今回は文字数少なめですね。
完全に溜め回です。
まるで鉛が乗っているかのように、いつもよりも重く感じる身体。
…………いや、違う。これは”戻った”だけなんだと理解する。
「…………嘘だろ……?」
未来は飛び跳ねるようにベッドから上半身を起こすと、胸に手を当てて目を瞑った。
いつも側にいたはずの存在が、
メビウスの気配が、無くなっていることに気がついたのだ。
「……なんでだよ……、どこに行ったんだよ…………‼︎」
溢れそうになった涙を拭い、すぐさまベッドから降りて上着を羽織った。
しかし…………
「………………」
病室を出ようとしたところで足を止める。
もしメビウスを見つけたとして、どうする?
彼が自分のもとを去った理由は明白だ。決定打となったのは昨日の千歌に言われたことだろう。
メビウスは自分のせいで未来の人間関係が変わってしまうのを恐れたのだ。
(あいつがどうしていなくなったのか……)
全て未来のため。
当然だ。メビウスにとって、未来は今まで一緒に戦ってきたパートナーである以前に人間という守るべき対象なのだから。
今回は偶然助かったが、次にインペライザーと戦えばどうなるかわからない。
今度こそ命を落としてしまうかもしれない。
「俺は…………この戦いから手を引くべきなのか……?」
◉◉◉
「……この前は、助けていただきありがとうございました」
水平線を背に、メビウスは人間態となっているタロウへ頭を下げた。
目の前の先輩に確かな緊張感を持ちつつ、メビウスは引き締まった顔で再び顔を上げる。
「なぜ帰還命令に従わなかった?」
「それは……」
「ウルトラサインで伝えたはずだろう」
「ですがっ……!」
言いたいことに霧がかかっているかのように、上手く言葉が出てこない。
「君と一体化していた少年も重傷を負ったと聞く。……君も同じだ。このまま戦い続ければ、確実に命を落とすことになるんだぞ」
そうタロウは言った。ハッキリと、メビウスの力不足を指摘してきたのだ。
返す言葉も見つからない。確かに彼の言うことは正しい。
……でも
「それでも僕はまだ……この星を守りたい!もうあの子を危険に晒すことはしません。……僕だけの力で、人間を守りたいんです!」
今はそう伝えることしかできない。
タロウはここでいくらメビウスの話を聞いても考えを変えるつもりはないだろう。だが、メビウスにも引けない理由はあった。
かけがえのない、この内浦で過ごした時間という宝が。
「…………失礼します」
「待て!メビウス!」
タロウが止まるのも構わずに、メビウスは驚異的な身体能力を使ってその場から離れる。
その後ろ姿を見て、呆れたようにため息を吐き出すタロウ。
「まったく君は……、本当に生真面目な奴だ」
「……なーんか、つまんないな」
ふとこぼれ落ちた愚痴が、風にさらされて消えていく。
ノワールは昨日記録していた光景を、左腕にある漆黒のメビウスブレスから空中に投影させた。
そこに映っていたものは、インペライザーになす術もなく倒されてしまう光の巨人の姿。
「メビウスは未来くんから離れたか……、まあ賢明な判断だね。彼はこれから先の戦いには耐えられないだろうし」
インペライザーに敵わない程度の実力では、皇帝はおろか四天王にすら勝つことは不可能だろう。
「まあ、メビウスが単独で戦うとしても結果は見えてるけどね」
「千歌ちゃんは?」
「……今日は休むって」
「未来くん、大丈夫かな……」
ふとそう呟く梨子に、部室にいた全員が反応するように視線が集まる。
昨日の病院でのことから、Aqoursの雰囲気は一気に暗いものになってしまった。
リーダーである千歌も普通に振る舞ってはいるが、時折その瞳から輝きが失われているのがわかる。
部屋の中に千歌がいないことを再確認してから、梨子は切り出す。
「みんなはどう思ったの?」
「どうって…………」
「今でも信じられないです。……未来くんがウルトラマンだったなんて」
今まで不自然な行動が何度も見られた未来だが、その理由が今ならわかる。
(……あの時……)
梨子は以前沼津に行った時のことを思い出す。
怪獣の中に囚われていた梨子を助けてくれたのも…………
いやそれだけじゃない。学校に現れた怪獣も、これまで現れた怪獣達と戦って、みんなを守ってくれていたのは未来だったのだ。
あの赤い巨人はーーーー
「あれ?そういえば曜は…………」
不意に鞠莉が部屋の中を見渡して首を傾ける。それに連動するように他のメンバーもキョロキョロと周りを確認した。
