メビライブ!サンシャイン!!〜無限の輝き〜   作:ブルー人

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さて、今回から未来くんに辛い思いをしてもらいます。
そしてやっとあの人の登場です。


第39話 心の中の闇:前編

「それじゃあね。またいつか会いましょう」

 

「ほんとに行っちゃうの?」

 

コート姿のステラが旅館、十千万を出て行こうとするのを上目遣いで見つめる千歌。

 

「そんな顔しないで。きっと、もう一度会いに来るから」

 

「約束だよ?」

 

「ええ…………約束」

 

「身体に気をつけろよ」

 

以前ステラ自身から話された通り、彼女は宇宙警備隊からの頼みでアークボガールを対象にした操作任務へ行こうとしているのだ。

 

もちろん千歌達に本当のことは話してはいない。Aqoursのみんなにはステラが外国に引っ越しするという設定で話を進めた。

 

『ヒカリ……、君も気をつけて』

 

『ああ。メビウス、武運を』

 

お互いにテレパシーで言葉を贈り、メビウスとヒカリも覚悟を決める。

 

これから先、しばらくはステラとヒカリは地球を離れる。すぐに戻って来ることも不可能だ。

 

つまり、当分はメビウスと未来だけで地球を守ることになる。

 

(大丈夫だ……。俺達だけでやれるはずなんだ……!)

 

強張る未来の表情に気がついたステラは彼に駆け寄ると、顔を近づけて隣に立つ千歌に聞こえないほどの小さな声で耳打ちをした。

 

「……何か嫌な予感がするわ。わたし達が戻って来るまでに死なないこと、これが絶対条件よ」

 

「わかってる。……最近メビウスもなんとなく雰囲気を察知してるみたいだ」

 

夏祭りのライブが終わってから数日が経つ今。日に日に近づいてくる不気味な気配に、メビウスはまるで怯えているようだった。かくいう未来も恐ろしいことに変わりはない。

 

「今までお世話になったわ。次にここへ訪れた時も、この旅館に泊まらせてね?」

 

「うんっ!もちろんだよ!」

 

最後まで笑顔を絶やさなかったステラだが、未来とメビウスには彼女の不安が手に取るようにわかった。

 

 

◉◉◉

 

 

「おい、お前」

 

「んー?」

 

普段は人が寄りつかないような、静寂と暗闇に包まれた廃墟。

 

ババルウ星人は壁にもたれかかっているノワールにズカズカと音を立てて歩み寄り、やかましく抗議した。

 

「いつまでこんなカビ臭いところで待機させるつもりだ⁉︎」

 

「いや、別にここじゃなくてもいいんだけど……。君達、色々ややこしいこと起こしそうだから、できるだけ人目につかない場所にいたいんだ」

 

「そもそもなぜ待機命令なんだ!なんならベリアルが来やがる前にメビウスをぶちのめすことだって簡単なのによ!!」

 

刹那、気配すらも感じない速度で大砲の如き蹴りが繰り出され、ババルウ星人は一瞬で後方の壁に叩きつけられる。

 

ドゴォン‼︎と大きな音と共にコンクリートの破片と埃が舞い上がった。

 

「がはっ……!あ…………ッ……⁉︎」

 

「思い上がるなよ下等生物が。化けてコソコソするしか能のない君達に、”あの二人”が倒せるとでも?」

 

「おやおや、”君達”と一括りにされるのは少々気に障るな」

 

「おっと、そうかい?」

 

冷たい表情から一変、ノワールは緩めた口元を側にいたザラブ星人へと向けた。

 

「君こそ思い上がっているわけではあるまいね?我々がこの場に立っているのは、全て皇帝の(めい)であるが故のことだ」

 

「十分承知しているさ。でも忘れたかい?その皇帝くんが”ボクに従え”と言ったことを」

 

「ぬ……」

 

反論の言葉を出しかけて呑み込むザラブ星人から目を離し、壁にめり込んだままのババルウ星人へと視線を移す。

 

「君達はボクが駒として使った方が、エンペラの期待に応えられるというものだよ」

 

「ほう、君なら我々を上手く扱えると。そしてあのメビウスすらも倒すことができると」

 

「倒す…………か、少しニュアンスが違うかな。直接戦うのはボク達じゃないわけだし」

 

「ケッ!自分の失敗は棚に上げといてよく言うぜ!」

 

よろよろと起き上がってきたババルウ星人が、痛む身体をさすりながらノワールに迫る。

 

「テメェは今まで何度も作戦を失敗してるらしいじゃねえか。よくもまあそんなでかい口がきけたもんだな!」

 

