…………僕は行けませんけど(血涙)。
「みんな、今日もお疲れ様」
「相変わらず屋上は暑いねぇ……」
とある休日の昼下がり。
練習を終え部室へと戻ってきた千歌達が汗だくの練習着のまま勢いよく椅子や床に倒れ込む。
千歌は冷たい床の感覚に夢中になりながらも、じっと部室の隅に視線を移した。
いつもなら、そこにはいつも未来が壁に寄りかかりながらみんなを見守るような瞳で見ている姿があるのだが…………。
「未来くん、今日も来なかったね」
「やっぱり、身体の具合があまり良くないんじゃ……」
「千歌は何か聞いてないの?」
水の入ったペットボトルを片手に、果南が床に脱力して倒れている千歌を見やる。
「一応連絡はつくんだけど……、なんだかパッとしない返事ばかりで」
「今まで未来さんが無断で休むことなんてなかったのに……、心配ですわね」
基本テンションの低い方ではない未来だが、ここ最近は不自然なくらい元気がない様子だった。そのことも少しひっかかる。
周りが未来の安否に頭を悩ませる中、曜はただ一人険しい表情を浮かべていた。
(……あの時のは、見間違いじゃなかったんだよね……?)
「じゃあ、みんなでお見舞いなんかどうですか?」
不意にぱんっと手を合わせたルビィが、そう提案を皆に投げかけてきた。
それを聞いた他のメンバーも顔を見合わせて「いいね!」と首を縦に振る。
「でも、大勢で行ったら迷惑じゃない?」
「あっ……そっか」
「じゃあ誰がお見舞いに行くか、ジャンケンで決めましょう」
ダイヤがそう言ったのを皮切りに、自然と各々が手を突き出してグーの形を作る。
「えーっと……、勝った人?負けた人?」
「後者だと罰ゲームみたいで未来さんに悪いですわね……」
「じゃあ勝った人で」
見舞いに行く一人を決めるためのジャンケン。同時に手を引き、そしてまた前に出す。
「いきますわよ。じゃーんけーん……」
ーーーーポンっ!!
◉◉◉
淡島神社の祠を囲む木々の枝に、ノワールはいつものようにどっしりと腰を下ろしていた。
左手にある黒いメビウスブレスを眺め、気持ちの悪い笑みを浮かべている。
「……ここから先は皇帝のお手伝い、か。あんなもの貰っちゃったんだし、断れないけどね」
ブレスのサークルから立体映像が空中に投影され、そこには地球周辺の宇宙空間の様子が見える。
そして、こちらに向かってくる隕石のようなものが一つ。
「”インペライザー”……だっけか。これを使ってメビウスを倒せだなんて……皇帝も容赦が無いよね、まったく」
ハッキリ言って今回は未来やメビウスを見逃すつもりはない。彼が光の欠片を宿している者でも、この間の事で本人の力量は知れている。
インペライザーよりも強ければ生きるし、弱ければ死ぬ。それだけだ。
「これ以上失望させないでくれよ?……もう期待はしないけどね」
ーーーーピンポーン。
「ん…………」
どうやらすっかり寝過ごしてしまっていたらしい。
未来はインターホンの音で目が覚め、気怠そうにベッドから降りると、ゆっくりと部屋を出て一階の玄関へと向かった。
誰が訪ねてきたのかは予想がつく。おそらくはAqoursのメンバーだ。
ここ数日彼女達の部活動に顔を出していなかったので、大方心配してくれたみんながお見舞いにでも来てくれたのだろう。
(…………できれば一人にして欲しかったんだがな)
自分のせいで、自分がまんまとノワールの罠にかかったせいで、メビウスは力の一部を奪われ、奴は強大な力を手に入れてしまった。
…………何もかもが悪い方向に進んでいる。
「はい」
包帯でぐるぐる巻きになった腕でドアノブを掴み、開く。
そこに立っていたのは、髪の毛の一部を三つ編みにした、みかん色がよく似合う幼馴染の姿だった。
一度着替えてきたのか、彼女が身につけているのは練習着ではなく、東京へ行った時のような私服だった。
「あ!未来くん!」
「千歌か……、何か用か?」
