気がついたら評価に色が付いていてびっくりです。
お気に入りしてくれている方々、評価を入れて下さった方々、そしてこの作品を読んでくれている方々に感謝です。
ありがとうございます。
これからもメビライブサンシャインをよろしくお願いします。
「それは本当か?」
「はい、確かな情報です」
ゾフィーからの報告を聞いたウルトラの父が、思わず語気を強くして席を立ち上がった。
ベリアルが、アーマードダークネスを装備して地球に襲来したのだと。
「……恐れていた事態だ」
「メビウスに……、彼と一体化した少年も重症を」
この頃は悪い知らせばかりが舞い込んでくる。
予想はしていたが、行方不明となっていたベリアルが敵として現れることは、やはりウルトラの父にとっても辛い事実だった。
「……このままいけば、彼らが命を落とすのは確実だ」
「では、やはり?」
「ああ」
ウルトラの父はゾフィーに背を向け、数秒間何かを迷うように黙った後、ハッキリとした口調で彼に言った。
「メビウスに、光の国への帰還命令を」
◉◉◉
「…………さすがに、今回は傷の治りが遅いな」
未来は包帯を交換しようと右腕に左の手をかけ、解かれた隙間から見える火傷の跡に表情を曇らせた。
いつも戦闘で受けた傷は数日もすれば完治するのだが、今回はウルトラマンの治癒力でもかなりの時間がかかっている様子だった。これも、ベリアルが放った光線の特性ゆえなのだろうか。
「メビウスは大丈夫か?」
『うん。少し痛むけど、通常の怪獣相手なら戦えると思う』
そうか、と小さく口にした後、未来はベッドから起き上がって運動しやすい服に着替えだす。
今日もAqoursは学校で練習だ。未来もマネージャーとして、彼女達を支えるために役割を果たさなければならない。
「…………」
……先日から気分が優れない。
ベリアルが敵であることを知ったあの日から、未来は時々虚ろな瞳を見せるようになった。
彼が今までウルトラマンとしてメビウスと共に怪獣達と戦えたのは、いつもどこかに過去に抱いた憧れがあったからだろう。
『…………僕が、なんとかしなきゃ』
メビウスは未来に伝わらないように、心の隅でそう思った。
「あ!未来くん!」
十千万の前を通ろうとしたところで、ちょうど玄関から出てきた千歌と目が合った。
随分慌てた様子の彼女は、髪を手で整えながら未来の側まで駆け寄ってくる。
「未来くんも寝坊しちゃったの?」
「え、寝坊?」
「ほら、今日の練習は一時間早くやろうって、みんなで話してたじゃない」
「あれっ⁉︎そうだっけ⁉︎」
瞬時に昨日の帰り際に全員で話していた場面を浮かべる。
そういえばそんな話をしていたかもしれない、と今更思い出した。
「やっばい!急ごう千歌!」
「うんっ!」
歩道上の何気ないやりとりを、物陰からひっそりと眺めていた者が二人。
とある男性と女性の姿をしたソレは、未来と千歌に気づかれないようにゆっくりと背後から尾行していった。
◉◉◉
『状況はどうだ?』
「最高さ!本当、何もかも君のおかげだよ!」
聞こえてきたテレパシーに向かって、ノワールは大袈裟に手を大きく開いて無邪気な笑いを響かせる。
「そうだ、確認しておきたいんだけど…………、本当にあの二人はボクの好きに扱ってもいいの?」
『ああ好きにするがいい。煮るなり焼くなり、殺すなりな』
「ああ!君が皇帝と皆に慕われる理由がわかった気がするよ!」
胸に手を当ててウットリと笑みを滲ませるノワール。
彼が立っている場所は浦の星学院の校舎がよく見える、高台の上だ。
「計画は次のステップに移るところさ。……一応確認しておこうか」
エンペラ星人に説明するように、ノワールはおちゃらけた調子で語り出した。
「まずはプランA、これは光の欠片を、未来くんの身体ごと奪う作戦。……そしてプランBはーーーー」
風の音とノワールの声が重なり、その企みは彼方へと溶けていった。
「ワンツー!スリーフォー!ワンツー!スリーフォー!」
「あ、未来くんちょっとズレてるよ」
「あっ……ご、ごめん」
動かしていた手を止め、未来は申し訳なさそうな顔で前に立つ九人の少女に謝った。
その中の一人、善子が首を傾ける。
