メビライブ!サンシャイン!!〜無限の輝き〜   作:ブルー人

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今回は少しだけあのウルトラマンが登場。


第4話 迫る狩人

時刻は深夜三時を回っていた。

 

街灯だけが視界を照らし、少し肌寒く感じる夜風が頬を掠める。

 

日々ノ未来はすぐ横に海岸が見える歩道を、大きな欠伸をしながら歩いていた。

 

「ふぁあ……。なんだよこんな夜中に……」

 

『ごめん未来くん。少し、気になる気配を感じて……』

 

「気になる気配……?」

 

ぐっすりと眠りに落ちていた未来を、メビウスは()()()に現れてまで起こしに来たのだ。

 

「とにかく用があるならすぐに済ませてくれ。俺は明日も学校なんだ」

 

『そのつもりだけどーーーー』

 

不意に言葉を切るメビウス。

 

彼と一体化している未来にも、メビウスが”何か”に警戒していることが手に取るようにわかった。

 

周囲の空気がピリピリと全身を刺す。威圧とも捉えられる緊張感がその場を漂っていた。

 

『……未来くん。少し身体を借りるよ!』

 

「え?」

 

奇妙な感覚が全身を駆け巡る。直後、メビウスが主人格へと切り替わったのが理解できた。

 

『……一体何なんだ?この感じ……なんか……』

 

「うん……まるで僕達を誘っているみたいだ」

 

少し先に見える森から、何者かの気配が発されている。まるでこちらに手招きするような、自ら未来とメビウスを引き寄せている様子だった。

 

 

慎重に森へ足を踏み込む。やはり、この近くに誰かが潜んでいる。

 

『気圧されそうだ……』

 

「無理もないよ。君はまだ、こういう経験は少ないんだから」

 

『こういう経験……?』

 

「命を狙われる経験だよーーーーハァッ!」

 

瞬時に未来の左腕にメビウスブレスを出現させたメビウスは、どこからともなく飛来してきた光弾をメビュームブレードで切り落とす。

 

『なっ……!敵襲か⁉︎』

 

「そうみたいだね。未来くん、悪いけど少しだけこの身体で戦わせてもらうよ」

 

森の中を駆ける。

 

暗闇に隠れながら光弾を放ち続けている謎の敵の場所を探るが、素早く移動しているためか正確には導き出せない。

 

なんとか迫る攻撃をメビュームブレードで防ぐのが精一杯だ。

 

「この戦い方は間違いなく……意思を持った敵ーー宇宙人の可能性がある」

 

怪獣のような獣ではなく、他の惑星の住人。高度な知能を持つ敵。

 

未来からすれば生まれて初めて遭遇する者だった。

 

『防戦一方だぞ……!大丈夫なのか⁉︎』

 

「心配しないで……!もう居場所はーーーー」

 

メビュームブレードの剣身が輝き、闇の中に残像のような軌道を描く。

 

「見切った!」

 

メビュームブレードから放たれた光の斬撃が草木を切り裂きながら暗闇へ溶け込む。

 

刹那、甲高い音が響き、同時に先ほどまで未来とメビウスを追い詰めていた光弾も途切れた。

 

『逃げた……のか……⁉︎』

 

「……」

 

風の音が不気味に二人を惑わす。

 

気配が遠ざかったことで安心したのか、メビウスは未来の左腕からメビウスブレスを消滅させた。

 

 

 

 

 

 

 

 

『「………………ッッッ!!!!」』

 

警戒を解いたのが間違いだった。

 

一瞬の内に、二人の目の前に現れた巨大な”口”が、獲物を喰らおうと大きく開く。

 

咄嗟に横っ飛びで回避するメビウス。代わりにその場に生えていた大木と雑草を食い荒らした後、その巨大な口は森の奥へと消えていった。

 

 

「今のは……まさかボガール……⁉︎」

 

『なんだそれ……?』

 

「別名高次元捕食体とも言われている怪獣さ。でも、かなり高い知能を持ってる、厄介な奴だよ」

 

『なんだってそんな奴が地球に……⁉︎』

 

「わからない。もしかしたら、エンペラ星人が呼び寄せたのか、あるいは……」

 

メビウスは俯き、何か考えるような素振りを見せた後、再び顔を上げて言った。

 