「ううん。用ってほどでもないんだけど……、ほら、未来くん最近部活に来ないから寂しいなーって」
ふと視線を落とすと、千歌の手には行きつけの喫茶店の紙袋が握られているのが見えた。
「お見舞いってことで……、入ってもいいかな?」
「あ、ああ……いいけど……」
差し出された袋を受け取った後、千歌を中に入れてリビングまで案内する。
「わざわざ悪いな、みんな怒ってないか?」
「全然!むしろ心配してる。……そのケガ、まだ痛む?」
千歌の前にお茶を出し、未来も彼女と向かい合うかたちでテーブルの前に座った。
「動かさなければ大したことはないよ。……まあなんだ、とにかく心配する必要はないから」
「……次に怪獣が出た時にはさ」
「え?」
下を向きながら何か言いたそうにしている千歌だったが、すぐに迷いを振り切って未来に言う。
「街の人の避難も大事だけど、今は未来くんだって怪我人なんだし……、まずは未来くんも一緒に逃げてほしいかなぁって……思ってて」
「千歌…………」
そんなわけにはいかない、とすぐには言えなかった。
自分達が行かなくては、街の人を……千歌達を守ることができないのだから。
だが千歌は、ウルトラマンメビウスは今目の前にいる少年なのだということを知らない。自ら正体を明かすわけにもいかない。
もし言ってしまえば、今までの事が全部崩れて、この関係も無くなってしまうような気がしたから。
……でも、そんな瞬間もいつやってくるかわからない。
(いつかは…………みんなにもバレる時がくるんだろうな)
「ねえ、ちょっとだけ外歩かない?」
「……?散歩か?」
「まあ、うん」
「別にいいけど……」
「うんっ。じゃあ行こ!」
千歌に手を引かれて外に飛び出した未来は、予想していた以上の猛暑に眉をひそめた。
眩い太陽の光すらも不快に感じる。
行くあてもなく海岸沿いを並んで歩いていると、千歌がぽつりと話題を零した。
「今度……落ち着いた時でいいからさ、どこかに遊びに行かない?」
「ん?俺はいいけど……、みんなにも聞いてみないとな」
「あっ、そうじゃなくて…………」
「…………?どういうことだ……?」
「えっと……だからその……」
立ち止まってもじもじと三つ編みをいじりだす千歌。
やがて未来の顔を直視し、口元を緩める。
「……そうだね、曜ちゃん達にも相談しないと」
ほんの少し悲しげな表情で未来に背を向けた千歌が、彼から距離を置くように道の奥へと進んだ。
「……?流れ星…………?」
「え?」
ふと真昼の空を見上げた千歌の視界に映っていたものは、赤紫色をした隕石のようなものだった。
それは突如空中で消滅するのとほぼ同時に、街中にも瞬間的に現れた謎の光が収束してくる。
ーーーー始まるよ、未来くん。
◉◉◉
空間転移を利用して内浦に飛来したソレは、生物的な感情等は一切感じられない、ただ使用者の命令に従う戦闘兵器だ。
黒光りする砲台を両肩に装備し、頭部には三連装ガトリングガンが配置されている。
その名は、”インペライザー”。闇の者が操る無双鉄神。
「ロボット…………?」
いつもノワールが怪獣を呼び出す時に現れるゲートが、今回は展開されることはなかった。
奴は宇宙から直接地球へと送られてきたのだ。
街の中で棒立ち状態のインペライザーを唖然と眺めていると、千歌が咄嗟に未来の腕を掴み、来た道を引き返そうと引っ張りだす。
「ちょっ……⁉︎」
「逃げなきゃ……!」
未来は千歌に手を引かれながらも、首を後方に向き直して巨大なロボットを見上げた。
(ノワール…………ッ……!!)
今度こそ。
今度こそあの男に勝利してやろうと、未来の中で闘争心が爆発した。
直後、唐突に動き出したインペライザーが建物を踏み潰しながらこちらへ向かってくるのが見えた。どうやらメビウスの宿主である未来を狙っている様子だ。
『このままじゃ……!追いつかれるよ!』
(でも今変身は……!)
