メビライブ!サンシャイン!!〜無限の輝き〜   作:ブルー人

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最近オーブをレンタルで最初から視聴しなおしてます。
やはり面白い……。


第37話 塗り潰された思い出

「ルビィが聞いたのは、東京のライブが上手くいかなかったっていうくらいで……。それから、スクールアイドルの話はほとんどしなくなっちゃったので……」

 

部室で練習着のまま席についているAqoursの面々が、細々と語るルビィを見やる。

 

ダイヤの妹である彼女ならば、あの三人の過去を何か知らないか探りを入れてる最中だった。

 

「ただ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「”逃げたわけじゃない”……?」

 

ルビィが耳にした話を聞くと、果南がスクールアイドルをやめる決定打になった理由は東京のイベントとは思えなかった。

「確かにダイヤさんがそう言ってたのか?」

 

「はい、鞠莉さんも一緒でした。……二人とも怖い顔で……」

 

二人が果南のことで話している場面に出くわしてしまった彼女が聞いた話の中では、果南はスクールアイドルから逃げたわけではない……。

 

「…………ん」

 

ふと横を向くと、引き締まった表情の千歌の顔が目に入る。

 

彼女は顎に手を当て、考える様子を見せた後で一言。

 

「……よしっ決めた!明日、果南ちゃんの尾行を実行します!」

 

「尾行?」

 

「うん。果南ちゃんはほぼ毎朝ランニングで出て行くはずだし……、その時にみんなでーーーー」

 

「そ、そこまでするのか⁉︎」

 

「だってこのままじゃモヤモヤするんだもん!果南ちゃんに何があったのか……ハッキリさせないと!」

 

いつになく張り切った様子で他のメンバーに目配せする千歌。多少強引な手段でも、果南のことを知るためならば何でもやるといった顔だった。

 

「未来くんは気にならないの?」

 

「そういうわけじゃないけど……」

 

むやみにあの三人の問題に首を突っ込むのはなぜか気が引けるのだ。どうもこの件に関しては自分の出る幕じゃない気がしてならない。

 

未来は詰め寄る千歌の顔を避けながら、弱々しい声で言った。

 

「……わかったよ」

 

「みんなもいい?」

 

パッと振り向いた千歌に反応するように、曜、梨子と連鎖するように首を縦に振った。

 

「それじゃあ明日の朝、早速やるよ!」

 

おー!と腕で天を突く千歌に、少し遅れて未来達もばらばらに腕を突き上げた。

 

 

◉◉◉

 

 

「いやあ、ありがとう。君には世話になってばっかりだ」

 

エンペラ星人が住まう漆黒の宇宙船、ダークネスフィア内部。

 

「人材だけじゃなく、こんなものまで用意してくれるなんてね!」

 

ノワールは暗闇にそびえ立つ一機の巨大なロボットを見上げた。両肩に取り付けられている砲台が黒光りし、無機質な印象を与えるソレは、ただ戦うために作られた戦闘マシンである。

 

「装置を壊されない限り無限に再生する仕組みか……。いい感じにエグいね」

 

「他に必要なものは?」

 

「いいや、これだけあれば十分だ。本当に感謝してるよ」

 

漆黒のマントをなびかせて自分を見下ろす暗黒の皇帝。今まで怪獣を使役できたのも、ほとんどは彼の協力のおかげだ。

 

「何かお礼がしたい。……目的を果たした後で、君の傘下にでもつくかな?」

 

「……好きにしろ」

 

「じゃあ好きにさせてもらおうかな」

 

日々ノ未来の身体を奪うことができれば、ノワールの目的は果たされる。

 

その後はいずれ宇宙を支配する可能性を持ったエンペラ星人の陣営に味方した方が都合がいいのではないか?という考えだ。

 

(まあ、ぶっちゃけボクにはどうでもいいことだけど)

 

光さえ手に入れば、後はどうでもいい。星が滅んでも、宇宙が無くなっても構わない。

 

…………自分さえよければそれでいいのだ。

 

「さて、役割分担といこうか」

 

不意にノワールが振り返り、手を叩いて周囲にいた者達の視線を集めた。

 

右からベリアル、ザラブ星人、ババルウ星人と並んでいる。

 

「まずベリアル。君は指示があるまで好きに暴れていい」

 

「ハッ!元からそのつもりだ」

 

血気盛んなのはいいが、出された命令には従ってほしいところだ。

 

ノワールは微笑を浮かべたまま、ベリアルの隣に立つザラブ星人へと人差し指を突き出した。

 

「君は”()()()”」

 

続いてさらに右へと指先を移し、ババルウ星人へと向ける。

 

「君は”()()()”だ」

 

