今回はついに四天王の一人である……あの人の登場です!
今では凄まじい規模の大会となった、「ラブライブ!」。
その参加者数も当然計り知れないものとなり、今では”予選に出場するチーム”を決める予備予選も行われるほどだ。
(そうだ……、今は気にしている暇なんかない)
先日自分の部屋で見つけた日記のこと。
気になることは確かだが、千歌達のためにもそれは後回しだ。今は…………、
未来は改札口前に並ぶAqoursのメンバー達を後ろから見守るように立っていた。
「しっかりね」
「お互いに」
沼津駅。
いよいよその予備予選が始まる……ところだったが、ついこの前梨子の口からあることが明かされた。
彼女のピアノコンクールが、ラブライブ予備予選の日と被ってしまったらしいのだ。前から何か言いたそうな様子だったのも頷ける。
今日は、向こうに行く梨子の見送りだ。
「梨子ちゃん、がんばルビィ!」
「東京に負けてはダメですわよ!」
「そろそろ時間だぞ」
「うん」
改札を越えて遠ざかっていく梨子の後ろ姿を、皆は名残惜しそうに眺めている。
駅を流れていく人混みの中に梨子が入ろうとした直前、千歌が一歩前へと踏み出した。
「梨子ちゃん!」
「……?」
「次は……!次のステージは、絶対みんなで歌おうね!」
「ふふっ……もちろん!」
覚悟を決めた梨子は千歌達に背を向け、ピンクのキャリーケースを転がしながら奥へ進んでいく。
彼女が一時チームから外れるとなると、予備予選は八人でステージに上がることになる。
「これで、負けるわけにはいかなくなったな」
「なんか気合いが入りマース!」
「ね、千歌ちゃん?」
ふと先ほどまで隣にいた千歌がいないことに気がついた曜は、咄嗟に後ろを振り返り彼女の姿を探した。
改札の前で、ジッと立ちすくんでいる千歌の背中が見える。
「千歌ちゃん……」
◉◉◉
「なんだお前……地球にいたんじゃなかったのかよ?」
「見事に完敗。尻尾巻いて逃げてきたよ」
四天王を含んだエンペラ星人に仕える幹部が住まう宇宙船。
ノワールは廊下で鉢合わせしたベリアルの巨体を見上げ、自虐混じりにそう言ってみせる。
「まさかインペライザーを倒すとはね……。あの炎の力、侮れないよ」
「……気持ち悪りぃ」
「……ん?」
瞬時に危険を察知したノワールは反射的に身体を反らし、頭上から繰り出された槍の一撃を回避した。
壁に三つの刃が突き刺さる轟音が響き、口角を上げてベリアルを見る。
「危ないじゃないか。いきなりなんのマネだい?」
「気分が悪くなるんだよ、お前のその振る舞いを見てるとな。他の馬鹿共はともかく、それでエンペラ星人を欺いているつもりか?」
「……気付いていたのか」
「俺に見抜かれたってことを肝に命じておけ。奴は裏切り者に容赦はしない」
ゆっくりと壁から漆黒の槍を引き抜き、ノワールの横を通ろうとするベリアル。
「……なぜボクにそんなことを?」
今のベリアルの行動には疑問を感じた。
自分がエンペラ星人を裏切ろうとしていることに気づいておきながら、それをわざわざ忠告するなんて。彼らしくもない。
「まさか君も…………っていうわけじゃないだろうね」
「……ここで殺したほうがよかったか?」
「いいや、口が過ぎたね。何も聞かないさ」
黒い鎧が遠ざかっていくのを見送り、ノワールは微笑を浮かべる。
ベリアルがエンペラ星人を裏切ろうとしていることは薄々わかっていた。そもそも彼の言動で皇帝本人にも丸わかりだろう。
だが今の雰囲気は、普段のベリアルとはまた違ったものを感じた。
ベリアルがまとっている鎧、アーマードダークネスの力は圧倒的だ。皇帝以外の者が使用すれば、たちまちそれは着ている者を支配し、自律する怪物へと変貌する。