奴が未来を捕捉している限り止まることがないのなら、やはり戦うしかアレを止める方法はない。
しかし、今目の前には千歌がいる。
「…………ッ!」
「未来くん……⁉︎」
千歌の手を振りほどいた未来が、何も言わずに彼女から背を向けたところで何かを察したのか、千歌はすぐさま未来の腕を掴み取った。
「千歌…………⁉︎」
「ダメ!ダメだよ!今回は……、今回だけは未来くんを放っておけない!!」
「…………っ」
違う。違うんだ。
自分達が行かなくてはならないんだ。でないと、他に誰がみんなを守るっていうんだ。
他の誰にもできない。日々ノ未来とメビウスだからこそできること。
「頼む……、頼むから離してくれ…………!千歌!」
「いや!絶対にいや!!」
今にも泣きそうで必死な表情を浮かべながら未来を止めようとする千歌。
「未来くんだってケガしてるのに!……もし、何かあったら……」
やがて彼女の目元から一筋の雫がこぼれ落ちた。
その瞬間、数年前のあの記憶がフラッシュバックする。
ーーーー俺に、力があれば。
(今その力は…………!確かに持っているはずだ!!)
過去の自分の姿が重なり、未来はインペライザーに対する凄まじい嫌悪感を一気に募らせていく。
もう、迷ってる場合じゃない。
「千歌……」
「……未来くん……?」
千歌の瞳に自分の瞳を合わせ、逸らさないようにしっかりと見据える。
「今まで……!黙ってて悪かった!!」
「えっ……?」
弾かれたように後ろを振り向いた未来は、インペライザーのいる方向へと全力で駆け出す。
光を宿した左腕を構え、走りながら天へと突き上げた。
「うぉぉぉぉおおおおおおおおおおお!!!!」
光に包まれた少年が天を舞い、代わりに赤く巨大な頭、胴体、腕、足、と次々にその姿を現していく。
「…………うそ……でしょ…………?」
空から飛び蹴りの構えで現れた光の巨人がインペライザーへと迫る。
そのキックは肩部分に直撃したが、奴は全く動じていない。
その巨人は、まるでそこにいた少女の安否を確認するように…………、千歌の方へと振り向いた。
輝きを宿した二つの大きな目がしっかりと千歌を捉えているのがわかる。
「セヤッ!」
勇ましくインペライザーに飛びかかり、動きを止めようとするメビウスだが、その圧倒的なパワーを抑えることは叶わず、逆に奴の鋼鉄の裏拳で吹き飛ばされてしまう。
「なんで…………。なんで……、なんで未来くんが!?」
インペライザーに踏みつけられる赤い巨人に向かって幼馴染の名前を叫ぶ少女。
「ウッ……!ア”ァッ…………‼︎」
プログラミングされているように無機質な動きのくせに先が読みにくい攻撃がラッシュされ、メビウスは回避するのに精一杯の状況だ。
『未来くん……!君は……』
(…………今は戦いに集中しよう)
目の前の敵を倒すことだけを考える。
頭部のガトリングガンが目のようにメビウスを捉え、直線状のビームが発射された。
(ぐぅっ……‼︎)
上半身をギリギリまで後ろに曲げ、ビームを避けるのと同時にインペライザーへと肉薄し、全力で拳を叩き込む。
「ハッ……⁉︎」
強烈なパンチを何発も喰らっているはずなのに一歩も引かないインペライザーを見て、若干の焦りが生じてきた。
直後、両肩の砲台から赤いエネルギー弾が噴き出し、メビウスの身体を簡単に吹き飛ばしてしまう。
「ヘァアァア…………‼︎」
「あっ…………!」
遠目でメビウスの戦闘を見ていた千歌が思わず声を上げ、口元を両手で覆った。
『大丈夫か⁉︎』
(くそ……っ……!くそ!!)
決死の思いでブレスからメビュームブレードを伸ばし、これまでに無いくらいの速度でインペライザーへ接近する。
火事場の馬鹿力とでも言おうか。自分でも信じられないくらいの力が湧き出てきている。
…………ノワールに対する”憎しみ”という力が。
「セヤアァッ!!」
限界を超えたスピードで振りかざされた光の刃が鋼鉄の腕の付け根を捉え、間髪入れずに刃を引く。
両断された腕が地面に落ちたところでもう一発叩き込もうとするメビウスだったが……。
「…………⁉︎」
ギギギ、と破壊されたはずの腕が動き出し、なんと巨大な剣へと変貌したのだ。
(なっ……に……!?)
宙に浮かび上がり、元あった胴体へと吸い込まれていく剣。
インペライザーの再生機能によって、腕を切られる前よりも強化されてしまったのだ。
『なんだ……こいつは…………!?』
(ぐっ……!!)
繰り出される斬撃をメビュームブレードで受け止めるが、力負けしてしまっている。
巨体から振るわれる大剣。その威力は言うまでもないだろう。
……負ける。直感的にそう思った。
(受け流すのが精一杯だなんて…………!)
