メビライブ!サンシャイン!!〜無限の輝き〜   作:ブルー人

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今回でサンシャイン10話パートは終わりです。


第47話 追想の記録

「美渡姉が余った食材は自分達で処理しなさいって……」

 

「これ全部か……」

 

「申し訳ない!」

 

「デース!」

 

売り物として出すために曜が作った”ヨキソバ”はほとんど売れ切れたが、鞠莉作”シャイ煮”と善子作”堕天使の涙”は大量の在庫を残す結果となってしまった。

 

チラリと目線を鍋の方へ持っていくと、鍋の外にはみ出した数々の高級食材が存在感を放っている。

 

『この料理は、どんな味がするの?』

 

「ルビィも気になる!」

 

「いいですわ!」

 

「あー……」

 

店内の掃除中に厨房の恐ろしい光景を見ていた未来には、善子が作った黒い塊の中に何が入っているのか既に把握していた。が、面白そうなので放っておくことにしたのだ。

 

 

流れるような動きでシャイ煮と堕天使の涙を温め直す二人。

 

他のメンバーはテーブルの上に彼女達が調理した見たこともない料理に息を呑む。

 

「「さあ、召し上がれ!」」

 

「い、いただきます……」

 

おそるおそる箸と白いどんぶりに手を伸ばし、震えながら口にシャイ煮を運ぶ。

 

ほぼ同時に皆の口にそれが放り込まれ、最初に予想外な反応を示したのは千歌だった。

 

「んっ!シャイ煮美味しい!」

 

「嘘だろ……美味いぞこれ……」

 

見た目からは想像もつかないような味付けが施されており、様々な高級食材達がさらにそれを引き立てている。

 

小原グループだからこそ調達できる、莫大な費用がかかるこの料理……。

 

「……で、一杯いくらするんですの?これ……」

 

「さあ?十万円くらいかなあ?」

 

「じゅっ……⁉︎」

 

驚きのあまり吹き出してしまう未来達。

 

「高すぎるよ!」

 

「え?そうかなぁ……?」

 

「これだから金持ちは……」

 

このお嬢様の金銭感覚は庶民のそれとは凄まじいほどにかけ離れていることがわかる。

 

「あはは……。次は、堕天使の涙を……」

 

ルビィは山のように積まれてある黒いたこ焼きらしきものを一つ取った。シャイ煮が意外に好評だったので、堕天使の涙の方も味に期待している様子だ。

 

つまようじに刺さったその禍々しい物体を口へと運ぶ。

 

「…………ルビィ?」

 

自らの髪に匹敵するほどにみるみる赤くなっていくルビィの顔を見て、色々と察した未来達から血の気が引く。

 

「ピギュァァアアァァアハァァアァァア‼︎‼︎辛い辛い辛い辛いからいカライ!!」

 

「ちょっと!一体何を入れたんですの⁉︎」

 

「タコの代わりに大量のタバスコで味付けした……これぞ!堕天使の涙!」

 

未来は外に飛び出してのたうち回るルビィに慌てて汲んできた水を渡す。

 

対照的に料理した本人である善子は顔色一つ変えずにタバスコの塊を頬張っている。同じ人間とは思えない。

 

『……食べなくてよかったね』

 

「何言ってんだ。俺達も在庫処理に貢献しなきゃならないんだぞ」

 

『……頑張ってね〜』

 

「おっと逃がさん」

 

『ひいいいい⁉︎』

 

身体から離れようとするオレンジ色の宇宙人を抱え、青い顔でテーブルの上に並べられた堕天使の涙を見下ろす。ルビィの様子を見た後だと余計に食べづらい。

 

 

 

 

 

 

「そういえば歌詞は?」

 

「う〜んなかなかね……」

 

「難産みたいだね。作曲は?」

 

側で皆が騒いでいる空間から一歩離れた場所では、千歌と曜と梨子の三人で作っている途中の曲について話し合っていた。

 

「色々考えてはあるけど……。やっぱり歌詞のイメージもあるから」

 

「いい歌にしないとね」

 

「……うん」

 

 

◉◉◉

 

 

二日目。

 

「だあああああぁぁぁぁぁ…………」

 

「だ、大丈夫?」

 

「ああ。でも少し休憩……」

 

テーブルに上半身を預けてため息にも似た声を出す未来。

 

