メビライブ!サンシャイン!!〜無限の輝き〜   作:ブルー人

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サンシャイン二期が秋に放送決定!!!!
……ということで、やっと安心して第二章の構想が練られる……。
ライブには行けませんでしたが、ほんとに嬉しい発表でした。


第44話 決断の炎

「タロウにやられた部分の修復は完了してるね……、よしよし」

 

宇宙空間から地球へ特攻する勢いでやって来るインペライザー。

 

その姿を左腕のブレスから出した立体映像で確認したノワールは、腰を下ろしていた大木の枝から飛び降り、近くに見える街を見下ろす。

 

「メビウスは問題ないとして、厄介なのはタロウの方か。……インペライザーの再生力に敵うとは思わないけど、警戒はしておこう」

 

そう独り言を並べた後、今度は空を見上げて肉眼でインペライザーを視認しようとする。

 

「…………まだ遠いな」

 

 

◉◉◉

 

 

「…………そっか。どこかに行っちゃったか」

 

コンクリートの上に座り込んだ未来と曜は、目の前に見える広大な海に視線を注ぐ。

 

たった今彼女には、全て話した。

 

メビウスとの出会い、今までの戦い、そして、メビウスがどこかへ行ってしまったことも。

 

何もかも全部吐き出したはずなのに、心の中にはまだモヤがかかっている。

 

「……全部俺のせいなんだよ。メビウスがどこかに行ったのも、千歌が言ったことだって……」

 

「うん、未来くんが悪いね」

 

あっさりとそう口にする曜に、思わず未来は愚痴を吐くのをやめた。

 

「千歌ちゃんが怒って当然だよ。……私だって…………ううん、他のみんなも同じだと思う」

 

「……だよな」

 

「うん、でもね……」

 

横で曜がきゅっと手に力を込めるのがわかった。ひどく緊張しているようで、その小柄な身体が少しだけ震えている。

 

 

「それ以上に、未来くんには”ありがとう”って言いたい」

 

「……は…………?」

 

間の抜けた声が波の音でかき消され、未来は青い顔を曜へ向けた。

 

普段と変わらない、元気一杯の笑顔が視界に入り、今度は未来が緊張で息が詰まりそうになる。

 

「その……上手く言えないけど、未来くんがメビウスに変身してたって聞いて……そりゃすっごく驚いたけど、それ以上に嬉しかった」

 

「……嬉しかった……?」

 

「うん、きっとこの気持ちはみんな同じだよ」

 

曜はしっかりと未来の瞳に自分の目線を重ね、言葉一つ一つに確かな感情を込めて伝える。

 

「でも……っ……俺は…………‼︎」

 

「えーいっ!!」

 

「……⁉︎」

 

震える声で何かを言おうとした未来の首に両手を回し、強引に手前へと頭を引き寄せた。

 

「ちょっ……!曜⁉︎なにを…………!くるし……!」

 

「えへへ、果南ちゃんのマネ〜」

 

ハグのことを言っているのだろうが、この状態では胸にもろ顔面が当たってしまい、やられる側としては果南のそれよりもずっと恥ずかしい。

 

なんとか首を動かして酸素を求める未来に、曜は目を閉じて語り出す。

 

 

 

 

 

「未来くんが今まで大ケガしてまで戦ってたのは、何のためなの?」

 

 

 

 

 

 

忘れていた何かが、一気に胸の中をせり上がってくる。

 

自分は今まで何のために戦ってきたか。

 

どうしてメビウスと一体化すると決めたのか。

 

……彼に頼まれたから?

 

ーーーー違う。

 

……単純に力が欲しかったから?