今部室にいるのは千歌と曜を除いた七人だけ。いつの間にか千歌だけでなく曜もいなくなっていたのだ。
◉◉◉
当てもなく、ただひたすら歩き続けた。
メビウスを探しているわけではない。ただ無心に……未来は足を前に踏み出す。
メビウスは何も言わずに自分のもとを去った。
「……メビウス」
もう左腕にはメビウスブレスなんか出てくるわけがない。
ウルトラマンにもなれない。自分は無力な、ただの人間なのだから。
だから…………
(だから俺は……力が欲しかった…………ッ)
ノワールの言う通りだ。
未来は一人では何もできやしない。だから力が必要だった。求めていたんだ。
そうだ、最初からわかっていたはずだ。
「ここって…………」
顔を上げて、思わず目を見開く。
浦の星学院、その校舎裏。
メビウスと初めて出会った場所だった。無意識にここへ向かっていたということか。
「…………っ」
校舎に手をつき、その冷たくて硬い感触を肌に感じる。
ーーーーそんなことをしてまで、守って欲しくなかったよ。
何が親友だ。
何がマネージャーだ。
何が………………ウルトラマンだ。
「俺はみんなのことを…………何もわかってなかったじゃないか」
自分勝手に突き進んでただけだ。
みんなを、守っている
そして、メビウスが何を感じていたかも知らずに。
みんな心配してくれていたんだ、ずっと。その声を無視しながら突っ走っていたのは、自分自身。
正義を暴走させて、それを敵にも利用されて…………。
ーーーーバカだ。
「俺は…………ッ……‼︎」
「ここにいたんだね」
「……え?」
地面を映していた瞳を上げ、横を見る。
一人の少女が、敬礼しながらそこに佇んでいたのだ。
「ヨーソロー!未来くん!」
「……曜」
◉◉◉
「やあ、メビウス」
「……ノワールか」
「教官の命令に逆らうなんて、まったく悪い人だね君も」
黒ずくめの男を前にし、メビウスは警戒心を剥き出しにして構える。
今の奴はウルトラマンの力を持っている。メビウスと同じ力を。
風に揺られた木々が音を立てる中、二人の超人が対峙する。
「君も案外冷酷なところがあるんだね。ずっと戦ってきた未来くんをあっさり切り捨てるなんてさ」
「……彼を助けるためだ」
「ああ、そうだろうとも」
ノワールはゆっくりとこちらに近づいてくると、左腕に身につけている黒いメビウスブレスに触れながら言った。
「ここで提案なんだけどさ、ボクと組む気はないかい?」
「断る」
「即答だね。……まあ話だけでも聞いておくれよ」
三メートルほどの距離のところで立ち止まったノワールが身振り手振りを付けながら語り出した。
「皇帝はこの地球を滅ぼすつもりでいるけど……、実はボクにとってあまり喜ばしいことじゃない。何せ光の欠片を宿している可能性がある人間もまとめて消えちゃうことになるからね」
一拍置いて、メビウスの顔色をうかがってから再び口を開く。
「ボクはこの星にもっと輝いていてほしいんだ。……だから、ね?」
「僕の答えは変わらない。……お前と組むことなんてあり得ない」
「あらま、交渉決裂?」
参ったなあ、と頭をかいた後で、ノワールは一気に冷えた表情へ変わる。
絶対零度にも匹敵する視線が、メビウスを射抜いた。
「じゃあもう君には用はない。さくっと死んじゃってよ」
おもむろに腕を上げた後、指を鳴らしたノワールが黒霧に包まれてその場を去ろうとした。
「たった今地球にインペライザーを呼び戻した。……せいぜい頑張ってくれたまえ、光の戦士くん」
「…………ッ!」
漆黒の悪意が遠ざかり、メビウスは額に冷や汗を浮かべながら遥か彼方の空を見上げた。
未来の前に現れた曜は一体何を……⁉︎
次回のメビライブサンシャインは第一章の中で一番書きたかった回になります。
解説いきましょう。
未来の身体を離れたメビウスの人間態は、元ネタであるヒビノ ミライと同じ姿をイメージしてくれるといいでしょう。
今まで未来の容姿については説明をあまり入れてなかったのですが、テレビのミライとは全く違い、似てるというわけでもありません。名前だけを借りた全くの別人です。
近いうちに地球を離れたヒカリとステラを主人公とした番外編を書こうかなあ、と思っています。
そちらの方ではバンバン平成ウルトラマンとかも出せたらいいなあ、と。本当に投稿するかはまだ未定ですけど。
そして次回はついにアレが登場…………⁉︎
お楽しみに!