「いやあ、それを言われると耳が痛い」

 

呑気に笑いながら頭をかくこの男からは、まるで緊張感というものを感じない。

 

まるでこれから行う企みは必ず成功する、と確信しているようだった。

 

「だからこそ君達の力を借りたいんだ、仲良くしようよ。……さっきは蹴って悪かったね、許してくれるかな?」

 

闇を含んだ笑顔を振りまくノワールは、凶悪な宇宙人であるはずのババルウとザラブが見ても狂気に満ちているものだった。

 

 

◉◉◉

 

 

「おーいみんなー!そろそろ休憩にしないかー!?」

 

「はーい!」

 

「疲れたぁ〜……!」

 

屋上でダンスのレッスンをしていた千歌達にタオルと水を配り、未来も塀に寄りかかって一息つく。

 

みんなのように踊っていたわけではないが、夏の暑さのせいで動かなくても喉が乾いてしまう。

 

「はい、未来くんも」

 

「ありがとう、曜」

 

「いつもみんなのサポートお疲れ様!」

 

段ボール箱から取り出したペットボトルを未来に渡し、敬礼のポーズを取る曜。

 

彼女は膝を折って地べたに座っていた未来の隣にやってくると、ゆっくりと身体を縮めていった。

 

「…………ねえ、未来くん」

 

「ん?」

 

「あっ……あのさ……」

 

キョトンとした顔で目を合わせてきた未来を見つめ、数秒後に一言。

 

「…………なんか付いてる」

 

「あ、ほんとだ、ごはん粒」

 

朝食に食べたお米が口元に付いてるのを指摘され、未来は慌ててそれを取り除いた。

 

「……じゃなくて!あのね!」

 

「えぇ⁉︎今度はなに⁉︎」

 

「だから……その……」

 

先日見てしまった光景を思い出す。

 

今目の前にいる少年が光に包まれ、ウルトラマンメビウスへと変身する瞬間を。

 

聞くべきなのだろうか。

 

彼はずっと、自分が光の巨人であることを幼馴染にすら打ち明けていなかった。

 

ーーーーそうだ。きっとこれは聞いちゃいけないことなんだ。

 

「……ぁ……」

 

「……?」

 

何か言いたそうに口をもごもごさせていた曜の後ろから、金髪の影が忍び寄る。

 

「なになにー?恋バナ?私にも聞かせてー!!」

 

「ちょっ⁉︎鞠莉ちゃん⁉︎」

 

「えっ⁉︎曜って未来のこと好きだったの⁉︎」

 

「果南さん!?!?」

 

新しく加わった果南と鞠莉は、時々このように悪ふざけでメンバーをいじり倒してくるのだ。

 

そしてその後は決まってーーーー

 

「あなた達!少しはしゃぎ過ぎではなくて⁉︎」

 

「わっ!オニババ!」

 

「なんですってぇ!?待ちなさい鞠莉さん!!」

 

キャーキャーと屋上を走り回る三人の少女を見て、みんな揃って面白がるような顔を浮かべる。

 

「随分賑やかになったものだ」

 

「ほんとにね」

 

やや呆れ顔の梨子だったが、すぐにその表情に明るさを取り戻す。

 

やがて弾かれたように未来が曜の方へ振り返った。

 

「で、何の話だっけ?」

 

「うぇっ⁉︎……えーと…………やっぱりなんでもないや」

 

「……?そうか」

 

こちらから未来の視線が外れた途端に顔を伏せる曜。

 

普段と違って元気のない様子の彼女を見て、梨子と千歌が心配そうに身を屈めて曜の背中に触れた。

 

「どうかしたの曜ちゃん?」

 

「熱中症かしら……」

 

「ううん!全然平気!」

 

余計な心配をかけてしまったと、曜はすぐさま立ち上がってピョンピョン飛び跳ねてみせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いいの?手伝わなくて」

 

「ああ。みんなは練習で疲れてるんだし、後片付けくらい俺にさせてくれ」

 

「じゃあ、お言葉に甘えさせてもらいます」

 

最後に残っていた一年生組三人を帰し、誰一人いなくなった部室で散らかっている物を整理していく。

 

今思えばこういう作業はほとんどステラがやっていてくれたんだな、と改めて彼女の存在の大きさを痛感した。

 

窓の外を見れば沈みかけの太陽がギラギラと燃えているのが見える。

 

「すっかり陽も長くなってきたな」

 

『…………』

 

「メビウス?」

 

呼びかけても反応がないメビウスに不安を感じた未来は、ふと夕日のさらに上の方に目を移した。

 