 

ーーーーそれも本意じゃない。

 

 

 

 

 

全部守るためだったはずだ。

 

幼い頃、何もできなかった自分が嫌で、だから自分は…………今度こそ守ってみせると。

 

「ぷはっ……!」

 

曜の胸の中からなんとか顔を出した未来の頰に、彼女は両手で触れる。

 

小さな手の感触が両頬に伝わり、目の前にはその温もりを与えてくれる本人の顔が見えた。

 

「…………みんなを、守るため」

 

「うん、知ってたよ!」

 

邪気など一切感じない笑顔を見せる曜。

 

彼女に影響されるように、未来の表情も段々と引き締まったものへ変わっていった。

 

「私は、そんな未来くんが素敵だと思う。……できなかったことを、できるようになろうとする君が」

 

「………………今まで、勝手に突っ走ってた俺を……」

 

「うん、()は許すよ」

 

曜は未来の頰から手を離すと、少し悲しげな表情で言った。

 

「だから次は、千歌ちゃんのところに行ってあげて。……私、未来くんと千歌ちゃんには、いつも笑顔でいてほしいから」

 

曜はずっと二人を見てきた。

 

彼女が渡辺曜であるからこそ、出てくる言葉だった。

 

 

 

ーーーーまだ間に合う。終わってないんだ。

 

終わらせてたまるか…………!!!!

 

 

「ありがとう……!曜!!」

 

立ち上がり、背を向けて走り出した未来の後ろ姿を、曜は遠くを見るような瞳で見つめた。

 

宙に浮いている足をパタパタと動かして、彼女は呟く。

 

「あーあ……バカだな、私」

 

コンクリートに背を預けるように、曜は上体を後ろへ倒す。

 

その頰は、りんごのように真っ赤に染まっていた。

 

 

◉◉◉

 

 

初めて会った時は、頼りない男の子だった。

 

人見知りが激しく、運動も勉強も中途半端で、そのくせ人一倍の負けず嫌いで…………。

 

やがて、「ああ、この人は普通星人じゃないんだな」と思うようになり、時を重ねるごとに彼のことが…………。

 

普通からなんとかして脱却しようとするその姿を見た。輝いてる姿を見た。

 

笑ってごまかす姿。怒る姿。悲しむ姿。喜ぶ姿。色々な姿を見た。

 

そして、傷ついてる姿を見た。

 

自分のためではなく、みんなのために戦っていた。

 

ーーーー自分は、そのことに気づかないままこれまで過ごしてきた。

 

ずっと近くにいた。隣にいた。だから、彼のことは何もかも知ってると思っていた。

 

だけど本当は………………。

 

 

 

彼はもう、道を決めてしまっている。こっちが口出ししても考えを曲げることはないのだろう。

 

(だったら、私は……)

 

 

 

 

 

 

 

 

「千歌ッッ!!」

 

「……」

 

ベランダの方から少年の声が聞こえ、千歌はハッと顔を上げる。

 

誰が来たのかはわかってる。

 

千歌は何も言わずに部屋を出て一階に降りると、そのまま外へ足を踏み出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ごめんっっ!!」

 

まず彼の口から飛び出してきたのは、謝罪の言葉だった。

 

深々と頭を下げる姿はなんともみっともなく、つい吹き出しそうになるのをこらえた。

 

彼はバッと顔を上げると、自分の顔に視線を合わせ、声を張り上げる。

 

「俺……バカだから……みんなに心配かけることなんか、全く考えてなくて……!」

 

彼の挙動一つ一つが、言葉の全てが、胸に響く。

 

 

「だから……これからもそれは変わらないと思う」

 

「……ふふっ」

 

 

ここで初めて、声を出した。

 

あまりにも真剣に訴えてくるものだから、笑ってしまう。

 

「……わかってたよ。未来くんは人の話は聞かないってことは知ってるから」

 

「うっ……」

 

「いっつも一人で何もかも抱え込んで、一人で解決しちゃう人だったから。…………でも、今回は違うよ」

 

「……?」

 

「だから、私も覚悟はできてる」

 

「えっ?」

 

呆けた顔でこちらを見つめる未来を、千歌は微笑むことで返した。

 

「これからは、未来くんを一人にしないって決めたの」

 

そうだ。何を言っても彼は止まらない。

 

みんなを守ると誓ったその時点で、未来は最後までやり遂げようとするはずだ。

 

だから、自分も。

 

「これからは未来くんだけじゃない、()()がついてる。そのことを忘れないで欲しいの」

 

彼がみんなを照らす光になるのなら、

 

「私は、未来くんを照らす光になりたい」

 

瞬間、胸の中に何か煌めくような感覚が走った。

 

身体の中に溢れる、太陽のような輝き。高海千歌のーーーー光の欠片。

 