なんとかメビュームブレードで剣の軌道を変え直撃を避けているが、いつか限界はくるだろう。それもすぐに。
「ハァァァ……!」
ならば、とメビウスブレスのエネルギーを増幅させ、腕を十字に組んでメビュームシュートの体勢へと転じる。
「セヤアアアア!!」
光の粒子が一直線にインペライザーへと伸び、命中。奴の砲台部分を焼き飛ばすことに成功した。
しかし…………
「……フッ……⁉︎」
「ーーーーーーーー」
またも再生機能を発揮したインペライザーは、光線で受けた傷を跡形もなく修復してしまった。
(そんな……!)
カラータイマーが点滅し始めた刹那、奴のガトリングガンから放たれた螺旋状の光線がメビウスの腹部へと直撃し、なす術なく後方へ吹っ飛ばされてしまう。
「ウッ……!グアッ…………‼︎」
ーーーーまただ。
ーーーーまた俺は…………
(何も…………できないのか……?)
『未来くん……⁉︎おい!未来くん!!』
徐々にメビウスの身体がぼやけ、やがて幽霊のようにふっと消滅してしまった。
「…………ッ!!」
それを見ていた千歌は、すぐさま地面を蹴ってメビウスが消えた方向へ走り出す。
「ーーーーーー」
直後、インペライザーが何かに反応するように動きを止め、おもむろに空を見上げた。
視線の先にあるのは、赤い小惑星のような物体。
それはゆっくりと地上に降りてくると、インペライザーの目の前で光を発しながら霧散していく。
「ーーーーーーーー」
現れたのは、メビウスとはまた違う、別の光の巨人だった。
特徴的な二本の角に、胸に輝くカラータイマー。紛れもなく彼がウルトラマンであることは確かだった。
ーーーータロウ……教官……
弱々しい声が、テレパシーとなってタロウの耳に届く。
「タアッ!」
インペライザーが仕掛けてくる前にタロウは驚異のジャンプ力で飛び上がり、空中でのムーンサルトスピンで勢いをつけ、そのまま足を突き出して急降下。奴に強烈な蹴りをお見舞いした。
「ーーーーーーーー」
新手の敵が現れたからか、インペライザーは先ほどと違った雰囲気でタロウへと照準を向けた。
◉◉◉
「未来くーーーーんっっ!!」
瓦礫が辺りに散らばっている中、千歌は足をとられないように注意しながら未来を探していた。
「未来くんッ!!いるんでしょ!?お願いだから返事して!!」
ーーーー”なんでもない”よ。
彼はいつもそうだった。
何か悩んでいることがあるはずなのに、未来は決まって”なんでもない”と言ってその場をやり過ごそうとする。
気づかないわけがない。
何かある。絶対に彼は何か隠していると、そう確信していたんだ。
……だって、幼馴染だから。
でも…………
「…………っ!未来くん!!」
煤まみれで横たわっていた少年の姿を見つけ、千歌はすぐに側へと駆け寄った。
緩まった包帯から覗く両腕の痛々しい火傷の後が見え、それさえもウルトラマンとしての戦いで負ったものだと瞬時に理解する。
つまり、今までの不自然な怪我は全てーーーー
「こんなに……ボロボロになって……!こんなに傷ついて……‼︎未来くんは…………‼︎」
気を失っている未来を抱きかかえ、その顔を涙でぐしゃぐしゃになった自分の顔へ引き寄せる。
「お願い……!死なないで……‼︎」
「ストリウム!光線‼︎」
タロウが両手をTの字にして放つ七色の光線がインペライザーへと殺到し、その上半身を一瞬のうちに吹き飛ばしてしまう。
それにはメビュームシュートとの威力の差がハッキリと現れていた。
「ーーーーーーーー」
下半身だけとなったインペライザーにも警戒は解かず、タロウは再び両手を奴に構える。
「ーーーーーーーー」
「……⁉︎」
驚くべきことに奴は、上半身が無い状態で足を一歩踏み出してきた。
予想以上のしぶとさにさすがのタロウも驚愕せざるを得ない。
もう一度ストリウム光線を放とうと体勢を整えたところで……
「ーーーーーーーー」
インペライザーの身体は連れ去られるように空の彼方へと消えてしまった。どうやら空間転移で逃走したらしい。
「…………」
タロウは足元に見える少年と少女を見下ろした後、両手を振り上げて飛行のポーズをとり、地面を蹴った。