宣伝担当の梨子、千歌、果南の三人が全員曲の歌詞やダンスの構想をしに出て行ってしまったため、今は未来一人でチラシ配り等をこなしている状態だ。

 

「まったく。男子たるもの、これくらいで弱音を吐いてはいけませんことよ?」

 

「にしても四人分の仕事はキツイってダイヤさん……。お腹すいたぁ〜曜なんか作って〜……」

 

「ヨーソロー!了解であります!」

 

目玉だけを動かして店内の様子をうかがうと、昨日よりは大幅に客の量が増えている。シャイ煮も値段を落としたこともあってか多少は売れているみたいだ。

 

『千歌ちゃん達が出る大会……ラブライブだっけ?』

 

「ああ、予選がもうすぐなんだよ。三年生のみんなもやる気になってる」

 

『ずっと我慢してきたのは、ダイヤちゃんだけじゃないみたいだね』

 

「そうだな」

 

スケジュールやダンスに関しては三年生組が加わったことでさらに改善され、衣装も鞠莉のおかげで予算面の問題が解決し、今までよりも実現できるアイディアの幅が広がった。

 

「……俺も頑張らないと」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「はぁぁあ…………」」

 

「今日も……あんまり売れなかったみたいだな」

 

壁に手をついて肩を落とす善子と鞠莉。

 

また余ったであろう食材は自分達の腹の中へいくことを考えると身体が震えてくる。

 

「できた!カレーにしてみました!」

 

厨房から出てきた曜の手にはカレー、だが普通のカレーではない。じゃがいもやにんじんの他には余ったシャイ煮の具材や堕天使の涙が投入されている。

 

「”船乗りカレー・with・シャイ煮と愉快な堕天使の涙達”」

 

「ひえ〜…………」

 

「ルビィ死んじゃうかも……」

 

「じゃあ梨子ちゃんから召し上がれ」

 

「うぅ……」

 

人数分並べられたカレーを前にして固まっていた梨子がゆっくりと皿を掴み取り…………。

 

「…………美味しい。すごい!こんな特技あったんだ!」

 

曜のアレンジが加えられたシャイ煮と堕天使の涙は、一転して人気メニューとなり得るものへ変身した。

 

他のみんなも続いてカレーを手に取り食べ始める。

 

「ん〜!デリシャス!」

 

「パパから教わった船乗りカレーは、何にでも合うんだ!」

 

「んっふっふっふ…………。これなら明日は完売ですわ……」

 

算盤(そろばん)を弾きながらにやりと笑うダイヤに苦笑しつつ、未来もスプーンを握りカレーに手をつけ始めた。

 

 

 

 

「…………」

 

「わっ!千歌ちゃんどうしたの?」

 

一人浮かない顔を浮かべる千歌を見て、曜は咄嗟に彼女のもとへ駆け寄った。

 

「ううん、なんでもないよ。ありがとう」

 

「…………?」

 

彼女の視線の先にいた人物を見て、何かを察したように肩を動かす曜。

 

(……曜……?)

 

未来はふと目を動かして、並んでいた二人を見つめる。

 

何か危ない、近寄りがたい雰囲気を感じた未来は、無言で二人から背を向けた。

 

 

◉◉◉

 

 

「では!これからラブライブの歴史と、レジェンドスクールアイドルの講義を行いますわ!」

 

活き活きとした表情で障子に貼り付けた用紙を指すダイヤ。その反対側では未来を除いた八人が体育座りで「ラブライブの歴史!」と書かれた用紙を眺めている。

 

「今から?」

 

「うわぁ〜……!」

 

「だいたいあなた方は、スクールアイドルでありながらラブライブのなんたるかを知らなすぎですわ」

 

「それで、なんで俺が助手役……?」

 

ダイヤの隣に立たされている未来が首を傾けてそう尋ねる。

 

「未来さんならある程度の知識は備えてそうなので」

 

「まあ、そうだけど……」

 

以前スクールアイドルについて調べていたことがこんなところで役に立つとは。……いや、面倒な役にさせられてる点を考えれば役に立っているかどうかはわからないが。

 

「……?」

 

すぅ、と静かな寝息が聞こえ、ダイヤは不意に鞠莉の方へと目線を落とす。

 