 

 

 

「…………これからも、たくさんケガするかもしれない。死にそうになることだっていっぱいあるかもしれない。……それでも、待っててくれるか?」

 

「うん、必ず。……未来くんが笑顔で帰ってくるまで、ずーっと待ってるから‼︎」

 

「はは……なら、絶対に生きて帰らないとな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーードォォォオオオン…………‼︎

 

二人のやりとりを妨害するかのように、漆黒の塊が街中へ降り立った。

 

存在感のある砲台を備えた、無双鉄神。

 

未来は言葉を交わさず、視線だけを千歌に向けた。

 

彼女は無言で頷くと、見送るように輝かしい笑顔を振りまいてくる。

 

その笑顔に背中を押された未来は地面を蹴り、インペライザーの立つ街の方へ駆け出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「セヤァッ!!」

 

本来の姿である光の巨人へと変身したメビウスが、インペライザーに飛びかかる。

 

未来と一体化している時とはまた違う、タロウによく似た格闘戦法で奴に攻撃を加えていった。

 

「ウッ…………!」

 

硬い装甲に拳が当たる度に、肩まで貫くような衝撃が走る。

 

 

 

 

「退がれ!メビウス!」

 

メビウスとインペライザーの間に割り込むように現れたタロウが、奴の肩にある砲台部分に渾身の回し蹴りを放つ。

 

バランスを崩したインペライザーを尻目に、タロウはメビウスの方へと駆け寄った。

 

「君の出る幕ではない!この場は私に任せて、光の国に戻れ!命令だ!」

 

「タロウ教官……っ……」

 

痛めた肩を抑えながら前へ進もうとするメビウスに、タロウは声を荒げてそう説得を続ける。

 

「ーーーー」

 

インペライザーが発射した三連装の光線が迫り、タロウはメビウスを守るようにバリアを展開して防御する。

 

「グッ……⁉︎」

 

しかし驚くべきことに、インペライザーのパワーはタロウをも凌駕するものだった。

 

発射された光線は防ぎきったものの、衝撃で若干後方へ仰け反ってしまう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ははははハハははハハ!!いいねぇ!まさかタロウすら手に余る始末とは、傑作だ!!」

 

街で起こっている激しい攻防戦を、ノワールは一キロほど離れた場所で見物していた。

 

「君達ではインペライザーを倒すことはできないよ。……この星は、ここで終わる」

 

漆黒のメビウスブレスから放たれた闇のエネルギーがインペライザーへと送られる。

 

さらなる強化を施しているのだ。

 

「……?」

 

近づいてくる足音につられ、ノワールはふと後方へ振り返った。

 

 

「はぁっ……!はぁっ……!」

 

「やあ未来くん、何しに来たんだい?」

 

膝を折って肩を上下させている少年を見やり、ノワールは不敵な笑みを浮かべる。

 

「…………邪魔だ、どけ」

 

「……はぁ……?」

 

ノワールは怪訝な顔で大袈裟に首を傾け、未来を挑発するような口調で話し出した。

 

「まさかあの戦場のど真ん中に突っ込む気かい?ほんとに頭おかしくなっちゃったんじゃない?」

 

ノワールの言葉を無視し、未来は構わず奴の横を素通りしようと歩み出した。

 

彼が真横まで来た時点で、ノワールは真顔に戻って問う。

 

「死ぬ気かい?」

 

「ああ、もう以前までの俺は殺してやったよ」

 

「へぇ!そりゃ興味深い!まあ止めはしないよ、()()くん」

 

未来の目にはもうノワールの憎たらしい笑みは入っていない。

 

ただ前だけを見て、先に進もうとしている。

 

「…………ッッ!!」

 

爆発するような勢いで地を蹴り、二人の巨人と鉄神が争っている場所へと急いだ。

 

 

◉◉◉

 

 

「ハァッ…………!ハァッ………‼︎」

 

「……クッ……!」

 

いくら破壊しても再生が止まらないインペライザーを見て、ついにタロウとメビウスは心が折れたように膝をつく。

 

腕を破壊すれば武器へと変わる。無力化することすら不可能だ。

 

「……アレを使うしかないか」

 