それなのにベリアルが自我を保っているのは、驚異的な精神力によるものなのか、それともエンペラ星人が意図的にそう設定しているからなのか。
(さっきの彼は……まるで光の戦士
前に見たベリアルの戦い方から察するに、光の戦士だった頃の意志が残っているとは考えにくい。
だけどもし…………ベリアルが完全に鎧を制御しているとすれば、
アーマードダークネスを与えられる前の、あの正義の心を保っているとすれば…………
「…………いや、あり得ないか」
ウルトラマンとしての心根を未だに持っているのなら、メビウスや未来を殺しかけたりはしないはずだ。
(それにしてもわからないな……。光の者として生まれておきながら、闇の皇帝の下につくなんてね)
ノワールの作戦が失敗したことで、四天王も行動を起こそうとしている。ベリアルも進んで動き出しそうなものなのだが……。
既に邪将であるヤプールが地球に超獣を送ったと聞いた。
「皇帝に仕える四天王……ね。お手並み拝見といこうか」
◉◉◉
「特訓!ですわ!」
「……また?」
「本当に好きずら」
ホワイトボードにでかでかと書かれた”特訓”の文字の前で仁王立ちするダイヤに冷めた視線が刺さる。
妹の方は姉のやる気満々な様子を意に介さず、パソコンで何やら動画を見ている。
「……あれ?ルビィちゃんそれって……」
「
ルビィの前にあるパソコンには、小さな画面の中で大きな存在感を放つ二人の少女が映っていた。
千歌達とは東京のイベントで会った、トップレベルの実力を持つスクールアイドル。
「先に行われた北海道予備予選をトップで通過したって!」
「へえ、これが千歌達が東京で会ったっていう……」
「頑張ってるんだ……!」
ライバルのライブ映像を前にし、嬉しそうに笑う千歌。
東京での一件を経て彼女は……いや、みんなが変わった。
「この二人の前に立つには……まずは目の前の予備予選を突破しないとな」
「うんっ!さあ練習!」
「では、それも踏まえて」
「なんで…………こう……なるのっ!?」
ギラギラと燃える太陽の下で、ジャージに着替えたAqoursのメンバーがプール掃除に励む。
ブラシを持った千歌が不満げに声を上げると、プールサイドに立つダイヤが声を張り上げる。
「文句言ってないでしっかり磨くのですわ!」
「で、でも……足元がぬるぬるして……」
「ずらっ!」
「ピギィ⁉︎」
足を滑らせてドミノ倒しになる花丸とルビィ。派手に転んで頭を打たなければいいのだが。
『こんなんで特訓になるのかな……』
「ダイヤがプール掃除の手配を忘れていただけね〜」
「忘れていたのは鞠莉さんでしょう⁉︎」
横で言い争いが始まったのを一瞥し、未来は黙々と床にブラシをかける。
生徒会長と理事長がこの調子で浦の星は大丈夫なのだろうか……。
「それで、曜はなんでまたその格好?」
白い制服に身を包んだ曜が、敬礼しながら未来の方を向く。
「デッキブラシといえば甲板磨き!となれば……これです!……とわあっ⁉︎」
滑って尻餅をついた曜に皆の視線が集まり、眉間にしわを寄せたダイヤの雷が落ちた。
「あなたその格好はなんですの⁉︎遊んでいる場合じゃないですわよ!」
「あはは…………」
顔を見合わせて笑う千歌と曜。
未来にはなぜか、二人の間に見えない壁があるように思えた。
「随分綺麗になったな」
「ほら見なさい。やってやれないことはございませんわ」
底は鏡のように太陽の光を反射しており、さっきまでのプールとは段違いだ。一時はどうなることかと思ったが、これで掃除の仕事は片付いた。
