最後のサンシャイン9話パートです。
最後のメンバー加入回であると同時に、今作においては第一章最大の盛り上がりの前の溜め回でもあります。
「だから!東京のイベントで歌えなくって!」
「その話はダイヤさんから聞いた。けど、それで諦めるような果南ちゃんじゃないでしょ?」
「そうそう!千歌っちの言う通りよ!だから何度も言ってるのに!」
ほとんど強制的に部室に連れてこられた果南、鞠莉、ダイヤ。
三人に過去の出来事についての詳細を尋ねているのだが、当の本人が頑なに口を割ろうとはしないのだ。
「なにか事情があるんだよね?」
腕を組んで黙り込みを決めている果南に顔を寄せ、千歌はなんとか果南の真意を探ろうとしている。
「……ね?」
「そんなものないよ。……さっき言った通り、私が歌えなかっただけ」
先ほどから質問に同じことを繰り返す果南。それを見て、ついに千歌が頭を抱えてしまった。
「うぅー!イライラするぅーーーー‼︎」
「その気持ちよぉーくわかるよ!ほんっと腹立つよね、コイツ!」
「勝手に鞠莉がイライラしているだけでしょ?」
完全に千歌の味方と化した鞠莉が横で果南に人差し指を向けた。
しかしここまで強引に話を聞こうとしても応じない果南も強情だ。ただ、やはり彼女がスクールアイドルを辞めた理由は別にあると踏んでいる千歌は、諦めず押し続ける。
「でも、この前弁天島で踊っていたような……」
ルビィにそう指摘された途端に顔を赤く染める果南。そこへすかさず鞠莉が追い打ちをかける。
「おぉ!赤くなってるー!」
「うるさい!」
「やっぱり未練あるんでしょー?」
そこで唐突に席を立った果南が鞠莉を見下ろし、目をつり上げて言い放った。
「うるさい。未練なんてない!とにかく私は、もう嫌になったの!スクールアイドルは……、絶対にやらない」
果南はそう言い残して部室を去ってしまった。
未来は辺りを見渡し、さっきから千歌達の会話を傍観していたダイヤに目がとまった。
「あの、会長」
話を向けられるのを予想してなかったのか、ダイヤはギョッと目を見開いてこちらに振り向く。
「会長は何か知りませんか?」
「え⁉︎わ、私は何も……」
「ほんとに?」
「……………………ッ!」
「あ!逃げた!」
「確保!!」
「俺がか⁉︎」
周囲の視線がダイヤへと集中し、たまらず逃げ出そうとする彼女を取り押さえる未来。
(おっ……と。加減しないと……)
「ピギャアァァアァァア…………‼︎」
ルビィそっくりの悲鳴を上げるダイヤを見てジトっとした目を彼女へ向けるAqoursのメンバーであった。
◉◉◉
「わざと⁉︎」
やっと折れてくれたダイヤから詳しい話を聞くために、千歌達は黒澤家へと招かれた。
そこで新たに判明した事実が、果南は”歌えなかった”のではなく”わざと歌わなかった”というものだった。
「どうしてそんなことを…………」
「……鞠莉さんのためですわ」
「私の?」
「覚えていませんか?あの日、鞠莉さんは怪我をしていたでしょう?」
もしライブを続けていたら、怪我の悪化どころか事故も起きる可能性があったほど危険な状態だったらしい。
だからこそ、果南は歌わなかったのだという。
「じゃあ果南さんは、鞠莉さんを気遣って……」
「でもそのあとは?」
「そうだよ。怪我が治ったら、続けてもよかったのに……」
今回千歌達がそうだったように、東京のイベントが終わった時期には花火大会だってある。そこでもアピールのチャンスはあったはずなのだ。
「心配していたのですわ。……あなた、留学や転校の話がある度に全部断っていたでしょう?」
「そんなの当たり前でしょ!?」
雨が窓に打ちつけられ、低い音が聞こえる中、鞠莉の悲痛な叫びが部屋に染み渡る。
「果南さんは、思っていたのですわ。自分達のせいで、鞠莉さんから未来の色んな可能性を奪ってしまうのではないかって……」
「まさか……それで……」
不器用な少女達の、不器用な気遣い。
すれ違う二人をずっと見守っていたダイヤから語られる言葉が、未来達にも重くのしかかっていった。
不意に部屋を離れようとする鞠莉
「どこへ行くんですの⁉︎」
「……ぶん殴る!そんなこと、一言も相談せずに!!」
「おやめなさい。果南さんはずっとあなたのことを見てきたのですよ。……あなたの立場も、あなたの気持ちも。……そして、あなたの将来も」
ーーーー誰よりも考えている。
気づけば身体は、走り出していた。
果南はちゃんと伝えていた。
それが通じなかったのは…………自分が気づかなかっただけ。
(果南…………!果南……!!……果南!!)
