3話目です!
「それにしても、すごかったよね。昨日のアレ!」
「うん!悪い怪獣をえいっ!やあっ!とおっ!あっという間に倒しちゃうんだもん!」
「ウルトラマンかあ……。未来くんも見てたでしょ⁉︎」
平静を装いつつ窓の外の流れる景色を見ていた未来の身体が若干動揺するように揺れた。
顔が引きつっていないか心配しながらも、千歌と曜の方へ顔を向ける。
「あ、ああ、昨日のウルトラマンね。今朝のニュースでもその話ばっかやってたよな」
「かっこよかったよね〜!……でも、前に私達を助けてくれたのと違ったような……」
「そういえばあの時も来てくれたんだっけ。私は避難してて見れなかったんだけど……。千歌ちゃんと未来くんは、前にもウルトラマンに助けてもらったんだよね」
ーーーー以前ディノゾールがこの内浦に来た時に現れたウルトラマン。
体色はメビウスに似てるが、他の形状や技はメビウスと全く異なっていた。彼もウルトラマンということは間違いないはずなのだが……
(なあメビウス。前に地球に来たウルトラマンの名前って何なんだ?お前なら知ってるだろ?)
『それは…………』
何を渋っているのか、メビウスは言葉を詰まらせる。余計に気になった未来は、さらに後押しをした。
(あの人も、光の国からの使者だったんだろ?)
『……うん。でも彼は……もう……』
(なんだよ。勿体ぶらないで教えてくれよ)
自分達の命を救ってくれた、恩人の名前。ただそれが知りたかった。
今は自身がウルトラマンとなって戦う身。常にその恩人の名前を心に留めて置きたかったのだ。
『……ベリアル。それが彼の名前だ』
(ベリアル……、ウルトラマンベリアル、か。かっこいい名前だな!今はどうしてるんだ?)
『それが……』
まるで幼い子供のように胸を高鳴らせる未来とは反対に、メビウスの声はますます小さくなっていった。
『彼は僕よりも前に、地球を狙う侵略者と戦っていた。だけど……、彼はその宇宙人に敗れ、行方不明になってしまったんだ』
(なっ……!)
予想もしていなかった答えに、今度は未来が言葉を失う。呆気にとられている未来に、メビウスはさらに続けた。
『その宇宙人こそ、僕が力を失うことになった原因、エンペラ星人だ』
(エンペラ星人……)
『いずれ奴は、君の前にも現れる。その時には……』
(わかってる)
今の自分はウルトラマンメビウス。この地球を守れる唯一の存在だ。
どんな宇宙人や怪獣がやってきても、必ず勝つことが使命。例えそれが、ウルトラマンベリアルを倒したエンペラ星人でも。
(俺が……やらなくちゃならないんだ)
◉◉◉
「もう一度?」
「うん!ダイヤさんのとこ行って、もう一度お願いしてみる」
「でも大丈夫なのか?部員はまだ……」
「諦めちゃダメなんだよ!あの人達も歌ってた!”その日は絶対来る”って!」
浦の星学院の生徒会長、黒澤ダイヤ。
彼女はいかにも真面目、といった雰囲気で、スクールアイドルのようなものは嫌いと噂で聞いたことがあった。
やはり先日部活申請に行った千歌は追い返されたらしい。
「ふふっ……。本気なんだね……よっ!」
「あ!ちょっと!」
千歌の持つ申請用紙を奪い取る曜と、ほんの少し怒ったような表情をつくる千歌。
「私ね、小学校の頃からずーっと思ってたんだ。千歌ちゃんと一緒に夢中で、何かやりたいなーって」
「曜……?」
「だから!水泳部と掛け持ちーーだけどっ!はい!」
曜はいつの間にか取り出していたペンで申請用紙に自分の名前を書き、それを両手で千歌へと手渡した。
「曜ちゃん……!曜ちゃあん!」
「く、苦しいよ〜」
大袈裟に曜を抱きしめる千歌。……こんなことができるのも女子同士だからだろうか。
「よかったな千歌。これで部員は二人!」
「え、二人ぃ?」
「へ?」
曜は目を細めてジリッと未来へと詰め寄ってきた。思わず半歩引く未来だが、さらに曜は歩み寄ってくる。
「未来くんは入らないの?スクールアイドル部」
「はいぃ?いや俺男なんだけど……」
「マネージャーとしてなら、問題ないでしょ?」
「いやでも……」