「……⁉︎あれって…………まさか……っ!」

 

タロウが腕を組み、そして開く。胸を張るのと同時に彼の全身が燃え上がった。

 

この姿をメビウスは知っていた。

 

自分の技であるメビュームダイナマイト、その元となった大技。

 

使用するだけで当人の寿命を縮める、禁断の技だった。

 

「ウルトラ……!ダイナマイトォ!!」

 

「タロウ教官!!!!」

 

メビウスが伸ばした腕が空を切り、タロウはそのままインペライザーへと突進していく。

 

「ヤアアッ!!」

 

奴の腰部分に抱きつくようにして逃げ場を奪うタロウ。

 

彼の体内エネルギーが、鋼鉄の身体を焼きつくす。

 

ギギギ、と悲鳴にも似た金属音が鳴り響き、ついには装甲がドロドロと溶けだしていった。

 

「タロウ教官ーーーーーーーーッッ!!」

 

刹那、凄まじい閃光が迸るほどの大爆発が巻き起こり、インペライザーごとタロウの身体まで炎と一緒に吹き飛んでしまった。

 

 

 

「…………!」

 

直後、光の粒子が集まりだしたかと思えば人型に集まっていき、段々とその身体が再構築されていくのがわかった。

 

ウルトラ心臓を中心に肉体が再生され、両手を上げたタロウが現れる。

 

「…………ウッ……!」

 

そのカラータイマーは点滅しており、エネルギーが残りわずかだということを表している。

 

寿命を縮めるほどの技を使ったのだ、無理もない。

 

タロウは地面に手をつくと、そのまま力が抜けたように倒れてしまった。

 

「ハッ…………!」

 

咄嗟に確認したメビウスが声を上げる。

 

「ーーーー」

 

なんとバラバラに砕け散ったはずのインペライザーの破片が集合し始めているのだ。

 

…………底無しの再生力。それを前にし、立ち上がろうとしていたメビウスは絶望した様子で再び膝をついてしまう。

 

そして、どこかから男の笑い声が耳に滑り込んできた。

 

 

「クククッ……!あははははは!!素晴らしい……‼︎これほどの力を、ボクが……!このボクが行使しているぞ!!」

 

左腕のブレスから発せられている闇のオーラは一直線にインペライザーへと伸びており、ノワールの有している力の一部が分け与えられている。

 

「今まで見ているだけだったけど……今日それも終わる!!」

 

過去の記憶の映像が頭に浮かんでくる。

 

九人の女神が、ステージの上で輝くその姿を。

 

「ボクは今、世界で一番幸せなのかもしれない……っ!」

 

 

完全に修復を終えたインペライザーが立ち上がり、頭に装備されているガトリング砲をメビウスへと向けた。

 

「さらばだウルトラマン達。君達の光の遺志、ボクが受け継ごう……‼︎」

 

螺旋状の光線が土手っ腹を貫き、軽々と後方へ吹き飛ばされるメビウス。

 

「ウァアッ…………‼︎」

 

建物を巻き込みながら転倒したメビウスが力なく倒れ伏し、ついにその瞳の輝きは失われてしまった。

 

「メビウスッ…………‼︎」

 

震える手で弟へと手を伸ばそうとするタロウだが、立ち上がることも困難なのか、その手のひらがメビウスに触れることはなかった。

 

 

 

 

 

 

黒ずくめの男の笑い声が頭の中でこだまし、メビウスはどうしようもない怒りを煮えたぎらせる。

 

(僕が…………やらないと…………っ……)

 

今まで一人の少年の中から見てきた光景。

 

美しい海、人々の笑顔。

 

走馬灯のようによぎるそれらの映像を見て、メビウスはなんとか意識を繋ぎとめている。

 

 

 

 

ーーーー!!!!

 

 

 

 

悔しい。

 

何もできない自分が。

 

 

 

スーーーー!!!!