「そうだ、ここでみんなでダンス練習してみない?」
「オウ、ファニー!おもしろそう!」
「滑って怪我しないでよ?」
「ちゃんと掃除したんだし平気よ」
(心配だ……)
自然な流れでこのまま練習へ入ることに。予備予選が目の前にあるので怪我だけは本当に気をつけてほしいところだ。
千歌をセンターにした八人がそれぞれの位置につき、目を閉じて頭の角度を下げる。
「……?あっ……」
横で見ていた未来はそう声を上げ、千歌の横にあるぽっかりと空いたスペースを見た。
千歌達も気がついたようで、揃って「あ」と声をこぼす。
「そっか……、梨子ちゃんがいないんだよね」
「そうなると……今のかたちはちょっと見栄えがよろしくないかもしれませんわね」
「変えるのか?」
「それとも……梨子ちゃんの位置に、誰か代わりに入るか」
「代役って言ってもねぇ……」
未来がふと視線を外した先には曜が立っていた。
今回のダンスは千歌の他に目立つポジションとなる者がもう一人いる。それをこなすには彼女と息の合っている人物が適任だろう。
それができるのは……。
「…………」
「……ん?へ?え?」
徐々に集まっていく皆の視線を感じ取った曜は戸惑うような様子を見せる。
「へっ?えっ…………私ぃ⁉︎」
◉◉◉
「うーん……曜なら合うと思ってたんだが……」
「私が悪いの。同じところで遅れちゃって……」
「あぁ違うよ!私が歩幅、曜ちゃんに合わせられなくて……」
梨子のポジションは曜がカバーすることに決まったのだが、なかなかダンスのタイミングが合わない二人はお互いに気を使ってそう言ってみせる。
「まあ、身体で覚えるしかないよ。もう少し頑張ってみよう」
気まずそうに顔をうつむかせた曜は、押し潰されそうな重圧を感じていた。
自分で梨子の代わりが務まるのだろうか。千歌は自分と踊ることをどう思っているのか。
(やっぱり私は…………)
『そうだ。お前は親友からも求められてはいない』
「え…………?」
世界の色彩が反転したように禍々しいものへと変わり、どこからともなく低い声音が耳に滑り込んでくる。
『愛する者も遠くへ行き、親しい友からも必要とされないお前には……どこにも居場所などないのだ』
「だっ……だれ?」
気分が悪くなるような囁きが追い打ちをかけるように聞こえてくる。
自然と耳を塞ぎ、目を閉じてしまう。
「曜ちゃんどうしたの?」
「顔色悪いぞ?」
不意に飛んできた幼馴染二人の声が耳朶に触れ、ハッと我に返った曜は顔を上げて前方を向く。
いつの間にか視界の色は戻っており、謎の声も聞こえなくなっていた。
心配そうに顔を覗き込ませている千歌と未来が見える。
(今のは…………)
「曜ちゃん?」
「あっ……、うん!大丈夫!さあ練習しよう!」
先ほどのことは気のせいだと無理やり自分に言い聞かせ、曜は再び千歌の隣へと駆け寄った。
四天王で最初に動いたのはテレビのメビウスと同じくヤプールでしたね。
曜のメンタルボドボドの隙を狙ってAqoursを襲おうと計画を立てているみたいです。
今回の解説はベリアルについて。
未来達を殺しかけたりノワールに忠告したりと不安定なポジションのベリアルですが、彼がアーマードダークネスを手に入れた経緯について話しておきましょう。
ウルトラ大戦争が終わりしばらく経ったある日、逃走したエンペラ星人の居場所を見つけたベリアルは無謀にも勝負を挑み、返り討ちに遭ってしまいます。
しかし彼の戦闘力と内に眠る力への憧れを利用しようと考えたエンペラ星人は、彼にアーマードダークネスを与え、自らの部下としたのです。
まだまだ謎の多いベリアルですが、最終的にどのような位置となるのか……⁉︎