「未来くんも入ってくれるの⁉︎」
一気に顔を近づける千歌に圧倒され、未来はついに承諾の言葉を口にしてしまう。
「わ、わかったよ……入るよ」
「やったぁ!ありがとう二人共!」
嬉しそうに無邪気な笑顔を見せる千歌に、曜と未来は自然と暖かい笑顔になっていった。
『未来くんて、千歌ちゃんって子に対しては甘いんだね』
(……うっさい)
◉◉◉
「お断りしますわ」
申請書を渡されて、ダイヤが最初に放った言葉に、三人は肩をすくめずにはいられなかった。
「やっぱり、簡単に引き退ったらダメだって思って!きっと生徒会長は、私の根性を試しているんじゃないかって!」
「違いますわ!何度来ても同じとあの時も言ったでしょう⁉︎」
「むぅ……!どうしてです!」
「この学校には、スクールアイドルは必要ないからですわ!」
「なんでです!」
机を挟んで身を乗り出すダイヤと千歌。顔を近づけてそう主張する二人の姿には、どちらにも譲れない何かを感じた。
「あなたに言う必要はありません!だいたい、やるにしても曲は作れるんですの?」
「きょく?」
「……ラブライブに出場するには、オリジナルの曲でなくてはいけない。スクールアイドルを始める時に、最初に難関になるポイントですわ」
(妙に詳しいな……)
ラブライブーーとは、いわゆるスクールアイドルの大会といったところだ。自分達のダンス、曲。スクールアイドルとしての実力を競い合う舞台。
「東京の高校ならいざ知らず。うちのような高校では……そんな生徒は……」
曲がなければダンスもできない。スクールアイドルを始めるどころじゃない。
「作曲か……」
『そんなに大変なことなのかい?』
(そりゃ、まあアイドルは曲に合わせて踊るもんだし……。ウルトラマンに馴染みがあるかはわからないけど)
『へえ。一度僕も見てみたいな』
(申請が通らなきゃどうしようもないな……)
◉◉◉
「一人もいなぁい……。生徒会長の言う通りだったぁ……」
「大変なんだね。スクールアイドル始めるのも」
「男子も全然だったよ……」
教室の机に突っ伏して脱力している三人。
やはり浦の星みたいな田舎の高校では、作曲ができるくらい音楽に精通している生徒など見つからないのか。
「うぅ〜こうなったら!私が!なんとかして!」
小さい子供向けの音楽本を取り出して熟読し出す千歌だが、それで作曲ができる頃には既に卒業を間近にしているだろう。
「はーい皆さん。ここで、転校生を紹介します」
担任の教師がそう言うと、一気に教卓へと生徒達の視線が引き寄せられる。
ざわめき始めた教室のドアを開けて入ってきた長髪の少女を見た瞬間、未来と千歌は思わず「あっ」と小さな声を上げた。
「今日からこの学校に編入することになったーー」
バレッタで留めてあるハーフアップの髪が揺れる。
清楚な雰囲気が漂う彼女は、静かに口を開いた。
「東京の音ノ木坂という高校から転校してきました。桜内梨子です、よろしくお願いします」
(昨日の……)
「奇跡だよっ!」
唐突に席を立ち上がった千歌は梨子へ手を伸ばし、思いもよらぬ偶然ーー否、奇跡を喜んだ。
「あ、あなた達は!」
千歌と未来に気付いた梨子も驚きの声を上げる。
ーーーー全てが、始まる瞬間だった。
「一緒に、スクールアイドル、始めませんか⁉︎」
千歌の問いに、梨子は暖かな表情を浮かべた後、落ち着いた声音で言った。
「ごめんなさいっ」
◉◉◉
「なに……⁉︎皇帝から⁉︎」
「はい。一旦地球から離脱しろとの命令が出ています。なんでも”ボガール”が近づいているとのことです」
「まさか奴の仕業か……?四天王を追放されても、我々の邪魔をするとは……!」
「とにかく面倒な事態なのは明らかです。皇帝も様子を見ようとお考えでしょう」
「奴がやってくるということは……当然あのウルトラマンも現れるはずです。ボガールを追ってね」
内浦の上空を飛行している宇宙船は軌道を変え、空高くへと昇っていった。
「どうか我々が手を下す前にやられぬようお願いしますよ……ウルトラマンメビウス」
できるだけ早めにツルギを出したいなーとは思っています。