「とにかく、このままじゃこの街に住んでいる人達も危険だ。ボガールは何でも食べてしまう。これからは奴らの捜索もしていかないと」

 

『そ、そんなにやばい奴らなのか⁉︎』

 

「まだ近くにいるかもしれない。家に帰るまでは、僕が身体を動かしていていいかい?」

 

『わかった、頼む』

 

ウルトラマンとしての責務を担って、まだ日が浅いというのに、いきなりとんでもない相手と対面してしまった。

 

ーーーー未来の中に、小さな不安が生じた。

 

 

◉◉◉

 

 

「どうしても作曲できる人が必要で〜!」

 

「ごめんなさ〜い!」

 

体育の授業。

 

女子の方へ視線を向けると、千歌の必死なスカウトをことごとくスルーする梨子の姿が校庭にあった。

 

転校してきてからずっとあんな調子だ。

 

梨子はピアノを習っていて、作曲もできるらしい、と未来は千歌から聞いていた。先日ディノゾールの襲撃があった日に避難所で話したのだろう。

 

現状浦の星で作曲をこなせる生徒は、おそらく梨子しかいない。千歌から見ればそんな貴重な人材をみすみす見逃せるわけがないというものだ。

 

『彼女は、どうしてあんなにスクールアイドルを拒むんだろう?』

 

(さあ……。何か事情があるんだろ)

 

 

◉◉◉

 

 

休み時間になると、千歌と曜は中庭に飛び出し、個人的にダンスの練習を始める。まだ部が成立したわけではないが、休み時間に踊る分には問題ないだろう。

 

「またダメだったの?」

 

「うんっ。でもあと一歩あと一押しって感じかな!」

 

「本当かそれ?」

 

一旦休憩のためにダンスを中断する二人。

 

「だって最初は”ごめんなさいっ!”だったのが、最近は”……ごめんなさい”になってきたし!」

 

「それ、嫌がってないか……?」

 

「だいじょーぶ!いざとなったらーーほいっ!なんとかするし!」

 

ニッコリと笑って子供用の音楽本を取り出す千歌。自分で曲を作るつもりなのだろう。……その事態はあまり考えないほうがいいかもしれない。

 

「あ、そういえば曜、衣装の方は?」

 

「ああっ!描いてきたよ!」

 

趣味でコスプレの衣装等を普段から製作している曜には、衣装作りを頼んでおいたのだ。

 

(少し気が早いかもだけど、まあ大丈夫だろ)

 

 

 

教室へ移動した三人は、曜が描いてきてくれた様々な衣装のデザイン案を拝見することになった。

 

「「お、おわぁ……」」

 

「どお?」

 

最初に曜が見せつけてきたスケッチに描かれていたのは、衣装というには少々堅すぎるデザインだった。それと曜自身の趣味が丸出しである。

 

「すごいな……。でもこれ、衣装っていうより制服……」

 

「スカートとかないの……?」

 

「あるよ!」

 

活き活きした表情で次のページへ移る曜。

 

今度は婦警の制服を着込む千歌の絵が描かれていた。

 

「い、いやぁ、これも衣装っていうか……。もうちょっとこう、可愛いのは……」

 

「だったらこれかな!」

 

お次は戦闘服、しかも武器まで所持してるときたものだ。楽しそうにイラストを描いてる曜の顔が容易に想像できた。

 

「もっと可愛いスクールアイドルっぽい服だよ〜」

 

「と、思って!それも描いてきたよ」

 

「最初からそれ見せろよ……」

 

スケッチブックをめくると今度は違和感の無い、まさしくアイドル、という印象の衣装が描かれており、苦い表情をしていた千歌の表情がみるみる晴れていく。

 

「わぁ〜!すごい!きらきらしてる!」

 

「でしょー!」

 

「でも、こんな衣装作れるのか?」

 

「うんっ!もちろん!なんとかなる!」

 

「本当⁉︎よーし!くじけてるわけにはいかない!」

 

申請用紙を取り出し、どこかへ行こうと教室から飛び出す千歌の後を、曜と未来は慌てて追いかけた。

 

「どこ行くんだ⁉︎」

 

「生徒会室!」

 

「えぇ⁉︎でもまだ部員は……」

 

「ダイジョブー!」

 

全く根拠の無い言葉を振りまきながら、千歌は廊下を走り抜ける。

 