「大丈夫なの?なんだか最近、練習中も上の空って感じだけど」
「……悪い……」
他のことに邪魔されてサポートも満足にできないようじゃダメだ。
そうわかってはいても、ベリアルのことで常に頭が一杯な状態が続いていた未来は、今まで何事もなくこなせていた事すらも手につかなくなってしまっている。
未来はふと、端の方に並んでいた鞠莉へと視線を移した。
(たしか鞠莉さんは……、前にベリアルについて調べてたよな……)
以前鞠莉が理事長室で昔の資料を広げてベリアルの調査をしていた光景を思い出す。
彼女が何を知りたがっているのかはわからないが、ベリアルが悪の戦士になってしまった、などということは話さない方がいいだろう。
……だいたい、なぜそんなことを未来が知っているのかも説明することはできないのだから。
「具合が悪いなら休んだほうがいいずら」
「未来くんその腕の怪我だってちゃんと治ってないんだから、安静にしないと」
労わるように優しい言葉をかけてくるみんなを見て、なんだかいたたまれない気持ちになった未来は、額ににじんでいる汗を拭って言う。
「……わかった、今日は帰って横にならせてもらう」
「迎えのリムジンを用意しまショウか?」
「お構いなく」
鞠莉の並外れた価値観の発言をスルーし、未来はどんよりとした雰囲気を漂わせて屋上を後にした。
「はあ……、千歌達が団結しようとしてるのに、俺は何やってんだ……」
東京のイベントや、三年生の問題を乗り越え、Aqoursはさらに高みへと向かおうとしている中、自分だけが取り残されているような感覚に陥っていた。
ベリアルが敵になったということ以外にもいくつか悩ましいことがある。
仮にそれを受け入れられたとして、ベリアルに勝つことができるのか?
彼がウルトラの父に引けを取らない強さなら、未来とメビウスの力でそれを退け、地球を守ることは叶うのか?
……否、だ。今も痛々しく残る両腕の火傷がそれを物語っている。
(たった一撃だけなのに、あの力……)
以前受けた光線の痛みが自然と思い出される。
未来は嫌な気分を吐き出すように、重いため息をついた。
『……?未来くん、ちょっと』
「どうかしたか?」
メビウスに制止され、未来は立ち止まり、ふと顔を上げる。
…………そこに立っていた人物を見て、目を見開いて固まった未来は、小さく呟いた。
「父さん…………母さん…………?」
目の前に現れたのは、まさに幼い頃にこの世を離れてしまった父と母だった。
顔も髪も、ありとあらゆる身体のパーツが未来の記憶を揺さぶってくる。
「久しぶりだな、未来」
「会いたかったわ。随分大きくなったのね」
「なん……で…………」
あり得ない。どうかしてる。ついに頭でもおかしくなったのか。
どっと汗をかきながらゆっくりと後ずさる未来を見て、父は空いた距離を縮めようと足を踏み出してくる。
「く、来るな!」
「どうしたんだ未来、そんな怖い顔して……」
「母さん達がわからないの?」
明らかに不自然だ。怪しさしかない。
しかし、それでも今の未来の心を乱すには充分だった。
死んだ人間が目の前にいることが問題なのではない。それが未来の父と母であることが問題だった。
『これは……!未来くん逃げて!』
「父さん……母さん……なのか……?」
『冷静になるんだ!これは罠だ!』
操られたように徐々に前へ進みだす未来。
憧れの像が砕かれてしまった今、未来は自分の心の支えとなってくれる何かを求めているのだ。
メビウスのことも、何もかも打ち明けられる、そんな支柱となってくれる存在が。
「おいで、おいで、おいで、おいで…………」
ぐるぐると回る視界の中の中心に見える、手招きする父と母の姿。
「俺は…………」
「ちょっと痛いけど、我慢してね」
静かな男の声が聞こえる。
差し出された手のひらに触れようと腕を伸ばした瞬間、後頭部に凄まじい衝撃と鈍痛が迸り、一瞬で目の前がブラックアウトした。
◉◉◉
「う…………っ!」
頭の激痛で目を開けると、そこにはコンクリートの地面が広がっていた。
痛みに耐えて立ち上がろうとするも何かで縛られているのか、膝をついた状態で身動きはとれなかった。
(血……?)