その時遠ざかる赤い巨人を、未来の中で辛うじて意識を保っていたメビウスがじっと見つめていた。
◉◉◉
「うっ……!」
全身の激痛で瞼が開き、視界には白い天井が飛び込んでくる。
「未来くん!」
そこには個室のベッドで寝かされていた未来を囲むように、Aqoursのメンバーが立っていた。
どうやら病院に運び込まれたらしい。
「大丈夫なの?」
一番に駆け寄ってきた曜が、青い顔をしてそう聞いてくる。
「ああ……。いっ……た……!」
首を縦に振りつつも、未来は千歌を含めた他のみんなが気まずそうな顔を浮かべていることに気がつき、思わずその理由をきいてしまった。
「どうかしたのか……?」
「……ごめん未来くん、千歌ちゃんがみんなに……話しておくべきだって」
曜の言葉の意味が理解できずにいると、先ほどから顔を伏せて黙り込んでいた千歌が立ち上がり、側まで歩み寄ってきた。
「……どうして…………言ってくれなかったの……?」
「え……っ?」
そこで初めてわかった。
…………もう、みんな”知っている”のだと。
「……みんなに話したのか?」
険しい表情をした千歌が、段々と語気を強くしていく。
「ねえ、どうして?……なんで未来くんは、私達に何も言わないで……、自分の命かけてまで……!」
「……だから、前から言ってるだろ。…………これくらいなんでもなーーーー」
「なんでもなくない!!!!」
急に声を荒げた千歌に、その場にいた全員が身体をビクつかせる。
「なんでもなく、ないんだよ…………。例え未来くんが平気だって言っても、私は違うの!!」
「……!待ってくれ千歌、違うんだ……!俺はただ……‼︎」
「私は!!」
一瞬の静寂が部屋を満たし、いつの間にか千歌の目元から流れていた涙は、何滴も地面に落ちていた。
「私は…………こんなことをしてまで、守って欲しくなかったよ」
「……あ……」
「……⁉︎千歌!?」
その言葉を最後に病室の扉を開けて廊下へ飛び出していった千歌。
彼女を追いかけようと部屋を飛び出したのが果南と梨子だ。
数人が欠けた部屋のベッドの上。未来は虚ろな瞳で、魂が抜けたような様子で下を向いた。
(ああ、俺は…………)
ーーーー今まで、何をしていたんだ。
◉◉◉
ーーーーーー光の国への帰還命令。
この先の戦いは、これまで以上に過酷なものになるだろうからと、ウルトラの父が直々にメビウスへ下した命令だった。
『僕はどうすればいいんだ……?』
光の玉となったメビウスが、夜の病院で眠っている未来の横顔を見つめている。
その姿は、やはりまだ人間の高校生。子供だということを再認識させられる。
ーーーー自分は、まだ地球のために戦いたい。
しかし、インペライザーには敗北した。この先はアレよりももっと強力な敵が送り込まれてくるだろう。
その時命の危険に晒されるのは自分だけではない。
ならばどうするかーーーーーーーー
『これ以上僕のせいで、君の生き方を狂わせることはできない』
メビウスは球体からみるみる姿を変えていき、やがて人間の青年の姿へと変身を終えた。
音を立てないように病室の出入り口まで移動し、再びベッドに横たわっている少年へ視線を注ぐ。
「……今までありがとう、未来くん。君のおかげで僕は、色々なことを学べた」
名残惜しそうに顔を伏せた後、すぐに顔を上げて決意に溢れた目つきへと変わる。
「…………さようなら」
ついに正体を明かしてしまった未来。
彼がメビウスだということを知り、ショックを受けてしまった千歌。
そして未来のもとから去ったメビウス……。
果たして次回は…………⁉︎
解説いきましょう。
今回の話で未来に想いを寄せていたのは曜だけではなかったことがわかると思います。
今までオリジナル回であまり重要な役割を果たしていなかった千歌ですが、今回のエピソードでそれも覆ります。
そして未来とメビウス。
今作のW主人公とも言えるこの二人も、今までの話ではイマイチ噛み合っていない雰囲気もたびたび表れていました。
これからの展開で二人はノワールに一矢報いることができるのか……⁉︎
そして心が折れてしまった未来の鍵となるのは……⁉︎
それでは次回もお楽しみに。