黒い雨雲が空を覆い、鞠莉に試練でも与えるかのように雨粒が容赦なく全身に当たる。
「行かないと……!果南のところに!」
そう呟いたのも束の間、鞠莉は目の前に人影があることに気づき、思わず足を止めた。
ソレがただならぬ雰囲気をまとっていることを理解すると、自然と半歩後ろに下がる。
「やあ」
「……だ、だれ?」
全身黒の怪しい男がゆっくりと距離を詰めてくる。
「まさかこんなチャンスに巡り合うなんて。……負の感情が、胸の中に蠢くその身体。今ならもし光の欠片が発現しても邪魔されることはないだろう」
「なっ…………!」
男は自分の身体を黒い霧へと変化させ、目で追えないほどのスピードでこちらへ迫ってきた。
「うぐっ……⁉︎」
鞠莉の口から体内へ侵入してくるそれは、みるみる身体の自由を奪っていく。
「……くはっ」
やがて不気味な笑い声が漏れ…………、鞠莉の意識はそこで途切れた。
「…………上手くいった。さあ、おいでゼットン」
雨雲の中に展開された異次元空間から、一体の巨大な影が降ってくる。
電子音にも聞こえる鳴き声と共に、ソレは現れた。
「ゼッ…………トォ……ン」
宇宙恐竜ゼットン。
ノワールが知り得る怪獣の中でも上位の強さを誇るものだった。
大雨に打たれながらも、鞠莉の身体を乗っ取ったノワールが巨大な人形の怪獣へと歩み寄る。
「ほんとはお楽しみに取っておくつもりだったんだけど……、皇帝くんからあんな素敵なものをもらったんだ、ここでカードを切っても問題ないよね?」
姿は違えど、その異様な不気味さは内面から滲み出してくる。
黒い悪意はその口から高笑いを響かせた。
「今の音は⁉︎」
「あ、あれ!!」
突然走り出した鞠莉を追っていた千歌達が足を止め、前方にそびえ立つ巨大なシルエットを指す。
「怪獣ずら⁉︎」
「は、早く避難を!」
皆が慌ただしく後退しようとする中、ダイヤが何かに気がついたように前へと向き直った。
「鞠莉さん……、鞠莉さんがあっちに!」
「ちょっ……⁉︎会長⁉︎……ダイヤさんちょっと!!」
ゼットンがいる方向へと駆け出したダイヤへ手を伸ばすが、その手は空を切ってしまう。
「まずい…………ッ!」
『行かないと……!』
(わかってる!でもここじゃダメだ……!)
すぐ側にはまだ避難を終えていない千歌や曜、Aqoursのメンバーがいる。そんな中で堂々とメビウスに変身などできるわけがない。
(くそっ……!いっつも出てくるタイミングが悪いんだよ!)
『あの空のゲート……、またノワールの仕業なのか……⁉︎』
(そうに決まってる!あの野郎……!)