そこには、何か黒い物体が一つ。

 

「なんだあれ……?」

 

『…………!まさかッ……!』

 

「え?」

 

思考が追いつく前に、その黒い物体はミサイルのような勢いでこの近くの海へと落下していった。

 

直後、大地が割れたかのような地響きが未来を襲い、咄嗟に壁に手をつく。

 

「何なんだ一体!?」

 

『未来くん!外へ!』

 

「あ、ああ!」

 

脇目も振らずに部屋を飛び出し、先ほどの物体が落ちた場所がよく見えるところまで移動する。

 

海のど真ん中に落ちたのか。潮風が荒れ狂うように全身に当たる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんだ……あれ…………?」

 

言葉が出なかった。

 

……いや、空気でわかる。これは敵襲だと。

 

しかし、遠くに見える漆黒の塊を視界に入れた途端、なぜか身動きが取れなくなったのだ。

 

その理由はおそらく、()の見た目。

 

首から下はいかにも頑丈そうな黒い鎧に包まれており、右手に持つ槍は悪魔のような印象を与えてくる。

 

そして何より目にとまったのは…………

 

「ウルトラマン…………?」

 

その瞳はつり上がっており、口には牙のようなものまである。が、大まかな形状は光の巨人と酷似しているのだ。

 

『な……んだ……⁉︎なんだ……あいつは……⁉︎』

 

メビウスもあのウルトラマンのことは知らないらしく、ただただ戸惑うばかりである。

 

(でも、これだけはわかる)

 

ーーーーあれは、ヤバイ。

 

 

 

『未来くん!!』

 

「…………ッ‼︎」

 

青ざめた顔でメビウスブレスを出現させ、未来は走りながら左腕を天に掲げた。

 

「メビウーーーース!!」

 

 

◉◉◉

 

 

「…………キタ」

 

建物の上から漆黒の戦士が降り立ったことを確認したノワールは、抑えきれない興奮を表すように足踏みをしだす。

 

「やっと来やがったか」

 

「待ちくたびれたわ」

 

後ろで悪態をつくババルウ星人とザラブ星人には目もくれずに、ノワールは心を奪われたかのように漆黒の戦士とーーーー傍に見える光の少年を見下ろしていた。

 

「あはっ……!あははははははハハ!!ハッははハははハハハ!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「フッ…………!」

 

夕日を背に降り立ったメビウスは、前方に見える黒い戦士に目をやる。

 

立ち膝の状態で彫刻のように動く気配のないソレは、余計に未来とメビウスの恐怖を煽った。

 

(……生きてる……のか……?)

 

『………………ウルトラマン……なのか……な?』

 

おそるおそる、ジリジリと距離を詰めていくメビウス。

 

(…………おーい……)

 

『……寝てる……?』

 

何度呼びかけても返事がこない。それどころか一ミリたりとも動く様子もない。

 

(……一体なんーーーーーー)

 

その時だ。

 

奴の右腕がほんの少し持ち上げられ、持っていた槍の切っ先がメビウスの喉元に向けられたのだ。

 

『………………ッ!?』

 

(なっ……⁉︎)

 

 

 

 

 

 

 

ーーーー「バァーカ」

 

 

 

 

 

 

 

覚えているのは、両腕の燃え上がるような痛みと、()

 

赤黒い光線が目にチカチカと反射し、いつの間にか目の前の黒い鎧が立ち上がっていたことだけを理解する。

 

痛くて痛くていたくて痛くてイタくてイタクテイタクテ…………。

 

(あれっ……?俺、今…………)

 

ーーーー倒れてる?

 

 

 

 

冷たい海水に落ちていく感覚。

 

意識が途切れる瞬間、辛うじて見えたものは…………。

 

 

 

ーーーー楽しそうに笑う、黒いウルトラマンの姿だった。

 




ついに現れたウルトラマンベリアル。
未来達の命の恩人である彼が悪として立ちはだかった時、未来は何を思うのか……。
カイザーダークネス状態なので、アーリースタイルの姿しか見たことがない未来とメビウスはまだ気づいていないようですね。

さて、解説に参りましょう。

以前ザムシャーが登場した回で、メビウスと未来はまだステラやヒカリほど心を通わせることができていないと解説で話したと思います。
例えで”シンクロ”や”ユナイト”といった言葉を使いましたが、まさにそれらに関係するエピソードが今後展開される予定です。Xが登場するわけではありませんが(笑)。
今回から始まる未来の話は、いわば彼の強化イベントみたいなものです。
それに至るまでもう少し時間がかかるみたいですけどね……。
未来にのしかかる試練の数々にも注目です。

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