 

 

 

 

(未来くんも…………こんな気持ち……だったのかな……)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「メビウスウウウううウウウぅぅうウウゥウッッッッ!!!!」

 

「「「!?!?!?」」」

 

タロウ、メビウス、そしてノワールが、遠くから迫ってくる少年の声に反応した。

 

(この声は…………っ)

 

 

 

「立てぇぇええぇえぇええええぇええッッ!!!!」

 

一人の少年ーーーー日々ノ未来がメビウスの目の前へと駆け寄ってきたのだ。

 

「そんな……!どうしてここに⁉︎ダメだ未来くん!今すぐここから離れるんだ!!!!」

 

「やだ!!!!」

 

「なっ……!」

 

なんとか顔だけを動かして未来の全身を視界に入れる。

 

メビウスの巨大な頭に触れられるくらいに近づいた未来は、必死に彼に叫んだ。

 

「聞いてくれメビウス!!俺にはやっぱ……お前がいないとダメだ!」

 

「…………⁉︎」

 

「千歌と曜と話して、わかったんだ。……あいつの、ノワールの言う通りだ。俺は力が欲しかった!!…………そうだ、みんなを守るための力が!!」

 

…………一歩、力強く踏み出す。

 

「誰かを救えるはずの力で、知らないうちに憎しみを募らせていた。…………だからごめんな、メビウス」

 

「そんなこと……」

 

ほんの少し悲しげな表情を浮かべる未来だったが、すぐに眉を上げて再び叫び出す。

 

「これから先……もっと強い怪獣や宇宙人が現れる……。でも俺のことは気遣うな!俺はそれから逃げるんじゃなくて……‼︎乗り越えられるくらい強くなりたい!!」

 

「…………ッッ!」

 

メビウスはそこで初めて、日々ノ未来という少年の本質を垣間見た気がした。

 

彼は、根っからのーーーーーーーー

 

 

 

 

「だからもう一度!もう一度俺と一緒に……!戦ってくれ‼︎メビウーーーース!!」

 

突き出した左腕から順に、メビウスの胸部にあるカラータイマーへと吸い込まれていく。

 

全身を光に包まれた未来は、その場から跡形もなく消えてしまった。

 

 

◉◉◉

 

 

「……!メビウス!!」

 

「未来くん‼︎まったく君は…………!本当に無茶をする!」

 

周囲が光に覆われた空間。おそらくはメビウスの中だろう。

 

未来はそこで、人間の青年の姿をしたメビウスと対面したのだ。

 

 

「無茶って……お前に言われたくないよ」

 

「あはは……、確かに……」

 

メビウスは一瞬顔を伏せ、消えそうな声で聞いた。

 

「本当に…………君はこれでいいのか?」

 

「いい。ここまできたんだ、最後まで付き合わせてもらう!」

 

「……そうか、そうだね。君はそういう人だった」

 

メビウスと未来はお互いに歩み寄り、同時に左腕を差し出す。

 

「わかった、もう僕は迷わない。君と一緒に、最後まで走りきるよ」

 

その言葉を聞いて安心した未来は、深呼吸をした後に言い放つ。

 

「いくぞ、メビウス」

 

「うん、僕達のーーーー」

 

「ああ!俺達の!」

 

 

 

「「想いはひとつだ!!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

光に包まれた赤い巨人がゆっくりと立ち上がり、鉄の塊の前を塞ぐ。

 

「ふん……再び一体化したか。でも、今の君達に何ができるっていうんだい?」

 

ノワールがそう吐いた次の瞬間、メビウスの身体が灼熱の炎に包まれていくのがわかった。

 

「……⁉︎これは……」

 

 

 

 

 

 

 

『(はぁぁぁああああああああ…………!!)』

 

身体に力がみなぎってくる。

 

まるで今ならどんな敵にも勝てるような…………高揚感と自信。

 

全身が熱い、だけどなぜか心地いい。

 

別の存在と、自分の身体が重なる感覚ーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『(ハァッ!!!!)』

 

身体を覆っていた炎の輪が晴れ、巨人の全身が露わになる。

 

先ほどよりも赤い部分が増し、胸には炎を表すシンボルが大きく刻まれていた。

 

ウルトラマンメビウスーーーーバーニングブレイブ。

 

 

「なにっ…………!?」

 

そこで始めて焦りを顔に出したノワール。

 

咄嗟に黒いメビウスブレスを構え、インペライザーへとありったけの力を注ぎ込んだ。

 

「インペライザー!!」

 