ダイヤが反対方向へ走って行ってしまったことに戸惑い、立ち止まっている千歌達。
「俺がダイヤさん達を連れ戻してくる!お前達は先に逃げろ!」
「また一人で……っ!待って未来くん!私も!」
千歌の伸ばした腕が未来に届くことはなく、遠ざかっていく背中を彼女はただ見ていることしかできなかった。
咄嗟に今やるべきことを判断した梨子が千歌の腕を掴み取り、真逆の方向へと引く。
「苦しい……苦しいけど……!ここは、未来くんを信じましょう」
苦渋の表情でそう言う梨子も、全身を震わせている。
「でも……!」
千歌が言い終わる前に、彼方から飛来した火球が数メートル離れた場所に衝突し、同時に爆音が耳に飛び込んできた。
「きゃあっ!!」
「ルビィちゃん!」
「……ッ!」
自分のわがままでみんなを危険に晒すなんてことはできない。
千歌はぐっと言葉を呑み込み、ゼットンとは反対の方向へと走り出した。
…………その後ろ姿が見えるのは、千歌を含め五人。
一人欠けていることに気付いたのは、避難を終えた後だった。
◉◉◉
「鞠莉さん!」
「……?」
今も火球を放ち続けているゼットンの傍に立つ金髪の少女の元に辿り着いたダイヤだったが、彼女の様子に異様な何かを感じ取り、咄嗟に立ち止まる。
「ハロー、ダイヤ」
「あ、あなた…………誰ですの?」
「あれ……?バレちゃった?」
後ろで手を組み、狼狽えるダイヤを面白がるようにステップを踏むノワール。
「やっぱり……、人間は稀に予想外のことを起こしてくれるから興味深い」
「ま、鞠莉さんの身体を返しなさい!」
「頼むよ〜!ボクにも色々事情があるんだ。人助けだと思って、諦めてくれない?」
「はぁ……⁉︎勝手なことを……!」
「諦めてくれないなら、こうするしかないからさ」
「え……っ?」
ノワールが鞠莉の小さな手を操り、パチンと軽く指を鳴らす。
次の瞬間、それに従うかのようにこちらを振り向いたゼットンが灼熱の火炎弾を放とうと構えてきた。
「ひっ…………!」
迫る火球を視認し、時間がゆっくり流れているような感覚に陥る。
しかし火炎がダイヤを呑み込もうとした直前、眩い光に包まれた少年が猛スピードで突っ込んでくるのがノワールには見えた。
攻撃が着弾する前にダイヤを抱え、人間では考えられないほどの速度でその場を離れる。
「大丈夫ですか⁉︎」
「み、未来さん…………⁉︎どうして……」
「掴まって!」
「きゃあっ!?」
ゼットンの火球が届きにくい場所まで疾駆し、ダイヤを降ろす。
この状況の中でメビウスの力を頼らずにダイヤを助けるのは不可能に近い。変身は避け、高められた身体能力だけを駆使してダイヤを救出した未来だったが……。
(ああ……誤魔化すのめんどくさいなあ……)
「い、今のは……」
「理事長は俺に任せてください。ダイヤさんは避難を」
「い、いいえ!私も行きますわ!鞠莉さんがあんなことになって……放っておけるはずが……!」
「ああもう‼︎いいから逃げてくださいよ!!」
友達思いな彼女だからこその行動であるが、彼女が側にいては自由に戦えもしない。
『少し眠っててもらうね』
「え?」
メビウスが発した催眠波がダイヤの頭部に送られ、数秒で彼女は深い眠りに落ちてしまう。
「ほんと便利だなあ、ウルトラマンの力って」
『さあ、これで思う存分!』
「ああ、戦える!」
左腕に出現させたメビウスブレスのサークルを回転。光の巨人の名前を叫び、ウルトラマンへと変身する。
「メビウーーーース!!」
誰も見ていないと確信していた未来。
だが彼がメビウスへと姿を変える瞬間を目撃していた者が一人、物陰に隠れていることには気付かなかった。
「…………今のって…………」
逃げずに未来の後を追っていた、渡辺曜の姿がそこにあった。
天から降りてきた光のカーテンと共に登場したメビウスが、ゼットンを後ろから押さえつける。
「危なかったね、あと少しでダイヤちゃんは死んでいたよ」
ゼットンの攻撃を回避しながら拳を打ち込むメビウスを見上げた後、ノワールはゆっくりと道路を歩き出した。
「ゼッ……トォオ……ン」
「ウアアッ……‼︎」
ゼットンの防御力に苦戦を強いられるメビウスを見て、眉をひそめる。
「おいおい、どうかこんなところで死なないでおくれよ。君にはとっておきのサプライズを用意してるんだからね」
何度殴ってもそのタフな身体に弾かれる。防御の姿勢すらとっていないはずなのに、ゼットンは止まることなくメビウスへと反撃してくるのだ。
(こうなったら……!)
メビュームシュートで一気に勝負を決めようとする未来。
増幅されたエネルギーがメビウスの輪を描き、十字に組んだ手から放たれた光線がゼットンへと殺到した。
(なにっ…………⁉︎)
光線を両腕で受け止めたゼットンが、ソレを体内に取り込むようにして吸収を始めた。
直後、突き出されたゼットンの腕から同じような光線が放たれる。
(あぶなっ…………‼︎)
ギリギリのところで回避しようとするも、肩を掠めてしまった。
『ダメだ!光線技は使えない!』
(どうすりゃいいんだよ!!)
