、待っていたのだ。
渡辺曜が、一人になるその瞬間を。
冒頭に出てきたステラが言っていた通り、外伝では惑星カノンも登場します。
オリジンサーガは見れてないのでPVや某サイト等で得られる情報でなんとか執筆していく予定です……。つまりだいぶ設定に違いが見られると思います。
解説いきましょう。
今作の世界ではベリアルが犯罪を犯す前にエンペラ星人の手に堕ちたということですが……では、ゼロは?
ゼロの方は元の設定とほとんど変わりません。スパークタワーのエネルギーを奪おうとしたところで連行され、レオやキングと修行の日々を送っていました。
少し違うのは、ベリアルの光の国襲撃事件が起こらなかったことで、映画とは違いゼロは修行を終えた後、セブン本人から父親であると告げられます。
ベリアルとの因縁も、この世界では無いことになりますね。