冷や汗を流しながらノワールかそう指示を出すと、ほぼタイムラグなど感じない動きでインペライザーは照準をメビウスへと向けた。

 

「ーーーー」

 

両肩から発射された光弾がメビウスへと迫り、着弾しようとしたその瞬間ーーーーーーーー

 

「フッ……!」

 

反射的に駆り出された二つの拳が光弾を消滅させた。

 

花火のように光が飛び散り、街にぱらぱらと降り注ぐ。

 

先ほどまでとは明らかに底上げされているメビウスのパワーに、ノワールは顔を歪める。

 

「どういうことだ…………⁉︎その姿は……⁉︎何が起こっているんだ!?!?」

 

『(おおおおおおおおおッッ!!)』

 

メビウスが地面を蹴ると、その場には巨大なクレーターが出来、同時に一瞬でインペライザーへと肉薄する。

 

「ヤアッ!」

 

爆炎をまとった拳がインペライザーの頭部を下から射抜く。まともに喰らったアッパー攻撃の影響でバランスを崩した奴は、簡単に地面に仰向けで倒れてしまった。

 

ーーーー燃える勇者。

 

メビウスという戦士に、強い繋がりが干渉した時に誕生する形態。

 

どんな悪も焼き尽くす、炎の闘志を宿している……!

 

(もうお前には負けない……。俺達が手に入れた、絆の力で!)

 

『お前達の悪……その(ことごと)くを打ち破る!』

 

 

「くっ……‼︎そおおおおおおおおおおお!!!!」

 

ノワールは咄嗟にインペライザーを操作し、炎をまとっている光の巨人へと突進を仕掛けた。

 

焦りのせいか攻撃はひどく大振りであり、大剣で繰り出された斬撃は容易にメビウスに躱されてしまう。

 

「ハァッ!」

 

大剣の刃を肘と膝の間で受け止めたメビウスは、インペライザーの動きが一瞬止まったのを見逃さず、もう片方の足で地面を蹴り、ドロップキックを浴びせた。

 

「ぐっ……!バカなっ…………⁉︎こんな……ことが……‼︎」

 

 

 

 

 

 

『(はぁぁぁああああ…………!!)』

 

胸の前でメビウスブレスに手をかざし、両腕を上げて力を増幅させる。

 

「……!今だっ……‼︎」

 

メビウスがパワーをチャージしているところを狙い、インペライザーはガトリングガンから三連装の光線を放つ。

 

「……⁉︎」

 

しかし、それはメビウスに到達する前に、別方向から放たれた七色の光線によって相殺された。

 

「き……さまぁぁああああああ!!!!」

 

咄嗟に視線を移すと、そこにはボロボロの身体でストリウム光線を放つタロウの姿があった。

 

「今だ!メビウス!」

 

『(…………ッッ!!)』

 

生成された炎の球は、メビウスの腕でも抱えきれないほど巨大なものになっていた。

 

『(せやぁあああああああッッ!!!!)』

 

突き出した両手に押されるように、メビウスが作り上げた莫大な炎のエネルギーの塊がインペライザーへと放出される。

 

バーニングブレイブの状態だからこそ発動できる必殺技、メビュームバーストだ。

 

「ーーーーーーーー…………ッ」

 

 

 

 

一瞬で炎の檻に囚われたインペライザーの装甲が溶け出し、数秒もしないうちに消滅してしまった。

 

それこそ、破片一つも残さずに。

 

「インペライザーが…………負けた……?」

 

片目を覆ってそう嘆くノワールは、すっかり脱力した様子でメビウスへ目を向ける。

 

(日々ノ…………未来ぃ…………‼︎)

 

ナイフのような鋭利な目つきで光の巨人を睨み、ノワールは黒い霧と共に風の中へと溶けていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『タロウ教官……』

 

さすがに大技を放ったことで体力を消耗したのか、メビウスは肩を上下させてタロウの方へ意識を向ける。

 

(メビウス…………?)