ぼやける視界を凝らし、目の前に赤い液体が小さな水たまりを作っていることに気がつく。
これが自分の血液であることはすぐにわかった。おそらく後頭部を何かで殴られた時の傷から流れ落ちたものだろう。
周りに視線を巡らすと、灰色のひび割れた空間が広がっている。どこかの廃墟にでもいるみたいだ。
「気分はどうだい?」
横から現れた男を、虚ろな瞳で見上げる未来。
黒ずくめの男の隣には先ほどの父と母が立っており、それを視認した途端に未来は目を見開いた。
「どういう……ことだ…………」
「こういうことさ」
くい、とノワールが二人に顔を向けると、そこに立っていた父と母の姿がみるみる変貌していく。
『ザラブ星人に……ババルウ星人……!』
「ボクの協力者さ。君をおびき出すための餌役になってもらった」
「…………お、まえ……!」
痛いくらい拳を握り、確かな殺意を持ってノワールを睨みつける。
「父さんと母さんを…………こんなことのために……‼︎お前はァ!!」
「…………おっと」
瞬間、未来の胸から禍々しいオーラが溢れ出す。
漆黒の光、という表現が似合うソレは止まることなく放出され続け、コンクリートの床を染め上げていく。
「効果抜群ってところかな」
「絶対に……!絶対に許さねえ!!お前だけは……この手で……!!殺してやる!!」
「はぁ…………」
鬼のような形相でこちらに殺意の言葉を撒き散らす未来を無視し、ノワールは眉をひそめて顔を覆った。
「…………所詮はただの人間か」
「くそっ……!クソ!!ノワール!!!!」
ノワールは柱に固定された少年のところへ歩み寄り、同じ目線の高さになるようにしゃがみ込んだ。
「今君の中から溢れているものがなにかわかるかい?」
狂ったように怒号を吐き続ける未来を見つめながら、ノワールは続けた。
「光の欠片が変異したものだよ。欠片は宿主の心の純度でどんなものにでも変化する。……つまりこの闇は全て、君自身も気づかないうちに溜め込んできたストレスの塊とも言っていい」
ノワールの言葉はもう未来には聞こえていない。
彼への殺意だけが残った身体で、ただただそれをぶつけ続けている。
「実を言うとね、ボクはほんの少し期待していたんだ。今回も、君はボクの予想もつかない奇跡を起こしてくれるんじゃないかってね。…………正直がっかりだよ」
体内から闇を放出し続ける未来を、ゴミでも見るような目で見下すノワール。
「もう興味も湧かない。君は所詮、この程度の男だったというわけだ。…………その身体はボクにこそ相応しい」
そう言うとノワールは一瞬で身体を黒霧へと変化させ、未来の口から内部へと侵入してくる。
『まずい……!』
咄嗟にメビウスが反抗するが、未来自身から放たれている闇が邪魔をしてくる。ノワールがわざわざ未来を怒らせたのも、これが狙いだった。
やがて意識は呑まれ、未来の姿をしたノワールが身体を縛っていた鎖を引きちぎり、ゆっくりと立ち上がる。
「……?なんのつもりだ貴様!」
「さあ未来くん、目の前には侵略者が二人、どうしようか?」
「裏切るつもりか!?」
狼狽えるババルウ星人とザラブ星人を見やり、ノワールは不気味な笑いを漏らす。
ノワールは未来の身体を操り、左腕にメビウスブレスを出現させた。
「くそっ……!」
直後、二人の宇宙人が身体を巨大化させ、廃墟の天井を貫いて外へと飛び出す。
頭上から落下してくる瓦礫を振り払い、ノワールは呟いた。
「…………メビウス」
黒い閃光が周囲を包み、禍々しい光のカーテンが広がっていく。
「…………ハァァァ……!」
赤い巨人が内浦の街の中に降り立ち、二人の宇宙人と対峙する。
(始めようか)
「ぐっ…………‼︎貴様ぁ!!」
背後から接近してきたババルウ星人だが、メビウスはそれを見ずに後ろへと蹴りを突き出す。
「うぐっ……!」
槍のような貫通力を持ったそれはババルウ星人の身体を容易く後方に吹き飛ばし、戦闘が困難になる状態まで弱らせてしまった。
「ひっ……!」
ノワールが操るメビウスの恐ろしさがザラブ星人の身体へ染み渡る。
彼はたまらず四肢をめちゃくちゃに動かして、逃走しようとメビウスに背を向けた。
(おや、逃げるのかい?)
徐々に距離を詰めながらメビュームブレードを展開するノワール。
それを見てついに腰を抜かしたのか、ザラブ星人は悲鳴を叫びながら悪魔の巨人を見上げた。
(ばいばい)
振り下ろされた闇の刃がザラブ星人の頭部を貫き、断末魔と共にその身体が爆散する。
「あああああああああ!!!!」
満身創痍なババルウ星人がまたも背後から殴りつけようと拳を繰り出してくる。が、ノワールはそれをいとも簡単に受け止めると、カウンターの膝蹴りを放つ。
(今までご苦労だったね。皇帝のために……、そしてボクのために死んでくれ)
「あ…………」
ブレードによる横薙ぎがババルウ星人の身体を両断し、四方に肉片を撒き散らしながら大爆発を起こした。
(くくく…………!はぁーはっははははははは!!!!)