振りかざされる豪腕を受け止めるが、すぐに下から叩き込まれる蹴りを防御しきれずに吹き飛ばされる。
(飛び道具がダメなら……!)
左腕にあるブレスからメビュームブレードを伸ばし、ゼットンへ肉薄すると同時に肩に刃を突き立てようと迫った。
が、なんとゼットンはそれすらも防ぐバリアを展開し、惜しくも斬撃は跳ね返されてしまう。
(はあ!?)
『隙がなさすぎる……‼︎』
「ゼッ……トォ……ン……」
光線は吸収される。斬撃もバリアで通じない。今まで装甲が硬い怪獣とは戦ってきたが、ここまでこちらの攻撃を防ぎきる奴は初めてだった。
攻撃が通る可能性があるとすれば、バリアが張られていない隙を見つけての至近距離攻撃か、メビュームダイナマイトくらいだろう。
(これは……本格的に殺しにかかってるのかもな……)
「もう……!こんな立て続けに怪獣が出てくるなんて……!」
慌てて店を飛び出してきた果南が逃げ惑う人々の中に混ざり、ゼットンからできるだけ離れようと走る。
(みんなちゃんと避難できてるかな……。ダイヤは……、鞠莉は……無事だよね……?)
頭の中で何度も彼女達の無事を祈り、海岸沿いの道を駆け抜ける。
「……ん?」
浦の星学院へ続く坂道に人影が登っていくのが見え、果南はふと足を止めた。
その後ろ姿が金髪の少女であることを視認した直後、弾かれたように地面を蹴る。
「鞠莉!!」
「うん……?」
鞠莉の姿をしたノワールは立ち止まり、駆け寄ってきたポニーテールの少女へ目を向けた。
「何やってるの⁉︎早くここから逃げ…………」
『……果南……?』
意識を失っていたはずの鞠莉が奥底で目覚め、果南の頭の中に声だけが響いてくる。
「……えっ?……ま、鞠莉?」
目の前にいる少女が鞠莉の姿をした別のモノであることを察した果南は、わけもわからずその場で硬直してしまった。
一方ノワールはダイヤに続いて自分を見破った果南を、鋭い目つきで睨む。
「……ああ、まったく人間というものは予想外なことばかり起こす。……君は危険だ」
「わっ!?」
片手から放出された闇の波動が果南を吹き飛ばし、彼女が倒れ伏すのを確認した後で、ノワールは背を向けて踏み出す。
「邪魔しないでくれるかな。……だいたい君達はもう友達でもなんでもないんだろう?」
「なにを……言って……!」
立ち上がろうとする果南に若干の苛立ちを感じ、彼女の元へ振り返り歩み寄る。
「だってそうだろう。君は鞠莉ちゃんに散々酷いことを言ってきたじゃないか。今更身の心配なんておかしいと……ボクは思うけどね」
「違う……ッ!私は……ほんとは……!鞠莉との決別なんて望んでなかった…………!」
『果南……‼︎』
ほんの一瞬、体内から追い出されそうになる感覚。
鞠莉が目覚めたことによって、この身体を維持することも楽ではなくなったのだ。
「…………何もかもが……誰も彼もが……!ボクの邪魔ばかりしやがって!!」
今まで見せたことのない怒号を吐き、ノワールは横になっている果南の腹部を蹴り飛ばす。
「うっ……!」
『果南!……お願いもうやめて!!』
「黙れ……!騒ぐな……ッ……くっ……」
果南の影響か、鞠莉の反抗が予想していたよりも大きい。
元から存在していた精神を乗っ取ることは容易ではなく、こうなってしまえば再び支配することは難しい。
「……それは……っ……鞠莉の身体だ……!」
「……こいつ……」
「あなたがどこの誰かは知らないけど……!見過ごすわけにはいかないの……‼︎」
「こんなチャンスを……!逃すわけには……‼︎」
ボロボロになりながらも距離を縮めて来る果南。彼女がこちらに近づいて来る毎に、鞠莉の精神がノワールを追い出そうとしているのがわかった。
「ごめんね鞠莉……、ずっと……自分勝手で…………ほんとに、ごめん……っ!!」
一歩、力強く踏み出す。
「私はずっと鞠莉のことを思ってた‼︎」
『…………ッ!私だって!あの時歌えなかった果南を……放っておけるはずがない!!』
今まで黙っていた本音を、お互いにぶつけ合う。
『私が果南を思う気持ちを……甘く見ないで!!』