『”せいとかいしつ”というのはなんだい?』

 

(……生徒の中で一番偉い人がいる場所だよ。部活の設立も、生徒会長を通してじゃないと成立しない)

 

『じゃあ、ついに”スクールアイドル”というのを見れるんだね!』

 

(いや、このパターンはたぶん……)

 

 

◉◉◉

 

 

「お断りしますわ!」

 

(やっぱりな)

 

堅苦しい雰囲気が漂う生徒会室。

 

奥のテーブルにつく一人の女子生徒ーー生徒会長でもある黒澤ダイヤの姿があった。

 

「5人必要だと言ったはずです。それ以前に、作曲はどうなったのです?」

 

「それはー!たぶん……いずれ!きっと!可能性は無限大!」

 

アホ毛を揺らしながら熱烈に語る千歌とは対照的に、ダイヤは冷ややかな視線を送り続けている。

 

(どうにかならないかな……。メビウスを入れても4人だしなあ)

 

『ち、ちょっと。間違っても僕の存在を他人に言ったりしちゃダメだよ』

 

(冗談だよ)

 

 

 

 

「で、でも、最初は3人しかいなくて大変だったんですよね。()()()も」

 

千歌のその言葉に反応するように、ダイヤの眉が少しだけ上がる。

 

「知りませんか?第二回ラブライブ優勝!音ノ木坂学園スクールアイドル、ユーズ!」

 

千歌がそう続けていると、徐々にダイヤの身体がプルプルと震え出し、明らかに気が立っている様子を見せる。

 

机を何度か突き、千歌の言葉を途切らせると、ダイヤは席を立ち、窓際の方へ背を向けた。

 

「……それはもしかして、μ's(ミューズ)の事を言っているのではありませんですわよね?」

 

「あ、あれもしかしてミューズって読む……」

 

「おだまらっしゃーーーーい!!」

 

長い黒髪を揺らして激昂するダイヤ。そのままズカズカと千歌の方へと近づく。

 

「言うに事欠いて、名前を間違えるですって⁉︎あぁん⁉︎」

 

「ひっ……」

 

「μ'sはスクールアイドル達にとっての伝説!聖域!聖典!宇宙にも等しき生命の源ですわよ!その名前を間違えるとは!片腹痛いですわ……!」

 

「ち、チカくないですか……?」

 

普段の冷静さを失って千歌へと詰め寄るダイヤを見て、曜と未来は引きつった顔になる。

 

「あれ、生徒会長ってこんなだったっけ……?」

 

「いやぁ……?」

 

何度か廊下や集会で見かけたことはあるが、その時の落ち着いたイメージでは考えられない態度であった。

 

「ふんっ!その浅い知識だと、たまたま見つけたから軽い気持ちで真似をしてみようとか思ったのですね?」

 

「そ、そんなこと」

 

「ならば、μ'sが最初に9人で歌った曲、答えられますか?」

 

「え、えと……」

 

ダイヤの問いに、ただ呆然と立ち尽くす千歌。それを見たダイヤは物凄い剣幕で千歌へと迫る。

 

「ぶーっ!ですわ!」

 

左右に身体を揺らして不正解を表現する生徒会長様に、未来と曜はさらに唖然とする。

 

「”僕らのLIVE 君とのLIFE”。通称”ぼららら”。次、第2回ラブライブ予選で、μ'sがA-RISEと一緒にステージに選んだ場所は?」

 

「ステージ……?」

 

「ぶっぶー!ですわ!秋葉原UDX屋上。あの伝説と言われるA-RISEとの予選ですわ」

 

この時点で、未来は気付いていた。この人はかなりのスクールアイドルオタクだと。

 

マネージャーとしての仕事をこなす為に、未来は自宅でスクールアイドルについて色々と調べていた。μ'sやA-RISEという有名なグループのことも一通り調査を終えている。

 

そんな彼だからこそ断言できる。今ダイヤが出題している問題の回答は全て正解であることがわかっていたからだ。

 

(そんなにスクールアイドルが好きなら、どうしてダイヤさんは申請を許可してくれないんだ……?)