『これ以上…………彼の身体を……!好きにさせてたまるかぁ!!』
(……?)
メビウスの体内から微弱な光が漏れ出し、身体から追い出されそうな感覚が走る。
(そうだ……、未来くんの身体を奪ったとしても、君がいることを忘れていたよメビウス)
『うっ…………!おおおおおおお!!!!』
これまでにないくらいの踏ん張りが闇を振り払い、未来の意識も少しずつ取り戻されていく。
(……しょうがない、”プランB”に移行しようか)
「ぐぁああっ!!」
バチィ!と弾かれたようにノワールと未来の身体が分離し、両者は側に海岸が見える道路へと放り投げられた。
『大丈夫かい!?』
「ゴホッ!げほっ!けほ…………ッ!」
激しく咳込む未来はボロボロだが、体内にノワールの気配は感じない。どうやら追い出すことに成功したらしい。
前方の数メートル先には黒ずくめの男が立ち膝で顔を伏せているのが見えた。
「はぁ……はぁ……!」
『計画は失敗に終わったみたいだな!』
表情の見えないノワールに向かってメビウスが勇ましく言い放つ。
「……ふふっ……!あははははははは!!!!」
「なにが、おかしい……!」
血の通っていない顔の未来が、唐突に笑いだしたノワールへ鋭い視線を向けた。
「ついに……!ついに手に入れたぞ……!」
ノワールの左手には眩い光が宿っており、それは奴の腕の上でゆっくりと固形物に形成されていく。
「それは……!」
「君の身体は奪えなかったけど、これさえあれば結果オーライだ」
ノワールの左腕には、未来のものとよく似た…………
「メビウスの力……その一部を頂いたのさ」
『そんなバカな……!』
「勝ち取ったんだよ!光の欠片と同等の…………、ウルトラマンの光を‼︎」
黒いメビウスブレスを掲げ、ノワールは黒霧に包まれてその場を去ろうとする。
「待てっ……!」
不安定な足取りでノワールを追いかけようとする未来だったが、数歩移動した時点で膝をついてしまう。
「さらばだ未来くん。次会う時は……君達の敵として現れるから、そのつもりでね」
後に残された未来は、抑えきれない悔しさを爆発させた。
「ノワール……!ノワール‼︎ノワール!!!!」
倒すべき敵の名前を、自らの胸に刻みつける未来。
その悲壮感を表すように、激しい波の音だけが周囲に響いていた。
◉◉◉
その夜。
未来の家を抜け出したメビウスが、月の光を写す海の前へと立つ。
その外見は誰が見ても人間の青年の姿をしており、もし人に目撃されても彼がウルトラマンだとはわからないだろう。
(……僕は彼と一緒にいてもいいのか……?)
以前から感じていた疑問が、ふと頭の中によぎる。
どんどん力を増していく怪獣達に、ノワール。
未来が共に戦うことを望んでいるとはいえ、やはりこのままというわけにはいかないのでは……?
(このままじゃ僕はともかく、未来くんの命が危ない)
これはメビウスが始めたことだ。
未来という少年に助けられ、今も一緒に戦っている。
……だが、出会った時とは違い、今はもうメビウス一人でも戦闘は可能だ。
未来という尊い命を犠牲にしてまで、メビウスは彼と一緒に戦うことは選びたくない。
「ん……?」
不意に空を見上げると、側に光の文字が漂っているのが見えた。
ウルトラサインだ。
その内容はーーーーーーーー
「光の国への、帰還命令……?」
ノワールの完全勝利……。
彼の思惑通りとなってしまった未来とメビウス。
そしてついに光の国への帰還命令が下され……?
今回の解説は黒いメビウスブレスについて。
メビウスの力の一部を奪ってノワールが再現した”闇のメビウスブレス”。その力は怪獣達の使役や、ノワール自身をも超人に変えることができる、といった能力です。
第二章ではこれを使ってノワールが様々な事件を起こすことになるでしょう。
今のところ明かせるのはこれくらいです。
そして次回。
普段僕はハッキリとした次回予告などはあまりしない方なのですが、今回は次回のサブタイトルを先に公開しておきたいと思います。
次回、第42話「鉄神の襲来」です。どうぞお楽しみに。