「そんなの……言ってくれなきゃ……わからないよ‼︎」
やがて二人の間の距離がゼロに等しくなった時、鞠莉の身体から徐々に黒い霧が排出されていくのが見えた。
「うっ……!ぐうっ……!」
もはや支配しているのはノワールの方ではなくなっていた。
完全に身体の制御は鞠莉の意識下に置かれ、少しずつ黒霧が外に出ていくのを眺めることしかできないでいる。
「鞠莉……」
初めて会った時のことを思い出す。
内浦に鞠莉がやってきた時、真っ先に彼女に友達になろうと近づいた、二人の少女。
『ハグ…………
…………しよ?」
細い身体に果南の腕が回され、爆発したような感情の波がノワールを襲う。
「ぐっ……!ああぁぁああああぁああ!!!!」
元の黒ずくめの男の姿となり、鞠莉の身体から吐き出されたノワール。
鞠莉を抱き寄せている果南から発せられる輝きを目の当たりにし、ノワールは何が起こっているのか理解した。
「……やはり君も……光の欠片を……!」
たまらずその場から逃げ出そうと、ノワールは瞬時に闇の中へと姿を消してしまった。
「……ははっ、やっぱり敵わないなあ、君達には」
(…………⁉︎)
『様子がおかしいね……』
先ほどから対峙していたゼットンだが、突然痺れたように身体を痙攣させ、動きを止めてしまったのだ。
(この感じ……キングジョーブラックの時と同じ……)
『未来くん!今だ!!』
(ああ!)
「ハァァァアアア…………!」
メビウスブレスにエネルギーを溜め、炎の渦を左腕にまとう。
「セヤァッ!!」
ゼットンの腹部に隕石さながらの威力が備わった拳が炸裂し、貫通した炎が背中を貫いて奴を空中へ放り出す。
(動きが止まった今…………!)
『バリアは関係ない!!』
光の刃をブレスから展開し、上空にいるゼットンへ切っ先を向けながら地を蹴った。
「セヤアアアアアアア!!」
増幅された力でメビュームブレードが振りぬかれ、ゼットンの身体を真っ二つに両断せんと迫る。
(おおおおおおおおおおお!!!!)
奴の硬い皮膚へ、腕に痛みが走るほどの力でブレードを押し込み、ついにはその黒い身体が天の中で切り裂かれた。
「ゼッ……トォオ……ン…………‼︎」
鳴き声を上げながら闇の中へと爆散していく宇宙恐竜。
メビウスが海の中に着地した時には、先ほどの一撃によって生まれた圧により雨雲が一直線に割れていた。
◉◉◉
ーー未熟DREAMERーー
ダイヤ、果南、鞠莉。
三人の問題を解決したAqoursのメンバーは、無事夏祭りのライブを行うことに成功した。
二年ぶりに衣装を着た三年生達が、鮮やかにステージ上を歌と踊りで染め上げていく。
「……これはこれで、美しいものだね」
夜空に打ち上げられる花火を遠目で眺めながら、ノワールは脱力した身体を側にあった木に預けた。
「これでボクにはもう、一つしか選択肢は残されていない」
黒い双眸が向けられているのは間違いなくステージの上に立つ九人の少女達だが、ノワールは彼女達のことなど
「君はどんな輝きを見せてくれるのかな……?未来くん」
地球に迫る、一筋の流星。
人の肉眼では見えることはあり得ない遥か彼方から、暗黒の鎧が飛来してくるのが、ノワールには見えていた。
その矛先が未来へと向けられる……⁉︎
メビウスへの変身を目撃してしまった曜は……⁉︎
そしてついに地球へ降り立つあのお方……⁉︎
と、色々と気になる要素を詰め込んだ話でした。
次回からしばらくオリジナルのシナリオとなりますので、ご了承を。
さて解説へ。
今までノワールが使役してきた怪獣達は、ほとんどが自分で用意したものです。
ある時は他の次元からイメージを借り、またある時は小説の中の存在を媒介に出現させたりと色々やってきた彼ですが、前回チラッと出てきた例のロボットはエンペラ星人直々に授かったものなので、オリジナルのソレと変わらない性能を持っていることでしょう。
つまり何が言いたいのかというと、単純に強いです。
しかしやって来る脅威はそれだけではありません。この先未来がまず戦うことになる相手は、彼の恩人でもある…………。
それでは次回をお楽しみに。