瞳が描かれたシールを瞼に貼り付けた鞠莉が、堂々と居眠りをしていたのだ。

 

「鞠莉さん?聞こえてますか?お〜い……ミス鞠莉〜?」

 

それに気づいていない様子のダイヤは彼女の気を引こうと、鞠莉の目の前で手を振ったり声をかけたりし始める。

 

「どっひゃああああああああ!!!!」

 

直後、剥がれたシールが床に落ち、それがダミーの目だと知らずにいたダイヤは悲鳴を轟かせた。

 

「会長ぉ⁉︎」

 

「お姉ちゃん⁉︎」

 

一瞬の内に気を失って倒れたダイヤに、千歌達は呆れたようにため息をつく。

 

 

 

 

「今日はもう遅いから、早く寝よ!!」

 

千歌が急に立ち上がってそう言いだす。

 

何かの気配を感じて(ふすま)の方を見ると、隙間からじっとこちらを見つめる瞳が一つ。

 

ダイヤの悲鳴を聴いて駆けつけてきた千歌の姉、美渡だ。

 

あまりうるさくすると他の客に迷惑になる。よって大きな物音や声を出すとこのように旅館の神様が現れるのである。

 

「今日はもう退散した方がよさそうだな……」

 

慌てて布団を敷き始めた千歌達に背を向け、未来はその隣の部屋へと移動する。

 

「何かあったら呼んでくれよー」

 

「「「はーい!!」」」

 

 

◉◉◉

 

 

Aqoursのみんなが寝静まった夜。

 

「っと……これこれ!」

 

『……枕?』

 

一旦隣に位置する自分の家まで戻ってきた未来は、部屋のベッドの上にあった枕を抱えた。

 

「合宿場所が千歌の家でよかったよ」

 

『慣れた枕じゃないと眠れないとか?……でも病院では普通に安眠してたよね?』

 

「ある程度はなんとか……ギリっギリ我慢できるさ。でもせっかく家が隣だからな」

 

病院ではほぼ気を失った状態で運び込まれたこともあってか、自分の枕を持ってくる機会なんてなかった。

 

「おっと……!いてっ!!」

 

部屋から出ようとしたところで躓いてしまった未来は、側にあった机に激突して床に尻餅をついた。

 

と、同時に机の棚から顔を出していた一冊の本が床に転げ落ちてくる。

 

「ん……?これって…………」

 

一部が埃がかったその本の表紙には「diary」の文字がある。

 

『……これは?』

 

「懐かしいなあ。昔書いてた日記だ」

 

『どんなことを書いてたの?』

 

「えっと……」

 

適当にパラパラとページをめくっていくと、なんてことのない日常の記録ばかりが記されていた。

 

(「今日はカレーを食べた。おいしかった。」……我ながら可愛らしい事を……)

 

子供っぽい微笑ましい内容を流し読みしていく。

 

が、その直後、

 

 

 

 

 

 

 

父さんと母さんがころされた。

 

 

 

「…………っ?」

 

 

 

 

 

これからおれは一人になる。

 

あのかいじゅうにころされた。ゆるせない。

かいじゅうも、のこのこやってきたあいつも、絶対にゆるさない。

 

 

 

 

 

「なんだ……?これは……⁉︎」

 

そのページを最後に、日記は終わっていた。

 

走り書きされたその文字は、涙に濡れたように滲んでいる。

 

『未来くん、これって……』

 

「……っ!」

 

瞬時に何か見てはいけないものに触れてしまったと直感し、未来は日記を閉じると逃げるように枕を抱えて部屋を飛び出した。

 

 

(俺が…………アレを書いたのか……⁉︎俺が…………!)

 

 




未来の視点だからか、だいぶカットされたシーンがありますね。
まだサンシャインを視聴されてない読者様は是非目を通すことをオススメします。

解説いきましょう。

今回の最後は不穏な雰囲気で終わってしまいましたが……、元々この描写はもう少し後に描く予定でした。ただそうなると後々の未来の過去編で内容が濃くなっちゃうかな〜と思い、今回の最後に突っ込む事にしたのです。
日記の内容は未来の過去編……つまりは例の夢の話にも繋がるわけですが……、ここで前回の謎の鳴き声も関係してきます。
このエピソードは次回からのサンシャイン11話パートを終わったら投稿する予定なので、お楽しみに。

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