 

スクールアイドルのことを語る時に興奮を抑えきれない彼女がなぜ、と疑問に思う。

 

(何にせよ今回もダメみたいだな……。なら)

 

未来は千歌達に背を向けると、生徒会室の出入り口へと足を踏み出した。

 

「あれっ?どこ行くの?」

 

「ちょっと用事」

 

「うええっ⁉︎未来くんちょっと!」

 

ダイヤは未来の後を追おうとする千歌の制服の襟部分を掴み、強制的に自分の方へと振り向かせる。

 

「まだ終わっていませんよ」

 

「ひえぇ……」

 

 

 

廊下へ出た未来は、すぐさま2年生教室が並ぶ階へと急ぐ。

 

(先に部員を確保した方が申請が通る可能性が上がる!なら、マネージャーの俺が、スカウトに勤しんでやるぜっ!)

 

誰も見ていないことを確認しながら廊下を全力疾走する。

 

 

 

 

『ぶっぶっぶー!ですわ!』

 

途中でなぜか全校放送でダイヤの声が聞こえたが、なりふり構わず一人の少女を探した。

 

 

◉◉◉

 

 

「おっいたいた」

 

「……?あなたは確か……」

 

「同じクラスの日々ノ」

 

探していた少女ーーーー桜内梨子がいたのは音楽室だった。

 

ピアノを悲しげな瞳で見つめていた彼女は、未来が部屋に入ってくると何やら慌てた様子でピアノから視線を離したのだ。

 

「どうして音楽室(ここ)に?」

 

「もちろん、桜内さんを探してたんだよ」

 

「私を?」

 

未来は軽く首を縦に振ってから、単刀直入に言った。

 

「スクールアイドル、やってみない?」

 

そう言った直後、露骨に表情を曇らせる梨子。咳払いをした後に返答した答えはーー

 

「……ごめんなさい」

 

「……そっか。やっぱり、ピアノで忙しいのか」

 

「うん……。高海さんにも誘われてたけどーーあなたは、スクールアイドル部のマネージャーなんだよね。二人を支える……」

 

「うーん……まだ部は出来てないけど、いずれはそうなるな。人数足りてないんだ」

 

先ほどから俯いてばかりの梨子。

 

他のことでスクールアイドルをやる暇がないなら仕方がないか、と未来は踵を返しかけて……。

 

「高海さんって、すごい子だよね。やりたいことに正直で、なんだかいつも活き活きしてる」

 

「……?まあ、昔からあいつはあんな感じだよ」

 

「え?昔から?」

 

「幼馴染なんだ。曜もね」

 

梨子の曇っていた表情に驚きの色が混ざる。

 

「でも千歌の奴、前までは部活とか全く興味示さなかったんだよ。いきなりスクールアイドル始めたいとか言い出したからさ。なんか少し嬉しくなって、マネージャーとして支えることができたらいいなって思ったんだ」

 

半強制的にマネージャーとして仕立て上げられたのは内緒にしたが、言ったことに間違いはなかった。

 

千歌と曜の、スクールアイドルとしての活躍を、一番近い所で見守りたかったのだ。

 

 

「そう、だったんだ」

 

「ま、親心って言ったら変だけど……。いつも隣にいた身としては、俺も曜も、ほっとけないのかね」

 

今度こそ音楽室を後にしようと、梨子に背を向ける未来。数歩進むと、後ろから小さい声が耳朶に触れた。

 

「この前は、助けてくれてありがとう。高海さんにも、改めてお礼言っておいてください」

 

「どういたしまして。……スクールアイドル部は、いつでも君を歓迎するよ」

 

最後にちゃっかり勧誘を行ってから、未来は音楽室を後にした。

 

 

◉◉◉

 

 

「……ここが、地球……」

 

黒髪をショートボブで揃えた少女は、山の中から見える街を見下ろしていた。

 

少し暑そうな紺色のコートを見に纏う彼女の瞳は、狩人のように鋭い眼光が宿っている。

 

 

「本当に、ここに”奴”がいるの……?」

 

『……いや、いるのは本人じゃないな。おそらくは手下だ』

 

妖しく蒼色に輝く光の球体がコートの中から飛び出し、少女の周りをゆっくりと漂う。

 

『行こうステラ。俺達の復讐を、果たす時がきたんだ』

 

「うん。わかってる……」

 

少女の右腕には、青い光沢を放つブレスが装着されていた。

 

 

 




最後に出てきたのはもちろんアイツですが、本格的な登場はもう少し先になると思います。

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