いつになく気味の悪い笑みを滲ませるノワールに、その場にいた暗黒の皇帝ですら若干の寒気を感じるほどだ。

 

「君が親思いな子でよかったよ、未来くん」

 

 

◉◉◉

 

 

「大丈夫かな……?バレてないよね?」

 

「たぶん……」

 

早朝。ランニングへ向かった果南の後を追うAqoursのメンバー。

 

全員で固まっているせいで、少しでも後ろを振りむかれたらすぐにバレてしまうだろう。……が、果南も走ることに集中しているのか、こちらに気づく様子は見られない。

 

まだ気温が低い街中を、静かに駆けていく。

 

「それにしてもすごい体力だな……。息切れ一つしてないなんて」

 

「前から思ってたけど……っ!果南ちゃんのフィジカル……ちょっと異常だよ……!」

 

酸素を取り込みながら途切れ途切れに言葉を繋いでいく千歌。ふと周りを見れば、死にそうな顔で足を動かしている花丸やルビィが視界に入る。

 

「ま、マル……もうダメずら…………」

 

「花丸ちゃん⁉︎」

 

血が通ってない顔で弱音を吐き始める花丸に、ルビィが駆け寄って背中をさする。

 

一方遠くの方に見える果南の背中は、とても活き活きした雰囲気を感じ取れた。

 

『楽しそうだね』

 

(ああ……。千歌の言う通り、スクールアイドルを諦めた人には見えない)

 

しばらくして神社の階段を登りだした果南を見失わないように、必死に千歌達も噛みつくように後を追う。

 

四肢を動かしながら思考を巡らしている中、未来は不意に傍らにあった林に視線を移した。

 

 

 

 

 

 

 

 

「………………ッ……!?」

 

「未来くん?」

 

思わず足を止め、未来は何もないはずの茂みをジッと見つめている。

 

やがて同じように立ち止まった曜が、心配するように顔を覗き込んできた。

 

「どうかしたの?」

 

「みんな、ごめん。先に行ってて」

 

「えっ……⁉︎急にどうしたの⁉︎」

 

突然地面を蹴った未来は、一直線に先ほどの林の中へ突っ込む。

 

視界を塞ぐ雑草を掻き分け、確かに見えた一瞬の光景を思い出す。

 

『未来くん……?何かあったの?』

 

「そんなはずない……!何かの間違いだ…………ッ‼︎」

 

メビウスの問いには答えず、ただ同じ言葉を繰り返し呟いている。

 

ーーーー確かに、見た。

 

林の中からこちらを見つめる、二人の人物を。

 

一人は男性、もう一人は女性。どちらも未来の記憶の中にハッキリと刻まれている顔だった。

 

「どこだ……⁉︎どこにいった……⁉︎」

 

めちゃくちゃに走り回り、森の中を走り抜ける未来。

 

先ほど見た二人の人間の名前を、消えそうな声で口にした。

 

「父さん……!母さん…………‼︎」

 

もうこの世にはいないはずの両親の姿が、一瞬でも目に飛び込んできたのだ。

 

見間違いではない。確かにそこに存在していた。

 

『なんだって……⁉︎待って未来くん!何を言ってるんだ⁉︎』

 

「いたんだよ!父さんと母さんが!!」

 

『そんなバカな……っ!』

 

気のせいだと言いかけたところで、未来の動きが止まる。

 

拓けた場所の中心に立ち周囲を見渡すが、人間はおろか小動物すら確認することはできなかった。

 

(俺は…………!何を……っ……?)

 

我に帰った未来は両手を地面につき、荒い息を吐き出して肩を上下させる。

 

さっきの両親らしき人物の顔を見た瞬間、未来の中で例えることのできない感情が爆発した。

 

一瞬で冷静さを失うほどのソレは、これ以上ないくらいに未来の不安を煽る。

 

 

 

 

 

 

 

「……想像してたよりも、上手くいきそうだ」

 

木陰に身を隠していた黒ずくめの悪意が自分を射抜いていることに、未来はまだ気づいてはいなかった。

 

 

◉◉◉

 

 

「果南ちゃんが⁉︎」

 

「うん。今日から学校に来るって」

 

「それで、鞠莉さんは?」

 

「まだ、わからないけど……」

 

ベランダに出ていた千歌、曜、梨子の三人が上に位置している三年生の教室の方を見上げた。

 

父親の怪我の影響で店の手伝いをしていた果南だったが、復学届けを提出して今日から登校するらしい。

 

「そういえば、未来くんは?」

 

「えっと……、あれ?」

 

背後にある窓越しに教室の中わ探すが、いつも一緒にいるはずの未来の姿はどこにも見当たらなかった。

 

「さっきまでいたはずなんだけど……」

 

ぽつりと呟く梨子に続いて、曜が眉を下げて言う。

 