 

『教官、僕は…………!』

 

タロウはメビウスが意見するのを手で制止し、柔らかな声音で言った。

 

「……インペライザーは尖兵に過ぎない。これから待っているのは、途方もない悪意だ」

 

『えっ……?』

 

「……だが、君とその仲間達なら、必ず乗り越えることができるだろう」

 

『……‼︎タロウ教官!あ、ありがとうございます!!』

 

メビウスに光の国への帰還命令が下されていたことを知らない未来には、二人のやりとりが何を意味しているのかはさっぱりわからなかった。

 

ただ、メビウスが心の底から喜んでいる。それだけは理解できた。

 

 

「日々ノ未来くん」

 

(……えっ?あ、はい!)

 

急に声をかけられたことで若干声が上ずってしまう。

 

「君にこのようなことを頼むのもどうかと思うが……。メビウスを、弟のことを、よろしく頼む」

 

(…………!もちろんです!メビウスはもう、俺の家族みたいなもんですから!!)

 

未来の発言で少々照れ臭そうに萎縮してしまうメビウスだが、目の前に教官がいたことを思い出したのか、すぐに態度を持ち直す。

 

 

「ジュワアッ!!」

 

タロウは何も言わずにゆっくりと頷くと、両手を広げて青い空へと飛び立ってしまった。

 

 

◉◉◉

 

 

「…………っというわけでぇ……」

 

『初めまして……っていうのは変なのかな?メビウスと言います。よろしく』

 

スクールアイドル部の部室。

 

みんなの前で改めてメビウスの紹介をしようと、未来は全員を集めてここに呼んだのだ。

 

あんぐりと口を開けた少女達が視界に入り、メビウスは戸惑った様子を見せる。

 

『あれっ?あんまり驚かないんだね…………』

 

「いやぁ……もう充分驚かせてもらったというか……」

 

「お腹いっぱいというか……」

 

「う、宇宙ずらぁ……」

 

驚きすぎて身体が固まっている、といった様子の一年生組を差し置き、席を立った鞠莉と曜がオレンジ色の光へと詰め寄る。

 

「ワオ……ほんとに浮いてマスね……」

 

「本物なんだ……」

 

『ちょっ……つつかないで……』

 

「あ、ちなみにステラもウルトラマンだから」

 

いじられているメビウスを尻目に、未来は普段と変わらない様子で、あっさりと重要なことを打ち明ける。

 

「「「えええええええええええッッ!?!?」」」

 

「あれ?こっちは驚くの?」

 

「初耳だよ!?」

 

「今言ったからな」

 

メビウスと未来のことがバレてしまった以上、ステラとヒカリのことも隠しておく必要はあまりないだろう。ただでさえ”海外に引っ越し”などという無理のある言い訳だったのだから。

 

「ステラちゃんはミステリアスなところあったし……まあ、納得?なのかな……」

 

「ウルトラマンが……同じ部屋に二人もいたってことですわね……」

 

「まあ、確かに赤いウルトラマンさんはちょっぴり頼りない感じでしたし……」

 

「ルビィちゃん?」

 

「ピィッ⁉︎ご、ごめんなさい……」

 

「謝らなくても、ほんとの事だし」

 

「ええっ⁉︎千歌までそんなこと言う⁉︎」

 

「あははっ」

 

以前よりも遥かに騒がしくなってしまった部室。

 

狭くて窮屈で、埃っぽかったはずなのに、不思議とこの場所が落ち着く。

 

 

 

 

(俺とメビウスも……、やっとAqoursの一員になれたってことなのかな……?)

 




なんとメビウスブレイブではなくバーニングブレイブの登場……。
テレビのメビウスとは少々違った感じの演出にしてみました。

今回の解説はバーニングブレイブについて。

この状態でのメビウスと未来の吹き出しはよく重なって使用されますが、これは以前ステラとヒカリがシンクロ(仮)状態になった時のことを意識しています。
つまり未来とメビウスはバーニングブレイブになって初めてステラやヒカリと同じレベルのステージに立てるのです。
未来がメビュームブレードを好んで使用する傾向にあるため、今後バーニングブレイブ状態でもブレードを使うシーンが出てくるかもしれませんね。

外伝のステラとヒカリの話も考えている途中なのですが、なぜか戦神がプロットの中に投入されるという事態に……。これは色んな意味でやばい作品ができそうです。

次回は再びサンシャインパートへ突入。未来の夢の話はもう少し先になります。

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