「昨日も未来くんの様子おかしかったし……、やっぱり何かあったんだよ」

 

「千歌ちゃんは何か聞いてないの?」

 

そう尋ねてきた梨子の顔を一瞥した後、千歌は真下に見える校庭へ目を落とす。

 

「ううん。……たぶん、聞いても”なんでもない”の一点張りだよ」

 

「またそれ?……もうっ、一度ちゃんと問いただしてみたら?」

 

呆れ顔で腰に手を当てる梨子を見て、千歌もまた諦めたような表情で首を横に振った。

 

口を閉じてしまった千歌に変わって、曜が梨子に過去の出来事を話し始めた。

 

「だめだめ。一人になりたいって時は、とことん周りと話さなくなるんだから、未来くんは」

 

「そうなの?」

 

「うん。前にも何回か同じようなことあったけど、絶対人に悩みを打ち明けたりしないんだもん」

 

話しているうちに昔のことを思い出したのか、曜は少しだけ怒っているような素振りを見せる。

 

「まったく水くさいよね!ほんと昔から変わってないんだからっ!」

 

「あはは……。でも、たぶん大丈夫だよ」

 

「え?」

 

小さく発された言葉に反応し、曜と梨子は千歌へと向き直る。

 

「どんな悩みを抱えていても、最後には笑顔に戻ってたし」

 

「……ん、もしかして小学校の頃の?」

 

「うん、それそれ!」

 

突然話の中に出てきたワードに戸惑い、梨子は曜と千歌を交互に見やる。

 

「えっと、なんの話?」

 

「梨子ちゃんは知らなくて当然だよ」

 

「たしか……あの時は中学に上がる直前だったっけ」

 

「……?だからなんの話なの?」

 

「んー?それはねー……」

 

勿体ぶってた千歌がやっと語ろうとしたその時だ。

 

「ん……?」

 

上の階から落ちてくる、一着の制服らしき何か。

 

ヒラヒラと舞いながら落下してきたソレを見て、曜が唐突に前方へのめり出した。

 

「制服ぅ!」

 

「「だめぇっ!!」」

 

ギリギリのところで曜を抱え、なんとかベランダからのダイブを阻止する二人。制服を追いかけて飛び降り自殺なんてことになればたまったものではない。

 

曜はおそるおそる目を開き、ギリギリのところで掴み取った白い布を確認した。

 

「これって……スクールアイドルの……」

 

 

◉◉◉

 

 

「…………ここは……」

 

見覚えのある景色。

 

何度か夢に見た、あの森の中だ。

 

……まだ幼かった頃の記憶の映像。

 

「……!怪獣……っ!」

 

決まったタイミングで登場する怪獣。この光景も既に見たことがあった。

 

(…………この後は確か……、ベリアルが助けに……)

 

前に見た同じ内容の夢を思い出し、次に起こるであろう出来事を脳内で並べていく。

 

……が、予想外のことが起こった。

 

「…………あれ?」

 

ーーーー来ない。

 

いつもは助けに来てくれるはずの、光の巨人がやってこないのだ。

 

「なんで…………!」

 

「■■■■ーーーーッッ!!」

 

霧に包まれてよく捉えることができない巨大なシルエットが目の前に迫る。

 

「うわあああああああああああ!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

喉が張り裂けんばかりの悲鳴を上げ、未来は勢いよく上半身を起こした。

 

それと同時に休み時間の終了を知らせるチャイムが鳴り響き、日陰で昼寝をしていたことを思い出す。

 

『……なにか、怖い夢でも?』

 

「……別に」

 

夢であったことに胸を撫で下ろしながらも、未来は何か引っかかりを感じていた。

 

(いつも見てた夢と……違う……)

 

ベリアルが助けに来ず、そのまま怪獣に襲われる……。少なくとも気持ちのいい夢ではなかった。

 

「……どっちが”本当”だよ…………」

 

痛む頭を抑え、未来は自分の教室へと向かった。

 

 




ノワールがザラブ星人とババルウ星人を呼んだ理由とは……?
未来のエピソードのために伏線やらを入れてたらサンシャインパートがゆっくり目になってしまいましたね。

今回の解説は、今回の話でも登場した未来の夢について。

初期からちょくちょくこの夢のシーンを挟んできましたが、第一章終盤でついにその全貌が明らかに……⁉︎
ベランダでの千歌と曜の会話の中にもそれに関係する話を混ぜてみました。
さて、そもそもこの夢で未来を襲っている怪獣とは何なんですかね?……実はこれがわかってしまうと色々と展開が予想できてしまうため、今まで意図的に伏せてきました。
ヒントを出すとすればテレビのメビウスで登場しましたが、そんなに目立った活躍はしなかった怪獣です。

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